完全空気なユーロブリタニア騎士団の面々!
主人公にとって割りかし好印象なレイラ!
ツキト・カーライルは自身の保身を胸に、今日も偽善の善行を重ねる。
そして高らかに叫ぶのだ!
「全てはブリタニア(自分)の未来のため!」
ツキトside
「ん……………もう、朝か」
懐かしいことを思い出していた気がするな。
戦線もだいぶ落ち着いてきた、最近はこの前線キャンプ周辺での戦闘も減ったな。
ユーロピア軍は限界が来たようだ…………とは言っても、こちらも補給線の問題で攻勢を仕掛けられない状況になっているのだが。
私がどうこう、という問題でもないし、時期を待つしかない、そうなると兵は暇で暇でしょうがなくなり、普段以上に酒を飲むようになる。
売店の酒の売り上げが伸びているという話を聞いたのが、補給線が伸びきり攻勢の限界に達した2日後、2週間ほど前だったろうか。
今ではここ前線キャンプに集結した多数の被保護者と酒を飲み交わして1日中喋ってるだけの兵もいると報告が上がった、仕事しろバカモンと通達してやった。
こうも緊張感というのは簡単に解れ切ってしまうものなのだろうか………。
「オリジナル〜」
「ん、ヘンゼルか………どうかしたか?」
「いやさぁ………あたしさぁ、告らんちってさ」
「ふーん、まあ男ウケする容姿だからなあ」
「…………あり?反応薄くない?」
「そりゃあなぁ………銀髪碧眼真っ白な肌、高身長スレンダーだが健康的、令嬢のようにお淑やかな見た目に反し明るくて気遣い上手ともなれば、惚れる男がいてもおかしくはないしな」
容姿は重要だしな、『いかにも』な狙った感ある容姿だが、好意を持たれているようなら成功だろう。
下手に冒険した容姿は万人受けしない、王道こそ求めるものだろう。
「やけに持ち上げるねオリジナル、もしかしてあたし達の容姿を決めたのってオリジナル?」
「私だ」
最初はノリでツンデレキャラにしようとした過去の私を今は思っくそ殴り飛ばしたい。
「やっぱりかぁ〜」
「そうだ、だから私としては、自分の作品が褒められた時のような、もしくは娘の成長を実感した親心のようなものを感じはすれど、それ以上の気持ちは今は湧かないな」
その時、ドアが開いてグレーテルが入ってきた。
「オリジナルー、あたしさーさっきこれもらったんだけど」
そう言ってひらひらと振っているのは手紙だった。
「子供からか?よかったじゃないかグレーテル、めんどくさがりでうざいお前にも子供は懐いて………」
「いや違うし、あとうざいゆうな、これは保護しらユーロピア国民22歳の男からだよ」
「へえ、お前にも春がきたのか」
「お前にもって、ヘンゼルも告らんたの?」
「昨日の夜くらいにね、売店の裏で『君を愛してるんだ!』って情熱的な告白をもらったよ」
「やるじゃんヘンゼル、あたしなんて紙切れだし………」
「グレーテル、恋文も立派な告白だぞ、そう無為にするもんじゃない」
「オリジナルは告白する時ラブレターなんてだす?」
「正面から行く、回りくどい方法なんてとって時間を無駄にしては他の男に取られてしまうからな」
「無為にしてんのオリジナルのほうじゃん………あー、返事めんどくさっ」
グレーテル酷いやつだなおい。
「インターネットから定型文探せば?」
ヘンゼルも大概酷いが。
「手書きめんどいし……そだ、オリジナル暇なら書いてよ」
「男からの恋文の返事を私に書かせるのかグレーテル?」
「オリジナル達筆だしいいじゃん、あっ、ついでに私のぶんも書いてよ」
「お前らなぁ………まてよ、ヘンゼルお前直接告られて返事はしなかったのか?」
「え?保留にしといたけど………」
「馬鹿かお前!相手に希望を持たせるとしつこくなるんだぞ!」
「マジで!?うわー…………会いたくないわぁ、グレーテルみたく引きこもりたいわぁ」
「あたしを引きこもりの代名詞みたいにつかわないでくんない?………ふぁぁあぁ…………もう限界、寝るわ………」
トサッ、と私のベッドに倒れ込んだグレーテル。
「おい、私今起きたばかりで着替えてもないんだぞ」
「zzz………」
グレーテルこのやろう…………。
「……………はぁ」
まあ、少しくらい許してやるか。
「おやぁ?オリジナルぅ、やけにグレーテルに優しくないですかぁ?」
「そうか?お前達に差をつけたわけではないのだが…………ヘンゼルも何かあれば言ってくれ」
「…………え?なに?今日のオリジナル優しすぎない?」
「たまにはそういう日もある、気まぐれだよ、で、何かあるか?」
