ナナリーside
今回は、私とツキトさんの出会いについて話したいと思います。
あれは、私がまだ3、4歳ころ、お兄様が6歳ころの時、私とお兄様の家、ヴィ家を支援してくださっている家の中でも最大のアールストレイム家、そこから家の使用人として送られてきたのがツキトさんとアーニャさんでした。
「初めましてルルーシュ様、ナナリー様、本日よりお二人のお世話をさせていただきます、ツキト・アールストレイムです、妹共々よろしくお願いします」
「妹のアーニャ・アールストレイムです、よろしくお願いします」
ツキトさんとアーニャさんは礼儀正しい動作と言葉遣いで挨拶をしました、その時のことをお母様とお兄様はとても驚いていらっしゃいました。
お兄様曰く、同い年とは思えないほど落ち着いていて異常だ、と言っていました。
お母様は、ツキトさんを面白い子だと笑顔で言っていました。
それから数日、ツキトさんとアーニャさんはヴィ家の様々な場所の掃除などをしていましたが、ツキトさんはそのうち見れなくなり、気になって探してみると、剣の稽古をつけてもらっているところでした。
思えばこの頃から、ツキトさんのことが気になり始めていたのでしょう。
それから気になってしまい、お勉強や習い事がない時間に何度も何度も、剣の稽古をするツキトさんを覗きに行きました。
お兄様には覗き見するのははしたないと言われてしまいましたが、それでも私は見に行くのをやめませんでした。
剣の稽古をつける先生の人との模擬試合で、吹き飛ばされてボロボロになりながら突っ込んで行くツキトさんを覗き見て、『危ない!』とか『痛そう』とか、思っていましたね。
それである日、覗き見ている時にお母様に見つかって、声をかけて見たら?と言われたので、休憩中のツキトさんに声をかけようとしました。
タオルと洗面器を借りて、お湯を張って持って行きました。
お湯を張った洗面器は当時4歳の私には重かったのですが、よたよたしながらもツキトさんの近くまで行くことができました。
タオルにお湯を染み込ませて、傷だらけのツキトさんの身体中を拭いていきます。
ツキトさんは眠っていたようで、顔や腕を拭いていた時は反応は薄かったのですが、服を脱がせて上半身を拭こうとタオルをつけた時、ツキトさんの目がギンッと開きました。
私をギロリと睨みつけたと思うと、すぐに驚いた顔になって、起き上がろうとしました。
「動いちゃだめ」
「で、ですが、このようなこと、ナナリー様がするまでも……」
「動いちゃ、だめ」
「は、はい」
無理やり起き上がることもできたんでしょう、けど、私がツキトさんに馬乗りになっていたことと、命令するみたいに言ったからしぶしぶ引いてくれたんでしょうね。
そして胸の部分を拭いている時でした、馬乗りの状態だったからか、バランスを崩してツキトさんに倒れこんでしまいました。
その時、私の髪につけていた髪留めの鋭い部分が、ツキトさんの胸に刺さり、体が揺れたことで横に切り裂いてしまいました。
パニックになってしまった私は、謝り続けていた、と思います。
実は、その後はよく覚えていないんです。
でも、ツキトさんがあの時、私のことを怒らず、お礼を言ってくれたことだけは、覚えています。
ツキトさんのサラシは、その時の傷を隠すために、私がプレゼント、っていうと変ですね……お詫びの品、として渡したものなんです。
元々は私の髪を縛るためのリボンだったんですけど、質の良い布を使っているので、どんな用途でも応用が効いたんです。
それ以来、ツキトさんはサラシを巻いてます、私とツキトさんの最初の交流は最悪のものでした、でも、話を重ねたり、遊んだりしてるうちにどんどん引き込まれていって。
