コードギアス オールハイルブリタニア!   作:倒錯した愛

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聖夜のクリスマスパーティー編。
今回はすべて第三者視点でお送りします。



『聖夜』と『ドレス』

no side

 

 

アッシュフォード学園のほぼ全体を利用したクリスマスパーティー会場は、生徒会の長い長い会議と学園生徒たちの行動力によって、たったの3週間でクリスマス仕様にデコレーションしたのだ。

 

庭の木には全て電飾が施され、壁には透明なシートを貼った上にペンキで絵を描いた。

 

校内の装飾も抜かりはなく、折り紙と電飾で飾られ、教室の電子黒板にはそこのクラスメイトの渾身のバカ絵の絵画展となっていた。

 

大鐘がある党には特に凝った装飾が施されているが、多くの生徒はクリスマスイブまでどんなものかは知らない。

 

午後7時、クリスマスパーティー開始の8時の1時間前に、今までの行事以上に気合の入った装飾の施されたアッシュフォード学園に足を踏み入れた人。

 

実は女(男)、ホモ(レズ)、ショタコン、ロリコン、シスコン、黒幕説、野獣先輩説など、多くの噂があるツキト・アールストレイムである。

 

眼帯を外してカラコンを入れ、髪を短く見えるようにセットし、珍しく紳士服を着た準備万端の彼の姿は、まさしく戦地へ赴く戦士のそれだ。

 

もちろん、それだけではない。

 

このご時世、規模の大きいパーティーというものは犯罪者にとっては鴨同然。

 

いざという時の為に、使える武器が肉体ただ1つでは頼りない、そのためパーティーに相応しい格好を崩さない程度に、武器を各種装備しているのだ。

 

紳士服に隠れた脇の下には小型ホルスター、そこには下士官等への支給品である小型軍用拳銃(コイルガンという表記はは以降省く)がある、小型軽量だが装弾数は10発もある。

 

弾切れを想定し、背中の腰の部分にもホルスターを設け、そこには片目の蛇に『その装飾は〜〜』とお叱りを受けそうな金ピカ装飾ゴテゴテの長銃身でやたら頑丈そうな古風な中折れ式ダブルアクションリボルバーが収まる、装弾数はもちろん、6発だ。

 

しかし、これらはあくまでサイドアーム、いわゆる、『もしもの時に仕方なく使う武器』であり、彼のメインアーム足り得ない。

 

彼のメインアームは、近接武器、とりわけて剣である。

 

しかし、このクリスマスパーティーに長いレイピアは持ち込めないため、仕方なしとして隠匿性を重視しつつもそこそこ長めな刃物………小銃用の銃剣を選んだ。

 

ところで、銃剣というのはそれ一本で様々な状況に対応できる万能器具であるということを、ご存知だろうか?

 

まず銃剣と聞けば、敵を刺す、斬るなどの使い方がほとんどだが、現代では銃剣である物(サバイバルグッズにあるアレ)を擦ることで火花を散らさせ、その火花で火をつける事が可能だ。

 

缶切りとしての機能もついており、いざという時以外でも結構使える。

 

ピアノ線や鉄線といった頑丈でニッパー等での切断が困難なものも容易に切断できる。

 

などなど、かなり利便性の高い道具なのである。

 

しかし、実は構造的に脆い点があり、力の加減を間違えるとすぐ折れるため、ツキトはそこに不満を持っていた。

 

一般兵士がどんなに力を加えても曲がるくらいで、折れたという報告は交通事故で偶然折れたものくらいなのだが…………。

 

今回のメインアームは彼にとってそこまで頼れない武器のため、早々に小型軍用拳銃とリボルバーを使用することを念頭に準備していた。

 

ツキトは学園の玄関から入り、下駄箱を抜けた向こうにある暖房器具の近く、そこに設置された長机とパイプ椅子で作られた簡素な受付に向かった。

 

今回のクリスマスパーティーの参加資格はアッシュフォード学園生徒、またはその親が対象となっている。

 

ツキトは受付の前に立つ、すると、ツキトの放つ無意識な威圧感のせいか、纏っている神格のせいか、サンタクロースのコスプレをした受付係の女子生徒は、その肌寒そうなミニスカワンピースのコスプレ衣装も相まってか、ひどく緊張した顔つきになった。

 

「お、お名前は?」

 

「ツキト・アールストレイムだ」

 

