コードギアス オールハイルブリタニア!   作:倒錯した愛

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ついに発動する保護市民移送計画!

動向を任されたヘンゼルはツキトの記憶を覗いてしまい、マルドゥック中佐に話してしまう!

一方、ツキトは暇そうなグレーテルを連れて仕事をサボっていた!




『別行動』、彼の者たちは……

「資材の積載完了しました!」

 

「保護市民全員乗車完了!」

 

「バッテリーの充電十分、いつでもいけます!」

 

各部の点検が完了し、報告のための大声があちらこちらで聞こえる。

 

「別キャンプの装甲車部隊が予定ルートに向け前進を開始しました!10分以内にこちらも発進すれば接触予想時刻と重なります!」

 

「了解!…………カーライル様、発進準備、整いました!」

 

マルドゥック中佐の綺麗な敬礼に答礼、決めておいた言葉を言う。

 

「うむ………再度、運転手に安全運転を徹底させた後、マルドゥック中佐の指揮で各車発進させろ」

 

「ハッ!運転手各員、安全運転にて順次発進せよ!」

 

マルドゥック中佐の号令で最前列の車両から順にゆっくりと発進していく。

 

マルドゥック中佐の顔は穏やかだった、心中もそうであろう、だが緊張もあるはずだ、まだ寒い時期なのに汗をかいていた。

 

当然だろう、自分で計画した保護市民の移送作戦だ、つまりその全権を委ねられている、責任もそうだ。

 

マルドゥック中佐に失敗は許されない………私は緊張しているであろうマルドゥック中佐に向けて励ましの言葉を送る。

 

「マルドゥック中佐、緊張はわかるが、ツアーの企画者がそれでは乗客は楽しめないぞ?」

 

「は、はい!申し訳ありません」

 

「乗客に快適な旅をプレゼントするためには、まずが余裕を持つことだ…………なぁに、たかだか、2371人の保護市民と、移送部隊500人と装甲部隊160人程度だ」

 

「全然余裕を持てないのですが…………」

 

「え?」

 

あっ、そうか、マルドゥックは中佐で基本的にKMF部隊の世話が中心だったか、およそ3000人規模……1個大隊規模の兵は動かしたことがないのか。

 

………今までよく前線で生き残ってこれたもんだ、実はとんでもない豪運でも持ってるのかもしれんな。

 

「あぁ、すまん、向こうではこれくらいの人数を動かすのは普通だったからな………」

 

「さ、3000人規模が普通ですか!?」

 

日本侵攻の際、(知らなかったことなんだが………)当時の私が指揮したのは3個連隊からなる1個師団だった(そうだ)。

 

歩兵、砲兵部隊、装甲部隊、KMF部隊、戦車部隊などを含む混成師団で、総員はおよそ11000人からなる主力部隊だった。

 

私は師団長と同等の権威を持って指揮官としてそこにいたし、同時に先陣のKMF部隊のさらに先頭で戦っていたことになるわけだ。

 

だからまあ、11000人の兵を率いて戦っていたと言っても嘘ではないのだ。

 

「まあな…………マルドゥック中佐もどうだ?1個師団の兵を率いて最前線で先陣を切るんだ、生きて帰ったら英雄になれるぞ」

 

生きて帰ってきた私を待っていたのは、存在を秘匿した隠居生活だったが。

 

「そんなことできるのカーライル様ぐらいですよ…………あとはラウンズくらいでしょう、私にはとても………」

 

「そうかね?…………そうかもしれん、敵国の民の人命を尊重できるほどのお人好しの君には、無理だろうな」

 

「うぐっ………」

 

「だが、私はそんなお人好しのマルドゥック中佐のような人物に好感を抱くよ」

 

ここの連中は『ユーロピア人=殺す!』の直結回路のやつが多すぎる、ここの前線キャンプはマシだったが、他のキャンプはダメだった。

 

早めに人命尊重の命令を出しておいてよかった、出さずに勝っていたら大量虐殺の汚名をかぶるところだった。

 

「あ、ありがとうございます」

 

照れくさそうな顔をして笑うマルドゥック中佐、こいつ絶対に大物になるぞ。

 

