オリジナル機体の兵装に困ったらガンダム世界の兵器を持ち出してくる…………だってお手軽だもの。
no side
ロイドはニコニコ笑顔で新兵器、インコムについて話し始めた。
「新兵器インコム、フロートユニットとハーケンブースターの機能を搭載した、小型の機動ハドロン砲、とでも言うのかな?」
「ハドロン砲………?」
馴染みのない兵器の名前にアーニャが小首を傾げる。
「加粒子砲、ようするにビーム砲みたいなものだね、ガウェイン本体の肩に………セシル君、パソコン出して」
「今出しますから待っててくださいね……」
なんやかんや言いつつロイドとセシルの連携の安定感に少し冷静さを取り戻すユーフェミアだった。
「でました」
「ここ、この部分にあるのがハドロン砲、これを小型化したものがインコムに搭載されているものだよ」
ガウェインの両肩のハドロン砲を指してわかりやすい説明を行うロイド、これには納得したのかしてないのか、ユーフェミアもうなづいてみせた。
「このインコムは背中にバッテン印状につけてあって、パイロットの精神感応波っていう特殊な電波みたいなものに反応して本体から射出、本体とはワイヤー数本で繋がってるから迷子にはならないよ、そして、このインコム最大の特徴は、パイロットの思うように動かせることにあるんだよぉ〜」
「思うように、このハドロン砲を、動かせる?」
「そう!肩についたハドロン砲より威力はちょっと下がるし、小型化の影響で遠距離を狙える収束率を維持できなかったけど、それでも威力はハドロン砲そのもの!大火力の加粒子砲を4門もあるんだ、それを活かしたオールレンジ攻撃は、ユーフェミア様とアーニャ君は見たよね?」
「はい、あれは………なんというか、圧倒されるような感じがして」
「正直言って、あの時のお兄ちゃんは怖かった」
ユーフェミアとアーニャは服と背中の間に氷を入れられた時のような、ゾッとした、そしてどこまでも君の悪い感覚を思い出していた。
「2人とも心理的、視覚的、そして実戦での効果は十分に味わってもらっているみたいだね、自分で作っといてなんだけど、僕もそう思ったんだ、僕はなんて危険なものを作り出してしまったんだ………ってね」
「そうですロイドさん、あんな兵器は危険です!すぐに解体しないといけません!」
「ユーフェミア様がそういうのもわかります、しかしこの兵器はパイロット次第で全く無意味になるんですよ」
「無意味になる?」
「実は、ツキト君が乗る前に何回もテストしているんですよ、僕とセシル君、スザク君にもインコムを使ってみてもらったんです」
「それで、どうだったんですか?」
「どれだけ頑張っても、4つのうちの1機を射出させて姿勢制御をさせるだけで精一杯で、搭載されたハドロン砲を撃つなんてことできませんでしたよ」
「え!?そんな、じゃあツキトは!?」
「彼が初めてなんですよ、ガウェイン・アンジェラの性能を限界まで引き出したのは、普通のパイロットでは精神感応波で姿勢制御を行いながら任意のタイミングで射撃するのは至難の技です………それを彼は初乗りでやってのけた、それも4機同時の全力稼働状態で!全部の武装をそれぞれ違う目標に向けて正確に当ててみせた!」
ロイドはとても興奮した様子でパソコンを打ち始め、あるデータをユーフェミアたちに見せてきた。
「左が、最低限インコムを1機射出することができる精神感応波の強さ、右がブリタニア軍の全兵士のデータです、数千万というブリタニア
のなかで、インコム1機すら動かせるのはたったの9,000人弱しかいないんです!」
「少ない……え、射出?動かすんじゃなくてですか?」
「そうです、射出です、射出する工程にも精神感応波による制御が行われますので、次に、最低限インコムを1機動かせる人数ですが…………200人ほどです」
「に、200人………」
「すっ飛ばしますけど、4つのインコムを同時に操作できて、機体の操縦も行えるのは……2人です」
「1人はお兄ちゃん、もう1人は?」
「かつてビスマルク・ヴァルトシュタイン卿とともに戦った、マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア様です」
「マリアンヌ様が、この機体を、動かせる!?」
瞬間、全員が想像した、あの鬼神が如くマリアンヌがこのガウェイン・アンジェラに乗ったとしたら………。
「「「「(宮廷が無傷でよかった)」」」」
反乱軍もろとも宮廷が消滅していただろうことは想像に容易かった。
