ツキトside
決闘のルールはマックスウェルによって『早撃ち』に決まったため、私の準備を咲世子に任せて準備が整うまで別室で待機となった。
今頃、ミレイがイベントの一つとして利用しようとしていることだろう。
そういう強かなところは嫌いじゃない、なら私もエンターテイメント性を考えて決闘に挑もうではないか。
(それもう決闘じゃないやん…… by作者)
正直な話、決闘は決闘でも剣以外だとやる気もここまで出ないものかと、少し驚いている。
剣の才能以外の才能がすべて5であることを知ってるから、つまり銃の才能が5であるから、こう、胸の高鳴りのようなものもないのだろう。
だが相手のマックスウェルは学生とはいえ日本エリア最大規模のアッシュフォード学園の射撃部所属、加えて大会での受賞も多い。
しかし早撃ちならば、私にも充分に勝機はある。
さしあたっての問題は………………決闘を受けたことによって2人っきりの時間が減ってしまい、膨れているナナリーを宥めることだ。
「本当にごめんナナリー、その、つい血が滾ったっていうか、そういう感じのアレで………」
「むぅーっ」
………頰を膨らまして怒ってる顔が可愛いなんて言えない。
「せっかくの、クリスマスパーティーでしたのに………」
「うっ………すみませんでした」
「敬語はいりません」
「ご、ごめん……」
本気でキレてるよ。
「はぁ…………ツキトさんの血の気が多いのは知ってます、今回はクリスマスに免じて特別に許します」
「あ、ありがとうナナリー……次は気をつけるよ」
「その代わり!負けたら斬りますから」
「わかったよ、さすがにぼくも斬られるのはこw」
「自分を」
「全力で勝ちにいくから!!見ててよ!!!」
私じゃなくて自分(ナナリー)を斬るのかよ!?
斬られるより怖いぞそれは!!
「はい、しっかり見てますから…………ツキトさんのかっこいいところ」
「っ…………………////」
「あ!今照れましたね?照れましたよね?」
「うぅ……て、照れましたよ!照れました!!////」
くっ、不意打ちをされるとは!
そうこうしていると、咲世子がノックをして入って来た。
「ツキトさん、準備ができました」
「準備をさせて悪かったな、咲世子」
「いいえ、そんなことはありません」
「ありがとう咲世子………うむ、よく似合っているぞ咲世子」
「そ、そうでしょうか」
「あぁ、いつもと違う服だからか、新鮮で、何より赤という色がが咲世子のイメージ通りで……なんと言ったらいいか、神聖なものを見ている気分だ、とても美しいよ」
「あ、ありがとうございます」
そう言って咲世子は一礼する、真紅のドレスを着た姿での美しい動作に目を奪われる。
「むぅ……ツキトさんの女誑し」
「ちょっとナナリーそれは酷くない!?」
「事実でしょう!?ツキトさんったら、私という彼女がいるのにコーネリア姉様やユフィ姉様、さらにはアーニャさんや最近出てきた秘書さんまで!一体何人いるんですか!?」
「ナナリー様、申し訳ございません」
「あっ、咲世子さんが愛人でも良いですよ、でも、ツキトさんの本妻は私1人だけですから」
「……………………………………わかりました」
「返事までが長いですね、咲世子さん?」
「そ、それ以上争わないでください、私が悪いのです、私が………」ジワッ
「「あっ………」」
ナナリーside
「わ、私にできることなら、何でもします、ですから、喧嘩はやめてください………」ウルウル
忘れてました………ツキトさんのメンタルが、実は豆腐も真っ青な柔さだってこと。
「け、喧嘩なんてしてないですから!ね、ねえ咲世子さん?」
「そ、そうですよツキトさん、ナナリー様の言う通り、大丈夫です、何も問題ありませんから」
「ほ、本当ですか?」
目を潤ませてオロオロするツキトさん、普段の威厳のある堂々とした態度のカッコいいツキトさんは消え去って、まるで子猫か子犬のような愛らしくて可愛らしい雰囲気に。
昔はよく泣きそうな顔で喧嘩の仲裁とかしていましたね、懐かしいです。
それにしても………ツキトさんの泣きそうな顔って、すっごくソソルんですよね、今すぐベッドインしたいくらいです。
「な、ナナリー様?こ、怖いです……」
あれ?いつの間にかツキトさんの肩を掴んでいました、無意識に押し倒そうとしたのでしょうか?怖いですね。
「ごめんなさいツキトさん、これはその…………喧嘩じゃないってことをツキトさんにわかってもらいたくて」
「ど、どういうこと?」
幼児退行してきてるのが母性とかをくすぐってくる!