というか大物だろう、人命を尊重し、部下に慕われ、上の評価も良く、人望も厚い、優しいがしっかり芯があり、何より若く容姿が整っておりイケメンだ。

 

総じて、保護市民の受けも良いのだろう、ほとんどの保護市民は移送に伴う引っ越しに関してふたつ返事で了承していたと聞く、その時の説明役もマルドゥック中佐だったか。

 

名前の通り、知恵者で勇敢な青年だ、実に秘書・副官に欲しい人材だ。

 

まあ、引き抜いたら部下も丸ごとついてきそうでは、あるがな。

 

「精進してくれよ?マルドゥック中佐」

 

「はっ!微力を尽くします!」

 

「む?この作戦を微力程度で完遂できるのか、なら今度の大攻撃作戦の指揮官をマルドゥック中佐に………」

 

「ぜ、全力!微力ではなく、全力を尽くします!」

 

「ははは、そう焦らずとも良いよ…………緊張は、解れたかな?」

 

「!…………はい、肩の力を抜くことができました」

 

「よろしい、では引き続き指揮を頼むよ、私はキャンプで様子を通信で聞きつつ、お茶にでもさせてもらおう、何かあったら…………ヘンゼル」

 

「はいはーい、呼んだー?」

 

ワンテンポ置いて私の背中に一瞬で現れたヘンゼルにギョッとした視線を向けるマルドゥック中佐。

 

呼んだは呼んだが、一瞬で現れたように見えたのは共感覚で近くに呼んで置いただけなんだがな。

 

「呼んだぞ…………何かあったらヘンゼルに言いたまえマルドゥック中佐、そこらの雑兵程度ならこいつは生身で対処できる、安心して突撃させて構わない」

 

「ちょっとちょっと、扱いかた考えてよねー、私だって女の子なんですけどー?」

 

ぷんすか、という擬音が出そうな表情と手振りでそう反抗するヘンゼル。

 

「というか、離れたらやばいんじゃないのー?ねーねー?護衛がグレーテルだけとか心配じゃなーい?」

 

「……………そういうわけで、頼んだぞ」

 

「は、はぁ………」

 

「無視とかひーどーいー!」

 

無視を決め込んでマルドゥック中佐に指揮を任せ、私はベッドのある個室へと踵を返す。

 

「あっ、こらー!グレーテルに言いつけてやるー!」

 

「グレーテルなら私のベッドで寝ている」

 

「さすグレ………寝すぎでしょ……ってかマジ寝すぎしょ……」

 

「へぇぁっ!?」

 

「「『へぇぁっ』?」」

 

「な、何でもありません……(や、やっぱり肉体関係を持ってるんじゃないか!!////)」

 

いきなり挙動不審になったな、何かミスでもあったのか?

 

報告がないなら大したことじゃないのだろう、もしくは酷な事態すぎて報告できないのか…………まあ、任せると言った手前、そう深入りすることもないだろう。

 

「ヘンゼル、あとは任せる」

 

「しょうがないなーもー、ほいじゃあ、ヘンゼルお姉さんにお任せ!ってね!」

 

「私が姉と呼び慕うのはコーネリア様だけだバカモノ」

 

「(コーネリア様を!?)」

 

「「「「「(お姉さん呼びだと!!??)」」」」」

 

個室へと戻り、鍵を閉めると靴を脱いでベッドに飛び込んだ。

 

グレーテルにぶつかった感覚があったが、睡魔には勝てず、そのままブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘンゼルside

 

 

出発してからもう2時間かー、長いねほんと。

 

『先頭車両より定時連絡、全車両、車両に異常なし、他、5号車にて保護市民一名が車酔い、薬を飲ませた、どうぞ』

 

「こちらマルドゥック中佐、了解した、5号車に伝達、症状に変化があるようならすぐに報告せよ、どうぞ」

 

『こちら5号車、了解』

 

うーん、ま、概ね順調ってとこかなー。

 

(い、いい……uけ、ですと?)

 

おぉっと、共感覚でオリジナルの思考が流れて………。

 

(ユーフェミア様が私の許嫁?今更連絡を寄越してきたと思ったらそんな冗談を……………え?その年は…………ちっ、書類を偽造でもしたか)

 

「むむ……」

 

まさかのユーフェミアちゃんがオリジナルの許嫁とは………まあ似合いそうではあるけど、すでに婚約者がいるし無理そうなもんだよね。

 

ってか偽造ってなによ?

