番外編用のネタばっか浮かんで本編ががががが………。
なので今回は(も?)短めです、すみません。
ツキトside
「まさか空港近くのホテルが一部屋だけ空いていたとは、幸運だな」
「本当だね……うわぁ!最上階だから眺めも良いよ!ツキト!」
ここは空港近くのホテル、その最上階の一室。
偶然にも、いや幸運にも空いていた部屋を見つけチェックイン、値段は高級ホテルであり最上階ということもあって若干割高なスイートルームではあるが、この程度なら財布に打撃は無い。
「値段分の価値はあるわけか、はしゃぐのも良いが、私はシャワーを浴びてさっさと寝るからな」
「えぇ!?娯楽室でカラオケとかしたかったのに」
「残念だがスザク、一応私たちは仕事できているわけでな、身分を秘匿してきているわけだ、露呈してしまうとマズイんだ、控えてくれ」
「それなら仕方ないかな」
「なぁに、カラオケくらい帰ってからでもいけるさ」
スザクを宥めつつ荷物を置いてシャワーを浴びようとシャワールームに足を向けたところで、突如部屋のドアが開いた。
瞬間、弾かれたようにスザクはコイルガンを抜き、私はレイピアに手をかけた、この部屋は最上階にあるスイート、呼べばルームサービスも来てくれる。
だがそんなもの呼んだ覚えは無い、なら考えられる可能性は、何らかの手段で私たちの情報を掴んだテロリスト共だろう。
スザクはコイルガンのセーフティを外しており、すでに臨戦態勢だ、私もレイピアに手をかけたまま、ドアがいつ開いても良いように構える。
ドアが開き始め、向こう側に刃物が見えたところでレイピアを抜いて斬りかかった。
だが刃は届かず、入ってきた人物のレイピアによって阻まれた。
数回突きを放ってから一度距離をとる、かなりの手練れだな、そう感じてふたたび斬りかかろうとした時。
「お兄ちゃん………」
聞き覚えのある声が耳に入った、侵入者の顔をよく見る、私と同じ色の髪をドリルのようにまとめ、瞳は私と同じ色、そして私をお兄ちゃんと呼ぶのはこの世でただ1人。
「アーニャ、なのか……?」
「久しぶり、お兄ちゃん」
困惑する私にアーニャは優しく微笑んだ。
あぁ………いいな。
言いたいことが湧き上がってくる、だがうまく言葉にできず、レイピアを投げ捨てたことも気にせずにアーニャを抱きしめた。
「アーニャ……アーニャ!」
「お兄ちゃん…!!」
強く、強く抱きしめた、力の限り、アーニャの細く柔らかな体を包むように。
「すまないアーニャ、1年ほどで1度帰る予定だったのに、約束を破ってしまって……」
「気にしてない……今、私は幸せだから」
暖かい………ナナリーと抱き合った時とはまた違うぬくもり、『家族』の暖かさ、そうか、これがそうなのか。
ひとしきり抱き合い、離れてからしばらく涙が止まらなかったアーニャを宥め、レイピアを拾い上げてから、アーニャと、一緒に来ていた護衛と思わしき青年を部屋に招き入れた。
「しかし驚いた、殺すつもりで突いたんだが、まさか弾かれるとは」
「マリアンヌ様に教えてもらった」
「マリアンヌ様にか!?う、羨ましいっ!」
「でもまだまだ半人前、今の私だとさっきのを弾くので精一杯」
そう言ってアーニャは右手を見せた、フルフルと震えている。
「証拠、まだ痺れてる」
「………痛くなかったか?」
「ちょっとだけ、でも平気」
「ごめんな、アーニャ」
「あっ……////」
アーニャの痺れと腫れが残る右手を両手で優しく包む、かわいい妹に怪我をさせてしまった私にできるのはこれくらいしかない、歯がゆい。
「お兄ちゃん、あったかい///」
「アーニャの手も、あったかいぞ」
「ポカポカ……///」
「あぁ、ポカポカだ」
アーニャと言葉を交わす、この何でもない時間が、充足感に満ちている、幸福だ。
「完全の2人っきりの空気だね……」
「そうだな……あ、俺はナイトオブスリーのジノ、ジノ・ヴァインベルグ、ジノでいいぜ」
