ツキトside
あれから数日、上手くアレをナナリーに飲ませることができ、一安心だ。
実際に休日に剣を交えて見たが、爆発的に剣さばきが上達していて、速度も正確さも、もはや別人ではないか………というレベルだ。
神の作り出した物は伊達ではない、と言ったところか、伊達だったら困るけど。
対等、とはまではまだいかないが、幼い………幼い?(100歳超)頃に見たマリアンヌの剣の劣化程度だ。
しかし、まだだ、まだまだ上がるぞ、ナナリーの剣の腕はもっと上がる。
こんなに伸びるとはおもわず自分で使っておけば…………とも思ったが、自衛できる方がナナリーの安全につながるだろうという判断だ。
まあしかし、ナナリーとアーニャ、2人の剣の行方が楽しみだな。
さて、今は12月の20日の午前10時、世間がクリスマスで浮き足立ち何かとクソ忙しい時期。
私的には日本エリアのクリスマスイベントで忙しい時期でもある
個人の自由を優先させるべく、最低限の兵士を総督府の警衛に就かせ、気分転換の散歩で偶然見かけた非モテ兵士の会話が耳に入った。
「なぁ、妹にやるクリスマスプレゼントなんだけどさ、何がいいと思う?」
「まだ買ってねえの?お前の妹もう15だろ、化粧品とかでいいんじゃねえか?」
妹にクリスマスプレゼントか、良い兄妹だn…………あっ、アーニャのクリスマスプレゼントを見繕うのを忘れていた。
「というわけで、クレア、どうか知恵を貸してくれ」
「私的な理由で午後を休みにして強制連行されるとは思わなかったわ……」
休みの申請書を2枚殴り書いて自分でハンコを押し、昼食後に私服に着替え、呆れ顔のクレアを無理やり外に連れ出して現在時刻14:10、租界で1番でかいショッピングモールの目の前に来ている。
「まあそう言うな、この2週間ほど連日勤務だっただろう?息抜きだと思え」
「仕事の合間に休憩挟むし、それほどハードでもないから別に………わかった!わかったわよ!行けばいいんでしょ!?」
「ありがとうクレア、では行こうか、私の愛妹のクリスマスプレゼントを買いに!」
「(テンションたっかぁ………)」
ショッピングモール内に入って看板を確認…………。
「それで、どの店行くの?」
「全部だ」
しない!
いつもなら店の場所を確認してそこを回るが、今回はアーニャへのクリスマスプレゼント、つまりどれが決定的に良いと決まっているわけではない。
従って、様々なジャンルよりアーニャに合いそうなものを探す、時間をかけてな。
だがまあ、服は除外だな、あげるにしてもかさばる物だし、せいぜいハンカチやストールがいいだろう。
「まずはインテリアショップから見るか」
「家具と食器、オシャレな家電商品があるみたいよ」
「食器か……皿、マグカップ、箸……」
「(こうやって1人でガチで考え込んでるツキトを見るのは珍しいわね)」
ブツブツと呟きながらインテリアショップの中へ、家具と食器、家具に合わせた扇風機や温風機等の家電がズラリと並ぶ、奥には寝具もあるようだ。
「(それもいつものストレートヘアじゃなくて、なぜかサイドテール………本当は女なんじゃ?)」
お、さっそく良い感じのマグカ………なんだこれは?兄妹マグカップ、仲の良い兄妹にオススメです、柄はキュートな文字で『I LOVE MY LITTLE SISTER(BROTHER)』と書かれています……………。
この商品絶対売れてないだろ、というかジョークグッズ的な何かだろ。
「あら、これいいんじゃない?シスコンのツキトに」
「ドン引きされるからな?」
「案外喜んだりして、ほら、あの娘ってブラコンで有名だし」
「有名だったのか?」
有名なのは知らなかったな。
「あ、有名って言っても掲示板の方ね、テレビとかではブラコン全開シーンはさすがにほぼカットだけど、気づく人……というか騒ぎ立てたい奴が勝手に根も葉もないこと言って定着しちゃった、っていう現状よ」
「私の愛しい妹が、そのような見方をされるのは、面白くないな」
「怖い怖い、あーでもでも、ブラコン要素が良い方向に働いて、兄思いの良い妹って見られてるから大丈夫よ」
「当然、アーニャは優しい子だからな」
「(その代わり、健気な妹をほっといて女を取っ替え引っ替えしてるツキトは一部掲示板では最低最悪の存在として周知されてるけど)」
アーニャが兄思いの良い妹という見方をされているなら、なおのことこの変態的マグカップはあり得ないのではないか?
もっとこう、煌びやかなアクセサリーとかの方がいいんじゃないだろうか?
