魔法科高校と"調整者"   作:ヤーンスポナー

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久しぶりに()を使った。
文体的には地文の方がかっこいいんですよね、内心の描写って。
何故かって?そりゃ()は便利だけど簡潔ですから・・・。

まぁより主観的に見せる為には()を使った方がいいのですが。


第三十七話~発生~

【Friday,August 5 2095

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

「お兄様、もうすぐスタートですよ!」

 

「すまないな、態々席を取っておいてくれて」

 

 そう礼を言って席に座った後、スタートラインへ目を向けた。

 準決勝は一レース三人の二レース。

 他の二人が緊張に顔を強張らせている中、摩利だけが不敵な表情を浮かべている。

 

 

 "彼"は、確かに言った。精霊魔法による妨害があると。

 そこに、"あるとしたら"といった仮定や、"恐らく"といった推測さえない。

 確実な、断定。

 しかし、三日目になっても結局妨害は起こらなかった。

 確かに初日にやってくる確立は低いとは思っていた。だが、一高の敗北が目的である場合本来はクラウド・ボールやスピード・シューティングにも手を出して然るべきではなかろうか。

 

 

 しかしそれ以上の情報は得られていない。元々手段を教えてもらっただけでも運がいいと見るべき。起こるのが何処の競技か分かっていたら最初から世話は無い。

 本来なら美月の"眼"で常時監視して欲しかったところだが、流石に何時起こるか分からない妨害のために見張っていてくれとは言えるはずも無い。

 

 深雪にも、余計な心配は掛けたくない。その為にも、今回は"影に隠れたまま"終わらせるべき。

 

 

 そんな思案を余所に、二回目のブザーが鳴り、スタートが告げられた。

 先頭に躍り出たのは摩利。しかし、背後には二番手がピッタリくっついている。

 

「やはり手強い・・・!」

 

「さすがは『海の七高』」

 

「去年の決勝カードですよね、これ」

 

 流石に準決勝となると、選手もそこそこのレベルは残らない。

 まさに、凄腕と言えるべき存在が揃う。

 美月の言うとおり、特に今回の準決勝は優勝候補であった二人が競い合う状態になっている。

 

 

 そう、"優勝候補であった二人"が。

 

 

「待てよ・・・」

 

 思わず、口に出す。

 決定的な事項を、見逃していた。

 確かに、一高の妨害が目的だと"彼"は言った。だが、"無頭龍はその妨害で何をしたいのだ?"

 妨害だけ?そんな訳は無い。一高に恨みでもない限り、ただ一高が"負けるだけ"では足りないはずだ。

 では、発想を変えてみたらどうか。具体的には、"一高を負かすことで別の高校を勝たせたい"のであるとすれば。

 まず間違いなく、一高が負けるとしたら優勝するのは三高だろう。競技関連でいえば二高より三高の方が優秀だ。

 つまり、"三高が優勝できる状況にするべき競技は、何が妥当か"。それも、"一回の行動でより確実に出来るもの"。

 クラウド・ボールもスピード・シューティングも真由美の勝利はほぼ揺らぎ無いものだったが、真由美を取り除いただけでは正真正銘の比べあいに戻るだけ。

 ソレに対して、バトル・ボードはどうか。確実な優勝候補を二人も潰せれば、残りは三高ぐらいしかなくなる。たった一回の、目立つことの無い妨害でどちらが効果的かは、言わずもがな。

 

 

「まずい!」

 

「達也くん?」

 

 突然立ち上がったことに対してエリカが訝しげな目を向けてくるものの、今それに答えてる余裕はない。

 

「美月、"眼鏡を外してくれ!"」

 

「え?」

 

「頼む!」

 

 いきなり意味不明なことを言われ、戸惑いながらも眼鏡を外す美月。

 彼女に対して、"必要なこと"しか言う余裕はなかった。

 

「選手のことをよく見ていてくれ。俺は下に降りていく」

 

「お兄様、何が?」

 

「話は後だ!深雪はここを頼む」

 

 そう言って席を立ち、階段を急いで降りていく途中で悲鳴が聞こえる。

 七高選手がオーバースピードにより大きく体勢を崩していた。

 ボードは水をつかんでおらず、その状態では方向転換さえ難しい。

 そして、その先には減速を終えて次の加速を始めたばかりの摩利。

 