「性能を限界まで引きだせるのはツキトさんとマリアンヌ様だけですが、マリアンヌ様は今の盲目の現状では厳しいものがあります、そもそも軍属ではありませんので、ツキトさんだけしか操縦できない本当の意味での専用KMFとなります」
「ただ、性能を限界まで引き出したとしても、まだまだ欠点も多い機体なんだよねぇ、アーニャ君ならわかると思うけど」
「………ハドロン砲のエネルギー消費が多そう、あと格闘武器がないから接近されると危ない」
「そ、ハドロン砲はあの威力を出すためにエネルギーをすごい喰っちゃうんだよねぇ、それが本体の分も含めて6つ、本体とインコムそれぞれを支えるフロートユニットのエネルギーもバカにならないんだよ」
「全力稼働時の消費エネルギーは、サザーランド5機分のエネルギー換算になります」
「大飯食らいだな……」
「格闘武器が一切ない、ってわけじゃないんだけど、見ての通り大きいから接近されると厳しいんだぁ〜、そもそもが通信能力・砲撃戦能力特化の機体を、さらに強化しただけで格闘戦は捨ててるみたいなもんだしね」
「唯一の格闘武器は左右腕部のクローと、そのクローの一本一本を射出するスラッシュフィスト、5本ずつの合計10本を同時に射出できます、威力はスラッシュハーケンと同等です」
パソコンに映し出されるガウェインの腕部、鉤爪のように不気味な金色のクローが恐ろしい。
「そんな使い勝手の悪さが目立つガウェインなんだけど、僕はもちろん、ツキト君も気に入ってるんだ」
「お兄ちゃんが?」
アーニャは不思議に思った、使い易さ重視のツキトがこんな機体を気にいるなんて思えないからだ。
「『悪魔の自分にはお似合いだ』なーんて言ってたよ」
「お兄ちゃんが、悪魔?」
「『ブリタニアの悪魔』、それが日本エリアで戦ってたツキト君についたあだ名だよ、ツキト君って案外皮肉とか好きだしねぇ、いっそ悪魔らしくいこうとか思ってたんじゃないかな?」
アーニャはもちろん、病室の全員の耳にロイドの言葉が反響していた。
ツキトside
「燃費はまだ良いんだ、問題は推力だ、本体の速度が遅すぎてあれでは追撃に移れない、今回は固定砲台として戦える戦場だったから良かったが、機動力が低く装甲もそこまで信用できない機体で固定砲台戦法は危険なんだ」
「インコムの問題でどうにもならないんだってば!最初は腰に付ける予定だったけどシミュレーションでワイヤーが絡まるからボツ、脚部はランドスピナーに干渉するからボツ、いっそ腕そのものをインコムにしようとも思ったけど、それだと2機しか使えないから手数が足りないからボツ…………スペースに余裕がある背中しか搭載できなかったの!!」
「だったらインコム収納時にインコムのフロートユニットも使えるようにして推力を稼げるようにでもしたらどうだ!!」
「その手があったか!!!」
病院で目が覚めた私は、今日が何日だとか確認するより早く、ベッドの隣でパソコンを打っていたロイドにガウェインについての評価、というより文句をぶちまけた。
ロマン溢れる素晴らしい機体なのに機動力の低さがどうにも納得いかん、別にランスロットほど高くして格闘戦能力を上げて欲しいわけではない、あんな低機動力では敵に突っ込まれた時に回避できない。
すこぶる悪い燃費は気にならない、図体がでかくて被弾面積が大きいもまあいい、だが機動力が低くて攻めに向かないというのが我慢ならん。
防衛戦ならば十分な性能だ、多数のハドロン砲による面制圧能力の高さ、少数の敵ならオールレンジ攻撃で一気に屠れる。
万に1つ敵が盗んだとしても、ドルイドシステムの補助なしのガウェインでは、ハドロン砲の収束率を安定させづらいせいで満足な砲撃能力を持たない上、ロイド曰く私かマリアンヌ以外はインコムをまともに動かすことすらできないそうじゃないか。
事実上の私専用KMFとは、本当に良いものだな。
「うーん、インコムの取り付けてるとこ、射出装置の部分に角度をつけさせて、インコムの砲口部分を後ろに向けた状態でフロートユニットを連動させれば、直進に限って10〜15%程度の推力を確保できる計算だよ、できれば細かいオーダーがあればそれでやるけど?」
「じゃあ言うぞ、メモの準備いいか?」
「天才にメモはいりませ〜ん」
「私がとります」カチカチ
いつも通りロイドはメモをとらずセシルがとるようだ。
「まずは機動力の強化、これに関してはさっきロイドが提示した方法で頼む」
「インコムを後方に向けての推力増加方式………」
「装甲防御力に関してはそもそも被弾するつもりが無いから保険にってくらいあればいい程度だ、だが見た目がヒョロイくて弱く見えるからもっと線を太く威圧的に見えるようにしてくれ、特に脚部は頑丈に頼む、多少の無理が通せるくらい」
