10人のインディアンみたいな大筋でゾンビ物とか、GATEの日本がもうちょい強気だったらとか。
考えてて本当に楽しい。特に設定がよく練られている奴ほど。
さて、本編です。今回はチョイ長め
【Friday,August 5 2095
Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】
「・・・一通り検証してみましたが、やはり第三者の介入があったと見るべきですね。五十里先輩、確認して頂けますか」
「了解。流石に仕事が早いね」
録画されていた先ほどの試合の映像を改めて解析し、結論を出す。
結果は、黒。
というより、元々決まっていたのだ。"彼"からもたらされた情報だ。彼に悪意がない限りはまず信頼できる情報だ。恐らく、この世にあるどの機関よりも。
シュミレーション画面の上部に、水面の変化に影響を与える諸要素が数字で表示される。
そして、やはり問題の、水面が陥没した瞬間、項目名に"unknown"が表示され、誤差では解決できない「力」が水中から掛かっている。
そう、"水中"から。
「・・・予想以上に難しいね、これは」
その言葉と共に花音に対して説明する五十里を見つつ、思う。
確かに、もし"何も知らなかったら"俺だって混乱していただろう。しかし、今は"手段"が分かっている。"それに詳しい者"も近くにいる。加えて、"視れる者"さえいる。そうなれば、案外早く事態が片付くかもしれない。
部屋から言葉が無くなって二分ほど経った時、再び、ドアがノックされた。
深雪が来訪者の応対へ向かい、直ぐに"呼んでおいた二人のクラスメイト"と共に戻ってきた。
「美月は、お兄様に呼ばれた、と言っていますが・・・」
「すまんな、二人ともわざわざ」
妹の問いかけを肯定した後、二人の先輩に対して軽く美月と幹比古の紹介を済ませる。
「二人には、水中工作員の謎を解くために来てもらいました」
そう目的を告げた後、幹比古達の方へ目を向ける。
「俺たちは今、渡辺先輩が第三者の不正な魔法により妨害を受けたことについて検証している」
「言い切るんだね。それは解析の結果かい?」
「それはまた後で説明する。まず幹比古にいくつか教えてもらいたいことがある」
一旦言葉を切った後、続ける。
「渡辺先輩が体制を崩す直前、水面が不自然に陥没し、その影響で渡辺先輩の慣性中和魔法のタイミングがずれ、事故が起こった。まず間違いなく、この水面陥没は水中からの魔法干渉だ。コース外から気づかれることも無く、水路内に魔法を仕掛けることは不可能。となると水中に何かが潜んでいて、それにより仕掛けられたと考えるべきだが、生身の魔法師が水路の中に潜んでいると考えるのは荒唐無稽だ」
ここまでの説明で、幹比古はほぼ状況を理解したらしく、目に強い光を宿していた。
「単刀直入に聞きたい。今回の水面を陥没させる魔法は、精霊魔法により可能か?」
「可能だよ」
幹比古の答えは、即答だった。
「今の条件ならば、第二レースの開始時刻を第一の発動条件、水面上を人間が接近することを第二の発動条件として水の精霊に波、あるいは渦を起こすよう命じることで達成できる。精霊でなくても、式神でも可能だろう」
「お前にも可能か?」
その質問に対して幹比古は条件付の肯定を返した。
「半月程の準備期間を得て、かつ会場に何度か忍び込む手はずさえ整えられれば多分可能だ」
「前日に会場へ忍び込む必要は?」
「無い。地脈と地形が分かっていれば、地脈を通して精霊を送り込むことができる。事前調査はそのためのものだ」
その答えを元に、思考をめぐらす。
恐らくエンジニアになることが決定した段階で確認されていた富士演習場への工作は間違いなく地脈および地形の調査だろう。
先日の侵入に関しての理由は分からないままだが、事前に芽を摘んでいる以上特に気にすることも無いだろう。
「だけど、そんな術の掛け方ではほとんど意味のある威力は出せないよ?精霊は術者の思念に応じて力を貸してくれる物だ。そんなに何時間も前から仕掛けたのでは、せいぜい子供の悪戯にしかならないと思う」
「確かに。もし七高選手にも何かしらの工作が行われてさえいなければな」
その言葉に幹比古は当然の疑問を示したが、それに対してはすぐには答えず、美月へ目を転じる。
「美月、さっきは急なことで悪かったが、さっきの事故の時、SBの活動は見なかったか?」
「あっ、はい。何て言ったらいいのかは分からないんですけど・・・」
「それらしきものは見たんだな?」
「はい」
