魔法科高校と"調整者"   作:ヤーンスポナー

48 / 123
日本の交通事情って本当によくわからないときが多いんですよね。
東京静岡間はどうやら高速道路っぽいのがあるのかなと見つつこれ書いたんですけど、まず現代の物差しで通用するのかなと少々思ったり。

今回はちょっと長め。


第四十三話~脱出~

【Wednesday,August 10 2095

  Person:operator4   】

 

 

 

 

 つい午前ぐらいのころにいた駐車場に戻り、自分のバイクのエンジンをスタートさせる。

 

 同伴者がいるなら本来は車のほうが望ましいのだが、生憎とそこまで準備がいい訳がない。

 

 足も不十分で、武器も大したものは常備していない。

 しかし、おめおめと出し抜かれるつもりもない。

 

 

「すまない、遅れた!」

 

「自分から助けを求めておいて随分と暢気だな。まぁそのおかげで俺も間に合ったんだが」

 

 軽口こそいうものの追手から逃げつつここまできたのだ。なかなかにしぶとい奴だ。

 彼が駐車場に入ってくると同時に、管理室から"拝借"したリモコンでシャッターを下ろす。

 

「脱出するんじゃないのか?」

 

「脱出するさ。ただ、こっちにもいろいろやることがあってな」

 

 コマンドから調整者を呼び出し、パスを開く。

 最初から陸路だけで逃げ切れるとは思ってはいない。要するには"保険"だ。

 

 〔moderator1:いきなりどうしました?しばらくは"彼"の調査に打ち込めると思っていたのですが〕

 〔operator4:緊急の用でな。ヘリを回してほしい。駒門PAの方に至急頼む〕

 〔moderator1:了解。速やかにヘリを回します。ですが最新型は急なため用意できません。旧型ですがUH-60でよろしいですか?〕

 〔operator4:そいつを用意できるだけ上出来だ。ではすぐに頼む〕

 

 それを最後にパスを切り、バイクに跨る。

 

「さっさと乗れ!男と二人乗りなんぞあまりうれしくもないがな!」

 

「え、あ、わかった!」

 

 彼がバイクに乗ると同時に、シャッターの向こうから声が聞こえてきた。

 

『クソ、シャッターが下ろされている』

 

『壊した方が早いんじゃないかな』

 

『待ってください。今開けますから』

 

「もう時間がないな。押し切るぞ」

 

「えっ、ちょっと待ってシャッターが」

 

「しっかり捕まってろよ!」

 

 そう注意だけかけ、アクセルを駆ける。

 フルに加速しつつ、コマンドで"シャッターを消す"。

 駐車場を封鎖していたシャッターが一瞬のうちに消えてなくなり、それと同時にバイクが入口にいた人たちを抜いた。

 

「なっ?!」

 

「逃げられた。藤林、直ぐに追撃するぞ!」

 

「私は便利屋じゃないんですからね。一応車両を二台待機させてますから彼らに斥候させましょう」

 

 おそらくは独立魔装大隊のメンバーだろう。彼ら自身が追い付くのには幾ばくかの時間を要する。

 しかし、やはりエリート部隊なだけはある。脱出された時も考慮してあったのだろう。現に敷地から出ようとするこちらに対して二台の軍用車両が後方五十メートルのあたりから追いかけてきている。

 

 

「あ、あんた一体どうやってあのシャッターを・・・」

 

「黙ってないと舌噛むぞ!そう振り切れそうもない!」

 

 道路交通法など知らないといわんばかりの高速で道路を駆ける。

 あちらもそう長くカーチェイスに付き合うつもりもないのだろう。アサルトライフルをこちらに向けてきた。

 

 さすがに高速で動く目標に早々当たる訳ではないが、確実にジリ貧だ。

 

「だーもう!グレネードランチャーがほしい!単発でもいいから片手もちできるやつ!」

 

 ぼやきつつ懐から閃光手榴弾を取り出す。

 これだって持っていたのはただの保険でしかなく、この一個しかない。

 正に虎の子。有効に使えなければ、打つ手がなくなる。

 

「一気に速度を落として10m付近にまで接近する!気をつけろよ!」

 

 そう言ってアクセルを緩めると同時に速度を落とし、相手に"追い付かせる"。

 もはや、ただの賭けだ。ここでタイヤを撃たれたらそれこそこちらの負け。

 しかし、ここで賭けなければいずれ撃たれる。やるなら、今

 

 とっさにピンを抜き、一両のボンネットに乗るように投げつける。

 絶妙な場所に放り投げられた閃光手榴弾が爆発し、その車両のドライバーの視界を奪う。

 

 何より至近距離で強烈な光を目にしてしまえば、まともな運転さえできるはずはない。

 スリップして、その一両がガードレールにぶつかり停止する。

 

 だが、まだ一両残っている。

 

「だからといって、負ける気はないんだよ!」

 

 スーツ姿の時には念のためにハンドガンやその他を携帯していたが、役に立つときは本当に稀だった。

 しかし、念を入れるには結局弱かったか。そう思いつつ、ハンドガンを取出しライフルを構える兵士に対して三発ほど打ち込む。

 二発は確かに兵士に命中したものの、防弾チョッキにより防がれた。

 しかし、最後の一発は彼が構えるライフルの機関部に直撃し、弾詰まりを起こさせることに成功した。

 

