魔法科高校と"調整者"   作:ヤーンスポナー

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前回の話を見直してみて妙に展開早く作りすぎてるなと思い反省してるっていう。

今回は長め、かも。


第五十四話~暴虎~

【Wednesday,October 19 2095

  Person:operator4   】

 

 

 

 

「くっそ、間に合えよ・・・!」

 

 路肩にあったバイクを適当に盗み、後を追いかけるがまだ姿を目にすることではできない。

 こういう時はむしろ魔法というものの有用性を感じなくはない。場所や時間を選ばない高速移動手段となり得ると考えれば必要性もある意味感じられる。

 

 

 別に、もはや能力の知れた"NSAの工作員"なんぞ放っておいても本来は構わない。しかし、こちらから接触して接触前に工作員が死ぬなんてことは出来る限り関係性の維持という意味では避けたい。その方が手数を借りる際にスムーズに事が運ぶ。

 

 

 約一駅ほどの距離が離れた路地裏につき、そこでバイクを乗り捨てる。

 すぐさまあたりを警戒しつつ、それでも駆け足で奥へと入る。

 

 

 しかし、結局は間に合わなかった。

 

 

「クッソ、やっぱり間に合わんかったか」

 

 そこにいるのは、大柄な、しかし引き締まった体つきの東洋人と、

 喉を貫かれていた"先ほどの工作員"(ジロー・マーシャル)だった。

 

 東洋人が、工作員を貫いていた右手を引き抜き、こちらへ体を向ける。

 

「どうしたもんだか・・・」

 

 限りなく状況は悪かった。

 相手は少々の軍事知識がある人ならば知っている。

 大亜連合の工作員。"人喰い虎"と呼ばれる、凶暴な魔法師。

 

「呂剛虎に顔なんざ覚えられたくはないんだが・・・」

 

 それも、現在の手持ちの武器でさえ満足に使えない状況下でだ。

 一応はいつもの保険として拳銃、閃光手榴弾を持ってはいる。しかし、今の格好は制服だ。それらをいきなり懐から出そうものなら面倒なことになる。

 コマンドで消すことも簡単だが、それこそ今の格好で他人に見られてはまずい代物だ。

 

 残された装備は、アーミーナイフが一本。これが、現状況下で使用が許される限界。

 

 懐からそれを取出し、構える。

 

「逃げてくれるならそれでよし。元から楽に勝てるとも思っていない」

 

 

「――――さぁ、来い」

 

 

 その言葉が聞こえたかどうかは分からないが、その言葉と同時に彼がこちらへ向かってきた。

 

 先ほどと同じように首を狙って手が伸びる。

 その右手を狙い、断ち切るつもりでナイフを振る。

 その瞬間、まるで何かを"恐れるように"彼は急に手を引っ込め、数歩下がった。

 

「野生の勘ってやつか・・・。なかなかに優秀なやつだな」

 

 そう呟く。

 対して呂は彼自身が抱いた強烈な危機感が一体何なのかも理解できていない様子だった。

 当たり前だ。たかが高校生のナイフの一振り。確かに自分の攻撃が見切られていたことに対する驚きはあるだろうが、それ以前に"彼の魔法の腕ならばただのナイフの一振りなど服をなでるのと一緒"であるはずなのだ。

 

 しかし、ジリ貧なのはこちらも一緒だ。

 何よりもまずナイフ以上に射程のある武器を使えないのが厳しい。

 確かに彼を相手に拳銃など効果はないと思うかもしれない。しかし"拳銃による攻撃"があるのとないのとだけでも十分に違ってくる。

 拳銃による攻撃があるということは、それに対して対抗する必要があるということだ。たとえそれがいくら容易であったとしても、対抗する必要性が出てくるという点で優位に立てる。

 それに対して、拳銃による攻撃が無いと言うことはそもそも気にする必要性さえないのだ。その分こちらが不利になるとも言っても良い。

 

「さて・・・どうしたものか」

 

 自分の懐の拳銃を今使うわけにはいかない。極めて合理的に、こちらが拳銃を持つことさえできれば良いのだが。

 

 

