ツキトside
無し………無し!無し!無し!もう全部無しだ!
ブリタニアのために反乱軍を組織する?ブリタニアのために私自身の人生を捧げる?
国家の永遠の安寧のため………その程度のものに?たかだか、その程度のもののために?
時が過ぎればいくらでも革命が起きてしまうだろう、それをさせないために何百何千年と守護する?何千何万と見守り続ける?
ハッ、馬鹿馬鹿しいし阿呆らしい、そんなもの夢物語でしかないではないか。
私はようやく気づいた、目が覚めた。
愛する者を差し置いて国の未来の心配など、それでは前世の私………人の気持ちを重視していた頃のような私では無いではないか。
いや、それ以上に害悪なる思想だ。
これではナナリーやアーニャたちを幸せになどできない、できるはずがない。
もうやめだ、国家への忠義?そんなものなんの役に立つ?
「真に必要なのは………愛だ」
愛…………そう、愛だ。
愛無くして我が身無し!
私は常に愛され続けてきた、幼い頃は親戚や皇族から、少年と呼べる年齢にはルルーシュやナナリーやスザクやアーニャなど同世代から、そして今は咲世子を始めとした多くの人間の愛を受けている。
中でもナナリーとアーニャからは、特別に大きな愛を受けた…………これに応えずして、私は何様のつもりなんだ?何が転生者様だ?
たかだかちょっと面白い転生特典を貰って、前世のチート身体能力を受け継いで、コードの力で不死身・不老不死の最強無敵の騎士気取りか?
…………面白くなさ過ぎて愛想笑いも出んぞ、なんだこれは?なんだこの体たらくは?
強さを貪欲に求めてきた前世のあの強い私はどこに行った?不死身・不老不死の力を得て、肉体が劣化しないのをいいことに鍛錬をしないなど…………剣士として余りにも愚か!愚の骨頂であろうが!!
認めねばなるまい、今の私が如何に不死身であろうと、前世の私には遠く及ばぬ程の弱者へと成り下がってしまったのは確か!
思えばあの時!ナナリーとの非公式な決闘の時もそうであった。
なぜ手を抜いた?なぜあそこまで愛を向けてくれる人を裏切るようにおちょくった?なぜだ?
ひとえに、それは私自身が弱者であったからに過ぎない!
ブリタニア皇帝の思想など無関係に、私は強者という椅子から自分から飛び降りていたのだ!
前世での私は、2人の女性の愛に応えるために、自らを高め続けていた、届かぬかも知れんとは刹那も考えず、ただただ己を高めていたはずだ。
今の私の肉体は、前世での最高の状態を受け継いでいるのだろう。
だからと言ってそこで終わりにしてどうする?
守ると決めたのであろう?誓ったのであろう?ナナリーを傷つける有象無象を殲滅するためならば、その障害は何であれ粉砕し駆けつけるのだと。
そうだろう!ツキト・アールストレイム(私)よ!!!
ならばやることは決まっているはずだ!
私は物覚えが悪かった、だから鍛錬も非効率極まりないものばかりであった。
それこそ剣をひたすらに振り続けたこともあった。
だが今の私はそれすらしようとしていない。
変わるのだ、私は、弱者のままではナナリーは守れない。
強くなるのだ!【強くなるため】に強くなるのだ!
チラリと時計を見る、3時半過ぎ………早起きしてしまって5時半までまだ時間がある。
以前の私なら二度寝していたであろう、だが前世の私なら?この2時間弱で何をする?
寝ているナナリーの頭を軽く撫で、シャワーを浴び、パジャマから運動のし易い服装に着替えて木刀を持ってクラブハウスを出る。
茂みに入り、準備運動をしつつ誰もいないことを確認し、久しぶりすぎる鍛錬を始める。
木刀を構え、振り下ろした。
ナナリーside
ナナリーです、今日はなんか目が覚めてしまって隣にツキトさんがいなかったので探すついでにお散歩でも………と思ってクラブハウスの外へ出てみました。
秋が近づく9月ともなると、早朝の時間は肌寒く感じます、手を擦りながら茂みの中を歩いていると、風切り音が聞こえてきました。
のぞいて見るとツキトさんが木刀を振っているようでした、上半身がサラシだけで上半身裸とも言える格好で、汗だらけになって木刀を振っていました。
「18989…………18890…………18891…………」
そこで私は思考が止まりました。
ツキトさんがあんなに汗だくになって必死に特訓してるところなんて、アリエス宮でしか見たことがなかったからです。
あの時のツキトさんは、剣の師匠の………えっと、師匠さんに勝つと楽しそうに言ってました。
でも日本に来てからのツキトさんは、どこか退屈しているような、私との決闘も上の空でどこか別の人を見ている気がしました。
私はそっと胸をなで下ろす、私が力になれたのかはわからないけど、ツキトさんがあんなに楽しそうに特訓を始めたってことは、きっと何か目標を見つけたということ。
それはきっと素敵なことなんでしょう、私は婚約者として、ツキトさんが目標に近づけるようにお手伝いしてあげなくちゃですね!