お母様が暗殺されかけた時、ツキトさんが放たれる幾百の弾丸を物ともせずに切り捨てた話を聞いて、ツキトさんが大好きなんだって気づいて。
日本に行ってからは、ツキトさんと毎日遊んで、勉強して、料理して、お風呂に入ったりして、気づいた気持ちが、どんどんどんどん、膨らんでいって。
気づいた時には、ツキトさんしか見えませんでした、ツキトさん以外の男の人が全員同じように見えて、ツキトさんだけが輝いていて、私を導いてくれて、私を見つめていてくれて、私を愛してくれていて。
「…………」
そんなツキトさんをどうしようもなく想ってしまう私の気持ちは。
「大好きですツキトさん、愛してます……」
きっと、本物なんです。
ツキトside
「ん…………気のせい、か?」
時計を見ると午前3時、乗ったのが18時だから、9時間は寝てたわけか。
ブリタニア本国へ向かう旅客機の中で、ナナリーに微笑みながら大好きと言われる、そんなしあわせな夢を見てて良いところで目が覚めるなんて………。
しかし、ナナリーは想った以上に大人だったな、アーニャだったら私が旅客機に乗ろうとすると止めようとしてたからな。
ナナリーは辛そうな顔ではあったがしっかり見送ってくれ、きっとそのすぐ後で泣き崩れていたのだろうが。
まあ、私の勝手な想像よりもずっと大人だった、というだけの話なんだけどな。
あと8時到着予定だからあと5時間はあるな、なんでこんなに遠いんだ、いやこいつが遅いのか、どちらにせよ、まだ寝て待つ必要がありそうだ。
ナナリーside
エッチの時は特に可愛くて、ゴム無しでシテいる時とかは特にですね。
『中はダメ!中はダメ!』って叫ぶんですよ、女の子みたいに、あまりに可愛いので出る直前の本当にギリギリまで入れたままで、出そうになったら外に出してあげるんです。
そうするとホッとしたような顔をするんですが、そこで拭かずに入れようとするとものすごい焦り出して、怯えたみたいにビクビクするんです。
こうすることで、2回目以降はゴムをつけてあげると拒まなくなります、最初からゴムだと2回目以降は厳しいですよ。
え?もし最初のゴム無しで中に出ちゃったらどうするんだ、って?
その時は………可愛い赤ちゃんを産んで、ツキトさんを幸せにするだけですよ♡
帰ってきたら、たくさん………久しぶりにシタら、中に出してしまった、なんていう『不慮の事故』とか、ありますよね?
うふふ…………。
ツキトside
……………チッ。
「最悪の、目覚めだ………」
ナナリーに生で逆レイプされてて、完全に中で出してしまったところで起きてしまった………どうせならその後の未来くらい見せろよ、そうしたら少しは気分も晴れたというのに。
心臓にも精神にもダメージの大きい、正夢みたいな夢だったな、というか、内容だけなら悪夢だ。
しかしまあ、悪夢か………これからブリタニア本国で起こる出来事の方が悪夢らしいな、何せ、クレアの未来予知でどれほどの規模か大体わかっているしな。
おおよそ、300人以上は死ぬそうだ、兵力で表すなら、1個中隊とちょっとあたりか、大損害だな。
だがわかるのはそこまで、それが敵か、それとも味方か、あるいは双方の合計かはわからないらしい。
私は思うに、後者、双方の合計だと思っている、クレアが言うには、同じ制服の人間が死ぬそうだから、どっかの派閥のクーデターか、何らかの組織を私的に恨んでいて、その抹殺のため大軍を………流石にないか。
タイミングとしてはラウンズの晩餐会があることだし、ラウンズの皆殺しを企む酔狂な奴か、それともラウンズの中の1人を狙っているのか。
300人が死ぬほどの規模の戦闘を起こす必要が無い、となると、やはりクーデターか?
確定している死人の数からして最低限の兵力は確保しているはずと見ていいだろう、だが、宮廷付近の近衛兵を買収など出来る人間がいるのか?
