ツキトside
私としては珍しくブリタニア軍の軍服を身につけ、昼の空港に来ていた。
「世話になったな、アーニャ」
「ううん、お兄ちゃんは頑張ってるんだから、もっと頼っていいんだよ?」
「それは嬉しいが、ダメ人間になってしまうから少し難しいな」
結局スザクとは話すことがほとんどできないうちにユフィと先に日本エリアに帰ってしまった。
すぐに帰る必要もあって今回はブリタニア軍のジェット機を使わせてもらうことにした。
これならばものの数時間でつけるだろう。
…………飛べれば、の話になるが。
「……………なあ、そろそろ離してくれてもいいんじゃないか?」
「もうちょっと、あと5分」
いつの日だったか、同じようなことをより積極的にされている。
正面から抱きつかれちゃ振りほどけもしない。
「その延長8回目だぞ?がめつい私は金銭を要求するぞ?」
「私の全財産あげるから、養って」
「断りにくいお願いをしてくるものだな………今回の日本エリアへの帰還は一時的なもので、数日すれば戻ってくると言っているじゃないか」
軍の空港でアーニャに抱きつかれ、かれこれ40分ほどこの状態だ、役得だがそろそろ行きたい。
世界の因果力によって引き起こされるはずだった『ユーフェミアの死』を回避するために活躍してしまった私は、1週間後の反乱軍の公開処刑の後に勲章が授与されることになった、なってしまった。
それにつき枢機卿への就任が無期限延期、3月からの枢機卿生活がパァだ。
まったく、勲章なんて今更いらんというのに。
「すぐに帰ってくる、前は3ヶ月、今回は5日だぞ?すぐに会えるさ」
「本当?」
「あぁ、本当だ」
「………わかった、気を付けてね」
ふぅ、今回は期間が短いからかすぐに終わったな。
周りの兵の目も痛い、さっさと乗り込もう。
「また会おう、アーニャ!」
「気を付けてね、お兄ちゃん!」
荷物を詰め込んだバッグを背負い、ジェット機へ飛び乗った。
「アールストレイム卿にぃ〜………敬礼!!」
「「「「………」」」」ザッ
兵士の敬礼に見送られ、ジェット機は飛び立った。
いった…………生身でジェット機はマズかったか、ヘルメットすらないとか死ぬかと思ったぞ。
なにが『低空を高速巡航しますが、大気圧は地上とほとんど差異はないのでパイロットスーツはいらないですね』だ。
『え?』なんて声が普通に出たわ、驚くを通り越して何か別の感情がでかかったぞ。
確かにテンペスタのほうでもパイロットスーツを着ずに生身で乗り込んでGに対応したりしたが、あれは自分で操縦していたからであってだな………。
もういい、これ以上は不毛だ、さっさとクラブハウスに帰ってナナリーとルルーシュと咲世子に無事を報告して、後はゆっくり休暇として過ごし…………。
「ツキトさん!!!」
「ぐぇっ!?」
な、なぜ、ナナリーが空港に!?
「怪我はないですか!?痛いところとかはないですか!?」
お前のタックルでもハグが今日一番痛えよ(素)。
「だ、大丈夫だ、大丈夫だから、ちょっと退いて………」
「ツキト、お前大丈………夫、みたいだな」
「あぁルルーシュ、久しぶりだな」
「呑気で安心したよ、ナナリーもほら、ツキトが困ってるぞ…………空港の真ん中で押し倒したら周りの目が……」
「そ、そうだ、早く退いてくれナナリー、このままだとあらぬ噂が………」
「(ねえねえ、あれってアールストレイム卿じゃない?)」ヒソヒソ
「(うわっほんとだ、女の子を侍らせてるのはマジっぽいわね)」ヒソヒソ
「(妹のアーニャ様も可哀想よね、あんな優男に引っかかるなんて………)」ヒソヒソ
「(アーニャ様ってきっとダメ男に尽くしちゃうタイプだから、ダメ男筆頭のアールストレイム卿とか介護のしがいがあるんじゃないの?)」ヒソヒソ
介護……………病院生活での待遇を考えると間違いとは言えない。
「おい見ろ!アールストレイム卿だ!」
「またすげえレベルの高え美少女を侍らせてやがる!」
「コーネリア様はともかく、ユーフェミア様だけじゃ飽きたらず、妹のアーニャ様やあんな美少女までも…………許せん!」
「おい待て貴様、コーネリア様をともかく扱いだと!?」
「あんな年増要らnぐふぉっ!?」
「泣け!泣いて許しを乞え!このクズ!」ゲシッゲシッ
「あびゃああああ!」
「コーネリア様!万歳!!」バキィッ!