コスプレ衣装の恥ずかしさと上擦る声に内心冷や汗で逃げ出したくなる受付の子。

 

無理もない、クラスメイトにかわいいからという理由で受付係に回され、スタイルがいいせいで寒そうで破廉恥なミニスカサンタ衣装を着せられたのだから。

 

おまけに入ってくる生徒たちに性的な目で太ももや胸元を見られ、羞恥心とストレスが溜まっていた。

 

そんな時に大物登場、彼女の心臓が裂けてもおかしくはなかっただろう。

 

「………………はい、確認しました、クリスマスパーティーをお楽しみください」

 

受付の子が震える手でサンタクロースの帽子を渡す。

 

「ありがとう、君も寒くて大変だろうが、頑張ってくれ、休憩時間があるなら、一緒に今日という日を存分に楽しもう」

 

「!……はい!」

 

柔らかい微笑みと激励とともに帽子を受け取り、その場で被ったツキト。

 

学園内での自分のイメージアップも兼ねての行動の一環として動いたのである。

 

しかし、受付の子にとっては、性的な目で見てこないし小馬鹿にしたりもしない、励まし応援してくれる気遣いのでくる紳士に見えてくる。

 

こういうイメージアップ行動が、ツキト・アールストレイムのファンクラブの会員を増やしてしまっていることを、彼は知らない。

 

校内の廊下に入ったツキトは、浮いていた。

 

校内の男子生徒のほとんどは制服にサンタクロースの帽子か、サンタクロースのコスプレ、着飾っていたとしても安い紳士服がほとんど、高級な紳士服で武装した男は数人しかいない。

 

ツキトのように、有名ブランドのオーダーメイドを着てくるような、経済的余裕がある男はいなかった。

 

女子のほうは生徒会の用意したドレスが貸し出されるというので、多くはそちらを選んでいるようで、制服やコスプレは少数派のように見えた。

 

なぜ女子の多くが生徒会の用意したドレスを選んだのか?それはこの聖夜に出会いを求めたからである。

 

神の示されたこのひと時に、ロマンチックな出会いを求めたのだ。

 

ともあれば、制服やコスプレの少数派は?

 

当然、彼氏持ちやそもそも興味の無い人種、それか出会いよりも楽しみたい派だ。

 

しかし、悲しきかな、出会いを求めんがあまり、女子のほとんどが男子からすれば同じようなデザインのドレスを着ているというのは………。

 

生徒の親と思わしき男女は、さすがに紳士服やドレスを着て来ているが、さすがにオーダーメイドは無い様子だ。

 

そんな保護者たちに、歩いている途中で声をかけられ挨拶と雑談を交える。

 

彼ら彼女らがただの学生のクリスマスパーティーにわざわざ出席したのは、子の成長を見るというのもあったが、日本エリアでの実質的な指導者のツキトとのコネクションを得たいからでもあった。

 

そうした思惑があって近づいた何十組という親達と会話をしながら、ツキトは体育館に来た。

 

もうすでにかなりの人数が来ているようで、男女入り乱れてジュースを飲みながら会話に花を咲かせていた。

 

ウェイター姿の男子とウェイトレス姿の女子が、ジュースの注がれたグラスをプラッター(銀色の大きなお盆)に載せて、ダンスホール中の人に配っている。

 

なかなか力が入っているな、とツキトは感心した。

 

「お、お飲み物は如何でしょうか……」

 

「む……いただこうか」

 

感心しているツキトにクラスメイトから唆されて勇気を出して話しかけたウェイトレスの女子。

 

ツキトは思考を邪魔され一瞬怪訝な顔になる、やってしまった、という考えがウェイトレスの頭の中をグルグル駆け回る。

 

表情の固まったウェイトレスを不思議そうに見つめながら、ツキトはプラッターからグラスを取る。

 

「ごゆっくり、お楽しみください」

 

頭が真っ白になってしまい、無機質な声でそう言ったウェイトレスの子に罪は無い、圧倒的なまでの存在感のデカさに気圧されるのも無理はない。

 

クドイようだが、ツキト・アールストレイムの神格が大きすぎるため、それこそその手の人間からすれば、崇拝の対象となり得るほどだ。

 

ウェイトレスの子にとって特に大きな感慨はなかったが、そのためにいきなりの遭遇でショックを受けてしまい、先ほどまで笑顔でできていた対応ができなくなってしまったのだ。