「こういうことです……………」
「えっ!?ま、まっt……………」
掴んだ肩を引き寄せて、ちょっと強引にキスをする。
ツキトさんは、実はメンタルが弱く、押しにも弱いM気質の人なので、ちょっと強引に行くほうが…………。
「ご、強引すぎだよ……////」
ツキトさんは喜びます、自分では気づいてないみたいですけど。
「そんなこと言って、嬉しそうな顔してますよ?」
「そ、そんなこと!」
「ふふふ、じゃあ、もう一回、キスしましょうか?」
「だ、だめ!咲世子だっていr………んんーー!!」
あぁ………このままずっと虐めていたい………。
数十分後に正気を取り戻して自己嫌悪中のナナリーです。
弁解させていただけるなら、ツキトさんがあまりにも魅力的なのが悪いんです。
何でそこらへんの女子よりもかわいい反応をするんですか、そんな反応をされたら下半身が熱くなってしまうじゃないですか。
………………でもキスマークを身体中に付けまくったのは反省点ですね、もっとよく見えるところに大きいのを一つ付けるべきでした。
「待っていました、ツキト・アールストレイムさん」
「……………」
ダンスホール(体育館)の中央を改造してピストのようなラインを引き、そのちょうど真ん中から少し横にずれた場所に腰の高さ程度の台が置かれていて、側には咲世子さんが立っています。
台の上には競技用拳銃が二丁、どちらも同じ形をしていて、弾の入る場所が回転する方式に見えるので、たぶんリボルバータイプの拳銃だと思います。
マックスウェル先輩の問いにツキトさんは返事を返さない。
「…………なるほど、言葉は不要というわけですね?」
「………あの、マックスウェル先輩、今ツキトさんの舌が痺れてて話せないんです」
「え、あ………そ、そうだったんですか、すみませんでした」
「………」フリフリ
マックスウェル先輩の謝罪にツキトさんは首を横に振って気にしていないことを伝える。
ドヤ顔で『言葉は不要というわけですね?』と言ってしまってバツが悪そうな顔をするマックスウェル先輩に心の中で謝る。
ツキトさんが喋れないのは、夢中になりすぎちゃったからです、その………キスに////
「私が通訳を務めますから、会話の方は問題ないですよ」
「お願いしますランペルージさん」
「……………『咲世子、ルールの説明を頼む』」
「はい」
咲世子さんにツキトさんの言いたい言葉を伝えると、咲世子さんは競技用拳銃を一丁持ち上げました。
「今回の決闘は、今から100年以上前、西部開拓時代における無法者達の早撃ち勝負を題材にしております」
競技用拳銃をカチャカチャといじって弾丸を込めていく咲世子さん、何だかとっても様になっています。
「え?あっ、『今の動き、様になっていてかっこよかったぞ』………っていきなり口説くんですねツキトさん」
「ありがとうございます、ツキトさん」
咲世子さんも、手元が狂ってすでに弾丸を込めてあるところにまた弾丸を込めようとしてますし………もう!ツキトさんの口説き魔!
「ここにいらっしゃる生徒の方の中から数名選出し、合図のボタンを押してもらいます」
「…………『なるほど、勝負を公平にするためか』」
「そうです、私が合図を担当するとツキトさんにタイミングがバレてしまいますので、ご了承ください…………決闘を行う両者はこのラインの両端に立ち、合図で拳銃を撃ち、相手に命中させた方がポイントを得ます、合計で5ポイント取った方の勝ちとなります」
「………『それだけじゃあないんだろう?』」
「はい、このルールでは常日頃から銃を扱う軍人であるツキトさんが圧倒的に有利ですので」
咲世子さんの言葉を聞いたツキトさんは、いきなり上着を脱ぎ始めました。
上着を脱ぎ去ったツキトさんの左脇の下には拳銃を収めておくホルスターと呼ばれるものが装備されていて、そこには軍隊で使うような簡素な黒い拳銃が収まっていました。
背中の腰の部分にもホルスターがあり、そこには競技用拳銃を大型化したような、いかにも強力そうな見た目の、金ピカのリボルバータイプの拳銃が堂々と収まっています。
「『その通りだ咲世子』」
二つのホルスターを外して私に差し出すツキトさん。
「『邪魔だからこれはナナリーに預ける』……って、えぇ!?でもこれって大事な………」
「…………構わん、ナナリーなら信頼できる」
「しゃ、喋れるようになったんですか?あと信頼できるって………」
「本当だ、それに、重りをつけたまま決闘などしては侮辱になろう、だから預かっていてくれ」
「は、はい」
言われるまま、確かにそうだな、と思いながら二つのホルスターを…………お、重い!この黄金銃重すぎます!