大した忠誠だと褒めてやりたいところだが………仕事に戻れバカギルフォードォォォオオオ!!
「なんかよくわからんうちに空港内がカオスだ!さっさとクラブハウスに戻ろう!」
「そうだな、だから早く退いてくれナナリー」
「もうちょっとだけぇ………」
新年早々にめんどくさいことになってしまったなぁ……明日の一面は私だろうなぁ………。
無事にアッシュフォード学園前まで着けた、着けたんだが…………。
「校門前がすごいことになってますね………」
「はい……はい、ありがとうございました…………ミレイ様に伺いましたが、裏門も通れる状態ではないそうです」
「空港から学園までたったの2時間程度だぞ?動きが早すぎる……」
アッシュフォード学園前のバス停から隠れて様子を伺う、校門前にはたくさんの人だかりができている、報道関係者を中心に野次馬もいるようだ。
「女性関係で問題しかないようなラウンズが、問題になってるエリアでさっそく女の子に飛びつかれたなんて噂、私じゃなくても聞きたいと思いますからね………」
もうモテなくていいよホント………。
「ごめんなさいツキトさん…………」
「ナナリー様が謝ることはありません、とにかく、手っ取り早くどうにかしましょう」
「私が囮に………」
「咲世子、冗談でも滅多なことを言うんじゃない、お前がナナリー様のお側にいなくてどうする」
「………はい、申し訳ありません」
しかし、どうしたものか、私が囮になってもいいんだが、それではナナリーとルルーシュが怒るだろうし………。
「………ルルーシュ様とナナリー様は、このあと用事などはございますか?」
「ナナリーはないですよ」
「俺もないぞ」
「なら、せっかくですので4人で出かけてみませんか?」
どうせ休みなんだ、帰るよりもどこかで私服に着替えて出かける方がいいだろう。
たまにはルルーシュと咲世子の息抜きもせんとならんしな。
「名案だな、だがツキト、どこで着替えるつもりなんだ?」
「近くのコンビニのトイレで十分です、10分ほどいただければすぐ………」
「いや、すぐに嗅ぎ付けてマスコミがやってくるぞ」
む、そうか…………。
「(騎士団のアジトなら大丈夫だと思うが、どうだツキト?)」
「(騎士団のアジト!?正気ですか!?無理ですよそんなこと!)」
ナナリーに聞こえないように耳打ちしてきたと思ったら、この野郎……!
「となると、車内で着替えるしかないぞ?」ニヤニヤ
「カーテンもありますので、外から見られることはないかと」ニヤニヤ
こ、こいつら、これも計算のうちか!!
まんまといっぱい食わされたっ!私ともあろう者が、油断したか!
「さあツキトさん、ヌギヌギ、しみょう?」
「ひっ!?ナナリー様!?そこは触っちゃ………」
「ナナリー、着替えさせるだけだからな?」
「はい、わかってますよ………………わかってますよ」
目が!目が獣のソレじゃないか!!た、助けてくれええええええええええ!!!
