【Friday,August 5 2095
Person:operator4 】
「もうすぐスタートか」
結局何の妨害もなく三日目に入ってはいるが、今回のバトル・ボードは妨害が入る可能性が高い。優勝候補を二人もつぶせる以上、リスクとリターンで考えたら間違いなくこのタイミングしかない。
念のために、試合はすべて録画、解析している。今回でもし直接見ることができなかったとしても、何かしらの成果は得られる。
「さてと。今回はどうかな」
三杯目のコーヒーを付けた所で、二回目のブザーが鳴った。
初動は間違いなく委員長が握っている。が、確定的ではない。
うしろには、七高の選手がピッタリとついている。
そして、彼らは共に優勝候補の筆頭。
「もし妨害が起こるとしたら、第一コーナーからか」
その呟きが結果を動かしたわけではないが、第一コーナー手前で七高選手に"異常"が発生していた。
行使する場所を明らかに間違えた、危険な加速。
まさか優勝候補がこのような初歩的なミスをするはずもない。
「ビンゴ」
コントロールを失った七高の選手は委員長とぶつかり、フェンスへと飛ばされる。
レース中断の旗が振られ、観客席からは悲鳴が上がる。
こちらの心境としては、落胆でしかなかったが。
「しかしあれだけの仕込みの痕跡があって、起こすのが魔法式を差し替える程度のこととは・・・」
確かに瞬時でそれが可能という点では有用かもしれない。しかし、逆に言えば一定の手間を省くだけの利点しか電子金蚕と通常の工作との違いがないのだとすれば、わざわざ手に入れる価値はない。
「あんなものに国防軍が一時的とはいえ苦戦したのか?まさかそんなはずはないだろうしな・・・」
おそらくは、まだ本領を発揮しているわけではないのだろう。
とはいっても、本領が発揮される時期があるのかどうかはわからないが。
「まどろっこしくなってきたな。いっそのこと工作されたCADでも入手してやろうかな」
もしくは既に割れている"犯人"からサンプルをもらうのもありか。買収されている者ほど金には動きやすい。札束で顔を叩いてやれば平気で提供してくれるだろう。
事故現場では、救護班と共に"彼"が選手の治療に入っていた。
何故、というのも今さらだろう。彼は妹さんの心配を掛けさせないためなら人を殺すぐらいのことは平気で行うのではないかと思えるぐらいの過保護さを持っている。おそらくは彼女に頼まれたりしたのだろう。
尤も、あの様子だと二日にわたり妨害がなくて警戒心が薄れていたのだろうが。
「まだまだ青臭いというかなんというか」
しかし対応力としては間違いなく満点だ。不測の事態に自分の思考を置いて最善と思われる行動を直ぐに実行できるのは間違いなく訓練された人間しかいない。
「もしあいつが"バグ"なんかじゃなきゃ手駒に欲しいんだけどなぁ」
叶わない考えを頭に浮かべつつモニターから離れる。
「さて、一応保険は掛けておくかな」
今回の妨害は限りなく大きなダメージを一高に与えた。もしそのままであれば優勝の確立が大きく揺らぐだろう。
しかし、こちらとしては電子金蚕の能力の限界を見たい為、ここであっさりと一高に負けてもらっては困る。
では、どうすればよいか。簡単だ。第一高校が今回負ったダメージを比較的容易に回復できるように手回しさせてやればいい。
確か委員長はミラージ・バッドでも高得点が想定されていた人間だ。では、その穴を埋めることができる魔法師は誰か。
「んなもん決まりきってるな。あいつの妹さんしかいない」
となると、選手の変更を容易に行えるように運営側に働きかければ問題はない。相手側の管理の不徹底さを餌にしてやれば問題はないだろう。
「さて、問題は"彼"がどう動くかだな。高見の見物とするか」
そう言いながら煙草に火をつけ、一服する。
九校戦は、まだ、始まったばかりだ。
ってことで(また)借哉が一高側につきます。といっても後押ししかしませんが。
よくよく考えるとまだ摩利の段階では精霊魔法のすごさは分かってないんですよね。やっぱりもr・・・・モブ崎の事故現場まで待つ必要がありそうです。
次回、映像解析。タブン達也回