魔法科高校と"調整者"   作:ヤーンスポナー

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エピローグ~真実~

【log:Saturday,February 25 2096

point:35N138E   】

 

 

 

 

 

「さて・・・あなたはコーヒーでよかったかしら?」

 

「もし匂いでそっちが飲むハーブティーを台無しにしないのなら、砂糖を少し入れたものを頼む」

 

「あら、別に気にしなくても大丈夫よ。どうせ、ついでですから」

 

「そうか、では遠慮なく頂こう」

 

 

 

「それで、何処から話したものかしら」

 

「事の始まりから、説明してくれ」

 

「そうね。そうしましょう」

 

 

 

「あれは二〇六二年。そう、私が、"四葉真夜"が死んだ時の事だったわ」

 

「・・・」

 

「あら、何も言わないのね」

 

「無粋なことをいう場面ではないと言う事ぐらいは弁えてる」

 

「ありがたいわ。私にとっては、忘れることも出来ない日なのだから」

 

 

「私が壊された後、救助されて、姉さんに"私"を殺された、あの日から、全てが始まった」

 

 

「姉さんは私が壊れないように、経験記憶と知識記憶をそのまま入れ替えたのだけれど、そのために精神構造干渉魔法を行使する際、一つの異変に気が付いたらしいわ」

 

 

「何故か、私の精神の中に"異物"がある。それはとても些細なもので、取るに足らない代物だったのだけれど、それが無性に、姉さんは気になった」

 

 

「そして、数日たった後、その事を私に話して、その"異物"を取り除く為にもう一度私に魔法を掛けると言って、私はそれに了承した。

 

英作叔父様に話しても無駄だったと、姉さんは言っていた。だからこそ、その"異物"を取り除く時は、精神を実験によって壊されたいくつかの"生きた死体"があった部屋の中で、二人きりで行われたわ」

 

 

「そして、実際に"異物"を取り出そうとしたのだけれど、どうもそれは何かしらの精神体の一部が私の精神と繋がっているのだと、その時に分かった。

 

姉さんはその精神体との繋がりを断ち切ることが出来なかった。切ろうとしても直ぐにくっ付いたらしいわ。だから、一旦切り取った精神体の"紐"とも言うべきものを、その生きた死体に貼り付けた」

 

 

「それが・・・・」

 

「えぇ」

 

 

「それが、私と。いいえ、"私達"と、"その精神体"・・・貴方達の言う"創造主"が接触した顛末よ」

 

 

「・・・その時の、"創造主"様の状態は?」

 

「一言で言えば、ほとんど滅茶苦茶と言っていい状態だったらしいわ。彼自身から聞いた話も含めるのだけれども、どうもその時、彼は"私"から自我を借りていたらしいの。そんな中、私が誘拐され、私自身が壊れてしまうほど犯された。彼はその時の私の精神状態にかなりの影響を受けたらしいわ。借りていた自我がいきなり崩壊して、彼自身が一時的に行動不能になった。

 

だけど、それまでならいずれ復活できた。だけど、復活する前に姉さんが私の経験記憶と知識記憶を入れ替えてしまい、それは彼自身の経験記憶と知識記憶まで入れ替えてしまった。

その結果、彼はその直後はほとんど何も出来ない状態だった。尤も、私達も驚いたのだけれどね。だって生きた死体がいきなり何とも言えないようなうめき声を上げ始めたのだから」

 

「"創造主"様は、お前達に助けられたと言っていた。つまりは・・・」

 

「そう。何かあると踏んだ姉さんは、その精神体を苦労して解析し、異常を見つけ、そして彼自身が自分主体の思考を取り戻せるまでには回復させた。ソレが終わっても暫くはその死体から抜け出すほどの力はなかったようですけど」

 

「・・・」

 

「私からしたら滑稽ともいえるわ。私は、あの出来事で、この残酷な世界を心底恨んだ。だけど、彼が回復し、彼からこの世界についてを聞くことが出来た。そこで感じたのは、何とも言えないような気分としか表現できないわ。私が心底憎んでいた世界を作り上げたそいつは、私達が居なければそのまま力尽き、人間がいなければ存在することも難しいほど儚い存在などだと知ったのだから。滑稽とも言えて、だけど哀れにも思える。率直に、そう思ったわ」