noside
「美味しいですね、ツキトさん」
「あぁ、そうだな……」
結局あのあと、ツキトは着替えさせられたあとルルーシュと咲世子は別行動を取り、ナナリーとの2人っきりのデートになった。
ファミレスでステーキを黙々と食べるツキトと、話しかけ続けるナナリーの関係は、傍目から見れば冷え切った恋人同士に見えた。
「…………お、怒ってます?」
「何のことやら…………はっ」
侮蔑混じりの嘲笑はナナリーの心を削っていく、いつの間にか外からストーキングしていたカレンもいたたまれない気持ちになってきていた。
事の発端はナナリーがツキトを強制的に着替えさせたことにあった、ナナリーのセンスによって着飾られたツキトは、まさに絶世の美男子とも言うべきか、元の素材もあったのだろうが、それほどまでに昇華されていた。
これが、いけなかった。
ツキトはプライベートでは目立つことを嫌う、というのも、プライベート中に目立って身分が割れれば、自分の周囲の親しい人物に危害が及ぶ可能性が高いからだ。
身分が割れる可能性を少しでも多く排除するために、仕事中や式典などに行くときは特別豪華な礼装を纏い、巨大な金ピカリボルバーと長いレイピア、又はサーベルを付けるのだ。
仕事の時とプライベートの時のギャップの大きさで誤魔化そうとしてきたが、それを今日、ナナリーによって見事に打ち壊される………寸前までいったのだ。
ツキトは自分の我が強いことを自覚している、何かしらの計画を邪魔されると短気ゆえに怒りやすい。
しかし今回のツキトは怒りを溜め込む、ぶつけるべき相手がいないからだ。
いかに激怒しようと、根にある優秀な奴隷根性がナナリーに怒りをぶちまけることを回避させるのだ。
結果、ツキトはやり場の無い怒りを心の中に募らせていた、誰にでもわかる形で表にも出ていた。
一方、自分の(性)欲に従った行いで自業自得の結果を招いてしまったナナリーは、この瞬間に別れ話が切り出されたらどうしよう、と考えていた。
比喩表現も何も無しに言うと、ナナリーはツキトと別れると自殺する。
婚約から数ヶ月という時間で、お互いの存在が誰よりも何よりもなくてはならない存在になってしまったので、今更別れ話などツキトがきりだせるわけもないのだが。
結局、ほとんど会話もないまま時間だけが過ぎた。
並んで歩く帰り道、通り過ぎれば誰もが振り向く美男美女の2人組、しかしその間の空気は最悪、デートには見えない、妹の買い物に嫌々付き合わされる兄のように見えた。
租界の端を練り歩く、そんな時、ふとナナリーの視線がゲットーの方に向いた、そこに瓦礫はなく、家やアパートが立ち並ぶ街と言っても遜色無い光景が広がっていた。
「ツキトさん、あれは何ですか?」
「ん?………あぁ、あれはな………」
何気ない疑問を質問に変えてツキトに聞いたナナリー、これをきっかけとしてナナリーがどんどん質問していく。
あれはなんの建物なのか?なんのために必要なのか?なぜあんなに沢山あるのか?どんな役割があるのだろうか?
それに対しツキトが答える。
あれはゲームセンターだ、あっちは小さいがショッピングモールで、アパートが沢山あるのは人が沢山いるからで沢山作ると安くなるから、向こうのは役所と銀行の2つの役割がある。
それを繰り返していくうちにツキトの態度が軟化、そしてついに。
「ナナリー、今日はすまなかった」
ツキトがナナリーを許し、謝った。
「え?」
「楽しく過ごせたはずの休日を、ダメにしてしまった」
「そんなことありません!私はとても楽しかったです!」
「………そう、だったか?」
「はい、ゲットーのことについて質問した時のツキトさんはとても優しい顔をしていました、それに、私の平和にして欲しいって願い事をツキトさんが叶えてくれているって実感して、嬉しかったんです」
「……………」
ツキトは目を逸らした、自分のやりたいようにやってきただけのことを、自分のことのように嬉しいとナナリーが言ったのだ、100歳超えで非童貞のくせして初心なツキトには会心の一撃だった。
悠久苦節、が特別あったわけでもないが、ツキトとナナリーの関係は修復した。
noside
総督府のとある一室、その内部で男が2人。
「おはようございます、いえ、お久しぶり、と言った方が正しいでしょうか」
「君は!!………まさか、いや、私はいったいなぜ………」
男に話しかけられ混乱した様子のもう1人の男。
ここは事情あって人工の明かりを通していない月明かりのみが照らす総督府内の隔離病棟。