 これで三十秒は時間が稼げる。

 

 その間に加速し、一気に距離を離す。

 速度も加速も、いくら軍用とはいえ車よりはバイクの方が早い。

 一気に元の距離にまで離し、そのまま高速に入る。

 

 さすがに平日の昼間というだけあり、かなり空いている。

 もちろん、追撃を振り切るという意味ではそこそこ混んでいた方が楽なのだが。

 

 何度か弾を相手車両のタイヤに向けて撃ってみるものの、半分は当たるがまったくパンクする気配がない。どう考えても貫通力不足だ。

 

「五十口径あたりがあれば話も違うんだろうがなぁ」

 

「まだついてくるぞ、このままじゃ逃げきれない!」

 

 背後で泣き言をいう彼の気持ちも分からなくはない。たしかに、このままだとジリ貧だ。

 それに相手も"こちら"の正体を知らないとはいえ、国防軍でも高い能力を持つ部隊だ。そのうちに高速を封鎖してくるということはやりかねない。

 

 

 しかし、それよりもこちらが目標を達成するほうが早い。

 駒門PAまであと三キロのところまでなんとか逃げ切った。

 相手との距離も何とか百メートルまで離すことができた。

 この速度なら一分も経たずに到着できる。

 

 急速にPAに近づくとともに、反対側からヘリが向かってきている。

 本当に、いいタイミングで来る。自らの部下の手腕に今更ながら尊敬する。

 

「あのヘリに乗れればこっちの勝ちだ!PAに入るぞ!」

 

「ヘリを用意したのか?!一体何時に?」

 

「過程はどうでもいいのさ。今は逃げる足があるという事実さえあれば十分だ!」

 

 速度を何とかいい感じに落としつつパーキングエリアに入る。

 

 駐車場にいつでも飛びたてる状態でヘリが待機を完了させていた。

 

「よし、降りるぞ!早く乗れ!」

 

 ぎりぎりで停止させたバイクから素早く降り、男をヘリに乗せる。

 

「パイロット!こいつに何積んでる!」

 

 既に入口にはさきほどの車が入ってきている。足止めをしなければどうしようもない。

 答えは満足のいくものだった。

 

「ミニガンが積んであります!弾もバッテリーも大丈夫です!」

 

「上出来だ!」

 

 直ぐに下げられていたミニガンを引っ張り出し、セットする。

 相手も時間がないと思ったのか、こちらに突進してくる様子だ。

 

「させるかよ!」

 

 言うと同時に、スイッチを押しこむ。

 弾丸の雨が車両のエンジンを潰し、タイヤをパンクさせ、スリップさせる。

 車両はぎりぎりでヘリから逸れ、木に追突する。

 

 

「よし、もういい!出せ!」

 

 

 

 そう言ってヘリが飛び立つのと、彼らの後続の車両の一台が到着するのは、同時だった。

 

 

「何とか逃げ切れたな・・・」

 

 そうぼやきつつ、彼へ目を向ける。

 濃厚な逃走劇からやっと抜け出せて気が抜けているのだろう。目に見えてぐったりしていた。

 

「何で、俺を助けたんだ?」

 

 なぜ見知ったばかりの相手を、信ぴょう性のかけらもない取引で、助けようと思ったのか。

 そういう意味を込めた質問に対して、笑って答えた。

 

「手足は失いたくないからな」

 

「・・・は?」

 

「お前はリスクを冒してでもこちらに利益を与えてくれた。俺はそれに答えただけだ。ギブアンドテイクは徹底するべき。それは俺の今までの経験則だ」

 

 確かに彼に助けるだけの価値はない。

 しかし、リスクが少しでもあるなら無くした方が後のためにもいい時がある。

 対価が自らの苦労のみなら安いものだろう。

 

「問題は、"彼"を一時的にとはいえ敵に回したことかねぇ・・・」

 

 仮にも達也の所属する部隊を敵に回したのだ。追及は免れないだろう。

 ただ、彼がほしいのはあくまで"大会委員の内通者"が持つ"情報"でしかない。

 ならば、今更出し惜しみしなくても渡してしまえば問題ないだろう。

 

 

 学校用の携帯端末から、敵対した理由を簡単に述べ、相手にとって必要な情報を添付する。

 "無頭龍"の関連施設の場所と、構成員のファイルがあれば十分だろう。

 

 送信が完了し、とりあえずは一段落がつく。

 

「気疲れするだけだったかもしれんな・・・。やっぱり柄じゃないな」

 

 最近の交友関係から、少々感情的になりつつあるのかもしれない。

 しかし、別に言うほど悪いことでもないのかもしれない。

 

 

 そう思いながら、富士演習場の方向を漠然と眺めつつ、乗るヘリは去って行った。

 




なおパイロットはお抱えの手足です。調整者が直接行くほど時間はなかったという設定で。

やっぱり戦闘描写は難しいです。どうしても上手く書けない。

次回は連投になるため直ぐに出せます。


【追記】誤字を一部修正しました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。