「心理的効果は大事だよねぇ〜」
「線を太く威圧的にする、特に脚部を頑丈に………」
「火力は十分なんだが、インコムのハドロン砲の収束率を弄れるようにしてくれ」
「インコムの収束率の任意変更機能……」
「え〜?そんなことしたら威力下がっちゃうよ?」
ロイドが不満げにいう。
「今のインコムの威力は少し過剰だ、収束率を少し落とすだけでも多少なり燃費は良くなる、頻繁に機体に戻してチャージするのは隙を作ることになるからな」
「あ〜、そういう考えもあるわけねぇ」
納得してもらったところでセシルの方を向く。
「あとは…………いっそ両肩のハドロン砲を外して、胸の部分に1つだけつけるっていうのはどうだ?」
「ちょっと改造では難しいかなぁ、でもそのアイデアいただき、後継機の参考にさせてもらうね〜!」
「さすがにそこまで大々的な改造ともなると、新規設計が必要ですね」
無理か、両肩につけるよりも胸か腹に一個だけつけたほうが出力を上げやすいと思ったんだがな。
「そうか、まあこれくらいか」
「はい、あっ、線を太く威圧的にとありますが、デザインの方は?」
「うーむ…………仕方ない、クロヴィス様に頭を下げよう」
「く、クロヴィス様にですか!?」
「あぁ、何か問題でもあるか?」
やけに慌てるなセシル、一体どうしs
「話は聞かせてもらった!」
シュタァンッ!と病室のドアを開けて入ってきた金髪の男、まぎれもないクロヴィスであった。
「おはようございますクロヴィス様、このような姿でのご挨拶をお許しください」
「おはようツキト、そんなに畏まらないでくれ」
「ありがとうございます」
「それで、ツキトのKMFのデザインがどうとか聞こえたんだけど、僕にやらせてもらえないか!?」
「よろしいのですか?」
「もちろんだよ!ツキトの活躍に華を添えられるのはとても嬉しいことだからね」
なんだこの好青年!?聖人プログラムインプットしたのか!?
………でもC.C.の実験を嫌々ながら一応だがやってたんだと思うと微妙な感じあるな。
「クロヴィス様にやっていただけるなら、帝国へのさらなる貢献となり、技術者たちもやる気が出るでしょう」
「僕はツキトの役にさえ立てればそれでいいんだけどね、それで、どうすればいいかな?」
「ロイド、ガウェインの全体図を」
「はいはーい」
パソコンでガウェインの全体図を映し出すロイド、そのを指しながら説明を始める。
「まずスリム過ぎて弱そうにしか見えないので全体的にマッシブ、重量感があるようにしてください、デザインはより禍々しく見えるようにお願いします」
「1週間もあれば仕上げてみせるよ」
「ありがとうございますクロヴィス様」
「今から取り掛かるね!じゃあお大事に!」
クロヴィスはそう言うと病室から出て行った。
「…………というわけで、デザイン案が決まるまで改良を頼む」
「は〜い」
「納得のいくものを作りますからね」
「頼んだぞ2人とも、ふぅ…………疲れたので寝る」
「はい…………あっ、18:30にアラームが鳴りますから、鳴ったら起きてくださいね」
「何かあるのか?」
「アーニャさんがツキトさんに手作りご飯を作って持ってくるそうです」
「それは楽しみだ、教えてくれてありがとう」
「いえ、では、おやすみなさい」
ロイドとセシルも病室を出て行き、静寂に包まれる。
枕に頭をのせて、気疲れからくる睡魔に身を投げ出す。
ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピpカチッ
もう18:30なのか?ん…………ぐっすり眠れた。
コンコン
「ん、どうぞ」
「おはようお兄ちゃん、体は大丈夫?」
アーニャが料理ののったワゴンを押して入ってきた、寝ていてのは知られているようだ。
「すっかり元気だよ、足の方はまだ全開とは言い難いけどな」
「そっか、よかった………ご飯を持ってきたんだけど、食べれる?」
「腹が減ってしょうがないよ」
「じゃあ、食べさせてあげるね」
「え?いや、手は動くから自分で………」
「お願い、役に立ちたいの………」
いきなりシュンとしたアーニャにちょっと驚く、ここはアーニャのやりたいようにやらせたほうがいいか、役得だしな。
「ん、じゃあ頼む」
「うん!」
アーニャは元気そうに頷いてスプーンをとった。
「まずは、お兄ちゃんが日本の総督府の食堂でよく食べてたって聞いた、コロッケから」
