1週間で基礎全部作っちゃうロイド兄貴マジパネエ。
noside
試作1号機、仮称『typeA1』が出来上がり、ロイドは投影型ディスプレイを操作しつつツキトに説明していた。
人として見た場合、見た目は女性で身長は160cm程度、慎ましやかな胸部の膨らみとバランスの取れた肢体、一般的に健康的と言えるスレンダーな体型の少女といって差し支えない容姿だ。
しかし頭髪や眉毛等はなく、人間の身体を性器に至るまで細部まで再現してあるにもかかわらず、衣服を纏わず全裸で気をつけの姿勢をとっているその様は、第三者から見たら実に異様であろう。
まして、それを上から下まで様々な角度から舐めるように見るツキトは、第三者にどのように見られるのか、悲しいが想像に容易いだろう。
セシルが入ってくれば絶叫ものの光景だが、そんなことは起こらない、ロイドに作成を命じた翌日から5日間の休暇を出していたからだ。
セシルが突然の休暇に戸惑ったかと言うと、そんなことはなかった。
『これまでろくな休みも与えてやれんですまなかったな………仕事のことは忘れて、楽しんできてくれ』と申し訳なさそうな表情で言えばセシルが疑問を持つはずがなかった。
加えて、セシルの友人関係を洗い、多忙そうな者をセシル同様に休暇を与え、そのうちの1人に『行き詰まっているようだから、誘ってあげてくれ………私にできるのはこれくらいしかなくてな』と言って遊園地のチケットを人数分与えた。
ツキトの目論見通りに事は運び、今頃セシルとその友人数人の一行は日本エリアに新設された巨大遊園地での3泊4日間を満喫している頃だろう。
「…………要求スペックには、程遠いな」
ひと通り眺めたり触ったりしてからツキトはそう溢した、造形は完璧で人間にしか見えない、が、ツキトはそこで完成させて欲しくはなかった。
「まあ、試作型だしねぇ…………て言うかさあ、近接戦闘能力なんているの?銃を持たせれば良いんじゃないの?」
ロイドの言うことはもっともだ、アンドロイドのコンピュータによる人間には不可能な正確無比な射撃能力で十分である。
しかしツキトはそうは思わなかった、戦場で求められるのは射撃能力だけでは無いのだ、懐に潜り込まれた時にどうするか?敵が予想以上に高速であったら?射撃が無効化されたら?…………そのような時に近接戦闘、格闘戦が出来なければ容易く撃破されてしまう。
戦闘ドローンならば、囮にでも何にでもできる、だが高価なアンドロイドをそのようには使うことは容認出来ない。
端的に言えば、『勿体無い』のである。
「歩兵戦で先陣を切れる程度は欲しかったが………詰め過ぎても行かんか…………水準を下げる、最低限自衛できればそれで良しとする」
「じゃあ今のスペックで大丈夫そうだね………はー、久しぶりにヘトヘトだよー」
「無理を言ってすまなかったな…………今日はもう休んで、明日から2週間以内にこいつの改良を行なってくれ」
労いの言葉に地獄行きの切符を同封する、ロイドの表情は酷く苦いものに変わった。
「まーたそうやって………人使い荒いよねぇ……」
「とにかく頼むよ………あと少しなのだ」
「あと少し?」
「あぁいや、こっちの話だ………出来たら呼んでくれ、では失礼する」
「じゃあね〜」
退室するツキトを、ロイドは目を細めて見ていた。
「あと少し、ねぇ………」
ロイドはそう呟き、typeA1を見る。
「…………簡略化できるとこからいこうかねぇ」
雑念を払い、ディスプレイとtypeA1の内容量を見比べながら作業を開始した。
まずロイドは造形を簡略化した、戦闘アンドロイドとして使用時には衣服を纏っているため、外から見えない細部の作り込みは不必要と即座に判断した。
続いて、容量確保のために身長を伸ばすことにした、身長を伸ばせば体積を大きくでき、大きくなった分だけ体積に余裕ができるのだ。
そこに足りない部分を補うために部品を詰め込み、基礎性能の向上に成功、身長は170cmになった。
次に取り組んだのは戦闘アンドロイド用の近接戦闘武装、要するに剣、ブレードの類を模索した。
ロイドとしてはツキトの求める近接戦闘能力の基準を下方向に突き抜けて落胆させてしまったことに関してはさほど気にしてはいない。
しかし、ロイドが自分の頭脳を持ってして戦闘アンドロイドに高い近接戦闘能力をつけられなかった、それが心の奥底で小さくくすぶっていた。
暫定的にMVS・Cを装備させるつもりであった、実際にMVS・Cを装備させて動かすことはできた。
「…………あれぇ?」
しかしツキトを基準に考えてしまっていたため、いざ振らせてみると重心の急激な変動にバランサーがついていけなかった。
これではいけないと思い、ロイドは戦闘アンドロイドよりもツキトがMVS・Cを軽々しく振るうことができるのはなぜか、映像を見ながら解析した。
「…………!………あ〜〜、なーるほどぉ」