「あなたはナリタでの戦闘で赤いKMFによって吹き飛ばされ、偶然にも非合法の人体実験の実験台にされた」
「私が!?なぜ私が?」
「すでにお気づきでありましょうが、あなたの右目の違和感、それが実験台である証明です」
男は右目に触れる、ゴツゴツとした金属のようなものに触れるだけで、右目の感触はない。
それどころか、今までわからなかった右目の視界がないことに気がついた。
「!!」
「ギアス能力者の能力を打ち消す力、研究員達はこれを『ギアスキャンセラー』と名付け、最も適合率の高かったあなたに搭載させた」
「ギアス、能力者?………一体何を……」
「神聖ブリタニア帝国には、代々枢機卿が就任していることは、ご存知でしょうか?」
「あ、あぁ、次世代の皇帝陛下がつかれるときに、次の代の枢機卿が………」
「その枢機卿が、実は1人しか存在しなくて、実は不老長寿の存在であったとしたなら?」
「それは…………代替わりの必要がなくなる…………いやそもそも襲名制ならば………しかし仮の話だろう?」
「えぇ、仮の話ですが、枢機卿はその不老長寿の力を持ってそて魔術を極め、それを人に継承させることでギアス能力者を増やした、しかし技能力者は不安定で兵器として信頼性に欠ける、そこで考案されたのが、ギアス能力者のギアスという魔術を無効化する『ギアスキャンセラー』を作った………………なんて、そんなお話があったら信じますか?ゴッドバルト卿」
「…………にわかには信じ難いが、ツキト君が言うには本当のことなのだろう?」
背の低い男………ツキトのお伽話のような話にどこか納得したような顔でそう聞き返してくるジェレミア。
「えぇ、ゴッドバルト卿の言うように、にわかには信じ難い話です、しかし現実に、その摩訶不思議な魔法のような力によって、陛下の目の届かぬ場所で非合法な実験や虐殺が行われていたのです」
「なんということだ…………技というのはどのような力なんだ?」
「ギアスというのは枢機卿が持つ魔術、コードより継承される力の総称で、その性質は様々です、確認できたものだけでも、『直視した相手の記憶を改竄するギアス』、『直視した相手に命令を下せるギアス』、『周囲の生物の体感時間を止めるギアス』など、非常に危険な能力です」
「記憶の改竄に命令を実行させる能力、さらに生物の動きまで止めてしまうのか」
「しかも、動きだけでなく、意識も停止します、つまるところ…………近づかれた時点で死が確定します」
「なんて能力だ………」
「ゴッドバルト卿の右目は、ギアスによる力を消し去る能力を持ちます…………病み上がりのゴッドバルト卿には酷ですが、やっていただきたいことがございます」
「ツキト君の頼みか、よし、聞かせてくれたまえ」
「ギアス能力者の情報を掴みました、名前はマオ、中華連邦から空港を通じてここ日本エリア…………旧エリア11に来ることがわかっています、ゴッドバルト卿にはこの者の始末をお願いしたいのです」
「始末、か…………能力は?」
「『半径数百メートル先までの人の思考を読むことができるギアス』を持っています、が、ギアスキャンセラーを持っているゴッドバルト卿には無意味です」
「この不細工な装飾が役に立ってくれるのか………」
「マオはその能力以外に何もありません、つまるところ一般的な成人男性と何ら変わりない身体能力です、容姿は逆立った髪にサングラス、ヘッドホンを着けています」
「ふむ………」
「近日中に来るでしょう、空港で捕まえることは難しいので一度泳がせてから始末をお願いしますが………タイミングはゴッドバルト卿におまかせします」
「わかった、引き受けよう」
「ありがとうございます、リハビリ等な器具は用意しました、専属のトレーナーも呼んでありますので、トレーニングなど、ご自由にお使いください」
「感謝する…………ところでツキト君、私の扱いは戦死なのだろうか?」
「…………………いえ、ですがご安心を、『死地からの帰還』、『単独での長期戦闘行動』などで階級は特進されています、現在のゴッドバルト卿は…………准将、です」
「…………頭が痛くなってきたぞ」
「軍の規定通りにしてしまった結果といいますか、ブリタニア軍の戦果取り合戦の悪い側面が出たといいますか………」
2人揃ってブリタニアの現状に頭を抱えた。
ツキトside
原作とは違い、大幅に遅れてはいるものの、猟犬部隊の活動の甲斐あって何十人というブリタニア貴族中心のリフレイン売買関係者を拘束できた。
年明けで気が緩んだところに密かに潜入していた猟犬部隊の隊員がが一気に制圧・捕縛した、と報告書にある。
