魔法科高校と"調整者"   作:ヤーンスポナー

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No1は来訪者編の重要な脇役になる予定。
しかしたぶん年末は日本は静かかも。とはいっても察するべく所は察した方がよいでしょうがね・・・。

さて、本編です。


第七十四話~対岸~

【Sunday,December 11 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

 家の地下の部屋の中で、コーヒーを飲みながらモニターを眺める。

 こうして落ち着いて仕事に取り掛かれるのは妙に久しぶりだと言う感覚がある。

 

 "高校生"の身分だったときは随分と振り回されたものだ。しかし、今こうやって抜け出すと腰を落ち着けることが出来、安心する。

 

 

 とは言え、懸念事項はもちろんのことあるのだが。

 

 

「四葉は、本当にこちらの傘下に入りたいだけだったのか・・・?」

 

 十一月の対話の後、四葉は実にこちらの手足としてよく働いてくれていた。魔法師社会に対する我々の"窓口"としてはむしろ優秀すぎるほどだ。

 

 何せ"我々"の要望が"四葉"の要望と本気で捉えられてしまうのだ。"目立つ事柄を好まない"という点で方向性が一緒なのもあるだろうが、一番は"四葉"そのもののネームバリューが大きすぎる点だろう。

 

 こちらは四葉の体面など気にする必要など無い為、遠慮なく要求を言える。そして、それを忠実にこなすことで四葉は"我々"に依存させようとする。ギブアンドテイクと言ってもいいのだろう。四葉自身が"我々の傘"に守られる保障にもなるのだ。確かに、利益としては大きい。

 

 

 しかし、それだけなのか?

 四葉は確かに"我々"を敵に回すことの危うさを知っている。が、それでは"日本魔法師社会そのものを裏切る"様な行為に手を出すには弱すぎる気がする。

 

 何かしら、四葉はもっと大きな秘密を隠しているのではないだろうか。それも、"こちらに取り込まれないと四葉そのものが消え失せる可能性が出てくる物"を。

 

 

「・・・分からんな。だからと言って聞いても答えてくれるとも思えん」

 

 考えても仕方ないのかもしれない。そもそも、考えただけで答えは出てこない。

 ともかく現状として、四葉はよく働いてくれている。こちらが態々言わなくても、必要なことは行ってくれる。こちらは仕事の粗のチェックに専念できる。今必要なことはせっかく前よりは穏やかになった今の状況をまた更に波立たせないようにすることだ。

 

 魔法師の抑制も四葉のおかげで上手くいっている。この調子ならばあと数か月で下火に入るだろう。中華系アングラ組織の動きが見えるため別の騒動も起きるだろうが、そこに介入する必要性を余り見出せない。

 

 

「後の懸念事項は、"彼"の抑え込み方だけ、か」

 

 対話の後で得たその"方法"もどうも抽象的な言い回ししかなかったが、要するには"妹さんを四葉に逆らえなくさせれば、司波達也も四葉に逆らえなくなる。そして四葉に逆らえなくなるということは、烏に逆らえなくなるという事になる"とのことらしい。方法はこれを聞いただけである程度は思いつく上、不可能では無い為あまり追及はしなかったが、どれにしても"四葉を傘下に入れ続ける"事が前提となっている。

 四葉の、というより四葉真夜の欲が見えている格好になるが、そこを今気にしても仕方がない。有益となればたとえ乗せられているとしても、今は別に構わないのだ。

 

 

 

 そう、頭の中で結論付けたとき、コマンドからパスで呼び出された。

 

〔moderator9:失礼します。お耳に入れたいことがあるのですが、よろしいですか?〕

〔operator4:どうした。何か問題でも起きたか〕

〔moderator9:今のところは対岸の火事で済んでいます。ですが、USNAでどうやら事が起こっているようなので、一応〕

〔operator4:No1の奴からは何も聞いてないぞ。起こした行動もせいぜいダラスでのマイクロ・ブラックホールの視察ぐらいなもんだろ〕

〔moderator9:はい、そのはずです。ですが、その直後からいきなり工作が過激化しているように見られます〕

〔operator4:と、言うと?〕

 

