魔法科高校と"調整者"   作:ヤーンスポナー

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前座と言ったでしょう?

伏線回です。何時もより長めかも。



第三十五話~既知~

【Monday,August 1 2095

  Person:operator4    】

 

 

 

 

「申し訳ないね、管理人。無理言ってホテルを開けて貰って」

 

「まったくです。九校戦なんですから、いくら来賓用の部屋は選手の部屋と比べては開いているとはいえ、用意するのは大変なんですから」

 

「まぁそういうな。これも"仕事"だ」

 

 笑いながら管理人の心労を労う。

 元々このホテルは軍施設としての趣が強い。既に"根"はかなり昔には張ってある以上、管理人にある程度の話を通すことは容易い。

 

 

 別に、態々九校戦を見に行く必要などなかったのだが、何故足を運んだのかと言うと単純に見てみたかったという一言に尽きる。

 

 決して、魔法師同士の試合をと言うわけではない。

 

 

 今回、"無頭龍"が妨害工作に使用する精霊魔法"電子金蚕"。

 ありとあらゆる電子機器に侵入でき、動作を狂わせる遅延発動術式。

 

 もし見た結果"有用"だと判断できた場合、裏で回収することが出来れば手札に加えることも可能かもしれない。

 そう考えた末、無理を言ってホテルを空けてもらったのだ。

 ・・・といっても、予備として一つ二つの部屋は残されていたので何とかなったのだが。

 

 

「で、懇親会はもう終わってるんだよな?」

 

「今何時だと思ってるんですか。とっくに終わってますよ」

 

「ならいいか。ちょっと煙草とコーヒーを切らしててね。ここなら遠慮なく吸える」

 

「・・・言っておきますけどロビーは禁煙ですからね」

 

「そこら辺は弁えてるさ」

 

 そう笑いながら答えを返し、自販機へと向かう。

 何時も嗜んでいるコーヒーと煙草を購入し、なんとなしに外を見る。

 

 

 偶には単純に楽しむ意図で外に出て吸うのもありかと思い、外に出た。

 

 

 

 外で煙草に火をつけ、一服する。

 もし今着ている服が一高の制服だったら補導は間違い無しだろう。しかし、今着ているのはいつも着用しているスーツだ。サラリーマンのソレとなんら変わりない以上、誰かに見られても咎められることはないだろう。

 

 

 この九校戦も四月の時と同じく、中華系の陰謀が紛れ込んでいる。その中で、"彼"はどのように動き、そして"我々"は何を得る事ができるのだろう。

 唯、どちらに動いたとしても、存外悪い気がするわけでもなさそうだ。単純に、人が頑張る姿というのは見ていて楽しい物だ。

 

 

 

 ふと、木に止まっている一羽の烏が目に付いた。

 なぜ烏などに気が向いたのか、なんていうことを考えたりはしない。

 答えなど、既に分かっているのだから。

 

 

「烏が鳴くと人が死ぬ、と言うそうじゃないか。今夜は果たしてそうだと思うかね?」

 

「・・・さぁ?烏は人を殺しはしませんからね。人を殺すのは何時だって変わらず・・・。そうは思いませんかね?」

 

 

 

「・・・九島老師」

 

 

 

「ハッハッハッ、君に"老師"をつけられると違和感も沸くものだね」

 

 そう言って笑うのは、まさしく九校戦の観戦に来て、また懇親会では来賓の挨拶なども行ったのであろう、九島烈その人であった。

 

 軽口を交えてさえいたが心の中では疑問で一杯だったが、結局しばらく他愛も無い話を続けることになった。

 ただし、何かしら意味ありげな言葉の交わしあいでしかなかったが。

 

「烏は死骸を啄ばむ。だからこそ、烏が鳴く場所では人が死ぬ。烏が人を殺すのではないのはもちろんだ。しかし、"烏"が利益を見つけたところは人が死ぬところ、というのは理解できない話ではないとは思うぞ?」

 

「まるで不吉の象徴みたいに言いますね。ですが烏は"神の使い"として信仰されるところだってある。そう邪険にする物でもないとは思いますがね」

 

「だからだよ。"神の為に"、"死ぬべき人"を見つける烏。それがここにも現れたとなると、放っておくことも出来なかろう?」

 

「・・・まるで"俺"が誰だか、少なからず知っているような口ぶりですな」

 

 率直にそう聞くと、九島烈は頷いた。

 

「確かに。"君達"は我々が"何も知っていない"と思っているのだろう?」

 

「少なからず、ね。だからこそ知っていると言うことには驚いたさ」

 

