魔法科高校と"調整者"   作:ヤーンスポナー

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電子金蚕ってまず電子データなのかな、いやでもそれは違うだろうし・・・と描写に関してしばらく悩みました。

結局札→精霊魔法が喚起される→電子回路に(ry って流れを採用。


・・・無理があるかなと今更ながら思ったけど、まず描写が少ないから仕方ない。

それなのに長めです。あしからず。


第四十一話~入手~

【Wednesday,August 10 2095

  Person:operator4   】

 

 

 

 

「まさかこうも上手くいくとは思ってなかったなぁ」

 

 午前。まだモノリス・コードの第一試合が始まる三十分ほど前。

 本来ならすでに予選は終わっていて然るべきなのだが、一高に対する悪質な規定違反により本来は棄権の所を代替選手によるチームの再編成、および復帰が認められた為一高が関わる予選から始まることになったのだ。

 ただし、まさか"彼"が出てくることは予想外だったが。

 

 

 恐らくは達也の実力を知る一高首脳陣の判断と、肝心の達也の悪乗りによる代物だろうが、代わりの出場メンバーは達也とレオ、それに幹比古だった。

 傍から見たら何を考えてるのかわからないとしか言えないが、これで案外優勝さえ狙えそうな能力を持つメンバーだから性質が悪い。

 傍から見れば大番狂わせで間違いないだろう。

 

 しかも、こちらにとっても"彼"が一日中ほぼ暇がなく、かつ"今日内通者が工作員と接触する"という偶然が重なったことはうれしいことこの上ない。

 

 

 人の目の少ない、大会委員のメンバーが使っている駐車場の一角。

 そこに、目当ての人物はいた。

 

「もう三度目だぞ!さすがにこれ以上は隠せるかどうかも分からない。それを分かってて言っているのか」

 

「分かっているさ、同志。別に三度目が本当に起こるというわけではない。三度目が起こるかもしれないから、これを"仕込ませる"ように頼んでいるのだ」

 

「しかし私にも大会委員という立場がある!幾らばれる危険性がない術式といえど、二度三度と続けば疑いの目は自然と向いてしまう!」

 

 買収されている大会委員もこれ以上の工作には怖気づいているらしく、工作員に対して抗議しているようだ。

 その様子を、気配を隠し柱の所に隠れながら伺う。

 工作員と思しき人物は、怖気づいている彼に対して譲歩するつもりはないようだった。

 

「では私は別に構わないよ。同志が裏切るというのなら私はその証拠を大会委員に提出するとしよう。君の立場はどうなるだろうね」

 

「そんな・・・!」

 

「君に選択権などないのだよ、同志。何、単純な話だ。私は君に"この精霊"を紛れ込ませるように頼み、その報酬として君は金をもらう。さっきと同じさ。いいね?」

 

「・・・いざというときの、逃走先としばらくの身の置き場を、用意してくれないか?」

 

「当然さ、同志。我々は仲間を見捨てたりはしない。心配するな」

 

 そう工作員の男が言うと電子金蚕の術式が書かれた札を取り出した。

 

「扱い方はいつもと同じ。念のために多めに渡しておく。ただ君は、これを"一高のCADに紛れ込ませるだけ"でいい。君が罪悪感を感じる必要はない。大丈夫だ、選手も君も、死にはしないのだから安いものだろう?」

 

「あ、ああ・・・」

 

「分かればいいのだよ、同志。それではな。"失敗"は許されないぞ」

 

 その言葉を最後に工作員は立ち去り、大会委員の男は呆然と立ち尽くす。

 

「どうして、俺がこんな・・・」

 

 工作員の気配さえ無くなり、泣き言を言う。

 タイミングは、今だろう。

 そう思い、声を掛けた。

 

「どうして、か。それは君の行いの結果でしかないな」

 

「なっ?!」

 

 彼にとっては、俺がいきなり現れたように見えただろう。何せ"自分達以外には"誰もいないと思っていたのだ。しかも、やっていたことは完全な裏切り行為。確実に、見られてはいけない現場。

 それが見られていたとなれば、もはや生きた心地さえしないだろう。

 

 しかし、自棄を起こされても困る。できるだけ柔らかく、話しかける。

 

「落ち着け。今のことを誰にも言うつもりはない。むしろ、私は君の助けになりたいんだ」

 

「・・・君が?いったい、どうやって?いや、なんで?」

 

 先ほどよりは落ち着いた様子を見せているとはいえ、いまだ混乱から抜け出せていない男に対して、話を続ける。

 

「君が恐れているのは裏切り行為の露見により、自らの居場所、仕事、すべてが失われていくこと。違うかい?」

 

「・・・ああ」

 

「なら単純だ。実を言うと、私は君が渡された"彼ら"の道具が欲しくてね」

 