部下のわがままくらい聞かんとな、それに、こういうことでこいつらのしたい事やりたい事を引き出していって、ゆくゆくはリンク無しでもそれができるように自我を芽生えさせる事にある。
ようするに、何気ないコミュニケーションも仕事のうちって事だ、今回は労いの意味もあるがな。
「あーーー………じゃあ部品交換してくれない?」
「いいぞ、どこだ?」
「熱発電装置の冷却水、そろそろ交換必要な時期だし」
「わかった、じゃあ………そっちのソファで裸になってフタを開けとけ」
「おっけ〜」
着替えたかったが面倒なのでパジャマ姿のままヘンゼルの棺桶に近づく、棺桶のフタを開けると底板があり、そこにはMVS・Cが半分ほど埋め込まれた状態で入っていた。
MVS・Cを退けるとそこには指が入れられそうな出っ張りがあった、それを掴んで引き上げると、底板の部分が持ち上がり様々な部品や武器が現れた。
この棺桶は二重底になっており、下の方に交換用の工具や部品、銃器や刀が収められている、MVS・Cは出っ張りを隠すためのフェイクだ。
冷却用のオイルを取り出して底板を閉める、オイルを持ってソファに向かうとすでに上半身裸になったヘンゼルがいた。
「フタは開けたか?」
「お腹の方でしょ?もちのろんよ」
ソファに寝そべってヘソのあたりにあるスライド式のフタを開けるヘンゼル。
ヘンゼルに覆いかぶさるようにしてソファに乗り、下腹部のフタの下に隠れていた回路や部品の海の中から冷却タンクを見つけ出す。
「ここか」
冷却水の循環を止め、しばらく待ってからタンクを取り外す。
「違和感はないか?」
「んっ、特にないかな?」
「わかった、続ける」
タンクの中にあるオイルを捨て、新しいオイルでタンクの線の部分まで満たす。
車のオイル交換のようなものだ、実に簡単だ。
タンクを戻し、循環を止めていた弁を捻って新しい冷却水を循環させる。
「どうだ?」
「…………あっ、なんか前よりヒンヤリしてる感じがする」
「そうか」
スライド式のフタを閉める。
ガタンッ
「なんか落とした?」
「いや何も、誰かが外で荷物でも落としたんだろう」
「まあいっか、交換ありがとね〜」
服を着ながらそう言うヘンゼル。
ん?ドアが………ふむ………。
「なあヘンゼル」
「ん?どしたの?」
「どうやら、見られていたようだ、誤解を受けやすいタイミングで、誤解を受けやすい体勢の時に」
「あたしが上半身裸の時にオリジナルがマウントとってる体勢の時に?」
大正解だヘンゼル。
「やばいんじゃないの?」
「私の株が不安だが…………お前たち2人に言い寄ってくる男は減るんじゃないか?」
「どして?」
ん?普通に考えればこれくらい………いや、ヘンゼルはアンドロイド、人間の恋愛に関するアレコレはインプットされていない。
「男は夢を見たがる、いかな美女とて一度抱かれた女を自分のものにしようとは思わないものだ」
要するに処女厨。
「ふーん…………変なの、その程度で冷めるくらいじゃ、所詮その程度の愛だったって事でしょ」
「そうかもしれんな、だが考えても見ろ、例え上手くいって付き合えても、その男の頭の中には常に、『この美女は他の男に抱かれた女だ』、という思いが渦巻く」
「…………そう思わないように、諦めるのがいいって?」
初めて見る悲しい表情をして、ヘンゼルは私に抱きついてきた。
「少なくとも、お前に告白をしてきた男には、そうやって諦めてもらったほうがいい………偽物の現実を突きつけられても、本物の現実を突きつけられたとしても……………辛いだろうしな」
『お前が好きになったのは、私が抱いた女だ』という偽物の現実。
『お前が好きになったのは、合成皮膚と電子部品の塊だ』という本物の現実。
「オリジナル………あたし、今、あの男の人を振るんだ、って考えると、なんか嫌な感じがする」
「…………なぜ?」
ナナリーの時の癖か、頭を撫でてあげつつ、抱きつかれたまま話を聞く。
「わからない…………オリジナルは、知ってる?」
「……私も似たような気持ちになったことがある…………勇気を振り絞って告白してきてくれた女の子に、受け入れられないと返す時、いつも………『申し訳ない』、という気持ちがわいてくる」
「申し訳ない……………そっか、あたし、あの男の人に申し訳ないって、思ってるんだ」
感情が芽生えつつある………のだろうか。
「別に好きでもなんでもないのに………罪悪感、ってやつ?感じてるっぽい」
「そう思ってしまうのは、私の人格をコピーした影響なのかもしれん………ま、その男に関しては好きにしろ」
「そっか……………ねえオリジナル、なんか寒いから………しばらくこのままでいい?」
