では、最後の一人称視点です。お楽しみ下さい。
なおこの後エピローグに続きます。よって最終話(詐欺)
【Saturday,February 25 2096
Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】
結局、あの"パラサイト"による騒動は一定の終息を迎えた。
ただし、それはすべて此方の思い通りに、と言う訳ではなかった。
一応は全ての"パラサイト"を無力化するつもりで、人工森林へと入ったのだが、結果は三体は"彼"により"封印"され、奪われた。
更に幹比古の手により封印された二体は、片方は"黒羽"の手により、もう片方は"抜刀隊"の手により回収された。
此方の方で無力化できたのは七体。別に戦果を目的とした訳ではなかったが、出し抜かれたと言うような気分にならざるを得なかった。
また、その後聞いた情報で思った以上に双方の被害が激しいことが分かった。
"抜刀隊"は"彼"が率いる部隊により二つの分隊が壊滅。残りの二つも被害が激しく、一時的に機能不全になるだろうとの見込みが立ち、また同じく"彼"の狙撃兵によって足を打ち抜かれた千葉修次は応急手当はしたものの、全治一ヶ月の怪我は避けられなかった。
"スターズ"も貴重な戦闘員を戦闘不能にさせられ、少なくない被害を負っている。とは言っても、これは自分でやったことなのだが。
途中で手を引いた"七草"もそもそもが被害者の過半数を占めていただけあり、軽症で済んだとは余り言えない。
今回のことでほぼ無傷で事態を終えることが出来たのは自分達と"七草"と協力体制にあった"十文字"、そして"彼ら"ぐらいの物だった。
そして、"あの騒動"からおよそ一週間が経った土曜日の夜。
八雲に呼び出され、九重寺にまで来ていた。
「達也くん、夜遅くに呼び出して済まないね」
「いえ、話がある、との事でしたから」
その台詞だけは申し訳なさそうに、しかし全く謝罪の意志が込められているようにも見えない八雲の社交辞令に対し、笑って返す。
「本来はこんなことで呼び出す事はないんだけど、無性に気になってね。とりあえず、小耳に挟んでおいてほしいんだ」
「師匠がそこまで言うこと、ですか?」
「うん、勘だけどね」
そう八雲が笑うと共に、"本題"を切り出す。
「達也くん」
「はい」
「君は、"烏"を、知っているかい?」
「・・・"烏"?」
その言葉に、一瞬戸惑う。
一体、何を言っているのか。
「そう、"烏"。鳥の事を言ってるんじゃなくてね。と言っても、僕たちだって詳しく知ってる訳じゃない。"古式魔法師"に伝わる、一種の言い伝えと言う物さ」
「言い伝え、ですか?」
「うん」
頷きながら、八雲は続きを話す。
「日本では、物事の裏には時々だけど、"烏"が居る事がある。その時に、"烏"の邪魔をしてはいけない。そういう、言い伝えだよ」
「・・・まるで迷信の類ですね」
「そう思うだろう?だけど、最後まで聞いて欲しい」
真剣な目つきで、八雲が此方に目を向ける。
「実際に烏の姿かたちをしている訳じゃないんだ。どうも、その由来は"烏が鳴くと人が死ぬ"という言い伝えから、それらのことを"烏"と呼ぶようになったらしい。"烏"はそれが必要だから死を呼び寄せ、その存在を知らしめる為に鳴く。だからこそ、無意味な場所に"烏"は出てこない。だからこそ、"烏"の邪魔をしてはいけない。それが、古式魔法師の間に伝わる言い伝えだよ」
「・・・それが、どうかしたのですか?」
「うん。これは、君達に大いに関係のあることだ」
その問いに、八雲が肯定を返す。
「ちょっとした伝手でね。どうも幹比古君のところの、吉田家から出てきた情報なんだけれどもね」
「どうも、"烏"が居る様だ、との事だったよ」
その言葉に、しばし絶句する。
「直ぐに理解できるあたり、流石と言うべきかな」
「まさか・・・」
「そう。今までの状況から当てはめて、幹比古君のところから出てきた情報が指す人物は、一人しかいない」
それは、彼自身に対しても調査を依頼していた、"彼"。
「"河原借哉"。これは僕の馬鹿けた空想に過ぎないのだけど、もし、言い伝えが本当だったとしたら、"彼"はとても僕達の手に負える規模の話じゃないかもしれない」
有り得ないと、もし四月の時に聞かされていたら否定できたかもしれない。
しかし、ここまで"彼"のやることを見せ付けられた今では、一蹴することは出来なかった。
「事実、"彼"が動いてからどうも魔法師社会全体が騒がしくなってきてる。特に目立った動きをしているのは"四葉"だ。尤も、これ事態は珍しいことでもないんだけど、それに呼応するかのように"七草"、更には"九島"まで行動を起こしている。達也くんがこの一年見てきたように中華街の"アングラ系の魔法師"も活発化してる。ここまで全体が騒がしくなってくると、僕もただの言い伝えと思うことが出来なくてね」
「・・・つまり、今までの物事は全て"烏"・・・"彼"が糸を引いていたと?」
その質問に対して、八雲は否定を返した。
「いや、それは多分ないんじゃないかな。特に、"君"に最初に接触してきたことに何かしらの、受動的な行動の欠片が見える。多分、彼ら自身も"動かざるを得ない事態"が起こったんだと僕は思ってる。それも、達也くん。"君"に関することで、ね」
「・・・"烏"とは、いえ、一体"彼"は、何者なんでしょうか」
思わず、そう尋ねてしまう。
否、尋ねずには居られなかった。
不気味、とも言ってよかった。彼に関することでは慣れた筈だったのだが、今更ながら生暖かい風が吹いたような気がする。
そして、その問いに対して、八雲でさえも、答えを返すことは出来ず、忠告しかこちらに言えることは無かった。
「さぁ。僕にも、いや、多分ほとんどの人でさえも分からない。ただ、間違いなく"烏"は君の影で今まで動いていて、そしてこれからも動き続けると言う事だけだよ。何も手を打つ手段は無いのだけれど、気をつけるようにね」
【Saturday,February 25 2096
Person:operator4 】
「・・・待たせたな。"宿主"を引き取りに来た」
「えぇ、こちらに。確かに有るわ。確認して頂戴」
お互いに数人の護衛を付けた状態で、玄関先でやり取りを済ませる。
「そっちの方で取り分は"培養"したのか?」
その問いに対して、微笑みながら彼女は頷く。
「一応は、一つ分だけ。そちらの方に後で"培養"の仕方は伝えるわ。一応はだけど、四体までなら目立った劣化も無く増やせるはずだから、此方の教える通りにお願いね」
「詳しいな。それも"貰った"物か?」
「一応は、ね」
そう彼女が返すと共に、"本題"へと入った。
「さて、では話の続きはお茶でも飲みながらにしましょうか。お互い一人だけで、誰にも聞かれる事の無い様に」
「・・・そこで、全てを話すと言うことか」
「えぇ。さぁ、こちらへ」
そう案内する彼女の後ろを歩きながら、四葉邸の内部へと足を踏み入れた。