さて、本編です。
【Saturday,February 18 2096
Person:operator4 】
結局、全ての"創造主の一部"を"釣り出す為の餌"は、No1の連絡の後直ぐに用意することができた。
否、用意できた、と言う言葉は適切ではない。
なぜならその餌は同じく"創造主様の一部"が"ヒューマノイド"・・・P91、ピクシーと呼ばれていた代物に寄生した物で、尚且つソレを手に入れた訳ではないからだ。
本来ならば、手に入れることは出来た。しかし、問題はそのヒューマノイドの所有権を持っていたのが事もあろうに"彼"だったという一点にのみ問題は集約される。
これにより、此方は"彼"の行動に沿った作戦しか取る事が出来なくなった。
せめてもの救いは、"彼"が第三者に"寄生されたヒューマノイド"を譲るつもりが無かった事と言うべきか。お陰で余計な苦労をしなくても"保険"だけは掛けられたとの事だ。
四葉の手回しにより海を渡ってきた三個体も一度"消され"、状況は少しだけ改善している。
そして、四葉によって造られた、"一つの武器"も届いている。
おそらくは、この武器を使えば最も効率よく宿主を"封印"出来る。
しかし、
「これ程の物を作れるとは・・・」
一体、四葉とは何物なのか。そう、思わずにはいられない。
"その武器"は、端的に言えば刀と言っていい。ごく一般的な印象の通りの日本刀だ。
刀身に刻まれた、幾何学的模様さえ除けば。
"眼"で見た限りでは、これは"魔法"の概念、取り分け"我々"や"彼"が使う"再成"を応用した物で作られていた。
原理はこうだ。
これを対象で斬りつける事を開始地点として、対象のエイドスデータを採取し、そのデータを元に"対象が封印された場合のエイドスデータ"を作成、それを対象のエイドスに上書きする、という原理である。
言うなれば"逆再成"と言うべきか。本来は傷を"無かった"事にする為の魔法を、傷を"有った"事にしてしまえるように魔法的に改造したのが、この日本刀だ。
もちろん、これらの作業は"再成"とほぼ同じ速度で実行される為、事実上唯斬りつけるだけで対象を無傷で"封印"できる代物だ。
尤も、"再成"が使えるという大前提がある限り我々か、"彼"にしか扱うことは出来ないだろうが。
しかし、一番の問題は"どのようにしてこの刀を作り上げたか"と言う点だ。
この刀、原理は説明すれば簡単なように思えるが様々な製造時の壁が見える。
特に一番重要なのは、この武器を作る際には扱い主が使う"再成"の把握が必要だと言うところだ。
いくら同じ"再成"と言えど、"彼"が使う物と我々が使う物では細かなところが分かれる。
"彼"が扱う"再成"は、エイドス"変更履歴"しか遡ることが出来ない。遡及範囲は我々と同じ二十四時間だが、遡及できる履歴の種類そのものが違う。
つまり、"他者"に対して"再成"を行使しようとしても二十四時間を過ぎてしまうとほぼ無意味なのだ。
一方、"我々"が扱う"再成"は、エイドスの"存在履歴"そのものを遡ることが出来る。勿論自身以外に使用する場合には二十四時間より先の履歴を遡ることは出来ないものの、場合によっては二十四時間に限定されるが"若返り"さえ可能にさせるのが"我々"の使う"再成"だ。
なお、"自身"に対する"再成"に関しては、彼も我々も同様に"期限が無い"。理由は単純だ。"我々"はエイドスデータそのものを正に生まれた時からバックアップを取っている為時間などそもそも自分に対しては関係がある訳ではない。
また、これは"彼"自身の力について調べていく内に分かったことだが、"彼"自身が扱う"再成"も、彼自身が"再成"をダメージにより行使した場合、エイドス変更履歴は「破損前→破損後」から「破損前→破損後→破損前」になる。つまり、"再成"によるエイドス変更が記録されてしまう訳だ。これが"エイドスが変更されたことそのものを削除する"ならともかく、やっていることは破損前のエイドスを"上書きした"だけに過ぎず、そのケアを行っていない時点で"再成"行使によるエイドス変更記録は残ってしまう。
つまり、"彼"自身も原理的には二十四時間以上"再成"を行使し続けられる訳だ。心が持つかどうかは別とするが。この事実を把握したことにより、"彼"を二十四時間殺し続けることは事実上無意味だということが分かり、方針を変えざるを得なくなったのだ。"彼"はどうもその能力の実態を把握していないようにも見えるが。
このように細かな違いが出てくるのは、恐らくは"彼"自身が"バグ"である影響なのだろう。しかし、逆に言えば本来は四葉が把握している"再成"のデータはあくまで"彼"の、つまり"破損した再成"でなければいけないのだ。
しかし、この刀は確実に"我々が使う再成"を基に作られている。そのデータを何故ほぼ完全に取る事が出来たのか。最低でも遠巻きに監視するだけでは五十年かけてもやっと半分と言った所のはずだ。