 

 

 

「・・・"創造主"様から"手土産"とやらを貰ったのは、その後か」

 

「えぇ。正確に言うと、姉さんが引き出したとも言えるのだけれど」

 

「・・・というと?」

 

「姉さんは彼から様々な話を聞き、一つの考えを出したわ。『彼の力を使えば、私を救うことが出来るのではないか』、とね。その考えを元に、明確な意図を伏せたまま、彼に手段を要求したの。

 

そして、姉さんが手に入れたのは"用意されていたもう一つの役職を基にした、新たな魔法師の製造方法"だった」

 

「・・・"もう一つの役職"?」

 

「えぇ。『エンジニア"engineer"』世界の外交状況が複雑化していることを認識した彼が、元の管理者がそちらの方に専念できるよう、バグの発見、修理、そして消去のみの為に用意しようとしていた物よ。それを改変し、"人間"にその能力を収められるようにしたのよ。姉さんは、その能力を使えば私を救えると考えた」

 

「・・・その事を四葉で知ってる者は?」

 

「今は私と葉山さんだけだわ。このことは、当時当主であった英作叔父様にさえ伏せられた。その危険性故に、その異常さ故に、ね」

 

「しかしそれではその魔法師とやらは作れないはずだ」

 

「えぇ、本来ならばそうね」

 

 

「それと同時期に、私達が指導を受けていた九島先生から、ある話を聞いたわ。

 

それは、"烏"について。九島先生が、古式魔法師から伝え聞き、そして自分で調べた結果把握できた、日本を操る勢力の存在。

 

それに対抗し得るだけの魔法師社会の構築が必要ではないのか。それも、"烏"が今現在どうも満足に動けてない今の内に。

 

そういう考えを、私達に話した」

 

 

 

「私達にとっては渡りに船だった。"烏"に対抗できる魔法師を、四葉の技術でなら作れる。だけど、環境が足りない。そう、先生に対して言って、先生は私達に、独力でその魔法師を作れるだけの環境を整えてくれたわ。

 

"烏"に匹敵する力を持たせる為の調整魔法師。先生は、それを"白烏"シリーズと名付けた」

 

「それが、九島烈が言っていた"あのプロジェクト"とか言う物か」

 

「そう。先生自身、私達に憐れみを抱いていた。だからこそ、"魔法師"を社会が、世界が守ってくれるように動こうとした。実態は、先生自身が思い描いたものとは微妙に異なっていたのだけれど」

 

 

 

「その"白烏"シリーズの第一号が、達也さんよ。教わった方法に忠実に、"貴方達"と同じく、"貴方達を構成する要素"を直接胎児の中に埋め込んだ。その過程でいくらか既存の法則から乱れてしまったし、また"貴方達"に赤子の内に存在を把握され、殺されないように彼に態々偽装まで施させたのだけれど、無事に"一体目"は完成した。その能力が生まれる前に分家の方々に露呈してしまったから余計に大変だったのだけれども、ね」

 

「・・・しかし、"彼"の能力は」

 

「そう。彼が手に入れたのは結局強力な"分解"と、二十四時間以内にしか使えない"再成"だけ。私を救う力には成れなかった。

 

姉さんが達也さんを"出来損ない"と言っていたのはその為よ。純粋な人間として、魔法師として、そして何よりも私を救うために生み出されておきながら、私を救うだけの力を持つことが出来なかったが故の"出来損ない"。姉さんは、あの時ほど絶望した時はなかったでしょうね」

 

 

 

「だけど、いくら出来損ないとは言え、桁外れの、それも扱いにくい程強力な力を持った子供が生まれたのは事実。彼が彼自身を"制御"出来るようにすると共に、二体目の、達也さんを止めるための"白烏"を作ることになった。勿論全部を話すことは無かったけれども、二体目は英作叔父様や紅林さん達もプロジェクトに参加した。あくまで方針と、設備調整だけでほとんど製造方法に関してはノータッチだったけど」

 

「その二体目が、司波深雪・・・"彼"の妹さんか」

 