アーニャはアールストレイム家の者である自覚も多少なりあって、剣士でラウンズの6番ともなれば、戦場にも出ることが多くなるはず。
そうなると、アクセサリーは帰って邪魔だろうか?かといって戦場での実用品をあげて喜ぶわけないしな。
意外と難しいものだな、プレゼントを選ぶというのは。
クレアside
「おーいクレア、次行くぞ」
「はーい………って、なんか口調とか変わってない?」
見てた家具からツキトに視線を移すと、ダルそうな目で、普段見れない猫背になってパーカーに手を突っ込んでいた。
「んぁ?そりゃクレアお前、俺がこの見た目(私服眼帯無しポニーテール)で、いつもの口調だったらバレるだろーが」
「そうだけど……」
パーカーのせいで生意気系の弟っぽい雰囲気になってるのよね。
妙に似合ってるのがイラつくけど…………そういえばツキトの見た目って前世とほぼ変わんないんだっけ?
元から顔がいいとか、反則じゃない。
「姉弟っぽく見られるけど、ツキトはそれでいいの?」
「勝手に思わせときゃあ良いだろ」
そういう人間だったわよねツキトって。
「それよりさっさと行くぞ」
ぶっきらぼうに言うなりさささっと歩き出してしまった。
「ちょっ!?」
慌てて歩き始めるが、途中でスピードを緩めて隣に並んでくれる彼は、なんだかんだ優しいのね。
「次はどこ行くの?」
「………あっちのアクセサリー店が最近話題だっていうし、言ってみようじゃねえか」
すれ違った女子高生の会話から察したのか、アクセサリー店に足を向けた。
でも今の女子高生たち、すれ違ったあとツキトのことかわいいかわいい言ってたわね。
言ってやりたい!女子高生たちに言ってやりたい!
『残念、こいつ男よ』
って!
っと、アクセサリー店に入ると派手なものから控えめなものまで、ネックレスや指輪はもちろん、腕輪や足輪(付ける意味ある?)まで様々。
ピアスもあるけど…………こいつの場合、大事な妹の体に穴を開けるとか考えただけで泣き出しそうよね。
あるいは、全世界からピアス類を消すとか?
「………クレア、これはどうだ?」
「うん?」
1人選んでいたツキトが1つのアクセサリーを指差して私を呼んだ。
どれどれ、と、私もそれを見てみる。
なるほど、と思ってツキトに言った。
「彼女結構長いのよね?日常的に使うものだし良いと思うわ、それによく似合うわよ」
「本当か?」
「絶対、100%ね」
「…………よし、店員さん、これをプレゼントしたいんだけど……」
ツキトがアクセサリー店で1発目で引いたのは、青い髪留めだった。
青というよりは瑠璃色のそれは、ツキトと風貌がよく似ているらしい彼の妹のアーニャさんにピッタリのはずよ。
まあ、髪留めをつけたツキトを想像して言っただけなんだけどね。
「あと、こっちの色違いの髪留めもお願いします」
「包装はどういたしますか?」
「こっちはプレゼントじゃないんで包装はいいです」
「わかりました」
注文を聞いた店員さんが振り返って戻ろうとしたその時。
「あ、すみません、こっちの腕時計もください」
と言ってツキトは桁が6つほどある腕時計を指差した。
「あ、あの、こちらはお値段が高額となっております、お支払い方法に関しましては……」
「カードで」
スッとだしたカードはブラック、噂に聞いたガチでやばいカード、ブラックカード。
際限なく無限に金が湧き出る魔法のカードが、今目の前の男がぷらぷらと遊ばせている。
……………こいつマジかよ。
「しょ、しょしょしょしょしょしょ少々おおおおままおまお待ちください!」
慌てたような焦ったような態度に急変した店員さんは、店の奥の方に引っ込んだ。
しばらくして店長さんらしき女性を連れて戻ってきた。
それからツキトは店長さんと少し話してから無事に(?)ブラックカードを使って購入を完了した。
髪留め30万ドルが二点、腕時計110万ドルが三点合計で、170万ドルなり。
ホクホクとした表情で紙袋を抱えて歩くツキトと、予想以上にやばいツキトにおっかなびっくりしながら隣を歩く私。
住む世界というか、住んでる次元が違うレベルよ。
何食わぬ顔で110万もする腕時計を買うなんて………正気の沙汰じゃないわよ。
「………おっと、忘れるところだった」
急にそう言って紙袋から腕時計を取り出した。
そしてそれを私に差し出してきた。
「え?」
「今回のお礼と、クリスマスプレゼントと、ちょっと早い正月祝いと、これから秘書をより一層頑張ってもらう気合い入れのためのプレゼントだ、受け取ってくれ」
「いろいろ突っ込みたいけど、まずは1つ、本当にいいの?これ値段だけじゃなく本当に良いものよ?あんたが使ったほうがいいと思うわよ?」
「私は今ので気に入ってるし、腕時計は一種のステータスだ、これから皇族の前に出ることも増えるだろうから、とりあえずこれを付けておけ」