いるとすれば、それこそ皇族くらいのものだ、まさか皇族がラウンズを殺そうと………いや違う、そうなると狙いは皇帝陛下になる。
国家転覆を図っているのか、皇帝陛下を殺し新たな皇帝を名乗ろうとで言うのか。
仮にそうならラウンズはその無礼者を排除しようとするだろう、となれば、クーデターの最初の方で一気に殺しておいた方が戦力を大幅に削げる。
あとは雑兵を蹴散らし皇帝陛下の首を狙うだけ、か。
1番先に狙われるのが私たちラウンズなら、対処のしようはあるだろう。
しかし、クーデターを目論む人間がいて、そいつらが襲ってくるから協力しろ、何て言っても信じはしないだろう。
伝えない方がいいだろう、アーニャにもな。
そりゃ心配だ、心配だが………アーニャはそう簡単には死なん、私以上に才能ある子だ、それに賢い、私なんかより断然長生きするだろうさ。
私が不老不死じゃなかったらの話だが。
『まもなく着陸いたします、シートベルトをお締めください』
着陸か、シートベルトを締めてっと。
降りたらたぶん、待機してるであろうアーニャに物凄い勢いでタックルされるだろうから、気はしっかり持っておくか。
一応、柔道とか空手とか体のバランスを調整するような才能を使えばどうとでもなるだろうし。
窓の外の景色の流れが緩やかになり、ようやく止まった。
『長旅お疲れ様でした、神聖ブリタニア帝国へようこそ!』
可愛らしい声のアナウンスとともに出口が開く。
席を立って人混みに紛れて外に出た。
空港内は朝早い時間だと言うのに多くの人で混雑している。
あっ、ちなみに私が旅客機でこっちに来ても騒がれないのは、私が女装して来ているからだ、ついでに護衛もつけていない、ガタイの良い黒服の兄ちゃんが私の両隣固めてたらそれこそ注目の的だ。
まあ、別の意味で、主に男の注目の的になってしまっているんだがな。
別に男の格好の私服で来ても良かったが、男にしては明らかに小さすぎるし、空港の人間に心配されて迷子センターに連れていかれては元も子もない。
空港内を出口に向けて一直線に………あっ、あそこの売店の菓子が美味しそうだ、帰りにお土産に買っていこう。
っと、名前をメモしておいて…………さて、気を取り直しt……ん?なにやら出口に人だかりが、有名人でも………ファッ!?
アーニャ………いるだろうと思ったが、まさか、ラウンズの正装でくることないだろう!?
「アーニャ・アールストレイム卿!サインください!」
「ん………名前は?」
「メアリです!」
「…………はい」
「ありがとうございますぅぅうううう!!!!」
「写真とってもいいですか!?」
「いいよ……」
「じゃあこっちに向かってピースをお願いします」
「ピース……」
「ありがとうございます!ありがとうございます!!」
「豚って呼んでください!!」
「…………豚」
「ぶひいいいいいいいいいいいい!!!!!!」
ファンサービスをやっているようだな、うむ、良いことだ。
しかし、対応が硬いと言うか、笑顔じゃなくて真顔というか………色が薄い、っていうのは変だが、なんだかなぁ……。
最後の豚は細切れにして出荷してやる。
「こちらの空港に来られた目的は何でしょうか!?」
マスコミまで来たか、情報があったらすぐに駆けつけるマスコミだが、一体いつからアーニャは空港にいたんだろうか。
「……………秘密」
「誰かのお迎えでしょうか?」
「それは………」
そろそろ行くか、アーニャを放って行くのは良心が痛むが、私もバレたら面倒だ。
「!!!」
「えっ!?アーニャ・アールストレイム卿!?」
「き、消えた!?」
ん?何かトラブルが………!
キィィンッ!
いきなり斬りかかって来た!?アーニャのやつ何を考えている!?
「な、なんだなんだ!?」
「アーニャ・アールストレイム卿が美少女に剣で斬りかかった!?」
「美少女も剣を持ってるぞ!?」
「何者なんだあの美少女!?」
ちぃっ、ザル警備を突いて隠し持って来た剣をとっさに抜いたのは下策だったか、避けたら避けたで問題だし、おとなしく切られていれば良かったか?
「っ!」
くそ、突っ込んでくるか!こんな狭いところで!
キィィンッ!ギギギ……キィィンッ!
「すげえ!互角だ!」
「あの美少女もアーニャ・アールストレイム卿も、どっちもやべえ!!」
「おい動画!誰か動画撮れ!」
「ダメだ!速すぎてフレームに入らねえ!」
攻めるつもりがないのか?舐めてかかってきてるのか?
いや、誘ってるな、私の最速の一撃を、それをもう一回弾いてやろうっていうんだろう?
望み通りにしてやる!
「美少女が剣を納めた?」
「降参なのか?」
察したアーニャが構えた。
一気に踏み込む!アーニャの資格の位置で剣を抜き、アーニャの反応速度を上回る速度で突き貫く!