一口大に切られてスプーンにのっけられたコロッケはしっかりキツネ色でサクサクしてそうだ、断面はジャガイモとひき肉、黒っぽい粒は胡椒だろうか?それらがよく混ぜ込まれて作られている、とても美味しそうだ。
「お、お兄ちゃん、あーん////」
「あーん………あむ」
私よりも恥ずかしがるならやらんでもいいのに………頑固だなぁ。
「もぐもぐ……………うん、美味しいぞ、アーニャ」
「そ、そう?じゃ、じゃあ、もう一口………あーん////」
「あーん…………ん?」
何やら視線が……………。
「あっ」
「「あっ」」
記者…………なのかあれは?窓にしがみついているが………
「脱出!!!」
え?おいおい大丈夫なのか?ここ一応5階って聞いたぞ…………不法侵入者だよなあれ?ってことはだ。
「アーニャ、隔離病棟周辺をただちに封鎖だ」
「もう終わる、相手は袋の鼠」
「さすがだアーニャ」
これで捕まるだろう、ま、バカなやつだったな。
「アーニャ、まだ食べ足りないんだ、いいかな?」
「うん、あ、あーん////」
「あーん」
こんな風にアーニャに頼りきった生活も悪くないな。
コロッケを完食し、コーンスープもコロッケ同様に食べさせてもらった、インスタントではなく自家製のコーンスープなのだという、どうりで美味しいわけだ。
「ありがとうアーニャ、とても美味しかったよ」
「作った甲斐があった、お代わりいる?」
「いや、食べたら眠くなってしまった、もう寝るよ」
シャワーくらい浴びてからが良かったが、もう眠すぎてダメだ。
「わかった…………眠るまで頭撫でてもいい?」
「ん?あぁ、いいぞ、別に……」
マズ、もう、眠くて辛い………………。
「おやすみ、お兄ちゃん」なでなで
目を覚ました日から数えて3日、入院してから4日後に退院した。
本来は2日で退院する予定だったが、予定にはないアーニャの手作り料理を食べ、病院食を食べなかったため、栄養バランス等を考えての処置だそうだ。
延びた入院期間もアーニャがいてくれたので退屈では無く、デザインを頼んだ次の日に100%、いや200%といっても過言ではない完成度のデザイン画を持ってきたクロヴィスに仰天した。
試しにそれでシミュレーションしてみたら機動性が悪化するというロイドの話は聞いて頭が痛くなったが、せっかく徹夜して想像以上のものを作ってくれたクロヴィスの面子もあるのでそれを参考に改造することにした。
後に訪れたクロヴィスに聞いたところ、筆を持つとアイデアが沸くどころか噴出する勢いで出てくるらしい、案外漫画家に向いてそうだなと思った。
先ほど言った200%の仕上がりのデザインというのが、私の注文通りに全体を太く威圧的に見えるようにするにはどうしてもサイズが足りないらしく、なんと全長から全部書き直してくれたようで、元のガウェインよりも1.6mも全高が伸びてしまったそうだ。
スリムなモデル体型もなくなり、まるでガン◯ムのMAのような風貌に、デカくなっただけ重量アップ、容積が大きくなったため、燃料であるエナジーフィラーがより多く積めるようになり航続距離と戦闘継続時間の延長ができた。
もちろん良いことだけではない、重量アップによる弊害で推力が少し不足気味になり、ロイドの示したインコムのフロートユニットを連結して後方への噴射による前方推理の向上分の10%〜15%は、丸々なくなってしまい、どう手を尽くしても推力は-10%程度になってしまうようだ。
フロートユニットの出力を弄って推力を高める方法もあるが、燃費が悪化するためそれは見送った。
武装面に関しては、インコムのハドロン砲の砲口付近に3本の爪を取り付け、敵機に潜り込まれた際にハーケンブースターの緊急出力で爪部分を敵機に刺し込み、動きを封じるのに使うものらしい、また爪部分は開閉が可能で、敵機を拘束したりもできるようにするとか…………ロイドのやつ完全にロマンに走ってるな。
あと、サイズが大きくなったためインコムの冷却装置とエネルギー充填装置を大型化して、再度射出までの時間を短縮するそうだ、これに関しては嬉しい。
冷却装置の大型化と改善で燃費が微向上するのもジミーに嬉しい、数%の差が後に大きな溝になることもある、小さな認識の違いで全く違う商品を大量に発注してしまい、多大な損害を被るようにな。
総合的に見れば、よりデカく鈍重になり被弾面積も大きくなったが、武装面に強力な強化が施され燃費も微向上で使い易くなった、というところか。
名前をつけるなら、【ガウェイン・アンジェラⅡ(ドゥーエ)】だな。
ちょっとツキト君パパラッチに対して迂闊過ぎんよぉ〜。
1/8、誤字修正しました!