 

(ん?………ヘンゼルと繋がったままなのか?)

 

ん、そだよ、ダダ漏れだよ。

 

(そうか…………うるさかったか?切っとくか?)

 

愚痴くらいなら聞くけど?

 

(そうか…………あーほんとマジめんどくせえ)

 

うっわ、オリジナルの本性で引くわー。

 

(うるさい…………とりあえず、まずはクレアに連絡して事実確認だろ?それで、今度は書類を持って来させて、次に偽造書類に対する抗議文を送って、最悪は裁判だな、ってなると帰国する必要があって戦線を放り出していかなきゃいけないんだ、めんどくさいなんてもんじゃないぞ)

 

うっひゃー、ごしゅーしょーさま。

 

(メールは送っておいたし、もしもがあればクレアが代理で処理する、ふぅ、これで心置きなく戦争ができる)

 

そ、なーんかすぐ終わっちゃっていじりがいなーい、味気ないなぁ。

 

「ヘンゼル様」

 

「ん〜?なに〜?」

 

「カーライル様について知っていることを教えてはもらえませんか?」

 

「………え?なになに?もしかしてー、ラァヴな感じ?」

 

「いえ、そうではなくて………カーライル様は僅か齢7、8と若くしてラウンズとなり、エリア11、現在の日本エリアへと向かい、生存が確認されるまでの10年を孤独に息抜き、今もこうして戦い続けています」

 

「うんうん」

 

「苦労も、それ相応にあったものと邪推します、…………誤爆によって主人を失うという、本来ならば人を信じられなくなってもおかしくないほどの傷を心に負って尚、なぜ、なぜあそこまで明るい振る舞いができるのでしょうか?」

 

あー、マルドゥック中佐にはオリジナルのメンタルが異常に頑丈に思えるわけだ。

 

「本国の宮廷から風の噂で流れてくる話の中には、誹謗中傷の声が多いのです…………カーライル様もそれを見て、聞いてしまっているはずなのです、そんな声が聞こえる場所でもまったく意にしないなんて、私にはとてもできません」

 

「ふんふん」

 

「教えてくださいヘンゼル様、カーライル様はどうして、気位高くいられるのですか?」

 

あちゃー、マルドゥック中佐、完全にオリジナルにのめりこんじゃってるよ。

 

人誑しってのはオリジナルみたいなことを言うのかな?

 

とりあえず、なんか返しとかなきゃだし、申し訳ないけどちょーっとだけ、オリジナルの記憶に鑑賞させてもらうねー。

 

………………なに………これっ。

 

「うっ……」

 

「ヘンゼル様!?」

 

「だ、大丈夫」

 

よかったーアンドロイドで、人間だったらうずくまって吐いてたよ、あははー。

 

なんて、笑えるような記憶じゃないね…………これは。

 

気乗りしないけど、こりゃいつ暴走するかわからないね、いざという時のブレーキがわりになってもらおーかな。

 

「………うーん、多分ね、オリj……カーライルはさ、乗り越えなかったんだよ」

 

「乗り越えなかった?」

 

「仕えていた主人の死、殺した大勢の日本人、粛清したたくさんのブリタニア人(同胞)、処刑台に送ったギネヴィア、それらを乗り越えず、受け止めているからじゃないかな?」

 

「えぇっと………それは………」

 

「あぁごめんね?えっとねぇ…………乗り越えるってつまり、その事柄を過去の事にして頭の片隅にポイしちゃう事なんだよ」

 

「はい」

 

マルドゥック中佐が真剣な表情でうなづく、うん、いい男だねえ彼。

 

「受け止めるっていうのはね………カーライルの場合、常に頭の中でその時々のことをループして考えてるんだよ」

 

「!?」

 

マルドゥック中佐の目が大きく見開かれ、口も開くが声が出ない。

 

衝撃的だよねぇ………笑えないくらい。

 

「どうすれば主人を救えたか?どうすれば大勢の日本人を殺さずに済んだか?どうすれば粛清せずに済んだか?どうすればギネヴィアを処刑台に送らずに済んだのか?………それを考えてるんだよ、ずっと、小さい頃から」