リフレイン売買関係者には、日本解放戦線の首領である片瀬少将も載っていた、こいつを辿れば大量のサクラダイトを手中に収められる。
その後は出どころであるキョウト六家、とりわけ当主である皇神楽耶への接近は必要になってくるか。
騎士団側はすでに接触していて、原作通りゼロに執心しているみたいだが、反帝国活動支援団体の当主であるゆえか、それとも教育か、未だコーネリア・ユーフェミア両名による日本人優遇制作には懐疑的なようだ。
キョウトには反帝国勢力でなくなった騎士団に落胆する者も多いと聞く、サクラダイトの産出を任せている立場としては、反感を持つ者たちの処分を考えねばならないわけだが。
果たしてどうなるものか………。
「ツキト?どうかしたのか?」
「あぁいえ、何でもございません………少し考え事をしていただけです」
あぁ、コーネリアとの作業中だったんだ、長考していれば心配もされるか。
「そうか?何か悩み事があるなら、私を頼ってくれていいんだぞ?」
「いえ…………では、少しお時間いただいてもよろしいでしょうか?」
たまには他人の意見も聞きたいし、話してもいいかもしれん。
「何でもいいぞ!」
「では………先日、私の猟犬部隊がリフレイン売買関係者の一斉捕縛に成功し、現在取り調べ中なのです」
「その話は聞いたぞ、日本エリア中に広がる麻薬汚染を食い止めた、と言って様々な部署で話題だからな」
「はい、そこで、捕縛した者の中に元日本解放戦線のリーダー、片瀬少将がいまして、どうやらその男、リフレイン売買で資金を調達し、キョウトより大量のサクラダイトを購入し、それを持って亡命を企てていたそうなのです」
「亡命か、仮にもトップの人間が、自軍の戦力が徐々にすり潰されていく様を見るのが嫌になって腐敗したというのか………それで、亡命はできなかったわけだが、それがどうかしたのか?」
「その亡命に使おうとした大量のサクラダイト、まだ見つかっていないのです」
「なに?…………大量のサクラダイトがいまも放置されているとなると危険だな」
「目下調査中です、しかし、もう1つ、厄介なことがありまして」
「厄介なこと?」
ここからが本題だ。
「購入先であるキョウト、キョウト六家なのですが、我がブリタニアとの専属契約を裏切り、敵将に重要な資源を金銭目的で横流しするなど、ましてや、キョウトの人間にとって同族である日本人から搾取した金で、です…………厳正なる処置が必要では、ありませんか?」
「同族を売ってまで金が欲しかったのかはわからない、だが、我がブリタニアとの約束事を反故にした罪は、償われなくてはならないだろう」
ふむ、コーネリアはこう言うとは思ったが、少し控えめだな、そこまで怒ったような様子もない。
「具体的な制裁はコーネリア様がお決めになられますか?」
「いや…………酷ではあるが、ここはひとつ、ユフィにやってもらおう」
「ユーフェミア様に?無罪放免で終わりそうなものですが」
というか、そもそも自分には無理だーって拒否してくるんじゃないだろうか。
「無罪放免は無しだと伝え、何よりツキトが制裁を望んでいると言えば何らかの命令は下すはずだ」
「大丈夫でしょうか?」
「ツキトも言っていただろう?ユフィが総督になるには、まずは実績が必要であると、此度の件は経験を積むには丁度良い」
「自分の命令でエリア中を変えてしまう影響力、それを持つのが総督ですしね……………ありがとうございますコーネリア様、悩みは解決いたしました」
確かに最もだ、ユーフェミアには実績が積み上がりつつあるが、今の実績ではただ単に優しいだけの人で終わってしまう。
厳とした態度で早急に制裁を下す判断をすることも、総督にとって必要な能力、さすがコーネリアだ、現日本エリア総督らしい言葉だ。
「のちにユーフェミア様とスザクを加えた会議を開きましょう、事によっては…………軍を動かさなけれななりませんから」
「くれぐれも、慎重に行こう」
キョウト六家が敵に回るなら、早いうちに排除するのが望ましいだろう、陛下にとっても、ルルーシュや騎士団にとっても。
特にルルーシュはキョウト六家の一部に顔が割れている、素顔が見られたら………なんて、恐ろしくて考えられん。
出来る限りの重い処分を下すようにユーフェミアを誘導しても良いが、ここはひとつ、成長の意味合いを込めてユーフェミアに一任するのもありか。
「では、引き続き、ユーフェミア様のお見合い案件の整理をしましょう」
「…………全部まとめて捨てるのはダメなのか?」