解析した結果、わかったことは1つ、手足のごとく振るえるのはツキトの剣士としての技術が卓越したものであるからだった。
「しっかし、剣振ってる時はかっこいい顔してるよねぇ、モテるのもわかるよ、性格がアレだけどねえ」
ロイドは、自分がやろうとしていたことは素人に剣の達人と同じことをやらせるようなものだと理解した。
ここでツキトの映像を解析したデータをアンドロイドのインプットすることもできた、だが装備させたところでツキトの求める近接戦闘能力には到達できない。
なぜなら、ツキトの動きは模倣できても、MVS・Cではあらゆる状況ごとに対応しきれないからだ。
MVS・Cよりも扱い易い武器の作成、兵器開発を行って来たロイドだが、戦闘アンドロイド用の剣を作るとなると、人用の武器とは勝手が違いすぎる。
アンドロイドの性能向上に成功しても、武器がダメではせっかくの高性能を活かしきれない。
「あっちを立てればこっちが立たず…………無理難題を押し付けてくれるねえ………」
この時点で6日が経過していた。
残り8日、実質的には7日と少し、リミットの半分が過ぎようとしていた。
「恨むよツキト君………」
その時であった。
ツキトからメールが来たのだ。
『用件:A1の武装
もし悩んでいるなら、日本刀を参考にするといい』
「………………盗撮とかされてないよね?」
ジャストタイミングなアドバイスに嫌な汗を流しつつ、早速日本刀に関して情報を集めてみる。
日本刀………日本生まれの刀剣で、大雑把に太刀と打刀に分かれ、大抵の場合、頑丈な片刃の両手剣で、中でも良質な金属を使い職人の手で作られた日本刀は斬れぬものはないと言わんばかりの斬れ味を誇る。
突くも良し、斬るも良しと、まさしく万能の刀剣。
資料を元に、頑丈さと軽さを追求した反りの浅めの打刀風のブレードを作成、10日目に実際に振らせてみると非常に良い結果を出すことができた。
その後細かい改良を重ね、ツキトにデモンストレーションを行った。
約束の日、ツキトはロイドのラボに現れた。
「いらっしゃいツキト君」
「2週間ぶりだなロイド………できたのか?」
「期待に添えるものだと確信しているよぉ」
「それは何より、では早速見せてくれ」
「うん、じゃあ、これを持って見て」
ロイドは日本刀をツキトに手渡した。
「日本刀…………にしては少し重いし厚い…………それに、長い」
日本刀を抜刀して鞘を近くのテーブルに置き、日本刀を構えて振ってみるツキト。
「…………やはり重い、重心も中央より切っ先寄り、反りも浅め、打刀に似ている…………キェェェェッッ!!!」
正眼に構えて大上段から振り下ろす、床に対し垂直に振り下ろされた刀は、ピタッと元の正眼の構えの位置で止まる。
「通常よりも刃が分厚い、肉抜きしてあってもこれは少し重過ぎる、4kgほどはありそうだ、加えてかなり長い、私の手が小さい事もあるが、もし手が3つであってもまだ余るほどの柄の長さ…………もしやこれは」
「御名答!さすがツキト君だねぇ、それは戦闘アンドロイド、typeA改めtypeBの近接戦闘用の武器だよ、ツキト君のアドバイスにあった日本刀を元に、頑丈かつ軽量なものを作って見たんだぁ」
「私のアドバイスが役に立ってよかった、あと、もしかしてこれってわざと長めに作ってあるのか?」
鞘に戻しながら聞いてみるツキト。
「柄が40cmはある、全長は120cmくらいか?まるで野太刀だ」
「よくわかったねぇ………コジロウ・ササキの話を元に、長めにしてあるんだ〜、アンドロイドの身長を伸ばしたから、これくらいの方がリーチを活かせそうだしねぇ」
ツキトは改めて刀を眺めた、全長
「佐々木小次郎の『物干し竿』というわけか………特殊な機能はないのか?」
「振動機能をつけてMVS見たくしようとしたけど、崩れちゃうかもしれないからやめといたんだよね、でも安心してよ、頑丈さは折り紙つきだよ」
「本当か?」
「疑い深いね…………じゃあ、試してみよっか!」
ロイドがそう言う、そのすぐ後、1秒が経つか経たぬかの時間の後、ツキトの側面から何かが飛び出してきた。
ツキトside
「ちぃっ!」
ロイドが言い終わるとほぼ同時に仕掛けてきた奴の攻撃を納刀したまま鞘で受けて流し、腹に蹴りを入れる。
蹴り飛ばされた敵は受け身を取りながら床を転がっていき、テーブルを挟んで向こう側で立ち上がり、私の持っている刀と同じ得物を構えた。
敵はまるで黒子のような格好をしていて、表情を伺うことはできない、わかっているのは身長が170cmくらいということ………もしかしなくともこいつ………。
「おい、ロイド、もしやこいつが?」
「本日二度目の御名答!いーい出来でしょ?各部の高出力モーターで実現できた瞬発力と日本刀の取り回し易さとリーチによる突き…………速かった?」
「あぁ…………蹴りを入れて内臓を破裂させてやろうと思ったが、上手いこと身を引いてそのまま受け身を取られるとは………」
楽しませてくれるッッ!!!