「ん?あー、さすがに重たかったか?」
「い、一体これはなんなんですか?こっちの黒いほうの3倍、いえ5倍以上重いですよ」
「その昔、アールストレイム家が権力誇示のために特別に造らせた、頑丈かつ気品(?)溢れる銃がそれなんだが………片手で持てないほど重いのが欠点でな」
権力誇示のために頑丈な銃を造ろうという考えになったのはなんでですか!?
というかそれ以上に見た目が強烈過ぎるんですけど。
「そもそも戦闘向きではなく観賞用だしな」
ツキトさんが黄金銃を持ってきた意味がわかりません………。
よく見ると金ピカなだけじゃなくて彫刻まで彫ってあります、金ピカじゃなかったらもっと綺麗に見えるんでしょうけど………これだとちょっと見にくいような気がしますね。
「さて………話の腰を折ってすまない、続きを頼む」
「はい、今回使う弾丸は訓練用の弱装弾をさらに弱装したもので、ゴム製のため仮に至近距離であっても致死性は限りなく低いです」
咲世子さんは台の上に置いた箱から弾丸を取り出してツキトさんに見えるように掲げました。
「弱装の弱装、つまり限りなく低初速となっており、1発のみ装填して撃ち合っていただきますが………先に相手が放った弾丸を後撃ちで迎撃した場合、2ポイントを獲得できます」
「ふむ、早撃ち対決にしては互いの距離が長いと思っていたが、なるほど、確かにこれなら早く撃とうとしても当てづらく、狙って撃とうにもどの部位が狙われているかわかってしまうだろうな」
「はい、そこで迎撃しやすいように初速を低くいたしました、ツキトさんのような軍人や、射撃の競技者であるマックスウェルさんのどちらにも有利不利は少ないルールであると」
……………ダメです、全然わかりません!
しょ、初速って何ですか?きっと速度のことでしょうし、弾丸が飛んでいく速度とか?
……後日にツキトさんの特別授業を受けることにしましょう!
「…………マックスウェル君、君は承知しているのかね?いくら初速が低いとはいえ、弾丸の迎撃どころか目で追うのも難しいぞ」
「………はい、承知しています、しかし、これくらいでなければアールストレイムさんは勝負を受けてくださらないと思ったんです」
「なるほど………それじゃあ始めようか」
そう言ってツキトさんは振り返って私を見つめ、ニヤリと笑ってみせた。
まるで、勝ってくるからそこで待っていてくれ、と言っているような不敵な笑みで………見とれてしまって…………。
「…………頑張ってください」
としか言えませんでした。
ツキトさんは優しい顔で満足そうにうなづくと咲世子さんのところに歩いて行きました。
no side
咲世子の前に並んだツキトとマックスウェルに、咲世子は黒く分厚い重そうなベストを持ち上げて言った。
「安全に考慮して、防弾チョッキと防弾グラスをつけてください」
いくら初速が低く怪我の可能性が極めて低い訓練用の弱装弾とはいえども、安全には十分に考慮する必要がある。
一番の懸念事項、ツキトが怪我してしまうかもしれない、という不安が消えナナリーが安心したところで。
「つけないという選択肢はあるか?」
だがここで不死身の主人公ツキト・アールストレイム、なんとトールボーイもびっくりな規模の爆弾を投下してしまう
「もちろんありです、しかし…………」
咲世子はチラリとナナリーを見た、ツキトも咲世子の視線の動きに従ってナナリーを横目で見た。
ナナリーは防弾チョッキがあると知りホッとしていたところに、ツキトの言葉から一気に不安が押し寄せ青ざめていた。
「…………冗談だ、さすがに痛いのは嫌だ」
「賢明な判断です」
おどけるように冗談だと言うツキトだが、唯我独尊、我欲の塊を自称するようなツキトでも、ナナリーの青ざめた顔は大きなショックであり、表情と声にのらないようにおどけるので精一杯で、内心ひどく動揺していた。