何とか、"視て"くれていたようだ。これで、確定。
恐らくは七高選手にもCADに細工が仕込まれていた。恐らくは減速の起動式を加速の起動式と摩り替えたのだろう。精霊魔法にそのようなことが出来るのかと思いつつ、そのことを説明していく。
「確かに理屈は通っているけど・・・CADに細工なんてできるのかい?もし細工したとしたら、一体何時?」
「七高の技術スタッフに裏切り者が紛れ込んでいるとか?」
その五十里と花音の質問に対して、小さく頭を振る。
「残念ながら確証はありませんが、細工する機会はあります。裏切りの可能性も否定し切れませんが・・・俺は、大会委員に工作員がいる可能性の方が高いと思います」
会話が途切れる。
五十里も花音も幹比古も、今度こそ絶句していた。
「・・・しかしお兄様、大会委員に工作員がいるとして、いったい何時、どのようにしてCADに細工したのでしょうか?競技用のCADは各校が厳重に保管してあるはずですが」
「CADは必ず一度、各校の手を離れ大会委員に引き渡される」
「あっ・・・!」
失念していた可能性に、深雪が声をあげた。彼女だけが声をあげることが出来た、ともいえるだろう。
「打てる手は余り多くはありませんが、気をつけるに越したことはありません。何かしらの工作があるかもしれないと思って行動したほうがいいでしょう」
その台詞を最後に、一旦は解散という形になった。
「達也」
五十里先輩方と美月が出て行った部屋の中で、幹比古が声を掛けた。
「どうした、幹比古」
「達也は妨害のことを知っていたのかい?」
単刀直入な質問に、傍にいた深雪も固まっている。
確かに、俺は"妨害を受けた"と言い切った。恐らくはその件だろう。
「あぁ。前の夜の事で、ある程度の情報が手に入ってな。しかし、何かが起こるということぐらいしか分からなかったのもあるし、何よりも三日目になっていて気が緩んでいた。失態と言っても良いだろうな」
「いや、別に責めてる訳じゃないんだ。気にしなくてもいいよ」
もちろん解答は嘘だ。本来は"彼"からの情報だ。しかし、それを幹比古に言うこともできない。それに、自分自身でも警戒心が緩んでいたのは確かだ。本来ならば、早期に気づけてもよかったことだ。
そこに、思っても見なかった名前が幹比古の口から出てきた。
「まさか借哉の言うとおりになるとはね・・・」
「今、なんて言った?」
空気が一瞬張り詰める。
幹比古は弁明するように慌てながら言った。
「いや、深い意味はないと思うんだけどね。昨日の夜あたりに彼と会ってね。ちょっと話をしたんだけど、"応援だけとは限らないかもしれない"なんて言ってたから、何のことかと思ったんだけど」
「待て。今、借哉がここにいるのか?」
真剣みを帯びた目に、幹比古は戸惑いながらも頷く。
「う、うん。まだ言ってなかったけど、このホテルに泊まってるみたい。なんだか家の手伝いとか言っていたけど」
「分かった。幹比古、借哉がここにいるということは他言無用で頼む」
「一体どうしたんだい?達也」
何がなんだか分からないと言う幹比古に対して余り答えられることは無いが、今は"彼"がここにいると言う事実は余り知られない方がいい。
しかし、彼の気分によってはこの問題の全てが一度に解決しうるだけの情報が手に入る。
彼を動かしうるだけの、何かさえ用意すれば、余計な時間ロスもない。無駄なく行動に移れる。
「幹比古、もしまたあいつに会ったら泊まってる部屋はどこか聞いておいてくれ」
「もしも会えたらね。基本的に部屋に篭りきりって言ってたけど」
「余り期待はしてない。心配するな」
幹比古に頼らずとも、泊まっている場所は探そうと思えば探すことは可能だ。ただ、あまり"荒事"にしたくないだけで。
三人しかいない部屋の中で、妙に空気が先ほど以上に張り詰めていた。
ってことで借哉の現地入りがばれました。ただし知っているのは幹比古、深雪、達也の三人だけですが。そしてそれ以外に余り漏らすつもりは無い。
風間あたりに頼むんじゃないかとお思いの人もいるかと考えますが、よく考えてください。そんなことをしようものなら借哉の泊まってるフロアが戦場になりかねません。爆発事故とか普通に起こるでしょう?そんなことをお兄様が許容できるはずもなく。
さて、次回から四巻に突入します。九校戦は本が分厚くて何故だか長く感じます。しかもオリ主の絡む要素、変わってくるところが少ないのが一回目の九校戦ですから。
とにかく目標は中盤までの物語作り。頑張っていこうと思います。
次回、オリ主回。その方が切れ目いいしね