なるほどね、いきなりだったから驚いたけど、そういう意味もあったわけね。
「いいわ、もらってあげる、もらうからにはしっかりその分働くわよ!」
「期待してるよ」
もらった腕時計を腕につけて言う。
気持ちのこもった清楚なシルバーの腕時計。
ふふっ、期待に答えなきゃいけなくなったじゃないの。
「恋愛も頑張れよ」
「言われなくたってわかってるわよ!」
「ははは、まあ、応援しているよ、将来のことを考えて今のうちから姉上とでも呼ぼうか?」
「気が早いわよ!」
上機嫌に笑うツキトに少しだけイラッときたけど、私の仕事と恋愛に対するこいつなりの激励だってわかっちゃうから、強くは言えないのよね。
「ありがと………」
小さく呟いた。
「ん……」
返事はぶっきらぼうな一文字で帰ってきた。
no side
日本エリアの地下深くに存在するらしい研究施設。
非合法の研究が行われているために地図にのらない、ブリタニアの触れてはならない超兵器開発が行われているなど。
実しやかに囁かれる都市伝説。
その都市伝説の中で、小太り………いや中太りほどの男が、モニターでの地位のあるとある人物との会話を終え、床にへたり込んでいた。
「バトレー将軍!あのような者については……」
「仕方なかろう、従わなければ、あの男は、シュナイゼルはわしらを殺す、必ず」
バトレー将軍、ブリタニア軍内部にそこそこの地位を持つ中年の軍人。
しかし、剣、銃どちらの成績も振るわず、運動もしないために太り過ぎ、しまいには各部署にたらい回しにされ、研究部門に押し付けられた経歴を持つ。
そこで腐らずここまでのし上がれたのも、命令に従順であったからだろう。
そう、非道な実験の担当者にされ、その実験で多くの子供を殺してきたのだ。
結果的にはすでに腐ってしまっている男なのだ。
そして今、バトレーに新たなる主人としてシュナイゼルが名乗り出た。
とは言っても、従わなければ殺す、という言葉を暗に示しての脅迫に近いものであった。
バトレーは研究員達と言い争っている、シュナイゼルにつくくらいなら逃げると言う者、命が惜しいから従うという者。
バトレーは頭を抱えた。
『やあ、バトレーくん』
突如モニターに現れた男とも女ともつかない、公式においても男女の明記がない、番外のラウンズにして日本エリアの実質的指導者。
「アールストレイム卿!?」
ツキト・アールストレイムである。
『久しいなバトレーくん、ゲットー制圧戦以後に見ていないと思ったら………ナルホド、そう言うことだったか』
ふぅん、と言う感じの納得した顔でそう言って微笑むツキト。
研究員の女数人が堕ちた。
「お助けくださいアールストレイム卿!我々はシュナイゼルに脅迫されているのです!」
『シュナイゼルが?』
「はい!我々は、ブリタニア軍の戦力となり得る不死身の兵士の研究を行なっており、この3年で進行具合は60%、あと2、3年あれば、必ずやアールストレイム卿の戦力増強に助けになりましょう!」
バトレーは知っていた、地下にこもっているが密偵からの情報は上がっている。
様々な情報から導き出された答え、ツキト・アールストレイムは戦力の増強を行い、日本エリア支配をより確実にした上で、中華連邦への侵攻の一番槍を担ってアールストレイムの家名をさらに上げたい、そうに違いないと。
『へぇ……別にいらないんだが』
だがバトレーの読みは外れる。
ツキトにとって家名などどうでもよく、そもそもがこんな派手な戦力増強も、皇族を差し置いてのエリア支配も、式典でのブリタニア大嫌い発言も、日本人優遇政策も、実家であるアールストレイム家からカントウして欲しいという内なる願いがあるからである。
ツキトに中華連邦を攻めたいという思惑はある、しかしそれは一番槍としてではなく、原作において重要な例の幼女を連れてきたいからである。
別にツキトにやましい思いはない、しかし放置すれば幼女は確実に性欲処理機に成れ果てるだろう、それを知っていて助けないのはナナリーの夫としていかがなものか?という自問自答が元である。
ツキト的には中華連邦は二の次、できれば穏便に幼女と、ついで例のおっさんを連れてこれればよし、あとは焦土にするなり毒ガスまくなり好きにすればいいのだ。
「アールストレイム卿ともあろうお方が、この実験の価値をわかっていn」
『私が求めるものは貴様らのおもちゃでは断じてない』
煽って興味を持たせようとしたバトレーであったが、それは悪手であった。
『諸君らは今日までよく頑張った、さようなら』
心臓が凍りつくような無表情でそう言い残してモニターは掻き消えた。
直後、爆発とともに地下研究施設に猟犬部隊が突入、バトレー将軍以下研究員の全員の死が確認された。
アウフ、ヴィーダーゼン………バトレー。