「っ!?」
私の剣先はアーニャの首元を掠めるように過ぎ、剣圧、とでも言うのか、それでアーニャの髪が突風に吹かれたように靡いた。
アーニャは反応できなかったのか、剣を構えたポーズのまま固まって目を見開いていた。
私はアーニャから離れて剣を一振りしてから鞘に戻した。
するとアーニャが膝から崩れ落ちた、咄嗟に受け止めてしまったが、失策だった。
「お、お兄ちゃん……////」
「なにいいい!?あの美少女がお兄ちゃん!?」
「じゃ、じゃあ………」
「ツキト・アールストレイム卿!?」
バレた………はあ、もう良いか。
アーニャも良かれと思って迎えにきてくれたのだろうし。
「まだまだ甘いな、アーニャ」
「お兄ちゃん、3ヶ月で強くなり過ぎ……」
「弱かったら格好つかんだろう?アーニャは弱い私の方が良かったか?」
「…………弱くても、優しければそれで良い」
「嬉しいことを言ってくれる」
とたん、周りからフラッシュが焚かれる。
「おい、フラッシュはやめろ、目に悪い」
「も、申し訳ありません」
カメラマンらしき男はへこへこと頭を上げて謝った。
「わかればよろしい、さて、アーニャ立てるか?」
「うん、大丈夫……お兄ちゃん、いきなり斬りかかってごめん」
「気にするな、腕試しのつもりだったのだろう?………だが、民間人のいる前で斬りかかるのは褒められたものではないぞ」
「ご、ごめんなさい………」
「3ヶ月前の約束も無しだな」
「そ、そんな………」
そんな絶望的な顔になるな。
「冗談だ」
「じょう、だん」
「あぁ、ちょっとお灸を据えてやろうと思っただけだ、ところで、ここへは何をしに来た?」
「お兄ちゃんが来るって聞いたから、迎えに来たの」
「そうなのか?助かった、実はタクシーの予約が取れてなくてな、危うく宮廷の近くまで徒歩になるところだった」
「!…ううん、お兄ちゃんを迎えにくるのは当たり前だから、遠慮しないで一緒に行こ」ニコニコ
絶望に沈んだ顔から一気に笑顔が咲いたな。
「おお!!アーニャ・アールストレイム卿の笑顔!!」
「美しい!そして尊い!!」
「ああ、神よ!!」
やはりアーニャの人気も凄まじいようだ、さすがは私の妹、ナナリーと同様、人望は厚いようでなにより。
「できた妹で私は幸せ者だよ」
「(お兄ちゃんに必要とされてる!アーニャは今お兄ちゃんに必要とされてる!!)……早速行こ、車を待たせてる」
「そうだな……その前に、着替えても良いか?」
「あ………うん、わかった」
「すまんな、そい」バッサァ
「ちょお兄ちゃ!?」
「どうした?」ラウンズ正装
「脱ぐだけで着替えれるっておかしくない?」
「特技みたいなものだ、気にするな」
早着替えは得意でな。
「う、うおおおお!!アールストレイム兄妹!」
「天使だ!双子の天使だ!」
「実際は歳離れてるけども!」
私って人気だったか?嫌われ者だとばかり思っていたが……。
「さて、行こうかアーニャ」スッ
「うん!」キュッ
アーニャと手を繋いで空港を出る、アーニャの護衛が後ろやサイドを固めてついて来る。
止めてあった車は防弾仕様の高級車だった、周りには数名の護衛、爆弾の類が仕掛けられないように見張っていたのだろう。
護衛の1人が車のドアを開けた。
「さあお兄ちゃん、中に入って」
アーニャが先に入って奥に行き、私の座るスペースを空けてそこのシートを叩いた。
「では、失礼するよ」
車に乗り込む、ドアが閉められゆっくりと進み出す。
「お兄ちゃん、飲み物いる?」
「アーニャ様、私が………」
「いい、お兄ちゃんには私がいれたい」
「はっ」
アーニャの親衛隊か?助手席の女性がやろうとしたようだが、アーニャが冷めた声で制した。
「頂こうか」
「ジンジャエールでいい?」
「頼む」
「わかった」
私の見間違いでなければ、ジュースを注いでいるアーニャが嬉しそうな顔をしているのだが………うぅむ、ブラコンもここまでくるとな、対処が………。
「はい、お兄ちゃん」
「ありがとう、アーニャ」
…………普通のジンジャエールだな。
「しかし、なぜ私が空港に旅客機でくると分かったんだ?」
「それは………………勘」
「アーニャ、私は今とても気分が良いんだ、怒らないから言ってみなさい」
「…………密偵を送って調べた」
「そうか………ま、私もアーニャにいつどこに行くか言ってなかったしな」
「ごめんなさい……」
「謝らんで良い、それと…………」
ちゅっ
「ふぇぅ!?」
「私も、何も言わずに来てしまってすまなかったな」
無防備な額にキスをする、ん?クマができてるな、化粧で見辛いが、寝てないのか?