「僕は枢木スザク、ユーフェミア様の騎士で、今はツキトの護衛だよ、よろしく」
「おう、よろしく頼むぜ………ところで、あれっていつ頃まで続くんだ?」
「…………経験則から言わせてもらうと、短くて40分」
「mjk」
「見苦しいところを見せてしまったな、スザク、ジノ・ヴァインベルグ」
「お兄ちゃん…///」
「気にしてないよ、ツキト……(ナマケモノみたいにツキトにひっついてる)」
「俺も気にしてないぜ(なんか、得体の知れない恐怖を感じるぜ)」
アーニャを膝の上に座らせてお腹のあたりをさする、こうすると女の子は安心するのだとか、咲世子が言っていたな。
「さて、聞きたい事は色々あるんだが、まずは要件を聞こう」
「要件………つってもなぁ、今アールストレイムの膝の上にいるアーニャが原因でよ……」
「む………アーニャ?何かあったのか?」
「………お兄ちゃんに、会いたかったから………無理を言って、ここまで来た」
前半の言葉で心がとても暖かく感じたが、後半で一気に嫌な予感がしてきた。
「無理って……」
「皇帝陛下に……」
「…………」
「ごめんなさい、お兄ちゃん……」
驚きのあまり表情を変えれず言葉も出なかったために、アーニャが涙目になってしまった。
「まあ、そう謝ることでもないさ」
「でも……」
「こうなったのは私の責任でもある、こっちに来た時、アーニャに一声かけていれば、さみしい思いをさせずにすんだのだから………すまなかったな、アーニャ」
「お兄ちゃんは、悪くない、悪いのは私」
「じゃあ、おあいこだな」
「…………うん♫」
さすっている手とは逆の手で頭を優しく撫でる、ニコッと優しく微笑んだのを密着した肌で感じ取った。
「恋人みたいな雰囲気出してるとこ悪いけど、もういい時間だぜ?」
「そういえばそうか、アーニャ、そろそろ帰って寝なさい」
「いや、お兄ちゃんと一緒に寝る、確定事項」
「アーニャさん、その、ツキトも疲れてるし、早く寝ないと………」
「枢木スザクは黙ってて」
「はい(怖いなぁ)」
「はぁ…………わかったよアーニャ、一緒に寝ようか」
「うん♫」
「ジノ・ヴァインベルグ、妹が苦労をかける……すまない」
「気にすんなよ、アールストレイム」
結局、アーニャのワガママを聞くことにした、久しぶりの、実に10年ぶりくらいのアーニャのワガママだ、兄として聞かなくてどうするというのだ。
「じゃあ、ジノは帰って、枢木スザクも部屋から出て」
「え?……僕の寝るとこ……」
「安心しろってスザク、俺たちも部屋とってあるから」
「そ、そうかい、じゃあそっちに泊めてもらうよ」
「スザク………迷惑をかけるな」
「気にしないでよ、せっかくの兄妹水入らずなんだし、ゆっくりしなよ」
「ありがとう、スザク」
スザク………私は本当に良い友人を持った。
「お兄ちゃん、早く、ベッド」
「すぐ行くから、そう引っ張るんじゃないアーニャ」
「じゃあ僕達はこれで」
「あぁ、また明日」
スザクとジノ・ヴァインベルグを見送り、パジャマに着替えてアーニャとともにベッドに入る、なぜか目の前で着替えるように言われたが、何か気になることでもあったのか?きっと1人が寂しかったのだろう。
同じくパジャマに着替えたアーニャ(結局一緒に着替えた)と向かい合って横になる、部屋の明かりを消し、毛布を腰の位置までかけた。
「こうして寝るのも、久しぶりか」
「手、握って」
「ん、こうか?」
アーニャの差し出してきた手を握る、柔らかな感触が伝わってくる。
「違う」
「え?」
「こう」
アーニャは握った手を解いてから、再び握る、握りかたはさっきと違って指を絡ませる方向だ、いわゆる恋人繋ぎというもので、ナナリーによくせがまれる。
「こっちの方が、あったかい」
「なるほど………」
「それに……」
「まだ何かあるのか?」
