魔法科高校と"調整者"   作:ヤーンスポナー

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ちょっと展開が急な気もしますが、そこらへんは勘弁を。


第六十八話~亀裂~

【Monday,October 31 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

 結局、横浜での一件はあの後一時間ほどして完全に終結。

 撤退する揚陸艦に乗れなかった大亜連合兵士たちは次々と降伏、また撤退できた揚陸艦は"彼"の手により完全に消滅した。

 

 結果は、日本の一人勝ちと言ってもいいだろう。最低でも強力な外交カードを裏で手に入れることができたのは大きな収入だ。

 

 

 

 しかし、"我々"の仕事は減るどころか、むしろ大きな問題を抱えていた。

 

〔operator4:国防軍首脳部の行動が抑えられないだと?!〕

〔moderator9:はい。大亜連合が集結させている艦隊の無力化を目的としているようです〕

〔operator4:んな事は最初から分かってる。現在講和交渉中だって言って抑えろと言っただろうが!〕

〔moderator9:それがどうもこちら側の譲歩が前提とされた講和だと見られているようで・・・。国防海軍に関しても制海権確保ではなく大亜連合に対する上陸戦、もしくは威圧を目的とした行動を開始しています〕

〔operator4:つまりは最初から敵艦隊を潰せる事が前提か・・・。戦略級魔法師の所在を今すぐ洗い出せ。恐らく統合幕僚会議が取ろうとしてる手段は戦略級魔法の行使だ〕

 

 

 国防陸軍内部で強硬派の意見が強まり、その結果の大亜連合に対する一連の行動の硬化。

 唯でさえ今は水面下で交渉が行われ始めたばかりなのだ。そんな中で行動を起こされたら纏まる話も纏まらなくなってしまう。

 加えてその混乱下に置いてはせっかく手に入れた"大亜連合の核"が外交カードとしての価値さえ消えてなくなってしまう恐れもある。

 

 

 加えて、"今、この状況下で戦略級魔法師が活躍する"という事態そのものがこちらにとっては限りなく拙い。

 

〔operator4:ここで戦略級魔法なんて実戦投入されてみろ。NBC兵器と比べた魔法の優秀さが露呈しちまう。他国なら問題などないが、こちらは魔法師社会に対する直接の影響力など持っていないんだ。そんな状態で魔法師の価値がどのような形でも上がってみろ。手が付けられなくなるぞ〕

 

 現在全体的には日本がリードできるだけの材料を揃えているとはいえ、軍事的には未だ大亜連合が優勢と見られている。それを、ただの魔法の一撃で逆転させられたらその事実を世界が認識することになってしまう。

 他国ではそれでも魔法師をコントロールできるだけマシなのだ。しかし、日本に関しては話が違ってくる。

 "我々"はまだ決定的な魔法師社会に対する影響力さえ持ってない。その状況で魔法師に影響力を与えようものなら手を付けられなくなる。

 

 

 加えて、"戦略級"という側面に限定した場合、むしろNBC兵器より魔法のほうが優秀であることが事実であるのだから尚更性質が悪い。

 

 戦術級以下はどちらかというと"質"もそうだが"数"が重要なファクターとなる。全国民が魔法師にでもならない限りまず軍全体を魔法師に置き換えることさえ出来ず、また簡単に生産できる通常の兵士と比べ魔法師というのは替えが効きにくい。そういう意味ではむしろ魔法師というのは"単価の高い兵士"という物なのだ。特技兵に近いものと言われれば分かりやすいはずだ。

 

 しかし、戦略級にはそもそも"数"はあまり重要なファクターではない。"持っている"という事が重要なのであって、それに付随する必要なファクターは圧倒的な"質"だ。

 しかも、通常の戦略級と呼ばれるNBC兵器はそうそう生産できるものでもなく、また実用可能な年数も数十年とかなり短い。

 しかし、魔法師は今からでも最高の"質"を求めることが可能で、しかも実用可能な年数も"彼"を例に挙げただけでも大よそ七十年は容易に超えてしまう。

 