 

「そんなに緊張することはない、私も一学生としてここにいる、先輩、同級生、後輩としてツキト・アールストレイムに接して欲しい、今だけはナイトオブラウンズでは無いのだから」

 

「は、はい!ありがとうございます、アールストレイム先輩!」

 

それだけに、ツキトの言葉に大きく救われたと感じたウェイトレスの子であった。

 

また1人、ファンクラブ会員が増えたのはいうまでも無いだろう。

 

ツキトはグラスのジュースを飲みながら、ナナリーに先輩と呼ばれたらどんな気分になるのか考えた。

 

鼻血を吹いて卒倒するところまで考えたところで、体育館の奥の方に人だかりができていることに気づいたツキト。

 

そこそこ高価そうな紳士服を着た男子が取り囲んでいる中心には、生徒会が用意したドレスとは違い、高級なブランド物と一目でわかる黒のドレスを着た女子生徒。

 

いつもと違い三つ編みに編み込んだ美しい髪、男の欲望をくすぐり引き摺り出そうとする妖艶な香りの香水を付けて、男子生徒に囲まれる美少女。

 

間違いなく、ナナリー・ランペルージ、彼女である。

 

「ランペルージさん、今日は一段とお美しい」

 

「ありがとうございます」

 

「一瞬に踊ってはいただけませんか?」

 

「申し訳ございません、先約がありますので」

 

ナナリーは自分を誘ってくる男子生徒をやんわりと断りつつ、ツキトを待っていたのである。

 

断り続けるナナリー、無意識にフェロモンを振りまいてしまう彼女に魅了されて性欲全開の男子生徒は諦めきれない。

 

囲まれたナナリーを助けようと同性の友人が入ろうとしているが、男子生徒の必死な形相が躊躇させていた。

 

ツキトは男子生徒の馬鹿さ加減にため息を吐くと、ナナリーに向かって歩き出した。

 

男子生徒の壁の前まで行くと口を開いた。

 

「ナナリー」

 

「ツキトさん?ツキトさんですか!?」

 

「あぁ、ツキト・アールストレイムだ」

 

数人の男子生徒に詰め寄られながらもナナリーはしっかりとツキトの声を聞いた。

 

詰め寄っていた男子生徒一同は振り返ってギョッとした顔をすると道を開けた。

 

ナナリーを誘えずに悔しそうな顔で俯く彼らが可哀想、とは思わない、周りで見ていた生徒は、そんな男子生徒たちをザマァと思った。

 

「ツキトさん!」

 

開けたら道からお姫様が王子様に向かって走る、まるでお伽話のハッピーエンドのようだ。

 

「あっ!」

 

「おっと」

 

しかしナナリーは着慣れないドレスとハイヒールのせいで転びかける、すかさず4mほどの距離を瞬間移動したとしか思えない速度で動いたツキトが支えた。

 

「大丈夫ですか?お嬢様」

 

「ふぁい……////」

 

ツキトは何の計算も無い純粋な愛情100%で作られた無垢な笑顔を超至近距離でナナリーに浴びせたうえで、このキザなセリフである。

 

このリア充が!!!!

 

……………失礼。

 

ナナリーは赤面、耳まで真っ赤になる、恥ずかしくて俯いてしまう。

 

ツキトは内心、ナナリーがかわいすぎてどうにかなってしまいそうなのを抑えつつ、ナナリーから少し離れて言った。

 

「黒いドレスを着て来てくれたのか」

 

「はい、ツキトさんがせっかく選んでくれましたから」

 

「……………うん、今日のナナリーは大人っぽくて、とても美人だ」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「あぁ、髪型も三つ編み……1人で編んだのか?」

 

「はい、ツキトさんの見よう見まねで不恰好ですが」

 

「そんなことはない、一目見た瞬間から、このままずっと、ナナリーを眺めていたいと思ったぞ」

 

「私も、かっこいい服のツキトさんを見たら、ドキドキが止まらなくなっちゃいました」

 

いつも以上にかっこいいツキトに、ナナリーは心臓が飛び出そうなほどドキドキしている。

 

ツキトもまた、ナナリーと同じかそれ以上にいつもと違ったかわいさに心臓が止まりそうになっている。

 

互いに見つめ合う中、放送が流れる。

 