「うん、お兄ちゃんのドキドキが、伝わってくるから……///」
「私にも、アーニャのドキドキが伝わってきてるぞ」
「あっ………///」
「…………ちょっと速くなったな」
「……お兄ちゃんが、かっこいいから///」
「ははは、ありがとう、嬉しいよアーニャ」
アーニャの鼓動を聞きつつ空いているほうの手で頭を撫でる、するとアーニャの頭がするりと動いて私の胸の中にすっぽり収まった。
「お兄ちゃん………お腹、痛い」
「っ!………さすろうか?」
「お願い………実はさっきから痛くて……」
「わかった、アーニャが眠るまでさするよ」
「ありがとう、お兄ちゃん………」
アーニャのお腹を優しくさすり、少しでも痛みを和らげられるように、さすった。
アーニャside
久しぶりにあったお兄ちゃんは、昔と変わらない優しさで、私を抱きしめてくれたし、膝の上に座っても嫌な顔ひとつせず、お腹を優しく撫でてくれた。
もしお兄ちゃんが、私の気持ちを知っててやってるんだとしたら、確信犯だけど、お兄ちゃんだったらなんでも許せる。
今もお兄ちゃんは私のお腹をさすってくれてる、丁度生理でお腹が痛くなって、お兄ちゃんの胸に埋まっちゃったせいでさするのがやり辛そうだけど、私が寝てると思ってるのか、手を繋いだままさすってくれている。
ずるいと思うけど、こうやってお兄ちゃんの胸に埋まってると、いい匂いがする、だから動けなくなっちゃったけど、別にいいよね。
「……アーニャ…………お前は、私の大事な…………」
ドキッ!とした、驚いて顔を上げる、お兄ちゃんの顔を見ると熟睡してるみたいだった、手を繋いだまま離さなず、私のお腹に手を置いたまま………。
「………おやすみ、お兄ちゃん」
呟いてからお兄ちゃんの胸に埋まる、こっちのほうが気持ち良く眠れると思ったから。
「……好き、愛してる…………」
眠ってしまう前にお兄ちゃんに向かってそう言う、聞いてないだろうけど、私の気持ちを伝えておきたかった。
私がお兄ちゃんのことが大好きだって。
朝日に目が覚めると時計を見る、ラウンズになってから早起きと時計を見る習慣がついた。
起き上がろうとして手に違和感を感じる、見るとお兄ちゃんの手と繋がってままだった。
寝る前まで繋いでいて、寝た後は話したと思っていたけど、お兄ちゃんの手と私の手は固く繋がっていた。
気恥ずかしさと嬉しさを同時に感じつつ、私はなぜか、不意にお兄ちゃんの報告書に関する事柄について思い出した。
〜〜〜数週間前、【ナイトオブシックス】アーニャの個室〜〜〜
お兄ちゃんが日本で生きてた、すぐにでも会いに行きたかった。
でもラウンズの仕事をほったらかして行ったらお兄ちゃんは絶対に怒る、だから休暇を貰ったらお兄ちゃんに会おうと決めた。
でもお兄ちゃんのことが気になって集中できないと困るから、お兄ちゃんの報告書という名目でお兄ちゃんの写真を送ってもらっている。
今日はお兄ちゃんの写真のほかに、お兄ちゃんの行動について書かれた報告書が来るはず、とても楽しみ。
コンコンとノックの音が聞こえた。
「なに?」
『アーニャ・アールストレイム卿、報告書の提出に参りました』
「今開ける」
ドアを開けると報告書を持った兵士の人が立っていた。
「ありがとう」
「はい………あ、よろしければ今夜ディナーを……」
報告書を受け取ってドアを閉める、ベッドに飛び込んで報告書をパラパラとめくってお兄ちゃんのページを読む。
今回のお兄ちゃんの写真は演説中の写真だ、紺色のラウンズの正装がとても良く似合っててカッコいい、右目の眼帯がミステリアスな雰囲気を醸し出してて、真剣な表情で演説する姿は雄々しく見える。
報告書の内容は相手がお兄ちゃんだとすれば至って普通のこと、何時から何時まで仕事、その後何時に家であるクラブハウスに帰って、どこの馬の骨とも知らない恋人と………。
ギリィッ……!!