 これらの点から"戦略級"に限って言えばNBC兵器より戦略級魔法師の方が有効であることは自明の通りだ。

 しかも、これらを軍事的な方針に最も取り入れやすい国はよりにもよってこの日本だ。一回でも有効性を実証されてしまった場合、ほとんど手を付けられなくなる。

 

 

 実際はそれに対するプランも用意されている。が、限りなく大きな騒ぎになることは必至だ。それは出来る限り行いたくない。

 

 

〔moderator9:確認取れました。五輪澪は五輪邸にて確認が取れました。現在国防軍との交渉中のようです〕

〔operator4:そいつは違うな。今から行動を行うつもりならむしろ挙動が遅すぎる。恐らくは大黒竜也・・・"彼"が艦隊を消し飛ばすつもりだ。"彼"はどこにいる〕

 

 

 "やりすぎるな"。確かにそう、警告はした。しかし、今回はその警告がきちんと受け入れられるかどうかは怪しい。

 今までの彼の分解魔法はまだ"局地的"の範囲でぎりぎり収まっていたからこそさほど目立たなかったのだ。

 しかし、今現在大亜連合が集結させている艦隊をもろとも消し飛ばす威力を出すつもりなら、どう足掻いても今までのままでは済まない。

 

 

 そして、嫌な予感は見事に的中した。

 

〔moderator9:・・・"彼"は、対馬要塞にて確認が取れました。"サード・アイ"と呼ばれる代物もそちらにあるようです。また、統合幕僚会議にて"マテリアル・バースト"の戦略的使用が既に承認されているとの事〕

〔operator4:今すぐ止めさせろ!手遅れになるぞ!〕

〔moderator9:そ、それが・・・〕

 

 その言葉と共に、地下室のモニター内の軍事衛星の画像の一つが、ブラックアウトする。

 大亜連合の艦隊を監視していた物だ。

 

 

〔operator4:・・・何てことだ〕

〔moderator9:・・・こちらでも、"マテリアル・バースト"の発動を確認しました。・・・手遅れです〕

 

 椅子に、ぐったりと座りこむ。

 完全に、後手に回ってしまっていた。

 

〔operator4:・・・畜生。手落ちだったな〕

〔moderator9:・・・申し訳ありません〕

〔operator4:・・・終わったことは仕方ない。後始末をするぞ。とりあえず国防軍強硬派に関してはとことん締めておけよ〕

〔moderator9:了解です。他には?〕

 

 

 決断は、既に迫られていた。

 迷いはない。しかし、出来れば実行には移したくなかった。

 しかし、この他に方法はない。もはや、実行に移すしかなくなった。

 

〔operator4:・・・"神の杖"は、どれくらいで日本を直下に捉えられる?〕

〔moderator9:およそ、一週間以内には〕

〔operator4:・・・分かった。各員に伝達。"対日魔法師対策行動群コード666"を発令。手段は"α"(アルファ)だ〕

〔moderator9:ま、まさか・・・〕

〔operator4:しかしこの他に手はない。復唱しろ〕

〔moderator9:りょ、了解・・・〕

 

 

 

〔moderator9:"対日魔法師対策行動群コード666"の発令。想定、日本の魔法師社会が干渉不可能、または干渉の可能性が絶望的な状況に陥った場合。内容、深刻なダメージの付与とその後の工作による最終的解決。方法、衛星兵器及び"コマンド"を用いた、日本の魔法師社会の中核を成す一部の十師族の完全な"破壊"、及びその後の魔法師社会に対する工作による権益の奪取。準備を、進めます〕

 

 




オリ主の決断。悩む時間はごくわずか。
詳細は次話にて説明することになります。ちょっと一話では収まらないので・・・。

もちろん、目標とする十師族は見当はつくかと思います。別にバレバレなので隠すつもりもありませんが。

次回、どの時系列になるかは未定。

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