 言葉から、最低限残していた敬意が消える。

 九島烈は、今の段階では既に楽しいお話を出来る老人ではなくなっていた。

 そんなこちらの態度に対して、九島烈は満足そうに笑った。

 

「意外だろう?だが、君達の思い込みだって間違っているわけではない。"君達"の存在を知っているのはごく一部だよ。あの七草だって君達のことは知らない」

 

「だが、あんたは知っている。その口ぶりだと、"我々がどのような物なのか"も」

 

「もちろん。"あのプロジェクト"には私も関わっていた。おっと、"君達"は知らないんだったね」

 

 その言葉に、更なる疑念を抱くことになった。

 

「"あのプロジェクト"?」

 

 そう聞き直すが、はっきりとした答えを話してはくれない。

 しかし、彼も遠まわしな言い方が好きであるようで、ソレを匂わせるような答えを返してきた。

 

「"君達"は分からないだろう。だが、私達魔法師は"君達"のことを"君達"が思ってるより早くから知っていたし、それに対抗しようとしたのだよ。結果は最善ではなかったようだが」

 

「・・・"始まったときには既に終わってる"ってのは俺の経験則だが、今回の場合は"始まる前に終わっている"みたいだな。余計に内容が気になってくる」

 

「まぁ、そのうち分かるさ。"八咫烏"は賢い。長くないうちに真実には辿りつく」

 

 彼は雲から僅かに覗く月を見て、まるで昔を思い出しているかのような目で語る。

 

「我々は、"君達"を知っていたのだよ。だからこそ、"君達"に対抗するだけの力をつけようとした。それにより、魔法師を"君達に不都合な存在"で終わらせず、また魔法師を"ただの兵器"として以外の生き方を作り出した」

 

「自分達は兵器であったとしても、か?」

 

「そうとも。周りを見てみなさい。大亜連合も、USNAも、東EUも西EUも。どこも魔法師を"社会レベルにまで発展"させたところなどありはしない。我々、日本の魔法師だけだ。"八咫烏達"の手をここまで煩わせられるまで発展させることが出来たのは、我々が唯一とも言っていい」

 

「・・・そこは認めざるを得ないな。確かに、"お前達"は"俺たち"にとって厄種でしかない」

 

「そこで全てが丸く収まればよかったのだがな。今度は魔法師が"兵器"から逃れられなくなってしまった。"力"に使われるようになってしまった」

 

 そう語る彼の目は、老人とは思えないほどの覚悟を灯していた。

 

「まだ、終われないのだ。たとえ"あのプロジェクト"が失敗であったとしても、"君達"がこうやって現れた以上、何かしらの意味があったはず。我々だけでは"兵器"から抜け出すことが出来ないのならば、"神"に頼むしかない。そして"彼"は、その窓口になり得る」

 

「随分と大層な夢を持っているな。魔法師を、魔法師として在らせる為に命を燃やすか」

 

「もちろん。その為には、"烏"の力を借りるしかない。私に見える道は、それしかない」

 

「・・・なら頑張ってみるんだな。"魔法師"が、今度こそ"我々"にとって有用足りえる存在になるように」

 

「そうだな。其れまでこの老体も捨てるわけにはいかないだろう」

 

 そう言って、既に燃え尽きた煙草を携帯灰皿に入れてその場を去る。

 去り際に、彼がこの会話で最後の言葉を投げかけてきた。

 

 

「"烏"に説教というのも奇妙な話だが、覚えておくといい。君達にだって、理解していないことはあるのだということを、な」

 

 

 そして、また彼も別方向に消えていった。

 

 

 今更なのかもしれない。しかし、九島烈の言葉から考えるに、もはや無視できる規模にはないらしい。

 彼のいう"あのプロジェクト"とはなんなのか。意味さえ分からない以上、調べても徒労に終わることは間違いない。

 

 

 まさしく狐が生まれる前から生きていた身であるはずなのに、妙に狐に包まれたような気分がしてならなかった。

 

 




ってことでオリ主現地入り&謎との遭遇です。
オリ主達が把握せず、魔法師の一部のみでオリ主達に対抗しうる力を持つ為に行われたこととは、一体。

まぁ、魔法科八巻の時点で16巻の展開を予期できてた聡明な読者の方々ならある程度の目処は付いていると思うんですけどね。

なお、九校戦に伏線をばら撒こうという意図は本当にこれを書く寸前。ネタを考えている時に振ってきた。そういえば九校戦も裏では伏線祭りだったと。これで三話分ぐらい話のネタが決まった気がする。

次回、未定。投稿遅れるかも。

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