咲世子はツキトの動揺を見抜いていた、見抜いていたうえでツキトの名誉のために素知らぬ顔で会話を続けたのだ。
ツキトは咲世子への好感度を上げたが、すでにカンストしていたのであった。
防弾チョッキとグラスを受け取り装着する2人、その様子を咲世子は不快に思われない程度に不正がないか見ていた。
着け終えた2人は革製の味のある、今となっては少々古臭いガンベルトを腰に巻き、競技用拳銃をそこに挿した。
マックスウェルのその姿は現役の経験者であることもあって様になっており、ナナリーとマリーを除いた女子の複数が黄色い声で騒ぐのも納得のイケメン具合だった。
ツキトも顔はいいため様にはなっているものの、低身長と邪魔にしかならなそうな長い髪が足を引っ張り、マックスウェルに比べて劣った。
しかし表情は別物、ツキトは不敵に微笑んでおり、マックスウェルは覚悟を決めたような表情だ。
雰囲気も違った、マックスウェルは絶対に勝つ、という思いがありありと伝わってくるが、ツキトはそれを正面から叩き潰さんとばかりに威圧する。
アッシュフォード学園体育館の決闘が始まろうとしていた。
ついでに、この時の賭けではマックスウェル有利であった。
『ハーイ!それでは、防弾板オープン!』
校内中に響き渡るミレイの掛け声、それに呼応して透明なボードを持った男子がツキトとマックスウェルの周りに現れ、透明なボードを床に設置し囲んだ。
『今2人を囲んだのは射撃部で使う透明な防弾板よ!さらにカメラも設置したから、これで校内中どこでも決闘を観れるわよ!』
「その行動力をもっと別のことに回してもらいたいところだな」
『ちょっと!突っ込み禁止よツキト君!』
「(聞こえてるのか……チョッキに集音マイクでも仕込んであるのか?)」
ミレイの謎行動力に脱帽したくなると同時に呆れてみせるツキト、対照的にマックスウェルは真剣な表情で集中力を高めていた。
『さあ!ついに始まったツキト君対マックスウェル君の早撃ち対決!』
『実況はミレイ会長、解説は私、カレン・シュタットフェルトがやるわ』
『本校でのラウンズとの決闘は、これで2回めになるかしらね、あの時のナナちゃんとの剣闘はかっこよかったわね!』
『今回は特殊ルールの早撃ち対決だけど、安全には配慮してるから大丈夫………って言っても、ナナちゃんは心配よね』
『ナナちゃんはツキト君のこと大好きだし当たり前よ、それに結果次第ではナナちゃんがマックスウェル君にとられちゃうわけだし……………あっ、逆だったかしら?』
『アールストレイムさんが一体どこの誰に取られるって言うんですか……』
『それはほら、ユーフェミア様とかコーネリア様とか、あとこの前ここに一緒に来たあの秘書さんとk』
「ミレイさん、シャラップ」
『アッハイ』
この時ミレイ、ナナリーにこの手の話題は特大のツァーリ・ボンバであることを悟った。
というか普通、自分の彼氏が誰かにとられるような話をされるのは嫌であろう。
特に、もしかしたらツキトが怪我するかもしれないと、ツキトの身を案じていて少々精神が不安定なナナリーには、そういう話をしてはいけない。
と、ここでナナリーの足がふらついた。
近くにいたマリーが駆け寄って支えた。
「ちょっ、ナナリー大丈夫?」
「だ、大丈夫です」
「嘘つき、足が震えてるじゃないの!」
ナナリーの両足は不安からくる重圧で震えており、力が入らなくなってしまっていた。
「え、え?……あ、あ…………」
「そんな情け無い顔しないの、ほら、椅子持って来たから」
こういうところは咲世子が出てくるところであるが、咲世子は今審判役を務めているため、マリーがその代わりを担っているのだ。
マリーという少女、実は結構な世話好きであり、庶民出身であることもあり交友も幅が広いのだ。
世話好きな幼馴染系の少女、そこが彼女のモテる所以なのだが、当人はツキト以外眼中にないという現状…………世の男子諸君、泣いたって良いんだぞ!