 そう聞くと、余りいい予感のしない答えが返ってきた。

 

〔moderator9:どうもアメリカ内部で管理者No1は"デルタ"を動かしているようです〕

〔operator4:本当に穏やかじゃないな。直後から今まで続いているってことは、何かしらのフォックスハントか?〕

〔moderator9:のようですが、何があったのかは不明ですが"スターズ"の部隊との衝突が繰り返されています。静かにやっているので表沙汰にはなっていませんが、これは本気で殺し合ってるレベルです〕

〔operator4:おいおい、あのNo1がそこまで躍起になるほどの事態がアメリカでは起こってるのか?俄かには信じられんな。それとなく聞いておいてくれ〕

〔moderator9:彼の直下の調整者達には聞いてみますが、直接聞かれた方がよいと思いますが?〕

〔operator4:厄介ごとに巻き込まれたくない。必要ならあっちから話が来るだろうさ。何が起こってるのか把握だけしたい。頼む〕

〔moderator9:分かりました。それでは〕

 

 その言葉を最後に、パスが切れる。

 しかし、話の内容には今だ釈然としないものを感じ取っていた。

 

 No1は調整者の中でも荒事は好まない性質だったはずだ。もちろん実力は1から4、つまり俺までは基本的にどれも同じなのだが、方向性としてアメリカという巨大な国家から管理していったのもあるせいか、かなりやり方が"静か"なのだ。

 もちろん"我々"を外から見た場合やり方はいつもは"静か"にもほどがある部類だ。どうしてもと言う時は考えられないほど派手だが、それだけの決断もできる。

 

 しかし、今USNAでNo1がそれほどの状況に追い込まれるだけの可能性はあまり見えない。せいぜいダラスの時の"次元に穴が開いたら余計なものが紛れ込むかもしれないから見張っておく"という代物だ。

 ただ、本当にただの"虫"なら対処はさほど難しくないはずだ。もしかしたら、よほど強力な"物の怪"とやらが入り込んだのか。

 しかし、マイクロブラックホールで生成される次元の穴はそこまで大きなものを通せるとは思えない。通れる物であるのならNo1が片手間に消してしまえるはずなのだ。人間には難しいかもしれないが。

 

 

 どうも、年末年始も忙しくなるかもしれない。

 やはり"高校生の身分"から抜け出しても今年という"厄年"からは逃げられないのか、と半ば投げやりな考えを浮かばせながら、もう冷えてしまったコーヒーを飲み干し、次の一杯を取りに行った。

 

 




ということで、アメリカの様子が噂越しですがひどい状態になってます。

ここでちょっと解説。
オリ主が特殊作戦群予備分遣隊を傘下に置いているように、アメリカではNo1が第1特殊作戦部隊デルタ分遣隊を傘下に置いています。これも理由は日本と似たようなものですが、アメリカは日本のようにデルタを魔法師の兵士に変えていくというものではなく、最初っから使い勝手の良い魔法師部隊を直接作られたせいでデルタそのものの価値が低下してしまったのです。それをNo1が吸収した形になります。
ですが、対魔法師戦闘では特殊作戦群予備分遣隊に数段階劣ります。普通の魔法師相手だったら余裕だけどスターズ相手だと押され気味。特殊作戦群予備分遣隊はまず魔法師相手にはまともに戦いませんから、多分先にスターズが擦り切れる。時間はかかるけど。
ただ、規模は桁違い。特殊作戦群予備分遣隊と比べたら兵力的には比較できません。だって一部隊の予備扱いに回された兵士を部隊化したところと、元から一部隊そのものだったものを比べたらどうしてもね。仕方ない。

さて、ちょっと不穏な話が聞こえたわけですが、この先どうなることやら。

次回、No1視点。クリスマスです。降ってくるのは雪ではありません。

【追記】一部ひらがなになってたので漢字に直しました。

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