「そう。二体目は精神構造魔法によって、一体目のデータを改変し、その要素を直接胎児に入れるのではなく、精神構造をソレと同じように改変しようとした。

 

けど、結果は失敗。"最良の魔法師"は出来上がったし、達也さんを止めうるだけの力も手に入れた。だけど、"白烏シリーズ"の当初の目的を考えると、失敗と言っていい出来だった。深雪さんは、"魔法師"の枠からいくら卓越した能力を手にしても、抜け出すことはできなかった」

 

 

「私達は先生にプロジェクトは失敗と伝えたわ。どうも今は騙されたと思っているようだけれども、実際失敗していたのよ。少なくとも、姉さんが意図した目的から考えると、ね」

 

 

「それが、"彼"の、いや、"彼ら"の持つ、妙に規則性を持った"バグ"の正体か」

 

「えぇ。これが、私の知る真実よ。疑問は解けたかしら?」

 

 

「・・・あぁ。貴重な時間を済まんな」

 

「いいえ。私もすっきりしたわ。余計な話も交えてしまったし、貴方が謝ることはないわ」

 

「そう言ってくれると助かるな」

 

 

 

「最後に一つ、言わせてくれ」

 

「あら、何かしら?」

 

 

「"創造主"様を救ってくれて、ありがとう。素直に、礼を言う」

 

「らしくないわね。本当にあの"烏"かしら?」

 

「結構本気で言ってるんだがな。まぁ、いい。何かあったらまた聞きにくる。その時は是非、教えてくれ」

 

「えぇ、それじゃあ、また今度」

 

 

「あぁ。それではな」

 

 

 

 

 




はい、と言う事で、今作『魔法科高校と"調整者"』は一旦完結となります。
テンションに身を任せ一気に書き上げ、少々疲れ気味。回収できてない伏線ないかなとかびくびくしながら後書きを書いてます。
なお、一旦と付けたのは勿論理由があって、一応は続きも書くことは可能だろうからです。ダブルセブン編が鬼門というだけで。なので一応休載、と言う形になると思います。完結とつける勇気が無いのは悪しからず。第二章とか言って別の作品の形で投稿したくもないので・・・。


さて、この先の執筆予定ですが、いろいろあります。

まず最初に、前に息抜きで投稿したオリジナルSSを頑張って更新していくというもの。
これが一番楽かなぁとか思ってます。ある程度のストーリーはありますし。


魔法科関係では色々選択肢があります。
話数がかなりばらばらな本作を再構成して一話ごとを5000~10000文字に纏めるということも少し発想としては出てきてます。だけど、多分完遂できそうに無いから別の形になるかと思います。

選択肢としては純粋な魔法科の二次創作物が上げられますね。
具体的には、第三次世界大戦をモチーフに、老師をメインに据えたストーリーみたいな形を想像してます。オリ主とかの形にはなりそうな気がしなくもないですがね。

オリ主が魔法科高校に入学して無双するという物は他の作者様がもっと面白いものを書けるので書きません。というか書けません。たぶん読むに耐えないものになる・・・。


・・・きちんとした魔法師が主人公の物?そうですね・・・せいぜい干渉力と演算領域は深雪様や分解とか再成なしのお兄様の数倍はあるような化け物だけど、発動速度がお兄様より数倍遅いオリ主が頑張るお話が精一杯かな?それでも頑張ってひねり出した分まともな話になる気がしない・・・。


まぁ、とりあえずはオリジナルSS作品を今作よりはチョッとスローペースで、だけどメインに据えつつ第二章みたいな形で本作の続きを考えながら第三次世界大戦の時の魔法科SSを構築するってのが今後の方針です。


とにもかくにも、とりあえずは今回を持って今作は一旦完結とします。自分では最善を尽くしたつもりですが、後学のために感想等、お待ちしてます。出来る限り返信するつもりですので。

また、こういうSSとか書いてみて欲しいとかいった要望の場合はメッセージにてお願いします。別原作も一応考えますが、自分は結構あまりラノベを多い種類読んでいる訳ではないので、書けない物もあるのですがね。


それでは、今まで閲覧して頂き、ありがとうございました。

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