抱きついた姿勢を解いて、ソファに座る私の太ももに頭を載せてきた、いわゆる膝枕だ。
「…………構わない、しおらしいヘンゼルを目に焼き付けることにするさ」
「あはは………アンドロイド相手に優しくしたって意味ないよ」
「それじゃあ………冷却水が効きすぎて弱っているヘンゼルを嘲笑うのも一興、ほれ、赤ん坊のように眠るといい」
「ふふふっ………共感覚で本心がわかるのって、いいね」
「…………また覗きおってからに、お前と言う奴は……」
「ふぁぁ………おやすみぃ………」
そう言って、ヘンゼルは眠った。
机を見ると、書類が数十枚ほど積まれていた。
「…………明日でいいか」
そう呟いてヘンゼルの頭を撫でる、私のベッドから飛んでくるグレーテルの視線を無視して。
「ちょーいちょい、無視は酷いんじゃないの?」
「起きたのか、おはよう」
意外と眠り浅かったなグレーテル。
「ふぁぁぁ……まだ寝足りないけどねぇ………んでなぁにしてんの?ついに人形フェチに目覚めた?」
「んなわけあるか………実験だよ、ちょっとした、な」
「膝枕が実験、ねぇ…………よいしょっと」
ぽふっ、とグレーテルが私の隣に座った。
「肩借りるよー、あっ、結構柔らかくて寝やs………」
「おい、グレー………」
「zzz………zzz………」
「テル…………」
グレーテルのやつ私の肩に頭預けて寝やがった………こいつどこでも寝れるんだな、私が言えたことじゃないが。
しかし、こういう時に限って誰か入ってきたり…………。
「カーライル様、失礼します」
「マルドゥック中佐……あぁ、見っともない姿ですまな……」
「か、カーライル様、この状況は一体!?」
「え?」
状況…………私がヘンゼルに膝枕しながらグレーテルに肩かしてるところか。
「見ての通り2人は疲れて寝ている、大声出して起こさないでくれ」
「は、はぁ、その、つかぬ事をお聞きしますが、お二人との関係は?」
「上司と部下だが?」
「そ、そうなのですか?」
…………やけに突っ込んで聞いてくるな。
「マルドゥック中佐…………君も2人を狙ってるのかね?」
「いいいいえ!!と、とんでもございません!私如きがカーライル様のお付き人を狙うなど!」
「そうかね?だが、この2人をそういう対象で見ても構わんよ」
さすがの私も人形に欲情はし難い、というかできないが。
いや、人間としてみればルックスは最高か。
「は、はぁ……」
「まあいいさ、それで、何か用かね?」
「はい、当前線キャンプ内の保護市民を後方に移送する目処がつきました、こちらを」
「『保護市民後方移送計画第二案』、か」
邪魔だという理由で廃棄処分予定だった大型バス数十台、先日確保した街から中型バスを数台確保、各地方からタクシーを出来る限り多くかき集め、約2000人の保護市民を移送する。
運転手は保護市民から募る、護衛として最低限KMF20機規模、又は2個装甲中隊、又は1個装甲大隊をつける。
「ふむ………………素晴らしい、よくぞこれほどの車両を確保できた」
「グレーテルさん…………グレーテル大佐のアイデアが無ければ実現は厳しいかったと思われます、鋭い洞察力をお持ちです」
グレーテルが自分でアイデアを出すとは、やれば出来るやつなんだな。
「なるほど………移送準備はいつ頃完了する?」
「装甲大隊の編成が早ければ、1週間後には整います」
「よろしい、保護市民にも伝えてくれ、引越し準備をするようにな」
「はい、直ちに!では、失礼しました」
マルドゥック中佐は綺麗な敬礼をして部屋から出て行く。
さて、それでは、戦後を考えるとするか。
主に、ユーロブリタニアの騎士団の今後、とかな。
ちょっとした(自己満)解説コーナー
学習能力特化型アンドロイド「ヘンゼルとグレーテル」
姉のヘンゼル、妹のグレーテル、2体で1体のプロトタイプアンドロイド。
将来的に戦闘型を量産するにあたり、自我を持つ機械人形の作戦における有用性の研究のために作り出された。
学習能力に特化し、主に小型圧縮されたスーパーコンピュータと高出力モーター、及びそれらの発する熱を用いて発電する装置と、重要部品に熱がこもらないようにするための冷却装置、大型バッテリーによって動作する。
基本的にそれで十分な性能であるが、インコムの精神感応波を応用したリンク・共感覚システムや人格・思考のコピーなどがこの学習能力特化型アンドロイドのメインで、この機能を長時間使用した状態で様々な体験をさせる事でアンドロイドに自我を芽生えさせる。
負担が大きく、事実上ツキトのみがリンク可能。