魔法科高校と"調整者"   作:ヤーンスポナー

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すっ飛ばしながらとはいえ、やっと四巻も半分まで行きました。
なんとか九校戦も終わりが見えてきて、とりあえずは一安心といったところです。
たぶん、あと二、三話ぐらいで終わるんじゃないかなと思いつつ、終わりまで進めていきたいと思います。

さて、本編です。


第四十二話~確信~

【Wednesday,August 10 2095

  Person:operator4   】

 

 

 

「やーっぱり決勝まで進んでたか」

 

 電子金蚕の入手が終わり、部屋に戻った時にはちょうどモノリス・コードの決勝が始まる所だった。

 決勝は、第一高校対第三高校。

 何も知らない人から見れば大番狂わせといえる結果だし、知っている人からしたら至極当然の結果としか言えない。

 しかし、この決勝がどのように進むかに関して言えば誰しもが興味を持つところだろう。

 

「一条の息子と"彼"が戦うか・・・。魔法競技だったら明らかに一条の方が上なんだよなぁこれ」

 

 特に決勝戦のステージは"草原"で行われる。障害物が何一つない場所では戦略も何もあったものではない。歩兵が三人しかいない状態だとどうしても奇を衒うよりは彼の能力からして正面対決を狙うだろう。

 おそらくは、そこまでが第三高校の狙いだろうが。

 

「この勝負は"あいつら"が罠を食いつぶせるかどうかって点につきるなぁ」

 

 現状どう見ても第一高校は第三高校の罠に引っかかっているとしか言いようがない。

 しかし、それは第三高校の罠が"完璧に"作用すればの話。

 

 彼らの戦闘スタイルはセオリー通り攻撃、防衛、遊撃の三つの役割に分かれたものでしかない。しかも、個々の能力は高いとはいえ一条とほかの選手のレベルがついていけてない。

 

 そして、最も肝心なのは"彼"だけでなく、レオと幹比古と第三高校の吉祥寺などの選手の実力に大差はないということだ。

 魔法師としてではなく、"実戦に近い魔法競技の選手としての能力"で。

 まず間違いなくレオは生半可な攻撃では完全に戦闘不能にまではいけない。対して幹比古はタフネスさはないだろうが古式魔法師としての腕は一科生と比べても勝るレベルのものだ。

 

 もし、第三高校が一度でも格下として見てしまった場合、間違いなく戦略が崩れるだろう。

 そして、その瞬間を"彼"が逃すはずはない。確実にその瞬間で勝負を決めに行くだろう。

 

 どれだけ、レオ達が第三高校相手に噛みつけるか。それによって勝負が決まる。

 

「まぁ、俺が見たいのは別なんだがな」

 

 個人的にはやはり"彼"の実戦能力を一度この目で見てみたい為、注目するところはそこでしかないのだが。

 

 そして、試合が開始された。

 

 

 試合は、両陣営の遠距離砲撃から開始された。

 しかし、"彼"の攻撃は牽制以上の意味を持たず、一条の攻撃は一つ一つが決定的な打力を秘めている。

 お互いにゆっくり前に進みながらの攻防。それは"彼"にとっては限りなく不利な状況だった。

 しかし、"彼"はそこまで焦っているようには見えない。劣勢にあるとわかりながら、なおペースを崩さずに対応することができている。

 

「実戦慣れしている、か。いったいこの年でどんだけ濃い経験しているんだろうな」

 

 じわじわと追いつめられる中持ちこたえるというのは、そう易々とできるものではない。誰もがそのうち焦り、慌て、状況を打破しようと動く。ただそのまま受け続けるということができるのはそれなりに訓練し、それなりに経験しなければできない。

 

 

 そして、"見た目上"は第三高校の思惑通り進み、それに従い第三高校から一人が迂回し第一高校の陣地へ向かう。

 おそらくは、吉祥寺という選手だろう。それ以外が向かってもおそらくはレオと幹比古相手では返り討ちの可能性がある。

 

