【Sunday,October 30 2095
Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】
前回の尋問後での戦闘では結局解放された後に"彼"によって残されていたのは戦闘の跡と昏睡した呂剛虎、そしてもはや国家機密を名目に黙して何があったのかさえ話さない八王子特殊鑑別所だった。・・・と言っても、こちらは"眼"で、そして真由美は"マルチ・スコープ"にて何が起こったのに関しては把握していたのだが。
"彼"の目標が情報の独占だと仮定し、早々に工作隊の確保作戦を進めるべきと具申したのは正解だったと今更ながら思う。現に独立魔装大隊による強襲作戦と同時刻に秘密作戦中の国防軍との遭遇があったとの事だ。狙いが工作隊の確保だということは分かりきっていたのだから。
しかし、関本勲の身柄を押さえられたのは痛手としか言えなかった。
「本当はせめてもう一回は尋問したかったんだがね・・・」
「家の名前でごり押しできることでもないし、そうなるとやることもないからね」
そう話す摩利と真由美はどこか不満げだった。関本勲が何処に移送されたのかさえ"機密"と言って教わることはなかった為、そもそも面会の許可を取りに行くことさえできない。七草の名前でごり押すにしても時間が足らず、結局予定より早めに会場入りしたと言うことだ。
「論文コンペの資料が狙われていた以上、コンペの当日に背後組織が新たな行動を起こす可能性は決して小さくない。せめて情報だけでも得たかったのだが・・・」
「無い物をねだっても仕方ないでしょうから」
「そうだ。つまり、今後の事態は予想できない」
そう断言して注意を促す二人に対して、こちらは一人だけ、知り得る人物を確実に知っていた。
"彼"なら、関本勲に関する情報も知っているだろう。それどころか、これから何が起こるかさえ分かっているはずだ。彼の勢力は皮肉なことに、今こちらが一番欲している情報収集能力に関しては完全な物を持っている。しかし、"彼ら"は今回のことにもどうやら無干渉を貫くつもりらしい。
しかし、聞いてみるだけ悪くは無いか。そう思い直し、一旦控え室から出た後端末に連絡をかける。確か今日は"彼"は幹比古達と一緒に会場に来ていたはず。適当に呼び出して聞いてみればいいだろう。
しかし、出てきた音声は電源が切れている事を知らせる物だった。
急ぎと言うわけではないが、念のために今度は幹比古の端末に掛けてみる。現在ならば観客席に座っているはずだ。
こちらは今度は、数コールで出た。
『もしもし、達也?いきなりどうしたんだい?』
『すまない幹比古。近くに借哉はいるか?』
しかし質問の答えは、何か引っかかる物だった。
『いや、ついさっき会場から出て行ったよ。どうにも家の用事があるって言ってた。どこかと電話してたみたいだし』
『家の用事?』
『詳しいことは聞いてないんだけど、特に引き止める理由も無かったし』
『何か変わった様子はなかったか?』
『え、いや・・・・。でも、どうも初めから最後まで見ていく気がなさそうな感じは覚えたかな』
『そうか・・・。ありがとう。念のために周りを警戒しておいてくれ』
『え?分かった。何かあったのかい?」
『念のためだ。そう真剣に考えることじゃない』
『分かった。一応そっちも気をつけてね』
その一言で通話が切れる。
「どうも引っかかるな・・・」
もし無干渉を貫くつもりなら、会場に居座っていても問題ないのではなかろうか。しかし、彼自身にも態々論文コンペの応援をする義理は確かにない。しかし、それを言うならばそもそも幹比古たちと一緒に会場に入ることさえしなかったはずだ。
電話をしていた、ということは急な情報が舞い込んだのか。しかし、それにしては行動が少々順序立ち過ぎている気がする。
何か、起こるかもしれない。しかし、それが何かを予想することは出来ない。
藤林から渡されたデータカードから見ても、決して何も起こらないだろうとは言えない。しかし、そこまで大事が起こるとも、余り思えない。
("彼"だけが知っている情報がある・・・。恐らくはソレに基づいた行動か?)
彼のこれらの行動を総括すると、どうも"何かに対処する"というより、"厄介ごとから逃げている"と言う方がしっくり来る行動の仕方だ。もちろん彼なら多少の厄介事などさほど問題にはならないはずだが、そもそもが厄介事を嫌う性質にある。そう考えると、大なり小なりこちらに何かが起こると考えるのが自然か。
しかし、似たようなことはまさに"四月"の時がそれだった。
表向きは厄介事から逃げている。しかし裏では、むしろ何かしらの手を回している。
今回も、そうである気がしてならなかった。
次回、オリ主回。