「ありがとございます……」
椅子に腰を下ろしたナナリーの顔は青ざめている、いくら信用できる咲世子が言う言葉でも、ツキトの身を心配せずにはいられず、考え出すと止まらないナナリーの性格もあいまって悪い方、もっと悪い方に考えてしまっているのだ。
「うぅ………」
「もーほら!アールストレイムさんはあんなストーカーみたいな男には負けないわよ!」
「で、でも!怪我するかもしれないんですよ!?もしかしたら、ツキトさんの拳銃のハンマーが当たって指に穴が空いたりするかもしれません!それに……」
ナナリーが悲痛に叫ぶ、今まで銃を使うところをほとんど見てなかったため当然かもしれない、経験が少ないのに無理をすると怪我をするのは当たり前だ。
叫ぶのを聞いて防弾板の檻の中にいるツキトが、ナナリーのほうに振り向き、にこっと笑顔を浮かべた。
「あっ………////」
「ナナリー?どうしt……あ、ちょ!?アールストレイムさんこっちにもスマイルください!!」
ツキトの笑顔はナナリーの中にあった不安を消し飛ばすのに十分な威力を持っていた、ナナリーは突然見せたツキトのデレ笑顔に鼓動が速くなった。
マリーはマリーでちょっと残念になっていたが………。
「不意打ちは卑怯でしゅよ////ノーカンでしゅ////」
「うっひゃっ////その気持ちわかりゅぅ〜////」
美少女が2人してとろっとろにとろけてしまったところで、遠いところから一部始終を見ていたルルーシュとスザクがいた。
「ルルーシュ、行かなくても良いの?」
「ナナリーにも良い友達ができたようだし、あの子に任せても良さそうだ、それに、いつまでも一緒にいたら、兄離れもできないだろうし」
「(ツキトはルルーシュのほうが妹離れできないって言ってた……)そうだね、ナナリーも大人になっていくんだし、ずっと面倒を見ることはないよね」
「ああ、だが困っているときは助けなければな…………と言っても、ツキトか咲世子で事足りてしまうが」
ナナリーの成長を知ることで、どこか寂しさを募らせるルルーシュであった。
「こちらの準備はいいぞ、咲世子」
「僕の方も準備完了です」
『第1ラウンドの幕開けよ!みんな刮目しなさい!』
準備完了の合図を出すとミレイがそう叫んだ、もうどうあっても黙る気はないようだ。
生徒たちの息を飲む音が聞こえる、そう思えるほどの静寂に包まれた体育館の決闘は、すでに始まっており、指定された生徒たちがボタンを押せば、静寂は破られるだろう。
ピーーッ!
タンッ!
合図と同時だろうか、それともほんの少しの刹那だけズレたのか。
一瞬だけであるが、咲世子すら認識できない早撃ち、ツキトはそれをやってのけた。
「んぐっ!?」
弱装弾とはいえ、胸の中心に着弾し仰け反るも、倒れないマックスウェル。
剣に一筋であったツキト・アールストレイムがよもや、銃にまで精通しているとは思わず、多くの生徒は震撼した。
どの距離であっても剣のほうが優れている、などと馬鹿馬鹿しい事を言っても否定しきれないほどの剣の使い手であるツキト、彼がなぜマックスウェルを超える速度の早撃ちをやってのけたか。
それはもちろん、才能のおかげである。
そもそもの才能が最高値であるなら、あとは軍人としての知識、前世での経験を併せ持つツキトならば、達人レベルの早撃ちも可能、というのがツキトの考えだ。
事実、この世界はツキトというイレギュラーによって本来の世界有様が、ゲームで例えるなら仕様変更がされてしまっている。
コードギアスという世界がゲームなら、努力と才能よりも、頭脳とヒラメキで戦局を打開する戦略シミュレーションゲームになるはずだ。
どこにどのステータスのキャラ・機体を配置してどう動かして最低限の損傷で大戦果を上げるか、そこが重要な点であり、プレイヤーとしてもそこが楽しいところだ。
ではここに、DLCとしてツキトをインストールしたらどうなるか?どんな名作ゲームもいっきに糞ゲーとなるだろう。
意味不明なステータス値に機体との適正値、強力過ぎるスキル、そもそも不老不死。
どの戦場、どの距離、どの機体、あらゆる状況で戦えるオールラウンダーといえば聞こえは良い、しかしその実は最強無敵のワンマンアーミー。
『歩く約束された勝利』、『勝利以外一直線のゲイ・ボルグ』、『性格と容姿以外AUO』のようなもの、萎え必須だ。
『金返せ』とでも聞こえてきそうなほど酷いものである。
そんな存在が、ルールの定まったスポーツで負けるはずが無い。
詰まる所、この決闘においてツキトが負ける確率は、『ある日突然ゾンビが大量発生し逃げ延びた4人の美少女と1匹くらいの人数で自分たちの通っていた学校でメンバーのうちの1人の現実が見えてない少女を騙しながら生活する』くらいの確率だ。
遠回りに言わないのなら、この決闘はツキトが勝つ。
タンッ!