「べちゅにぃい……////」
「ふふふ、顔がチェリーワインみたいだぞ?」
「んぅ////……」
少しからかってやると、アーニャが肩に寄りかかって来た、あいも変わらずチェリーワインのように顔をほのかにピンクに染めている。
頭を撫でていると、規則正しい呼吸音が聞こえてきた、どうやら眠ったようだ。
「…………助手席の君」
「はい、何でしょうか?」
「君は、アーニャの親衛隊かね?」
「はい、アーニャ様の親衛隊副隊を務めさせていただいております」
「そうか、アーニャは何時頃起きて空港に?」
「1時に寝て4時ころ起きられて、5時からツキト様が来られるまでこちらで寝ずにいられました」
「そうk………3時間しか寝てなかったのか!?」
「え、えぇ、そうです」
どうりで目元にくまがあると思った。
もしかしたら、想像以上に健康状態が不味いんじゃないか?
「私が帰った後のアーニャはどんな様子だった?」
「ツキト様が日本エリアに行かれてから最初の2週間は寂しがっておられました、それからは寂しさを紛らわすように仕事に打ち込んでおられましたが、つい3週間前ほどから体調を崩し気味になり、栄養ドリンクやサプリメントを飲む毎日が続いているようでした、それなのに毎日の鍛錬は欠かさず行うもので、陛下も休暇を出すなど気を使っておられたのですが………」
「…………運転手君、目標を変更だ、近くのデパートに寄ってから、安全かつ迅速にアーニャの家に行くぞ」
「りょ、了解!」
「ツキト様?いったいなぜ………」
「体調管理もできん妹に、嫌いな食べ物をたらふく食わせるためだ」
くそったれ、仕事はしっかりやれとは言ったが、休むのも仕事だということを忘れたか、この、ばかもん……。
全部私の責任なのだから本人にそんな愚痴は言えん、言えんが…………はあ、バカ真面目め。
「体重の気になる年頃の娘に、高カロリーで栄養たっぷりのコース料理を一欠片も残さず完食できるまで延々と口に突っ込んでやる!」
「(副隊長さん、ツキト様ってただの良いお兄さんっすね)」
「(えぇ、まあアーニャ様的にはただのご褒美でしょうね)」
「(あとラウンズの手料理ってだけで普通に気になるんっすけど)」
「(日本エリアで料理修行もやってたらしいし、カンポウヤクとか自然由来の食べ物を食べてそうね)」
「はぁ…………この、ばか……」
「(今の録音しときましたっす)」
「(ありがとう、アーニャ様も喜ぶわ)」
数キロほど走っているとそこそこ大きなデパートに着いた。
「ツキト様、私めが買い物をしt」
「いや私が行く」バッサァ
男の格好でも良いが女装、というかスカートのほうが履きやすいからこっちでいい。
「(だからその早着替えはどうやってやってんだよ、髪とかどう染めてんだよ)」
「(あれたぶんウィッグよ…………でも化粧ってどうやってるのかしらね?)」
「(女の不思議っすね)」
「(アーニャ様曰く、ツキト様は男よ?)」
「(女って言われたほうがまだ信用できるんすけどねえ……)」
車を降りてデパートへ走る、ロングスカートだからひらひら舞ってパンチラとかは一切ない。
カゴをとって食材をヒョイヒョイと入れていく、数日分の食材で満杯になったカゴをレジで会計する。
「カードで」
「はい、かしk……え"っ!?(ぶ、ブラックカードぉ!?)」
「急いで」
「は、はい!……(ピッ)……ありがとうございましたぁ!」
会計を終えて食材をレジ袋に詰め込んで急いで車に戻る。
「よし、出せ」
「了解!」
しばし揺れること数十分、ブリタニア国内の特別エリアに入って数分後、ラウンズの宿舎に到着した。
車を降りたところで眠ったままのアーニャを起こすべきか悩んだが、起こさないことにした。