 その時、彼の後ろにある物が目に付いた。

 

「・・・これだな」

 

 この状況をいくらか改善しうる手段。

 この場は、"彼の後ろに行くこと"さえ出来れば、此方の勝ち。

 

「祈るしかないな・・・。祈る神が、ここにいるかは分からんが」

 

 そうぼやきながら、再度構えなおす。

 

 

 彼も一時の混乱から立ち直ったようだ。

 

 

 再度、彼が突進してくる。

 

 

 そして、彼の攻撃を、あえてナイフの"峰"の部分で受け流し、"ソレ"の元へと走る。

 

 

 "NSAの工作員"(ジロー・マーシャル")が残した、右手の拳銃。

 

 

 それを素早く拾い上げるや否や、大まかな狙いのまま三発を撃ち込んだ。

 拳銃による攻撃を想定していなかった呂は魔法の発動が遅れ、飛んできた銃弾の内、左肩に一発当たり、そして脇腹に一発が掠った。

 

 ダメージを負った彼に対して、再度、今度はきちんと狙いをつけた上で三発を、先ほどより間隔をあけて撃ち込む。

 今度は流石に彼も防御したものの、動きは止まる。

 

 もう、拳銃によるダメージは期待できない。すぐさまナイフを今度は左手に構え、近接格闘の構えを取る。

 

 牽制射撃を加えつつ、攻撃を誘おうとしたところで、彼の後ろから人影が出てきた。

 

「借哉!」

 

 その言葉と共に、レオとエリカがそれぞれの得物を取り出して近づいてきた。

 

 三対一。拳銃によりダメージを負った体では不利と判断したのか、彼が選んだのは逃走だった。

 

 魔法を発動し、壁を蹴り上げながら上へと逃げていく。

 

「逃がすか!」

 

「待て!追うな!」

 

 追おうとするエリカに対し、大声でそれを止める。

 

「あそこで追っても返り討ちにあう可能性のほうが高い。相手が逃げてくれるならそれでいい」

 

 そう言いながら拳銃を下に置き、ナイフをしまう。

 

「さっきのあいつは、いったい誰よ?」

 

 そう聞くレオに、彼の事を話した。

 

「呂剛虎・・・とかいう大亜連合の魔法師だ。結構有名な奴だよ。よく千葉の次男と比べられる奴さ」

 

「なんでアイツがこんなとこに・・・」

 

 対してエリカはさすがに知っていたようだ。千葉修次の妹だけあり、流石に比較対象のことは知っていたようだ。

 

「最近物騒だから護身道具は持っておいたんだが、正解だったな・・・」

 

「その拳銃は・・・、"そいつ"のか」

 

 そう言うレオの視線は、ジロー・マーシャルの死体に向けられていた。

 

「あぁ。こいつの武器がなかったらジリ貧だった。それにしてもなんだ。追っかけてくるなとは言ったが、おかげで助かった。すまんな」

 

「気にすんなって。お互い無事ならそれが一番だろ」

 

「そうよ。面白い事が起こってるみたいだし、すこしは混ぜてくれてもいいんじゃない?」

 

「お前らな・・」

 

 相変わらず血気盛んな二人に対して、呆れながら何度目かもわからないため息を吐く。

 

「ほどほどにしろよ。変に首突っ込んで痛い目見てもどうしようもないんだからな」

 

「分かってるっての」

 

「それくらい承知の上よ」

 

 そう言いながら笑うレオ達を見ていると、先ほどの苦闘の後だというのに空笑いが浮かんだ。

 

 




ってことでマーシャルさん退場のお知らせ。
原作中なんでマーシャルさんが最初から達也たちを見張っていたんだろうと少々疑問に思ってはいたので、オリ主を使ってメッセンジャー化しました。その役割を果たせずに死んだけど。
本来はオリ主と戦う予定はなかったんです。なかったんだけど、つい気分で・・・。

で、千秋さんが手下にならなかった影響で数日の平和が訪れます。やったね達也君、ストレスが減るよ。

次回、たぶんレオとエリカの話題をしてるところ。たぶん。

【追記】誤字を修正しました

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