『アッシュフォード学園のみんな!クリスマスイブに来てくれてありがとう!今夜のクリスマスパーティーは、朝まで楽しむわよ〜〜!おー!』

 

「「「「「「おおおおお!!!!」」」」」」

 

「………相変わらずだな、あの会長は」

 

生徒たちの雄叫びが上がりボルテージも上昇するなかで、ツキトは冷静に呟いた。

 

「今日はミレイさんじゃなくて、私だけを見てください」

 

「ふふっ、すまない、ナナリーがまぶしくてつい目を逸らしてしまった、許して欲しい」

 

キザなセリフを吐いてはいるが、内心は綺麗すぎるナナリーに見惚れて変顔を晒さないように、少し早口で喋っているのだ。

 

まるでプロの童貞みたいな対応だが、純愛をこじらせてるだけである。

 

「じゃあ、一緒に踊ってください」

 

ナナリーが手を差し出す、一瞬遅れて吹奏楽部の演奏が始まり、生徒たちは男女組を作って踊り出す。

 

「喜んで、お姫様」

 

とても礼儀正しく臣下の礼をとったツキトは、ナナリーの手を取り、音楽に合わせて踊り出した。

 

20分も経つと、踊っているのはツキトとナナリーの他には生徒の組が1つと夫婦が数組程度しかおらず、ほとんどはステップのタイミングが合わずに脱落、疲れてやめた者もいた。

 

唯一の生徒の組というのは、ナナリーの親友のマリーと、まさかのルルーシュのペアである。

 

マリーはツキトとナナリーを近くで見ようとしたのだが、踊るペアがおらず、また踊るもお世辞にも上手とは言い難いものだった。

 

そこで、同じくツキトとナナリーを見守ろうとしていたイケメンで頭が良くダンスもできるルルーシュがタイミングよく会した。

 

互いの思いを察知、結託、ルルーシュが上手くリードする形で踊り続けることができていたのだ。

 

一方でツキトとナナリーのペアだが、現役のラウンズでダンスなんてお手の物のツキトと、この日のために咲世子主導で猛特訓したナナリー。

 

身体の相性(意味深)が抜群なこともあり、2人のダンスは優雅に回る風車を連想させる。

 

フィニッシュもバッチリと決め、拍手で包まれる、ルルーシュとマリーのペアはどちらも疲れた様子だったのに対し、ツキトとナナリーのペアは終始笑顔、基礎の差がここで出た。

 

なお、数組の夫婦のペアも見事踊りきり、夫婦間の仲がより円満になったのだとか、聖夜のパワーというのは侮れない。

 

ツキトとナナリーは序盤のダンスを終えて談笑に移る、2人の醸し出す柔らかな雰囲気のおかげか、それともナナリーの前で失礼をしないようにと威圧感や神格もろもろを押さえつけているからか、先ほどのウェイトレスも少しだけ話しかけるのが楽なように見えた。

 

それを遠巻きに眺め、極上の美少女、ナナリーを誘うのに失敗した洒落た紳士服の男子生徒たちはため息を吐いた。

 

アルバイトでもして貯めたか、親に頼んだのか、勝負用の紳士服を揃えたまではいいが、元の素材の質が圧倒的に劣っていたのか、それともナナリーがツキトのような見た目の男(女?)にしか興味のない女なのだろうか?

 

間違いなく前者であるのは至極当然であろう。

 

時を同じくして、ルルーシュとマリーもまた、ツキトとナナリーを別角度から眺めていた。

 

しかし、マリーの目には祝福と僅かながら嫉妬が入り混じっていた。

 

人間誰しも、初恋というものは吹っ切れないものだ、マリーもナナリーを祝福してはいるものの、心のどこかでは、その場所は自分が立ちたかった、そう思っていた。

 

だがナナリーを見るたびにそれは無理だったと悟る、同じ女で、同じ庶民出身で、どうしてここまで差があるのか、神様を呪いたくなる。

 

だがマリーはしっかりと知っている、恵まれた環境にいるナナリーは、その環境を作るためにあらゆる努力を積んできたことを。

 

ナナリーのことを誰よりも知っている同性の同級生であり、ナナリーと同じ人を好きになって、それを許せたからこそ、ナナリーの親友なのだろう。

 

ツキトとナナリーは様々な料理をつまみつつ、ダンスホールから出て行き、庭の噴水の近くで星を眺めた。

 

「綺麗ですね」

 

「……そうだね」

 