じゃあ、邪魔しちゃ悪いですし、ここから汗だくサラシオンリーのツキトさんを眺めることにしましょう!!
ツキトside
20000!……何やら邪な視線を感じた気もするが、目標は達成したな。
まだ時間はある、なら振り続けるのみ。
「フンッ!………フンッ!………」
いかに身体能力を受け継いでいようとも、やはり20000回も振れば速度もキレも落ちてくるし綺麗に振ることが出来ない。
左右上下にふらつく剣先を気合いで抑えて振る、身体能力が落ちない肉体で助かった、弱くなっていたら目も当てられない。
……………21000!
ここで時計を見る、最初の1000回の倍近い時間を使ってしまった、コードによる回復無しではこの程度か…………。
しばらくはコードに頼らない体の使い方をしなくてはならんな。
さて、いい時間だし、シャワーを浴びて私服に着替えて、昨日の真夜中にナナリーと約束したデートの支度をしないとな。
汗を拭い、脱いだ上着を羽織って歩く、肌寒くなって来たが今はこの風がちょうど良く体を冷ましてくれている。
さて、熱めのシャワーで汗と疲れを流してしまおうか。
シャワーを浴びた後のデートの支度は結構かかった、私服に着替えて財布を持っていくだけ………では無く、髪を結い上げ眼帯を外してカラーコンタクトを入れて………とにかくナナリーの隣に相応しい格好になるのに時間がかかった。
ナナリーを待たせるのはいかん、すぐに出ようか。
クラブハウスの外に出る、すぐそこには可愛らしく着飾ったナナリーがいた。
「遅いですよ、ツキトさん」
「ごめんごめん、あとでパフェおごるから、それで許してくれないかな?」
「一緒に食べてくれるなら許してあげます」
「ありがとうナナリー、それじゃ行こっか!」
「はい!」
今まで事務的なデートばかりだったが、今日からは違う、今までのように全力でナナリーを喜ばせるのでは無い、全力でナナリーと楽しむのだ!
「今日はどこに行こうか?」
「そうですね…………あっ、服屋さんを見に行きたいんですけど、良いですか?」
「良いよ、今日は買い物デートだね」
「はい♫」
商店街を歩いてショッピングモールに向かう、途中で美味しそうな食べ物を見つけては足を止めて見た目から感想を言ったり、綺麗なグラスを見つけてはルルーシュに似合うんじゃないかと笑い合ったりした。
ナナリーside
ナナリーです♫なんだか今日のツキトさんは良い意味で変です♫
普段はやらない朝早くからの運動をしていましたし、デートの最初から昔のような優しい口調で、無理をしている感じもなく自然体でした。
歩きながら話してくれているツキトさんの喋り方も、躓くことなくすらすらと喋れています。
今はゲットーに近いところにある肉まん屋さんに立ち寄っています、小腹が空いたので、ちょっとだけ………。
あ、でも太っちゃったら嫌われて……………。
「う〜ん……肉まんかあんまんか………ナナリーはどっちがいいと思う?」
「えっ………あ、あんまんですね」
「ん、じゃあ………〈あんまん1つと肉まん1つください〉」
〈おぉ!?日本語が上手い兄ちゃんだな〉
〈友達に日本人がいるんですよ〉
〈ほぉ、そりゃいい、その友達と仲良くしてやってくれよ〉
〈ええ、もちろん〉
〈おし!んじゃあこのピザまんをサービスだ!今後もご贔屓に!〉
〈ありがとうございます!〉
うぅ………日本語ではちょっとしかわかりません………。
「はい、ナナリー、あんまんだよ」
「ありがとうございますツキトさん」
「良いよ、あ、熱いから気をつけてね」
「はい……………あの」
「んむぅ?」
肉まんにかぶりついてぽけっとした顔をするツキトさん、写メ撮ればよかったです……。
「私に、日本語を教えてくれませんか?」
「急にどうしたの?」
「その、やっぱり私も日本語を話せた方がいいかなって思いまして」
「………うん!そういうことなら大歓迎だよ!」
や、やりました!これでツキトさんと日本語でもお話ができます!共通の話題を増やして、今まで以上にラブラブになっちゃいます!
(ナナリーも変わろうと努力している………私も頑張らなくては!)
なにか、ズレた認識をされた気がします………?
でも……昨日のツキトさんが本当の姿、素の状態なのなら…………ある意味、昨日の夜のエッチが初めて、ということになるのでしょうか?