「やはり間に合わないか」

 

 席の最下段のところまで降りていき、あと少しというところで決定的なところにまで行ってしまった。

 せめて"次"がないようにと、何が起こるか目に焼き付ける。

 

 

 摩利は暴走している七高選手を受け止めるべく、新たに二つの魔法を起動していた。

 本来はソレにより、事故は回避できただろう。

 しかし、"狙ったかのようなタイミング"で、不意に水面が沈み込む。

 

 それに伴い浮力が失われたことにより、ただでさえ無理に体勢変更を行ったことにより安定性を損なっていたのに、更に大きく崩れる。

 

 魔法の発動にズレが生じ、ボードこそ弾き飛ばせた物の、七高選手を受け止めることはできず。

 

 

 もつれ合うように二人はフェンスへ飛ばされた。

 

 

(まずい、肋骨が折れている!)

 

 "眼"による確認も行ったが、それ以上に今までの戦闘経験から摩利の怪我の具合を導き出し、急いで下で事故現場へ駆けつけようとしている救護班の元へ向かう。

 

「彼女は肋骨が折れています!急いで病院へ搬送するべきです!」

 

「君は誰だね?!」

 

「一高のエンジニアです!」

 

 今現在は通常の制服を着ているためにぱっと見では判断が付かない為信憑性の無い台詞ではあるが、今は摩利達の救助が最優先だ。

 それ以上の追求は無く、一緒に同行することができた。

 

「肋骨が折れているのは間違いないんだね?」

 

「はい。病院に着くまでは魔法で一時的な固定を行った方がよいかと」

 

「分かった。治療を急ぐぞ!」

 

 救助に関わりつつも、摩利の容態を改めて確認する。

 

 この様子では、恐らく九校戦への復帰は望めない。どうやっても"治療"には一週間はかかる。

 まさかこんなところで"再成"を使うわけもない。今回は、完全にしてやられた形だった。

 

 

 結局、"彼"の言う通りになってしまった。

 だが、もし何も知らなかったらまずは何が起こったかを推測する所から始めなければならなかっただろう。

 しかし、"情報"を貰っていた為、それの確認から始められる。そうすれば、一応の対策は取れる。

 美月は、何かしらの不自然を"眼"で確認できただろうか。今のところ最も確実なのは、彼女の"眼"だ。

 

 

 だが、映像を解析する必要もある。彼は"精霊魔法"としか言っていない。どのような精霊魔法なのか、把握する必要がある。

 後で、幹比古にも話を聞くべきだろう。

 

 

 これで、終わりとは限らないのだから。

 

 




ってことで電子金蚕の本領が発揮されるところですね。
ですが実際電子金蚕は魔法科内ではちょっと効果の説明が分かりにくいんですよね。
電子金蚕はあくまで電子機器を"狂わせる"精霊魔法ということになってるようですけど、序盤はかなり高度なコントロールが出来てますよね。水面の操作は別の精霊魔法であるにしても、他のところでも結構直接操作していそうなタイミングで結果が出ているあたりただ狂わせるとは言えないと思えたり。
で、結局どんな魔法なのだろうと自分なりで考えた結果、以下の結論になりました。

1.電子機器の電気信号を狂わせると言うより、電気信号の行き先を予め設定しておいたとおりに変換できる。(原作のバトル・ボード準決勝)
2.恐らく電子金蚕そのものに一つ程度なら魔法式を記録できる。(原作の破城槌)
3.恐らく電子金蚕同士でリンクさせることも可能(原作の事前の位置把握)
4.これらの条件を指定しない場合、ある程度の時間範囲は限定できるものの、比較的侵入後短めの期間にランダムに電子機器を一時的or致命的なクラッシュ状態にする。

ね?こう考えると使い勝手よすぎですよ。誰だよ中国の魔法関連は大漢滅亡により遅れてるとか言った奴。こんなの作れるならどんぐりの背比べでしかないんじゃないですかね。まぁ諜報と軍事に限定されるんでしょうけど。日本の魔法技術は案外幅も広いようですし。


さて、次回は久しぶりに同時間帯のオリ主視点になるかも。話数が被るかも、恐らく。分からないけど。

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