 そして、予想したとおりに事態が進んだ。

 

 迂回した第三高校の選手が、レオと幹比古による迎撃を受けたのだ。

 時間としてはそうはかかってないやりとり。しかし確実に"その時点では"吉祥寺は決定的な敗北をしたと言ってよかった。

 しかし、吉祥寺の意識を刈り取る必中であったレオの一撃は、"彼から一瞬注意を離した"一条による援護射撃で逸れ、その一撃でレオは吹き飛ばされる。

 

 

 この時点で、第三高校の負けは決定した。

 

 

 一瞬。そう、たった一瞬だ。

 "彼"はその一瞬だけで、距離をかなり詰めることができる。

 もちろん一条も反応を返す。迎撃も可能だろう。

 しかし、彼はもともと"いくら攻撃を受けたとしても一瞬で復活する"。彼自身露見はしたくはないだろうが、まず認識できるような修復速度ではない。

 

 

 結果、迎撃を受けながらも"再成"で復活した達也が指で鳴らした音を魔法で増幅し、その爆音は一条の意識を刈り取った。

 

 

「結局予想通りのオチか。まぁこの後はあいつらが折れない限り第一高校が勝つだろう」

 

 

 煙草に火をつけ、膝をついている彼を見る。

 

 

「今の魔法・・・"記憶"していたのか?」

 

 彼は今、CADもなしに、一瞬で魔法を発動させた。

 あの魔法には、起動式の展開と、読み込み、さらには魔法式構築の時間さえ省略していた。

 前の"スキャン"にも、思い当たるものはあった。彼の演算能力は、確か"意識内"にあったはず。

 

 ここまでの芸当を可能にする場所は、そう多くはない。

 そこまで詳しくはない魔法社会の知識の中でも、出てくる名前は一つしかない。

 

「・・・まさかな」

 

 否定の言葉を呟くが、心ではそれとは逆の、確信が確かにあった。

 彼は、"無名の家"出身などではない。そうであるはずがない。

 

 まさか、彼は・・・

 

 

 しかしその思考は、端末の着信により、中断された。

 出てきたのは、初めて見る番号。

 もしかして先ほど譲ってくれた"彼"からか。そう思いながら通信に出る。

 

 予想は、的中していた。

 

『もしもし』

 

『もしもし、さ、さっきの君でいいんだよな?』

 

『間違いないな。それで、何かあったか?』

 

『助けてくれ、追われてる!』

 

 助けを呼ぶ彼の声に、一つの疑問が浮かぶ。

 

『おいおい、さっきの男とその組織には気づかれていないはずだぞ』

 

 そう疑問を返すと、彼は必至の様相で答えた。

 

『あいつらじゃない!分からないけど、彼の仲間じゃないんだ!警察か、それとも国防軍かはわからないけど、あいつらとは別口だ!』

 

 おそらくは、駐車場内の監視カメラに引っかかったのかもしれない。

 露見するとしても明日あたりかと思っていたが、この対応は流石に早い。

 

 おそらくは、"彼"が部隊内で密かに運営関係者を監視させていたのだろう。

 そして、目星をつけた段階で拉致、尋問を行うつもりか。

 

 

 別に無理をして助けなくてもいいのだが、生憎と"助ける"といった以上、約束を反故にするつもりもない。

 

 

 

『分かった。先ほどと同じ駐車場にまで逃げ込め。そこから脱出させてやる』

 




お兄様の正体についにたどり着きつつあるオリ主。そして、ある意味非常である割には義理堅い一面を見せました。
なお今回の大会委員の彼は最初はすぐ捕まるだけのモブ役でした。原作と変わらず。
けど、面白そうだしと少々物語にかかわらせてます。
なくても問題はないんですけどね。その方が選択肢広がるし。

次回、オリ主回。独立魔装大隊vsオリ主です。お互いに本気とは言えないかもしれないけど。

【追記】誤字を一部修正しました。

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