魔法科高校と"調整者"   作:ヤーンスポナー

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今回は長めです。1.8話分位あります。悪しからず。
某音楽家は銃声が大好きでしたが、流石にクリスマスでオーケストラは流しません。皆さんサプレッサー常備です。どの銃でもそれは同じです。


さて、本編です。


第七十五話~失敗~

【Saturday,December 24 2095

  Person:operator1  】

 

 

 

 

 

 クリスマス、と言っても北米ではそう騒ぐ物でもない。

 むしろ戦後からは本来の"クリスマス"に近い代物にもなっている。欧米諸国がキリスト教を重んじるのは何時もの事なのだが、それでも真夜中に騒ぐような輩が減ったのは事実だ。とは言っても、戦前戦後共にクリスマスをイベントとしてしか見ていない国よりはマシだったが。

 

 

 街はクリスマスイブ前夜の為か、静かに眠っている。

 

 しかし、本当に"静か"な訳では、なかった。

 

 

『目標は現在"スターズ"に追われている模様。このままでは"また"遭遇戦です!』

 

「アルファはスターズを足止めしろ。こちらで目標を確保する。ブラボーは援護を頼む」

 

 そう指示を出し、サプレッサーをつけたボルトアクション式のライフルを構える。

 

 スコープなど付けていない。元から、必要もない。

 そもそも"たかが"五百メートルくらいならスコープで視界が狭まる方が厄介だ。

 

 狙いは、足。機動力さえ奪えば、後は待機しているチャーリーが回収してくれるはずだ。

 

 

 狙いを済まし、一撃。

 七・六二ミリ弾の弾は緩やかな弧を描き、目標の足に着弾する。

 いくら腕のよい魔法師といえど、攻撃を認識できなかったら防げない。

 足に弾丸を食らった目標は建物の屋上の上で転がり倒れる。

 

「チャーリー、足を奪った。直ぐに確保に向かえ、重武装汎用ヘリを向かわせる。絶対に"殺させるな"」

 

 そう言って目標が屋上に倒れた建物に向かう。

 いっそ古いと言ってしまってもいいくらいの、しかしそれこそ第二次世界大戦の頃から愛用され、部隊内でも統一されている四十五口径の拳銃を取り出し、取り付けられているライトで暗い夜道を照らしながら進む。

 

 

 裏路地を進みながら、ベルトに着けていた"杭"を取り出す。

 "漏れ出たもの"を"確保"する為の、唯一の手段。

 体が動けなくなっても抜け出してしまう"それ"を封印できる、現在調達できる中では最高の手段。

 

 否、"支給"されたのだ。元から、これ以外に方法はなかったのだから。

 

「これ以上手間取ったら顔向けできん・・・」

 

 唯でさえいらない戦闘を何度も引き起こしているのだ。これまでに目標を確保しようとし、何度もそれを同じように追いかけるスターズと交戦したのだ。

 

 最初の交戦の時点で行動をある程度抑えるように政府の立場から圧力をかけているが、そもそも総隊長が若い所為もあるのか、融通が利かない。

 

 それも、ある意味仕方ない。あちらからすれば自分の部隊から脱走者を出したのだ。自分で落とし前をつけなければ何時何処でスターズが"弱み"を握られるか分からない。だからこそ、一見利害が一致しているように見えても共同で作戦を展開できず、逆に対立する理由になっている。

 

 

 しかし、こちらとしては正に"我々の存在そのものの意義"が掛かっている。もはや、これ以上手間取るわけには行かない。

 

 

 今度こそ、何事も無く終わってくれ。そんな願望は、今回も儚く散る。

 

『こちらチャーリー、"スターズ"と遭遇、只今足止めを食らってます!現在の位置は目標のいる建物の三階です!』

 

「いくら時間がかかる?」

 

『攻撃が激しく、援護がないと突破は不可能です!くそ、化け物かあいつらは!』

 

「それならば一旦引け。奴の行きそうな場所をマークする。そちらに向かえ」

 

『了解!』

 

 またか、と心の中でため息を吐きながら通信を切る。

 建物の影からは、また人の影が別の建物の屋上へ跳ぶところが見えた。

 

「こういうのは日本の特殊部隊の方が向いてるな・・・。あいつらは言わなくても分かってるようだし」

 

 昔日本で厄介な魔法師を街中でハンティングをした時の戦闘記録をNo4から貰ったことがあるが、彼らは奇襲などの能力に特化してる分こういう作戦には向いている。今手元にある最高の戦力の使い方をある種間違っているとは言え、力不足に感じたのは仕方のない事だろう。

 

 しかし、無いものねだりをしたところで仕方がない。

 今やることは、目標を確保する為に彼の機動力を奪うことだ。

 

 目の前の建物の緊急避難用の梯子に取り付き、全力で屋上へと向かう。

 

 目標に目を向けると、建物と建物の間を飛びながら逃げる目標と、それを追いかける者達を確認できた。

 

 追いかけているのは、"デルタ"ではない。そもそも"デルタ"では目標の速度にはヘリでも使わないと追いつけない。

 目標を直接跳びながら追いかけているのは、全員"スターズ"のメンバーだ。

 

「あいつらの目的は"確保"じゃなくて"処分"だ。そうなると、面倒くさいことになりかねない。その前に、なんとしてもこちらで"確保"しなくては」

 

 その言葉と共に、梯子を最後まで上りきる。

 屋上に上がると同時に、ボルトを後進させ次弾を薬室に送り込む。

 

「片足で動けても、両足ともでは動けまい」

 

 目標自身も警戒しているだろうが、複数に追いかけられながらでは落ち着いて防御も出来まい。

 

 彼の健全なもう片方の足へ狙いを定める。

 

 