ますます"四葉"に対して気味の悪さを感じるが、しかし有用なものを用意してくれたのは確かだ。とりあえずは意識の外に出すことにした。
必要なのは、明日の夜に集まるであろう"創造主様の一部"を確保すること。
そう意識にリセットを掛け、"基地内部"の会議室で特殊作戦群予備分遣隊全員の前に立ち、今回の"作戦"の説明に入った。
「今回は現状追っていた"目標"と同種類の物が合計十二個確認されるはずだ。これらを同時に、最低でも過半数は確保するつもりで動く。今回はこちらの存在が割れることを遺憾ながら容認する形になる。また、今回は"目標"が"殺害"された時点で撤退することも出来ない。しかも、今までより厄介な相手と正面から衝突することになる」
そう言った後、彼らに目を向ける。
「はっきり言おう。私自身も前線に立つとはいえ、捨て駒も同然の扱いで諸君らを使わなければいけないような作戦になる。だからこの作戦は、辞退しても構わない。諸君らをみすみす失う訳には行かないのも事実だ。だからこそ、選択は諸君らに任せる」
その言葉を発してから数拍ほど置いて、一人が立ち上がる。
特殊作戦群予備分遣隊の分隊の一つを率いる人物であり、同時に同分遣隊の隊長でもある男だ。
「閣下、我々は、我々の価値を見出してくれた閣下の為なら、命を捧げるつもりです。だからこそ、お聞かせ願いたいのです。"敵"は、何ですか」
その問いに対し、今までの情報収集の結果から得られた、最も確立の高い"相手"を答える。
「・・・前回と比べた結果、七草が今回の事態から撤退。変わりに、"九島"が本格的な介入の構えを見せている。
恐らく、相手は国防陸軍第一師団所属歩兵遊撃小隊、通称"抜刀隊"だ。それでも、行くか」
その答えに対し、彼の答えは一拍も置かない物だった。
「やります。いえ、やらせてください。これは、我々の悲願でもあります」
その言葉の後、彼は話を続ける。
「我々は、例えどのような形であれ"魔法師"に一度、"自らの価値"を奪われました。だからこそ、これは自分自身の弔い合戦なのです。我々の存在意義を、改めて知らしめる、絶好の機会なのです。相手は魔法師戦闘員の中でもかなりの錬度。これらを打ち倒してこそ、我々の悲願は達成されるのです。どうか、お願いします。我々を、この作戦の為に使ってください」
その言葉と共に、全ての隊員が立ち上がる。
やはり、彼らは信頼すべき我が兵士達だ。
だからこそ、みすみす失う訳には行かない。
「分かった。ただし、絶対に捨て駒にはしない。負け戦をさせるつもりもない。必ず、諸君らを勝たせて見せる」
そう断言し、指示を出す。
「まず狙撃班を四つ作る。それぞれ北、東、西、南にて配置。作戦地域全てをカバーできるようにしろ。他のメンバーは事前に第一高校の人工森林にて潜入。"目標"の出現位置によって移動しつつ、奇襲の機会を待て。ただし、一番最初に姿を出すのは"俺"だ。諸君らが、"抜刀隊"を打ち倒す為の"真打ち"となって欲しい。その方が、短期決戦が見込めるからだ。諸君らの奮戦を期待する。戦闘準備!」
隊員達が揃って敬礼を返し、準備に取り掛かり始める。
その中、先ほどの隊長が此方により、質問をかけてきた。
「閣下は、武装は如何なされるお積もりですか?」
その言葉に対し、難色を示す。
「本来なら長物を持ちたいんだが、"こいつ"は嵩張るからな・・・」
そう言って、"封印"の為の刀を持ち上げる。
しばし悩んだ後、一度"古典的な武装に戻る"事にした。
「どうしようもない。とりあえず素の日本刀をもう一本、対人用に持っていこう。後は九ミリの拳銃でも懐に入れておけば俺の武装はいい」
「了解しました。それでは、準備が出来次第」
「あぁ、頼んだ」
その言葉と共に、隊長も自身の準備に入る。
「さて、こんな装備はいったい何時振りだか・・・」
そんな感慨を抱きながら、素の日本刀を用意するために、会議室を後にした。
お兄様の"再成"については自分が結構前から思っていた推測をそのまま適用しています。どうも見てると"再成"は"変更前のエイドスデータを貼り付けているだけで、それ以外の事は余り行っていない"のではないかと。
で、その原理を元にPCを例にたとえて考えるとです
テキストデータAのデータをコピーして、変更後のテキストデータBの上にテキストデータAを貼り付け、上書きすることになると。
しかし多分これシステム上ではテキストデータA→テキストデータB→テキストデータA(A'と表記したほうがいいかもしれない)となるじゃないですか。これがエイドス変更履歴に反映されないのはおかしいのではないかなぁと。wikiに吐き出す勇気のない自分では自作のSS内で吐き出すのが精一杯っていう。悲しき性です。
次回、いよいよ吹っ切れたオリ主により正面攻勢。どこら辺から参入させようかな。
【追記】一部文章を訂正。内容に変化はありません。