腰を低く落として…………跳ぶッ。
テーブルを蹴り上げそのままムーンサルトでバック、蹴り上げられて宙を舞うテーブルごとアンドロイドは刀で真っ二つに両断、リーチからして下がっていなければ私もああなっていただろう。
ムーンサルトから着地後抜刀、振り下ろした直後のアンドロイドの刀を横から左手の鞘で叩いて弾き、右手の刀で斜め右上から振り下ろす。
弾かれた状態からアンドロイドはすぐに切り返し、私の振り下ろした刀を振り払う、隙をついて鞘をねじ込みアンドロイドの胸を突く、だが金属の塊であるアンドロイドに鞘の先端(小尻)は刺さらず僅かにかすめるに止まった。
一度距離をとるがすぐに詰めてくる、アンドロイドと数度切り結ぶ、腕がジンジンと痺れるこの感覚…………。
「最高だッ!」
今度はアンドロイドの蹴りがきた、鞘で受け止めると同時に薙ぎ払いもしてきたので刀で薙ぎ払いを受ける、刀をそのまま刃を滑らせて接近してタックルを食らわせる。
片足が浮いた状態でタックルを食らったアンドロイドはバランスを崩した、鞘を捨てて刀をしっかり握り、バランスが崩れ脇が開くアンドロイド、防御も回避もままならないその一瞬に大きく踏み込み、右肩を突き貫く。
深く刺し込んでから上方へ切り上げて右肩を削ぎ落とし、遠心力を使って回転し横薙ぎに一閃する、回避が間に合わないと考えたのか、アンドロイドは左腕で受け止めようとする、が、左腕ごと胴体を上下に両断。
ガシャンッと音を立てて床に落ちるアンドロイド、まだ戦おうとしているのか、下腹部から下がガシャガシャと動いている。
刀を突き刺してやろうとした時、不意にアンドロイドの動きが止まった。
「あっちゃ〜…………見事にバラバラだねぇ、修理大変なのに………」
振り向くとロイドがスイッチらしきものを持ってトホホーという顔をしていた。
「とまあ、アンドロイドの性能と刀の頑丈さはわかってもらえた?」
「……正直期待以上だ、私をここまで本気にさせるとは………ふふふっ、まだ興奮している………嬉しいなぁ、実に嬉しい、そして実に、素晴らしい」
鞘を拾い納刀する。
…………まだ両手の震えが止まらない!久しぶりに死合ったが、死合っている時のドキドキやワクワクといった高揚感!終わった直後の充足感!アドレナリンの分泌が止まっても数十分続く興奮!
「そこまで言われると、科学者冥利に尽きるってものだねぇ………負けちゃったけどぉ」
最後の言葉をむすっとした顔で言うと、バラバラになったアンドロイドを台車に載せていく。
「そうむすっとするな、少し前に剣を交えた時のような高揚感を与えてくれたこのアンドロイドには感謝している」
「せめて僕を褒めてよ!」
「はいはい………ありがとうロイド、君のおかげだ」
「……………君さ、スケコマシって呼ばれたことない?」
イラッ
「カチ割ってやろうか?」
「ぼ、暴力はんたーい!!」
コンコンと刀で床を軽く叩いてやると、ロイドは頭を押さえてふざけた口調でそう言った。
「まったく…………お前は本当に最高の科学者だよ」
「あっはは〜〜…………ありがとね」
「「ぷっ………あっはっはっはっはっはっ!!」」
おかしくなって同時に噴き出した。
あぁ〜〜…………戦った後の余韻と、運動による汗が清々しくて気持ちが良い。
帰る前に、シャワーだな。
作者「書いた後で言うのもあれやけど…………戦闘アンドロイド強スギィ!」
ツキト「いや………(全力を出してないので)まだまだだな」
作者「えぇ……同時に何体いけるん?」
ツキト「10〜20くらいか?全力なら40〜50はまあなんとかいけるだろう」
作者「頭おかしい………MRANN姉貴は?」
ツキト「あれが10000体いてやっと今のマリアンヌ様と互角になるかどうかってところだな」
作者「ファッ!?…………ん?ちょっと待って!…………全盛期とかどうなるの?」
ツキト「そりゃあ、その数十倍は余裕でさばくだろうさ」
作者「人外のTKT兄貴の数千倍以上強いMRANN姉貴…………もうこれわかんねえな(思考放棄)」
ツキト「そもそもあれくらいの強さじゃなあ………ラウンズ程度なら嬲り殺せそう、ナイトオブワンは少してこずりそうだ」
作者「…………MRANN姉貴を戦わせてはいけない(誓い)」