実は先程からテーブルには山積みにされたユーフェミア宛のお見合いの案件が届いており、姉であるコーネリアはもちろんのこと、なぜか幼馴染という観点から私まで仕分けに分類された。
どうせコーネリアは全部捨てるつもりなんだろうが………。
「どこ相手もユーフェミア様に相応しくないからといって、破り捨てて知らんぷりはいけません、しっかりと断りを書いた手紙を送らなければまた送られてきます、何通でも、何通でも」
「うっ…………それは嫌だな」
「断りの手紙を送ってもなお諦めない場合は、ストーカー容疑をかける等の対処ができますからね」
「黒いぞツキト」
「さすがに冗談です、しかしユーフェミア様は本当にお美しい……………事が起こってからでは遅いのです」
「まあ、な……どうせなら例の婚約者の他にユーフェミアと私とも結婚しないか?苦労はかけないと誓うぞ?」
「お気持ちだけ受け取っておきます…………ふむ、こっちの山の男は全員没行きでお願いします」
「は、早いなツキト、私なんてまだ半分も見ることができてないのに………」
「慣れと、記憶力でしょうか?ロクでもない貴族は大抵覚えておりますので、あとはユーフェミア様の隣にいるにはあまりにも不細工な者などは問答無用で没行きです」
「ユーフェミアの夫に不細工なのはいかんな、そもそもお見合いというものを好かん……………そういえば、最近私宛のお見合いは入ってこないようだが、諦めてくれたのだろうか?」
「コーネリア様のほうはギルフォード卿にすべて一任しております、お手元に届いていないということは、彼ほど忠義に厚い男のお眼鏡に叶う男は現れていないということでしょう」
「おぉ、ギルフォードがやってくれていたのか、あとで感謝の言葉を送らねばならんな」
「それがよろしいでしょう、失礼を承知で申し上げますが、ユーフェミア様ほど多くはないとはいえ、これに近い量を吟味しているのですから、感謝の気持ちだけでもギルフォード卿にとってはありがたいものでしょう…………しかし連日の作業は困難を極めます、時間を調整してゆっくり休めるようにすると良いかもしれませんね」
どうせギルフォードのやつは届いた手紙をかたっぱしから焼却処分しているんだろうけどな。
そんなギルフォードにも、たまには飴をやらねばな。
「なるほど」
「そういえば、この前ギルフォード卿の執務室前を通るとき、『コーネリア様と休日を過ごしたい』と言う声が聞こえまして………」
「私のような女とか?気のせいじゃないのか?」
「ギルフォード卿はコーネリア様に
は特に忠義に厚い男、しかしその前に人でもあります、だとすれば、癒し、というものが必要なのではないでしょうか?」
「癒し、か…………私とは程遠い言葉だな」
「それに関してはまた聞いてみるとし『失礼します』
「誰だ?」
この声はクレアか。
『アールストレイム卿専属秘書のクレア・マインドです』
「入れ」
「失礼します」
予想通りクレアが入室してきた、書類を持ってきたようだ。
「早いな、もう整理は終わったのか?」
「いいえ、実は………アールストレイム卿にお見合い案件が届いておりまして」
「「…………は?」」
思わずコーネリアとともにポカーンとしてしまう、なぜだ?なぜ私のところにお見合いなぞ………。
というか敬語のクレアって改めて気持ち悪いな、不気味でしょうがない。
「貴族相手に無作為の意識調査を行なった結果、どうやら先日の本国での戦闘以降アールストレイム卿への明確な好意が増えているようです、やりましたね、モテモテですよ?」
だが嫌味はいつも通りのようだ、変なところでホッとした。
「モテたっていいことなんてないだろうに、クレアも見ただろう?モテすぎた末路があれだぞ」
「反面教師のいい教材でしたね」
「口の減らんやつで何よりだ」
この野郎………いや、このアマなんてこと言いやがる。
「それともう1つ、特務士官が命令を待っています、ご指示を」
「『急を要す任務無し、帰還せよ』と送れ」
「わかりました、では、失礼いたしました」
「あ、あぁ」
クレアは伝えることを伝えるとそそくさと退出していった。
「ツキト、お前の秘書はなかなか………………………………………個性的だな」
「素直に口の減らない阿婆擦れと言ってもよろしいのですよ?」
「そこまでは言わん、まあ仲良くやってるようでいいが」
「まあ、色々あるものでして……」
その後もユーフェミア宛のお見合い手紙の処理は続いた、結果3組ほど生き残ったもののユーフェミアによって撃沈したのであった。