危ない、歯が欠けるところだった、不細工な顔なんてお兄ちゃんに見せられない、気持ちを落ち着かせて、気をつけないと………。
気を落ち着かせて、報告書をめくる、お兄ちゃんの聞き取れた発言が載ってるページ、今回も充実してる………あ、このセリフカッコ良い、メモしておこ。
ある程度メモに書いて報告書をめくる、そこには今後のお兄ちゃんの予定が書かれていた。
「『閲覧不可』の日に本国に帰国………」
これだ、この日にお兄ちゃんに会いに行こう。
乗って来る飛行機、皇帝陛下の元まで行くのに通る道、乗って帰る飛行機、宿泊予定地、考えうることをメモに書き殴り、内線からそれらの調査をするように伝えた。
「お兄ちゃん………約束、覚えてるかな………?」
昔、別れの時に誓った約束………。
「………お兄ちゃん……抱きしめて、くれるかな?」
早く、私の体を、温めて………。
【現在】
ツキトside
「お兄ちゃん、あれ、あれに乗りたい」
「わかったからそう引っ張るな、服が伸びる」
起きたと思ったらいきなりテーマパークに行くと言いだすアーニャ、ついて来いと言われれば兄としてついていかないわけにはいかないが………。
「………コワイ………コワイ………コワ………オェ"ッ」
「無理してジェットコースターに乗るからだ、それと、最後のは女子が出す声では無いぞ」
「ん………頭ぐるぐる、気持ち悪い、膝枕」
「わかった、そこのベンチまで歩け………そうにないな、肩を貸そう」
「ありがと………」
まあ、ナナリーのことは後だな、確かにナナリーは守るべき対象ではある、早く日本に行かなければいかないのもわかる、しかしだ、だからと言って、妹をほっぽり出していけるほど私は冷徹にはなれんのだ。
ベンチに腰掛けてアーニャの頭を私の膝下に持ってくるようにして体を横にした、いわゆる膝枕だ。
「……気持ちぃ…………」
「それはよかった、体調が戻るまでしばし横になっているといい」
「うん……………」
話している途中でアーニャがうとうとし始めた、寝てしまうと面倒なんだが………まあいいか、1時間ほどここでアーニャの寝顔を眺めてからこのテーマパークにあるホテルにチェックインすればいい。
幸いにも真夏の休日にもかかわらず人が少なめだ、1泊くらいは余裕で取れるだろう、金も存分にある。
何よりも久しぶりのアーニャとの時間だ、大事にしなければなるまい。
まあ、人が少なめとは言うものの、このテーマパークは国内でも人気のテーマパーク、特にカップルデート御用達の場所だ。
テーマパークに入ってから大抵4つグループにひとつはカップルのようだ、そして最も多いのは家族連れで、次にカップルという感じだ。
あとはまあ、友達連れだったり…………1人で来ていたりだな。
さて、アーニャが私の膝(といか腿)の上で眠り始めてまだ10分経つかどうかという時間なんだが、どうやら私とアーニャの容姿はテーマパークの職員や客の目を惹きつけてしまうようで、先ほどから目の前を通り過ぎる時にチラチラと見られている。
アーニャは言うまでもなく美人だ、私もまあ男としては落第点だが女子として見ればアーニャには劣るがそこそこ見た目はいい、おおよそ、私とアーニャが仲の良い双子の姉妹にでも見えているのだろう。
ナナリーやアーニャが聞けば怒るかもしれないが、同性であるからこそわかる悩みもあったのかもしれんな………。
だが、男として生まれたのだ、他の可能性など考えるだけ無駄だろう。
さて、いい加減視線が鬱陶しい、そろそろアーニャを起こしていくとしよう。
アーニャを起こしたあと少し回ってからホテルに戻ってきた、寝るにはまだまだ外が明るいが、アーニャはもう限界がきているようで、先ほどから船を漕いでいる。
「アーニャ、眠いのなら寝ておけ」
「ん……やっ………スンスン」
しかしどうあっても私から離れたくないのか、ベッドに腰掛け腕に抱きついて離れない。
匂いを嗅がれているのはこの際気にしない、いつもの私ならすぐにでも叱るところだが、眠そうなアーニャに怒鳴りつけるのはなぁ。
妹ということを抜きにしても、女の子だし………。
「はぁ………一緒に寝るか?」
「!……うん!」
言っといてなんだが、すごく気障っぽくて気持ち悪いな今のセリフ。
アーニャが気にしてないからいいか。
というか………一緒に寝ると決めたのはいいんだが…………昨日よりも密着している気が………。
「お兄ちゃん」
「ん、どうし………んぅ!?」
く、口を塞がれた!?アーニャの口で!?
こ、これは俗に言うキス!だ、だが私とアーニャは兄妹だぞ!?なにかの間違いだよな?そうだよな?
「んぅ………お兄ちゃん大好き………」
「ちょおまえ!?」
うぇぇぇえええええ!?ちょっ、ちょっと待ってくれ、じゃあ今のキスって………。
「アーニャ、まさかお前………」
「……すぅ……………すぅ………」
………人の心引っ掻き回しといて気持ちよさそうに寝やがって……………はぁ。
実の妹からも惚れられるなんて、ついているのかついていないのか………ナナリーが好きと言ってくれた自分のすべてが嫌いになりそうだ………。
好かれることは嫌じゃない、むしろ兄として妹にここまで愛されていることはとても嬉しく思う。
異性として好かれているとなると話が違ってくるが…………。
「すぅ………」
「まぁ、そんなわけないか」
久しぶりに目一杯遊んだし、疲れて変な方向に考えてしまっただけ、それだけだ。
もしくは、私の心の中に愛されたいという願望でもあるのか、そんなとこか。
気持ち悪い妄想も終わりだ、もう寝よう。
「………ばか」
アーニャは作者的なランキングで3、4位に確実に入ります。