「副隊長君、アーニャを起こさないように連れて来てくれ」
「はい(え?そこはお姫様抱っこしてくとこじゃないの?)」
妹とはいえ、寝ている女性に触れるのはいろいろと危険だしな。
食材を持ってアーニャにあてがわれた部屋、というより家に入る。
中は壁一面に私の映った写真が貼られていることを除けば年頃の娘らしい部屋だった。
簡素なキッチンに立つ、少々凝ったものを作るから…………2時間くらいか。
「運転手君は加湿器をつけておいてくれ、乾燥は肌の敵だ、副隊長はアーニャをベッドに寝かせておいてくれ、快適に寝れるようにエアコンの温度を少し低めにしてくれ」
エアコンの温度が高いと布団に入ったとき暑くてしょうがないしな、布団を蹴って風邪をひかれると困る。
「了解です」
「はい………料理ならばお手伝いいたしますが」
「寝かせたら鶏肉を焼いてくれ、調味料を近くにまとめて置いておく、分量は………今メモ用紙に書いた」テキパキ
これくらいやっておけば料理の腕が壊滅的でない限りは大丈夫だろう。
「はっ(う、動きに無駄がなさすぎでしょ………これが内政型ラウンズの実力なの!?)」
「(まぁじパネエッス)」
副隊長がいるなら20〜30分程度は時短になるが、それまでにアーニャが起きる可能性もありえる、もし起きてもいいように軽食を用意しとくか。
飲み物は野菜ジュース……は繊維が多くて寝起きには喉に絡みついて辛かろう、紅茶を用意するか、と言っても時間もないので安物のティーパックになるが、時間があれば淹れるか。
「お待たせいたしました」
「早速頼む、そこのメモ通りにやってくれ」
「はい」
あ、書き忘れがあったな。
「あ、書き忘れたんだが、皮はそのままでやってくれ、そのほうがコラーゲンが豊富なんだ」
「は、はぁ……」
「自分は何をいたしましょうか?」
運転手か…………食器洗いでいいか。
「運転手君は積み上がったあの食器類を洗ってくれ」
「お任せください」
「綺麗に頼む、どうせアーニャのことだ、洗わないから食器棚にはもう殆どないだろうしな」
「確かにそうですが………なぜツキト様がそれを?」
「ゴミ箱を見てみろ、紙皿と割り箸だらけだ、他にもコンビニ弁当や惣菜のパックもある………疲れて自炊が面倒になって食器を洗わなくなってしまったんだろう」
まあ、気持ちはわかる…………咲世子のありがたみがよくわかる、帰りに良いものを買って帰ろう。
「な、なるほど(このシスコンすげえ)」
「忙しいなら使用人でも雇えばいいものを、私が人に頼らずにいたのを見て育ったせいか、人に頼ることをしない………そしてこうやって世話を掛けさせる、全く困った妹だよ」
「(めっちゃ嬉しそうな顔してるんですけど?)」
「これを機に人に頼るのを覚えてくれると嬉しいんだが………こっちは良いな、えーっと、調味料の中に確かあれが………」ゴソゴソ
「あの、すみませんツキト様、この食材の量だと数日分と見てもかなり多いように見えますが」
「ん?あぁ、君たちの分もあるからな」ゴソゴソ
「わ、私たちの分もですか!?ツキト様に私たちの分まで作らせてしまうなんて、そんな恐れ多いこと……」
「正当な対価さ、これを食った後も働いてもらうつもりだから、少ないかもしれないが…………ん、もっと奥の方か?」ゴソゴソ
「(男より男前っすね)」
「(いやツキト様は男だから、アーニャ様の双子のお姉さんに見えても男だから)」
「(もう惚れても良いっすかね?)」
「(アーニャ様に殺されるわよ?)」
「(それはキツイっすね…………うお!?)」
「(どうしたのよ?)」
「(いやその………こっからだと四つん這いのツキト様のお尻の形が……)」
