さて、本編です。
【Friday,November 4 2095
Person:operator4 】
こちらの後ろに立っていた、黒いドレスを纏った少女。
まさか、この場にただ偶然としていた訳ではないことは、見ただけでも分かる。
"彼"が四葉の人物だと勘付いた時点で、四葉に関しては調べたのだから。
「黒羽・・・だったか?」
「ご存知でしたか。なら、お話は早く進むと思いますわ」
そう言って、少女は静かに笑う。
なぜこちらの位置を把握できたのか、などと邪推するつもりは無い。十師族相手にむしろ現在位置を上手く把握させないようにすることは可能ではあるが難しい。そして、わざわざ"これから消える相手"に対してそれらの警戒をするつもりもなかった。
「わざわざこちらと直接会いに来たってことは、それなりの用件があるのかは知らんがな。別に今耳を貸すつもりはないな」
「それでは困りますわ。私も御当主様に言い付けられた上で、貴方に伝言を伝えなければいけません」
「・・・今まで俺は四葉と関わったこともない。伝言を聞く必要もないと思うがな」
そう言って、少女を見る。
よく訓練されている。率直に、そう思ったのは間違いではないだろう。
戦闘力などというものは一目見ただけで分かる。しかし彼女は、先ほどから常に笑みを崩してはいない。
何を考えているのか、悟らせない。確かに、四葉のエージェントの能力としては必要不可欠とも言えるだろう。
「御当主様も"初対面の人物に伝言を"と言う風に仰っていたので、間違いはありませんわ。聞くだけでも、いかがですか?きっと、興味を持ってくださるとの事ですよ」
「・・・とりあえずは言ってみろ。判断は、こちらでする」
「ありがとうございます。では、内容なのですが、"司波達也の管理について"とのことですわ」
「・・・あいつが四葉の身内だってのは知ってる。仮に、お前のところの主人がこちらの正体と意図を察しているとしよう。しかし、四葉にあいつを止められるとは思えないな」
そう答えつつ、四葉側の能力についてはある程度の推測が出来てきた。
確かに"彼"を押さえるだけの力が無いのは事実だろう。恐らくはどのような手段を用いても彼の行動を抑制することは出来ないはずだ。
しかし、それでもその話題を"今"こちらに出してきたと言うのには限りない意味がある。
四葉を作戦の一環で潰そうとした矢先に、肝心の四葉からこちらの関心を引くカードを切り出してくる。
これは、詰まる所こちらの行動を察知することが出来ていると言うことだ。
数日の猶予があったが、こちらのコマンドに関しては盗み見られる余地は無いに等しい。
と言うことは、"神の杖"の動向を察知されたのだろう。
四葉・・・というより四葉真夜がフリズスキャルヴのアクセス権を持っていることは知識としてはある。恐らくはそこから探られたのだろう。
しかし、よくもこちらの考えが読めたものだとは思う。
老師の発言からしてどうも四葉は"我々"のことを知っているようだった。
それも含め、一度聞いてみた方がいいのかも知れない。
しかし、だからと言って彼らに猶予を与えてしまってもいいのか。
七草にそこまでの能力はあるとも思えない。九島に関しても脅威なのは九島烈個人であって九島家全体ではない。
しかし、四葉がこちらの動きを察知してる状況で猶予を与えてしまいたくは無い。
確かに、一週間で同じ体制には整えられる。しかし、一週間は掛かるのだ。
その間に、四葉は完全に対策をしてしまいかねない。
「私は唯の伝言役に過ぎませんので、詳しいことは分かりませんの。しかし、あなた方にとっては一蹴できるほど安易な事でもないと思いますよ?」
これは、事実。
七草と四葉を潰し、こちらに権限を挿げ替えること自体に躊躇は無い。
しかし、それを達成した後の一番の問題として"彼"のコントロールが挙がっているのも事実。
考えがあるなら、聞いてもいいのかも分からない。
しかしどちらにしろ、唯一つの伝言から全てを察することなど出来るはずもない。
とりあえずは、会ってみることにした。
「・・・日曜日に、そちらに向かうと返しておいてくれ。話だけは聞いてやろう」
「迎えは如何なされます?必要だとは思いますよ」
「いらん。唯の伝言役は俺の言葉をお前のお上さんに伝えることだけ考えてればいい」
「分かりましたわ。それでは、失礼致します」
その言葉と共に、少女が去っていく。
「あちら側の意志なんぞは分かりきっているが、どちらにしろ数日は掛かるんだ。遠巻きにやるかど真ん中でやるかの違いにしかならんか・・・」
後で"神の杖"の対象を四葉から七草に変更させた方がいいだろう。
四葉へ向かう以上は四葉でコマンドを起動させた方が早い。七草邸周辺の被害はコマンド以上に大変なことになるだろうが、数週間の二十四時間労働が増えるだけだ。まだマシと捉えた方がいいだろう。心は折れそうになるが。
「こちらの気を引けるカードくらいは持っているんだろうな?全く・・・」
足元に残された、黒い羽を見ながら、そう呟いた。
ってことでとりあえずは無駄足でも構わんように計画を修正。しかし東京に神の杖をぶち込む事を許容範囲とするのは流石にどうかと思わなくも無い。
多分察しのいい人はある程度の展開は読めるんじゃないかなとほんとに思う。特に本編を細かく読んでいらっしゃる方は。
なお、黒い少女の正体。亜夜子ちゃんです。タイトルも"烏"から"羽"と続けたしね。決して文弥ちゃんではないです。あれは少女じゃない。
次回、舞台は日曜日に移る。