 

「なぜ、そんな危険なことを!?そんなことを続けていれば、いつか気でも違ってしまいます!」

 

「そうなんだよねえ、実際、カーライルの心はぐっちゃぐちゃだよ、喜怒哀楽の基本感情に、恨みや妬み、ぐっちゃぐちゃなんだよ、もうまともな思考なんてできてないよ」

 

「なにを言うんですか!今回の移送計画についてよく吟味し、役立つ数々のアイデアを出し、実行するとなれば必要物資を手に入れるために寝る間も惜しんで指揮をしたと聞きます!敵国の市民のためにここまでできる人物が、まともな思考を持っていないはずがないでしょう!!」

 

そう怒鳴るマルドゥック中佐に、私は冷めた口調で言葉を紡ぐ。

 

「…………ツキト・カーライルの根っこにあるのは、主人への果てない忠誠心、救国の姫君と言われる美人さんのユーフェミア様にどれだけ誘惑されていようとも、心は亡くなった主人に向かっている」

 

「そ、それがどうし」

 

「…………亡くなった主人が、死ぬ間際にツキトに残した遺言があるの」

 

「!」

 

「ツキトは主人の遺言を完遂するべく戦っているの、まるでマシーンみたいに」

 

「その遺言とは、いったい?」

 

「『たくさんの人を助けて』、『世界を平和にして』、このふたつだよ」

 

「じゃ、じゃあ、カーライル様は、亡くなった主人の遺言に従って…………」

 

それじゃあ機械じゃないか………そう呟くマルドゥック中佐。

 

「そう、命令に従って動いてるだけ、そう考えると異質に見える行動にも説明がつくでしょ?」

 

「…………日本エリアの復興に力を入れているのは、『たくさんの人を助けて』という遺言に従って動いているから…………で、では、『世界を平和にして』という遺言はどうやって」

 

「『達成するつもりなのか?』でしょ?今やってることの延長線上が達成条件でしょうね」

 

「戦争…………世界征服!」

 

マルドゥック中佐が驚愕の表情で私の顔を見る。

 

「そ、神聖ブリタニア帝国による世界征服、及び、世界の統一によるただ1つの巨大国家の形成…………戦争は起こらない、大勢の人が死ぬこともない………まさに【完成された世界(パーフェクト・ワールド)】ってわけ」

 

私はマルドゥック中佐の目を睨みつけるように凝視してそう言った。

 

「そん、な………」

 

「ただただ命令に従っているだけ、命令に忠実に…………まさに『猟犬』か『番犬』のようね」

 

「………………カーライル様は、世界統一を果たされたら、一体どうするおつもりなのでしょうか?」

 

「実はね、今でも結構無理してる状態なんだ、7〜9歳の小学生が高校三年になるまでの間、ざっと9年の長い時間、世界を相手にたった1人戦い続けてきた………もう分かるでしょ?遅かれ早かれ、ボロボロになって死んじゃうよ」

 

「わかっているなら、なぜ!ヘンゼル様はカーライル様を止めないのですか!?」

 

「私には無理さー、それこそ殺されちゃうよ」

 

「殺っ………!?」

 

真っ青に青ざめるマルドゥック中佐、死のイメージを浮かべられるのは良い事だね。

 

死のイメージができない人から死に急いでいくんだよねぇ、特に貴族とか、自分が死ぬなんて思っちゃいないボンボンなんて、オリジナルが手を振るだけでポッキリ逝く。

 

「ん、この話はおしまーい、あっ、最後に1つ言っとくけど……………ツキトの前で主人の事を貶したりすれば、わかるよね?」

 

「い、イエス、マイロード」

 

「……………ま、今のツキトには婚約者がいるし、その子が悲しむと分かれば死ぬような無茶はしないだろうからね」

 

「そ、そうですか…………よかった」

 

とりまフォローして、んー…………あとはいいかな、うん。

 

『先頭車両より定時連絡、異常なし、どうぞ』

 

「あっ、りょ、了解」

 

ん、帰ったらオリジナルに謝っておこうっと。

 

相談にものってあげよっかな。

 