2人っきりということでツキトは話し方を変え、年相応な青少年のようにナナリーに接する。

 

噴水の濡れていない淵の方に並んで腰掛けると、互いの指を絡ませた。

 

「ナナリー、僕は明日の夜から本国に行くよ」

 

「また、お仕事ですか?」

 

ツキトは、見るからにしゅんとするナナリーの頭を優しく撫でながら語りかけた。

 

「ラウンズが集まって食事をするだけだよ、だから心配しないで」

 

「…………はい」

 

ナナリーは撫でながら優しく囁いてくるツキトに、身も心も何もかも委ねようとして、ふと視線に気づいた。

 

噴水は校舎に3方向を囲まれる形で作られている、つまり今、2人は3方向から同時に見られているということになる。

 

せっかくのクリスマスイブ、2人っきりで過ごしたいとナナリーは願う、しかしそれはパーティが終わった後にとっておくものだと、自分を納得させた。

 

「さて、寒いから中に行こっか」

 

ツキトは立ち上がってナナリーに手を差し伸べる。

 

「そうですね、行きましょうか」

 

ナナリーはその手を取り、ツキトの腕に自分の腕を絡ませて密着するようにして歩き出す。

 

ツキトはナナリーに合わせてエスコートするように毅然として歩き始める。

 

校舎の中に戻ると、多くの生徒たちの視線が集まる、視線の集中砲火の中を気にせず歩く2人。

 

今日という日は自分たちのためにあるのだと言わんばかりの堂々たる歩みに、他のカップルたちは気圧される。

 

絵に描いたような美男美女、小説のような出会い、ドラマのようなプラトニック・ラヴ、そして待ち受けるのはお伽話のようなハッピーエンド。

 

誰もがそう思う、そう願う結末、ツキトとナナリーの物語の最後のページには、『2人はいつまでも、幸せに暮らしました』という文句が似合う、と。

 

しかし物語の展開上、必要な人物がある、親、兄弟姉妹、友人、恋人、そして悪役だ。

 

ナナリーを主人公に置くのならば、恋人はツキト。

 

では、ナナリーが主人公の物語の悪役とは誰か?

 

「ランペルージさん」

 

決まっている、主人公に近づく『意地汚いゾウリムシ(しつこい男)』に他ならない。

 

「…………なんですか?」

 

「僕と、踊っていただけませんか?」

 

安物の紳士服、紳士的だが野心と下心が隠しきれていない表情、身長は高く顔もいいが、特技は射撃でナナリーとはいっさい無関係。

 

射撃部の部長、ジュディ・マックスウェルだった。

 

数ヶ月前のおどおどした態度ではなく、しっかりと格好のつく態度だ、この数ヶ月の間、ツキトを上回るルックスでナナリーを堕とそうと必死に謎の努力をしたのが少しだけ無駄にならずに済んだようである。

 

ナナリーはこの誘いに悩んだ、別にこの優男になびいたとか、興味が湧いたというわけではない。

 

断ればツキトの顔に泥を塗るのではないかという不安を感じたのだ。

 

だがどうしてもこんな男とは踊りたくはないナナリー。

 

そこにツキトは助け船を出した。

 

アイコンタクトで、『構わない、好きにしなさい』と。

 

「………ごめんなさい、今日はツキトさんと一緒にいたいので」

 

ナナリーはアイコンタクトに気づき、しばし思考してそう言った。

 

「わかりました、では、ツキト・アールストレイム卿にお願いが……」

 

「最近の貴族の息子というのは、あいさつもせんのか?」

 

ツキトはいかにもイラついてますという表情と不機嫌な雰囲気を出して言った。

 

格好のつく態度と顔でナナリーの前に出たまでは良かった、しかし焦って声をかけたためツキトのほうにまで神経が回らなかったのだ。

 

マックスウェルは貴族の出ではあるが、普段から社交界には出ず、対女性用のコミュニュケーション能力を上げてこなかった。

 

そのツケが、ナナリーとルルーシュという2人の主人の次の次くらいに礼節を重んじる性格のツキトの逆鱗に触れた。

 

というか、逆鱗を引きちぎらんばかりに引っ張った。

 

「おおかた、ここで決闘(笑)でもして雌雄を決しようとでも言うのだろう?戯けが、今ここで何が起きているか分からんか?」

 