 しかし、引き金を"引く"段階まで来たところで、視界の端に影が映る。

 

「クソッ、アルファが抜かれたか?!」

 

 そう叫びながら、ナイフを取り出し後ろへ振り返る。

 飛び掛る"スターズ"のナイフを右手のナイフで受け止め、もう片方の手で腹に肘打ちを入れ、お互いの距離が少し離れたところで同じ場所に右足からの蹴りを放つ。

 

 飛び掛ってきた方向とは反対方向に大きく倒れる"スターズ"に向けて拳銃を取り出し、頭に向けて弾丸を放つ。

 

 先ほどの一撃で意識が飛んだ"スターズ"の隊員はまともな防御魔法を行使することも出来ず、そしてそのまま"無力化"される。

 

 

 しかし、彼自身の役割を果たせたかどうかで言えば、間違いなく"果たせていた"だろう。

 

 

「止まりなさい!・・・・・ド・フォーマルハウト中尉!最早・・・・・・のは分かっている・・です!」

 

 距離が遠い為途切れ途切れにしか聞こえないその声は、それがこちらの作戦の"失敗"を示していたことは明白だった。

 

「クソ・・・ッ!やられた!」

 

 "スターズ"自身は既に目標を包囲している。この場で必要なのはむしろ"スターズ"の包囲網に穴を開けることだ。

 しかし、"スターズ総隊長"の性格はともかく、その腕前から多少の穴が出来た程度で目標を逃がすとも思えない。

 

「全隊へ、目標は南東のモーテルの屋上で"スターズ"に包囲されている。直ぐに向えるか?」

 

『最も近い部隊でも三分は掛かります!』

 

「急げ!」

 

 足並みを揃える必要性を無視してでもこちらから最初に狙撃を開始するべきか。その迷いの間に、"スターズ総隊長による問答"は途切れつつも聞こえてくる。

 

「この街で起きて・・・・・殺事件も、貴方の・・・・・シスによる・・・・・う者が・・す。まさか、そん・・・・・・・・・んよね?・・・・・ディ、答えてください!」

 

 その直後、目標の付近から何かが"燃える"のを目にする。

 

 

(これは間に合わない!)

 

 そう決断を下し、ライフルを再度構える。

 

 しかし、弾丸を放つ前に、結果は決まってしまった。

 

「・・・・・・ウト中尉、連邦・・・・・・項に基づく・・・ズ総隊長・・・により、貴方を・・・します!」

 

 その言葉と共に、"彼女"から放たれた弾丸が、目標の心臓を貫く。

 その時点で、すべきことは確定した。

 

「全隊に告ぐ!目標が死亡した!直ぐに撤退せよ!"取り込まれるぞ"!」

 

 そう叫ぶと共に、自身もロープを手すりに括りつけ素早く下へと降りる。

 "アレ"は管理者である自分ですら苗床にできる。直ぐに退避しなければ、苗床を失った"アレ"は手近な物に寄生してしまう。

 その時の"かわいそうな犠牲者"が身内であった場合は最悪極まりない。だからこそ、目標を"殺してはならなかったのだ"。

 

「向かわせていたヘリをスタジアムへ着陸させる。そこまで全力で撤退しろ!あれが何物かに"寄生し終えた"らその後にもう一度確保する!今は速やかに作戦地域を離脱だ!」

 

 スターズの追っ手は来ていない。また、各隊にも追っ手はいないようだ。"スターズ"自身は目的を達成したのだ。そしたら妨害勢力が撤退した。奇妙には思うかもしれないが、追いかける必要は彼らにも無いのだろう。

 

 しかし、何時までもその場に留まり死体を回収しようとするぐらいなら一マイルでもいいからその場から離れて欲しかった。

 スターズの隊員を苗床にされてしまっても困るのだ。目標の手ごわさが一段階上になってしまう。

 

 しかし、今から言っても間に合わないだろうし、恐らくは聞き入れられない。

 現状できることは保身で精一杯だった。

 

 

 ライフルをぶら下げ、拳銃を片手にスタジアムへと走る。

 後四分ほどで到着できる。各隊も最後尾の部隊でさえあと十分以内では到着できるだろう。

 

「まったく、貧乏くじだ。まだ一つも"回収"できてないんだぞ・・・!」

 

 その間に、他の"七つ"の行方も調べなければならない。海外に逃げていた場合は、そちらの方に頭を下げなければならない。

 

 全力を尽くしたとはいえ、落ち度には代わりが無い。

 失敗の尻拭いをさせることになってしまう。罪悪感を感じずにはいられない。

 

 

 頭上を、ガトリングと重機関銃で武装したヘリが通り過ぎていく。

 その姿を認めながら、開けた視界に映ったスタジアムへと向かっていった。

 

 




"あれ"については、もしかしたら次回か次々回から分かってくるはず。

さて、このSSでは銃などの名前を明確に示すことは出来るだけ控えてます。いくら銃火器が大目と言っても、原作・アニメ共に形がハッキリしていない物を描写するわけにはいきませんから。ただし序盤のAK47やRPG-7などはアニメにて使用がほぼ確定的なレベルで描写されてるので明記しました。誰でも知ってますし。
ですが流石に他の物をぽんぽんと名前出すのも雰囲気にはあわないだろうと判断し、口径と銃の分類の表示のみで留まっています。もしかしたら名前書いた方が雰囲気でるのかなぁとも思ったことはありますが、一応魔法科高校の劣等生は魔法の物語ですから、余りに銃器を目立たせすぎるとあまり合わなくなりますしね。

さて、次回に関しては未定です。雰囲気出す為に久しぶりに達也回も出すかもしれませんが、もし文字数が1000後半以上できなかった場合そのままオリ主回になります。

【追記】脱字を修正しました。毎度申し訳ありません。

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