誘ったのは私ですし、押し倒したのも私ですけど…………あの時の素のツキトさんに主導権を握られて、知らないうちに意識もとんでいて………////
「ナナリー?どうしたの?あんまん冷えちゃうよ?」
「ひゃっ」
ずいっと覗き込んできた心配そうなツキトさんの顔にちょっとびっくりしちゃいました。
「いえ、少し思ったんです、今日のデートが本当の意味で初めてなんだなって」
距離を置いて、ツキトさんは近くの公園のベンチに座って、自分の隣のスペースをぽんぽんと叩きました。
それは隣に座ってという合図、私はツキトさんの隣に座りました。
「………そうかもしれないね、今まで僕は自分を取り繕っていたからね、ナナリーにとって都合の良いカレシ役を演じてた」
視線は地面を向いていて、固定したまま話し始めました。
「今も、ですか?」
「ううん、ナナリーのおかげで目が覚めた、ナナリーを楽しませるだけなんて、そんなのサーカスの団員でもできることだ………気づいたんだよ、大事なのは………」
…………昨日の夜のことで意地悪したい気分です、ちょっと意地悪しちゃいましょうか。
「「一緒に楽しむこと」」
はっとした顔でこっちを振り向く、頰が緩む、きっと私は悪戯が成功した子供みたいな顔をしているでしょうね。
ツキトさんはいつものような誰にでも向ける微笑みではなく、とても柔らかく優しい笑顔を向け、次いでムッとしたような顔をすると。
「ナナリーの意地悪……」
と拗ねたように言いました。
………もう襲ってもいいですか?
「ふふふっ、昨日の夜、激しくした罰です」
「やったな?今夜は手加減しないからねっ」
ちょっと頰を染めて、恥ずかしく思いながら仕返しするようにそう言っちゃうツキトさん本当に可愛いので襲っちゃってもいいですか!?
いいですよねぇ!?
「強がってみても似合わないですよ?」
「むぅ……」
可愛いぃぃ!!
ぷくーって!ぷくーってしてますよツキトさんのほっぺが!柔らかほっぺがぷくーって!!
ツキトさーん、不満げな顔も頰がちょっと赤いせいで怖くないですよー、逆に可愛さのバフ効果ありまくりですよー。
私が存在ごと蒸発しちゃいますよー?いいんですかー?襲いますね(確定)。
「ふぅ、ごちそうさま、ちょっと休んでこっか」
「そうですね」
あんまんを完食してツキトさんにそう返す。
どうして露天で売ってる食べ物って、小さい物が大きく見えたり、大きい物が小さく見えたりするんでしょうか?
さっき完食したあんまんは露天のガラス越しには小さく見えたのに、食べ終わってみると結構お腹にずっしりと…………カロリーのほう大丈夫でしょうか?
ふと、右手に何かが触れました、柔らかくて優しい肌触り、心地よいと感じる程良く熱を持った、血の通った何か、続いて熱の無い冷たい金属………その両方。
最初に触れたのはツキトさんの左手、絡めるように握られたその手は意外と小さく、私と大差無い大きさで、でもこの世で一番頼れる人の手だって、すぐにわかりました。
冷たい金属は、ツキトさんの左手薬指にはめられた私とお揃いの婚約指輪。
ツキトさんの顔を見ると、とても穏やかな表情で、見ているとこっちの方がドキドキしてしまうような………もうドキドキしてましたね。
しっかり指輪をつけていてくれたことにキュンとしてしまいます。
それにこの手の繋ぎ方…………今夜はオーケー、ということですね!?
「そろそろ行こうか?」
「はい………あっ、ツキトさん、あっちに何か……」
今日はツキトさんの暖かさを感じたい気分ですし。
「あれは………何だろうね、行ってみようか?」
「はい!」
握った手を離さないように、見つけた新しい何かへ向かって歩き出す。
この何でも無い日常が、新しいスタートになりますように。
以前のツキト
【ブリタニアへの忠義のためならば、私の身はどうなっても構わない。ブリタニアの繁栄のためならば、ルルーシュやナナリーが多少不幸になっても気にしない。ルルーシュとナナリーは幸せにする。】
はい、こんな感じでした。
国のためとあらばルルーシュやナナリーを利用してやるという面と、しかし反面ルルーシュとナナリーは絶対に幸せにしてみせる。
という真逆の考えがありました。
今回のツキト
【ルルーシュやナナリーを含め、私を愛してくれる者たちへ報いるために頑張ろう。誰かのため、などという言い訳は辞めだ。私は、強者となる。】
お前は誰だ(迫真)
ナナリーの言葉が効いて邪な考えが吹き飛び、バトル物の主人公の如く鍛錬を積もうと努力を始めました。
今までの主人や友人さえ駒として考え、ナナリーの気持ちを体裁だけとって無視し続ける弱い自分との決別。
こうしてツキトは、前世のような心身ともに強い自分を目指し鍛錬を始め、そしてナナリーやアーニャたちの愛に真摯に答えていこうと誓いました。
さて、これは足枷となるのか、それとも……。
ついでに、3話でルルーシュを黒のKとして例えたのは伏線みたいなものです。
いやぁ、伏線回収ってキモティですね。