すべての語尾に『www』とつきそうな喋り方をしているが、隣で腕を組んでいるナナリーは、ツキトから漏れ出す微弱な殺気を感じていた。

 

「教えてやろう、クリスマスパーティーだ、生徒会が企画し、学園全体で今日という日に向け1ヶ月前からあらゆる準備を行ってきた……装飾に始まり、出し物の練習やダンスが出来る生徒をコーチとしたダンスレッスン、星付きのシェフの料理見学、レンタルドレス及びメイク練習などなど………自分にできることを考え、高め、この時のため、または将来のために、皆、精進してきたのだ」

 

「!!」

 

「そう言えば、私が休日に手伝いに来た時にはお前の顔を見なかったな、ほとんどの生徒は代わり番こで毎日来ているのにな、不思議に思って聞いてみれば、お前だけはまだ来たところを見たことがないと言っていた、どういうことだ?」

 

今夜のクリスマスパーティーでナナリーを獲得するため、ただただ自分のためだけにクラスの作業を休んで決闘のための練習とファッションの研究をしていたマックスウェルにしてみれば、ツキトの言った言葉は降り注ぐ矢の雨の如く精神にダメージを与えた。

 

周りの生徒たちのマックスウェルへの視線も『またかナナリーに迫っているのか……』というものから厳しいものに変わり、それも彼の精神を猛獣の爪のようにガリガリと削っていった。

 

「まあ、予想はつく、ナナリーに私との決闘を取り継ぐように頼んだ者のリストに、お前の名があったからな、決闘のルールをできる限り自分に有利なものに近づけるために話術でも学んでいたか、決闘を自分の得意な土俵、射撃でやる場合に備えて練習でもしていたか、そんなところだろう?…………クラスの手伝いもせずに」

 

「…………その通りです、アールストレイム卿」

 

すべてお見通しであったことに大きなショックを受けるマックスウェル。

 

「…………だが、こうして私の前にこうして現れた点は、評価しよう」

 

「は、はい、ありがとうございます」

 

「ナナリーに固執するその執念にも似た愛…………よろしい、君が望むのならば、君の舞台で雌雄を決しようではないか」

 

「え、えっと………」

 

頭の回転が追いつかず、返事ができないマックスウェル、さすがに哀れに思ったナナリーはツキトの言葉を訳して言った。

 

「ツキトさんは、マックスウェル先輩が望むなら、今ここでマックスウェル先輩の考えたルールの決闘をしても良い、と言っています」

 

「な!?」

 

マックスウェルはツキトが自分を侮っているのではないか、と思ったが、次には何か裏があるのではないか?と考えた。

 

だがどう考えても、ツキトの不敵な笑みを眺めても、そんな深い裏があるとは思えない。

 

マックスウェルはナナリーにツキトという婚約者がいてなお恋を諦めない、粘着質な男のように見える。

 

しかし、ナナリーの隣に立つにふさわしい男になろうと努力し、決闘のために練習を行ってきた。

 

彼自身、女性経験が薄く、突然の事態やパニックに弱いのは自覚しており、改善しようと短い時間で努力を重ねた。

 

マックスウェルは考えるのをやめた、自分にできるか?勝てるのか?

 

そんな不安を殺してツキトに言い放った。

 

「………受けて立ちます」

 

ツキトはニヤァァ…っととてもとても嬉しそうに笑う。

 

聖夜の決闘が幕を開ける。

 

 

 




次回予告
「科学の進化は止められん!」

「進むためには………犠牲が伴う」

「それじゃ、彼女を幸せにはできない!」

「一握りの人間の幸せと!その他大勢の幸せならば!私は後者を選ぶ!」

すれ違い、離れていく2人。

「9時方向より敵接近!」

「敵襲!敵しy………………」

「怯むな!撃て!撃て!!」

空前絶後の超々大規模クーデター作戦、発動。

「さようならだ、『英雄』!!!」

「こんなところで…………僕は、僕はぁあああ!!!!」

総兵力50万の神聖ブリタニア帝国正規軍。

「死ねぃ!!『英雄』は死んでこそ!高みへと昇るのだ!!歴史に埋もれて、死ね!!!」

総兵力300万のクーデター軍。

世界は、変革を求められている。

「認めぬ!断じて認めぬ!私が、この私があああああああ!!!」

「うわああああああああああ!!」

『神聖ブリタニア帝国「落陽の日」オーベルテューレ』


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