世界を滅ぼされちゃたまったもんじゃないしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

なにやら記憶を覗かれた気がするが…………ダミーの方か、なら良い。

 

「おーいオリジナルー」

 

「どうした?グレーテル」

 

「また釣れた、こいつなに?」

 

「あぁ、そいつは………」

 

私とグレーテルは今、(戦時下ではあるが)平和(かつ暇)な時間を少し有効に使おうと思い、キャンプから離れた小川で釣りをしている。

 

バイクを一台借りて偵察の建前で4時間ほどすっ飛ばし、見つけた林にバイクを隠し、敵軍に見つかってもバレないように堂々と私服でのんびりと釣りを始めたのだ。

 

少しの休憩を挟んで釣り始め、40分ほど経過して今のでグレーテルは4匹目、私は2匹釣り上げたところ、魚の大きさでは五分だが数で負けていた。

 

まだ逆転の目はある、あるが………釣りにおいてはアンドロイドゆえの正確な動作ができるグレーテルのほうが上であった。

 

いつぶりか、ロイドのけしかけた戦闘特化アンドロイドとの戦いよりも厳しい戦いだ、なにせ、運の要素が絡むと私はあまり強くないからだ。

 

くじ引きでアタリを引くのが困難なように、運が入るだけで私の勝率は下がる。

 

釣りにしてもそう、魚の気持ちが分かればそれに適した餌の動かし方ができるものだが、残念ながらそんなことはできない。

 

一定のリズムで水中の餌を弾ませたりして、さも生きているように見せる事で魚を食いつかせる方法があるが、その一定のリズムを正確に、かつ複雑に長時間できるのは機械くらいのもの、つまり、アンドロイドだ。

 

3日間ここにキャンプする予定だし、まだまだ勝負はわからない。

 

ここが追い上げ時、いz

 

「オリジナル、もう11時になるんだけど?」

 

「むむっ…………存外に熱中してしまったようだな」

 

グレーテルの声でハッとする、腕時計は10時50分をとっくに過ぎ、11時に針が重なりそうになっていた。

 

「すまんグレーテル、すっかり忘れていた」

 

「気をつけてよねほんと、めんどくさい火起こしはやっといたから」

 

見るとグレーテルはエプロンをつけて一斗缶で作った簡素なバーベキューコンロにつけた火に燃料をくべていた。

 

「ありがたい、小さいやつの鱗を取ってくれ、唐揚げにする」

 

「了解…………アンドロイドって魚食べられない?」

 

「まあ、無理だろう」

 

「オリジナルの食料を増やしただけとか…………試合に勝って勝負に負けた感じ……なんかだるいそー」

 

集中して釣ったのに徒労に終わったことを悟ったような表情をすると、魚の入ったバケツから小さい個体を一匹取り出し、まな板がわりの木板の上に載せて鱗を除去し始めた。

 

私は釣り道具を片付けると、自分の釣った魚をグレーテルの釣った魚の入ったバケツに移した。

 

グレーテルが鱗を除去している間、私は鍋に油を張って一斗缶コンロの上に載せ、唐揚げ用の材料を揃えておく。

 

「こんなものか」

 

「鱗取り終わった、適当に揚げてって」

 

「早いな………」

 

グレーテルから渡される魚に卵に浸して小麦粉を全体に満遍なくつけて油に投入する。

 

色合いを見つつ揚げていく、この音でもう腹が減ってきた。

 

いい感じにキツネ色になったものから鍋の外に、うむ、こんがりとして油で照っている、実に美味しそうだ。

 

三尾を唐揚げにし、皿に盛りつけた、とても簡素だが、この場においてこれ以上ない程に贅沢な食卓が完成した。

 

「こーんな美味しそうなのが食べられないとか………ほんっとキッツいわぁ」

 

「まあそう言うな」

 

「人間って不便だけど、アンドロイドも不便だわ………あーなんかアンドロイドの自分が悔しい、オリジナルとの共感覚で目の前の料理が美味しいのがわかってしまうのが悔しい」

 

「MVS・Cの鞘部の充電機能で満タンのバッテリーがいつでも交換可能なお前と違って、私はこうして火を通さんと寄生虫が怖くて口に出来んのだぞ」

 