今、マックスウェルの拳銃から4発目の弾丸が放たれた、長い説明の間にすでに3度の被弾で3ポイントを失ったマックスウェルは、4発目においてついにツキトを超える速度の早撃ちに成功した。
…………と本人は思っていた。
タンッ!
実際はエンターテイメント性を考えたツキトの策であった、わざとマックスウェルの射撃からワンテンポ遅れて射撃したのは、空中での弾丸同士の衝突により跳弾させ、それによる2ポイント獲得でフィニッシュを狙ったのだ。
最高のステータス値を持つツキトに、弾丸同士をぶつけさせるのはさほど苦では無い、それにこれまでの3度の射撃で弾丸の速度は把握していた。
ピキィィィインッ!
まるでミサイルがミサイルを、飛行機が飛行機に真っ直ぐに突っ込むようにマックスウェルの発射した弾丸とツキトの発射した弾丸は空中衝突した。
先に抜いて撃ったのはマックスウェル、後から抜いて撃ち落としたのがツキト、つまり、ツキトの迎撃成功で2ポイント獲得。
しばしの静寂の後。
「そこまで、5ポイント先取でツキト・アールストレイム卿の勝利!」
勝敗は決っする宣言、審判の咲世子の言葉でツキトの勝利が高らかに伝えられた。
5-0でのストレート勝ち、この現実は多くの生徒に様々な印象を与えたことだろう。
「すげえ、マックスウェルに勝った……」
「銃もいけるってなっちまったら、こりゃもう勝ち目ねえな………」
「見たかよおい!」
「ああ見た見た!ピキィィィインッ!ってよぉ!弾丸を弾丸で弾いた!」
最も多くの者たちは、マックスウェルの勝利で終わってしまうと思っていたが、終わってみればツキトのストレート勝ち、しかも最後は迎撃までやってのけたことでテンションは上がりに上がって大歓声である。
「まあ、安定感あるよな、でも最後のはやばかった」
「うん、なんか、最後のはやべえわ」
「一生に一度だけだろうなぁ……あんな静かなかっこいい決闘は」
次に多くの者たちは、やはりというか当然というか、ツキトの勝利はほぼ決まっており、ストレート勝ちもあって出来レースを見たような気分だった、が、やはり最後の弾丸の迎撃は盛り上がったようだ。
「終わりました………」
「そうね………あぁもう、足がガクガクよ」
「ふふ、2人揃って緊張のしすぎですね」
「こんなみっともない姿をアールストレイムさんに見られちゃうなんて………うぅ」
「私はもう吹っ切りました、今は帰ってきたツキトさんが優しく抱きしめてくれるのを待ってます」
「じゃあ私はアールストレイムさんにキスしてもらおうかしら」
「マリーさんでもそれはダメです!」
「あら、わからないわよ?お願いしたら意外に…………ね?」
「確かにツキトさんはお願いされたら断れない人ですけども!」
「うふふ、あぁ……アールストレイムさん////」
そして極少数、主にナナリーとマリーはツキトに怪我がなく終わったことにホッと肩を撫で下ろした。
とはいうものの、ナナリーは決闘の前から相変わらず足に力が入らず座ったまま、マリーも決闘の途中からナナリーと同じように足に力が入らなくなってしまったため、2人揃って椅子に座っている。
『第2回アッシュフォード学園の決闘は、ツキト君の勝利となったわね』
『予想できてた人は多いんじゃないかしら?』
『でも最後のは危なかったわ、ひやっとしたもの』
『と、いうことで、放送を終わります』
『最後に!2人の健闘を讃えて拍手!』
ミレイの一声で嵐のような拍手が起こる中、ツキトはマックスウェルと健闘を讃え合うように握手を交わした。
これがのちに、アッシュフォード学園の決闘として歴史に名を残すことになるのであった。