「(ロングスカートとエプロン、ポニーテールも相まって新妻感あるわね)」
「(はあ、嫁が欲しいっす」
「運転手君ならすぐ見つかるだろう」
「うぇ!?あ、ありがとうございます……(も、もれてた!?)」
「うむ…………っと、あったあった、ん?副隊長君、焦げるぞ」
「へ?あぁ!!」
少しバタついたが、1時間と40分程度で料理を揃えることができた。
「ではリビングのテーブルに………」
「いや待て…………リビングを掃除してからだ」
掃除道具をもって言う。
「わかりm………あの、ツキト様も掃除されるのですか?」
「そうだが?」
「えっと、その……申し訳無いのですが、リビングの壁の写真については、あの、アーニャ様はとても大事にされていまして………」
「あぁ、私の盗撮写真だろう、剥がす気はない」
「そ、そうなのですか………しかし、それで良いのですか?親衛隊副隊長の私が言うのもなんですが、あれは少々、歪んでいる、と言いますか………」
「そう言うのもわかる、だがあれもアーニャなりの愛情表現なのだろう、私は否定しないさ」
「そうですか………」
「どうせなら、あんな盗撮写真じゃなくて、ツーショットを貼り付けて欲しいものだがな」
「それなら、晩餐会の時に撮られてはいかがでしょうか?晩餐会の後でも長期休暇が与えられるそうですので、スケート場に一緒に行かれては?」
「おぉ、その案いただきだ、スケートか………やったことがないから新鮮味があるな」
副隊長、なかなかやりおる、女というのもあるのかこういう話題は得意なんだな。
「さて、さっさとやってしまおう、アーニャが起きる前に」
「そうですね」
「おっと、運転手君はできた料理が冷めないように弱火のままにしておいたから、見張っててくれ」
「わかりました」
「頼んだぞ」
さすがに妹の私物を仕事の付き合いの男に触らせるわけにはいかんしな、許せ運転手。
いかに兄といえど妹の私物においそれと触るのはだめだ、よって私は大まかな掃き掃除や拭き掃除を行い、細かいところは副隊長に任せた。
10分も丁寧にやりこんだおかげか、かなり綺麗になった、埃ひとつないとはこのことを言うのかもしれない。
「お兄ちゃん……」
「おうアーニャ、おはよう」
ベッドルームから起きてきたアーニャは目をこすってまだ眠そうだ、髪は下ろされラウンズの正装もパジャマに着替えてある、副隊長がやったのだろう。
「ご飯ができてるぞ、一緒に食べよう」
「…………お兄ちゃんの手作り?」
「半分はな、もう半分は副隊長君がやってくれた」
「そう、ありがとう」
一瞬アーニャが副隊長を睨んだような?気のせいか。
「さあ、食べようか」
「うん、あっ………お、お兄ちゃん」
「なんだ?」
「か、壁の……写真は、その……」
「あぁ、盗撮ばかりだな」
「(き、嫌われちゃう!お兄ちゃんに嫌われるのはイヤ!)ご、ごめなさい!気持ち悪いよね、すぐに捨てr」
「今度ツーショットの写真を撮ろうか、そしたらそれを部屋に飾ろう、どうだ?」
「あ………う、うん!」
「(夫婦ね)」
「(夫婦っすね)」
料理を盛り付け、食事を始める。
アーニャのここ3ヶ月の無茶を叱り、嬉しかったと慰め、恋愛話を華麗にスルーし、副隊長の親衛隊入隊秘話を聞いたりし、お開きになった。
料理のほうはとても好評で、食べ終わった後のアーニャは空港であった時より健康そうに見えた。
運転手と副隊長は気を使ってくれたのか、私をアーニャ(重度のブラコン)の家に2人っきりにするために早々に帰ってしまった。
帰るといっても副隊長は親衛隊としての護衛の任務、運転手は運転兼護衛があるため、近場で寝泊まりするのだろう。
ラウンズの晩餐会まであと3日、アーニャ宅にて、夜は更けていく。