「そこは情報として知ってるけどさ……」

 

「野戦キャンプでは最悪の場合、虫でも苔でもなんでも食うんだ、それに比べれば、電気さえあれば動けるお前のほうが良いじゃないか」

 

私は食ったことないが、食ったことのある兵によると『案外いける』とのこと、冗談でもそう言う感想は聞きたくなかった。

 

某虫がササミっぽいとかは特に聞きたくなかった、おかげで2日は鶏肉が食えんかった。

 

「うへぇ、虫とか言わないでくんない、キモいし、あとキモいし」

 

「わかったら睡眠でもとっとけ、しばらくしたらまた釣るぞ」

 

「んじゃ寝る、このままだと美味しい料理が食べられるようオリジナルが憎くてたまらないし………ふぁあぁ……」

 

大きく欠伸をする、もう少し淑女らしく振る舞えんのかこの高性能アンドロイドは。

 

グレーテルは地面にパラソルを刺し、折りたたみのベッドを広げるとそのまま横になり睡眠状態に移行した。

 

「おやすみぃ……」

 

暖かくなってきたとはいえ、毛布なしは寒そうに見える。

 

「さて、では………」

 

グレーテルが寝たので冷めないうちに料理を頂くことにしよう、まずは、小さいほうから、揚げたてだからやけどに気をつけて。

 

「ん?」

 

……………。

 

「グレーテル」

 

「…………………ん、西の方角。約40mに5人、男3、女2、こっちに来てる、足取りからして旅行客じゃない」

 

寝たままの状態で報告するグレーテル、さすが高性能アンドロイド、僅かな揺れすら感知するとは。

 

せっかくの休暇中になんと無粋な………。

 

「軍の者、おそらくユーロピア………一応、拳銃を持っておけ」

 

中口径の軍用拳銃、ではなく大口径の現代的なペッパーボックスピストルを投げ渡す。

 

グレーテルは目を閉じたまま気だるげに腕を伸ばしてペッパーボックスピストルズをキャッチし、ロングスカートの内側の空のホルスターにしまい込んだ。

 

なぜ常に武器を携行しないのかだって?軍のアイドル的存在が武装してたら夢も何もあったもんじゃないからだ、夢は壊してはいけないのだ。

 

それに、暴徒鎮圧程度は武器など無くても出来るくらいに出力はある、変に武器をチラつかせるよりも、身体能力の高さを見せて諦めさせたほうが早い。

 

それでも暴れるなら暴徒ではなく反乱軍として即刻射殺するが。

 

「はいはい、オリジナルも変装したほうがいいよ、移動速度は遅いけど、もう30mきってるし」

 

「もう終わってるわよ、いい?私に合わせるのよ」

 

「わかっt…………え?誰?オリジナル?」

 

薄目で私を見たグレーテルはギョッと見開いて私の全身を見ながらそう言った。

 

「そうよ、悪い?」

 

「めちゃくちゃ似合ってるじゃん、やだかわいい、すごい、あっ声も違うんだ、へぇ…………」

 

「わかったから横になって、今の私はグレーテルのメイドなんだから」

 

咲世子の清楚なメイド服をデフォルメしたメイド服に、飾り気の少ないカチューシャ、スカート中は見えないと思うが、念のためドロワーズでブツが見えないようにした。

 

というか………なんかグレーテルのやつ目がキラキラして気持ち悪いな。

 

………あっ、もしかして、ヘンゼルにはないと思ってたから勘違いしてたが…………可愛い物好きの特徴が受け継がれてるのはグレーテルの方だったのか。

 

「ちょっ、あとで写真撮らせてっ」

 

「わかったから寝なs…………誰かいるの!?」

 

早く横になるように催促しようとしたところで、ガサッ、と音がした、その方向に向けて大声で叫んだ。

 

メイドらしくグレーテルを守るように立つ、藪から誰かが出てくる。

 

休暇を邪魔した不届き者は意外な奴らだった。




ツキトの偽の過去を覗いてしまい盛大な勘違い中のヘンゼル、とマルドゥック中佐。

貴重な戦時休暇を潰される予定のツキト、キャンプから離れた小さな森で、出会った5人の男女は一体誰なんだ!?


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