 その言葉とともに、取引を持ちかける。

 

「先ほど、多めに渡されていた"ソレ"を、一つでいい。こちらに分けてほしい。それさえ出来たら、君に新しい居場所、仕事を上げよう」

 

「・・・あいつらみたいに、食いつぶすつもりか」

 

 恐怖と警戒心が織り交ぜになった彼の感情が、"工作員たちと同じことを言う"俺を危険なものとして見る。

 そんな彼に対して、今度は"具体的に取引の内容"を話す。

 

「場所は、そうだな。横浜の、港湾警備隊の予備科なんてどうだ。確かに左遷に等しい扱いだ、予備科なんてほとんど本来の仕事に呼ばれはしない。ただ金を支払われるだけの穀潰しでしかない。だが、君の居場所は確かにそこに作れる」

 

「待て、まずどうやって、その椅子を用意するつもりなんだ」

 

「造作もないことだよ。なんなら明日中に諸々の書類は用意しよう。実を言うと今手が足りていなくてね。横浜で自由に動かせる人が欲しいんだ。もちろん、仕事は使い走りのようなものかもしれないが」

 

「・・・仕事?」

 

 そう聞き直す彼に対して、確かに頷きながら話す。

 

「車両や、いざというときの銃火器の管理。そしてこっちが頼んだら、指定した場所にそれをすぐに持ってくる。予備科と銘打ってはいるが実質"我ら"の倉庫役という立ち位置だな。そして、君にその管理を頼みたいのだよ」

 

「君は、裏切りが、怖くないのか?」

 

 そう恐る恐る聞く彼に対して、笑いながら答える。

 

「別に重要でもなんでもないからね。手間をある程度省略したいだけだし、君がいなくても問題はない。ただ、君は"一度裏切った後の泥沼"に今、浸かりかけてる。私は、このことに懲りてくれると信じるよ」

 

 

 しばしの沈黙が、二人の間を包む。

 

 彼の答えは、たっぷり五分ほど使った後、やっと出た。

 

「・・・わかった。一つだけで、いいんだな」

 

「あぁ。ぜひ、頼む」

 

 彼が工作員からもらった電子金蚕の札のうちの一枚を、こちらに渡した。

 

「確かに。約束は守る。いざというときはこれに連絡しろ」

 

 そういって、"裏の仕事用"に使っている携帯端末の番号を書いたメモを渡す。

 

「ばれて直ぐに死体になってしまってはどうしようもないが、少しでも余地があるなら無理やり介入してみせる。お互いに体裁は整えつつ、君をさっき言った通りに運び込んでやるさ」

 

「・・・"彼ら"は、どうするんだ」

 

 聞いてきたのは、"無頭龍"のこと。こちらから裏切ることによる、制裁への恐怖。

 

「安心しろ。薄っぺらく聞こえるかもしれんが、お前のことを仕事をする限りは守ってやる。必ずだ。別に君に工作をやめろと言っているわけでもないしな」

 

 そう言って笑いながら、背を向ける。

 

「君が"さっきの男"から頼まれたことを実行するか、無視するかはお前次第だ。ただ、どちらを選んだとしても用意はしておく。だから、安心しろ。"札"を分けてくれて、ありがとうな」

 

 その言葉を最後に、駐車場を後にした。

 

 

 

「さて、後はこれを使えるであろう人員の確保・・・か」

 

 とりあえずは電子金蚕のサンプルを確保し、これの使い道を考える。

 

「むしろこれを元に使いやすい魔法に仕立てたほうがいいかもしれんな・・・。出来ればいいんだが」

 

 しかし自分に魔法としての能力は頭脳面も実用面もさほど高いわけではない。

 アングラの古式魔法師を探し出して、囲い込んだほうがいいのか。

 

「もしくはNo.3あたりに使い手を送り込んでもらったほうが早いか」

 

 その方が使えるようになる時期も楽になるし、悪くもない。

 何せ大亜連合は魔法師をほぼ完全に掌握しているといっていい。そして、"政府"が掌握しているということは"管理者"達が掌握しているのと同じ。

 忠実な駒を送り込んでもらえれば、使い勝手の問題も解決できる。

 

「後で連絡つけておいたほうがいいのかね」

 

 

 そんなことを考えながら、ホテルの部屋に戻っていった。

 




書き終わって急展開すぎないかなこれと思いつつ、とりあえずオリ主が電子金蚕を入手。
まぁ、九校戦のネタ不足の中これが精いっぱいなのでできれば堪忍してもらいたい。


後、お気に入り数100人以上もありがとうございます。本当によくできたとはお世辞にも言えるとは思えないこんなSSですが、それでも見てくれている方がいると思うと誇張抜きで嬉しいです。

次回、たぶんオリ主回。お兄様の決勝戦観戦がメインかも。

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