魔法科高校と"調整者"   作:ヤーンスポナー

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出来るだけ繋ぎ回を1回で纏めようとしたら文字数が何時もの二倍になったでござる。
原作では高々数ページなのにひでぇや


第二十三話~放送~

【Thursday,April 21 2095

  Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 授業が終わった直後、放課後の冒頭。

 

『全校生徒の皆さん!』

 

 ハウリング寸前の大音声が、スピーカーから飛び出した。

 

「何だ何だ一体こりゃあ!」

 

「チョッと落ち着きなさいただでさえアンタは暑苦しいんだから」

 

「・・・落ち着いた方がいいのは、エリカちゃんも同じだと思う」

 

 かなりの数の生徒が慌てふためく中、今度はスピーカーからもう一度、決まり悪げに同じセリフが流れた。

 

『失礼しました。全校生徒のみなさん!』

 

「どうやらボリュームの絞りをミスったようだな」

 

「まぁ初放送でマイクの入れ忘れなんてミスするよりはマシだと思うがな」

 

「やっ、二人とも言ってる場合じゃないから」

 

『僕達は、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です』

 

「有志ね・・・」

 

 スピーカーから威勢よく飛び出した男子生徒の声を聞いて、紗耶香の言っていた「待遇改善要求」の為のそれなのだろうと理解する。しかし、有史以来一体どれだけの政治的集団が「有志」だっただろうか、つい考えてしまう。

 

「ねぇ、ところで二人は行かなくてもいいの?」

 

「そうだな。放送室を不正利用していることは間違いない。委員会からお呼びが掛かるか」

 

「え、何また書類増えるの?嫌なんだけど今日から少し用事できそうなんだけど」

 

 そうぼやく借哉の願いもむなしく、携帯端末にメールの着信が来る。

 

「欝だ・・・・」

 

「言ってても仕方がないだろ。とりあえず全員最初は放送室集合なんだ。早く行くぞ」

 

「余計欝だ・・・」

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「あ、はい、お気をつけて」

 

 席を立つ二人に掛けられた美月の声は、不安に揺れていた。ふと気になり、教室の様子を見回してみる。そこに、教室から出て行こうとしている生徒はほとんどいなかった。大半のクラスメイトが、不安げな顔で、このまま帰っていいのかどうか決めかねていた。

 

 

 

 

「あ、お兄様」

 

「深雪、お前も呼び出しか?」

 

「はい、会長から、放送室前へ行くようにと」

 

「本当に入学してから騒ぎが続いてるなぁ・・・」

 

 途中で深雪と合流し、放送室へと向かう。

 

「これは、"例の団体"の仕業でしょうか?」

 

「特定は出来ないが、その手の輩の仕業には違いないだろうね」

 

 恐らくは知っている可能性が高いが、念のために彼の前でブランシュのことは出さない。

 何しろ、憂さ晴らしついでに知らない振りをしていろいろ聞かれかねない。

 そんなことを考えながら、放送室の前に到着する。

 放送室前には、すでに摩利と克人と鈴音、そして風紀委員会と部活連の実行部隊が顔を揃えていた。

 

「遅いぞ」

 

「すみません」

 

 ポーズだけの叱責に同じくポーズだけの謝罪を返して、現状確認に移る。

 放送室の電源は切られ、放送そのものを止めている。

 まだ中に踏み込んでいないのは、扉が閉鎖されているせいだろう。

 恐らくは何らかの手段で鍵をマスターキーごと手に入れたと見える。

 

「明らかな犯罪行為じゃないか」

 

「そのとおりです。だから私達も、これ以上彼らを暴発させないように、慎重に対応すべきでしょう」

 

 今のセリフは独り言でしかなかったのだが、鈴音はそう取らなかったようだ。

 

「こちらが慎重になったからといって、それで向こうの聞き分けがよくなるかどうかは期待薄だな。多少強引でも、短時間の解決を図るべきだ」

 

 すかさず摩利が口を挟む。

 どうやら方針の対立が膠着を招いているようだ。

 

「どうせ風紀関連の書類は俺に回ってくるんでしょう?今日中に処理したいんで後三分で決まらない場合は蹴破りますよ委員長」

 

「別に今すぐにでも構わんのだが、やるとしても足並みを揃えろ」

 

 借哉も摩利と同じく短期解決を主張してきた。

 とは言うものの、彼は具体的に"三分"とつけた。これ以上時間を引き伸ばしにすることが最も拙いと分かっているのだろう。既にドアの前に立ち、二人の先輩を呼んで突入体制を整えている。

 

「借哉、一旦待て。十文字会頭はどうお考えなんですか?」

 

 借哉に一旦待つように言ってから、克人に意見を伺う。

 意外感を抱えた視線が帰ってきたが、現状を放置するよりはいい。

 

「・・・俺は彼らの要求する交渉に応じてもいいと考えている。元より言いがかりに過ぎないのだ。しっかりと反論しておくことが、後顧の憂いを経つことになろう」

 

「ではこの場は、このまま待機しておくべき、と?」

 

「それについては決断しかねている。不法行為を放置すべきではないが、学校施設を破壊してまで性急な解決を要するほどの犯罪性があるとは思わない」

 

「・・・交渉するにしろ突入するにしろ、後一分で決めましょう」

 

 結局は、強引な事態収拾は図らないという意見が主流になる。

 しかし、借哉は何かしらの行動を起こさない場合直ぐに突入するだろう。

 ここは、致し方ない。

 

「借哉、突入は待て。"鍵を開けてもらう"」

 

「ピッキングでもするのか?」

 

「そんなわけないだろう、一旦ドアから下がって、相手が出てきたところを抑えろ」

 

「はぁ・・・腹案でもあるんだろうな?」

 

 仕方なくドアから離れた借哉から掛けられた質問に頷く。

 

「壬生先輩に連絡を取ってみる」

 

 

 

 

「どういうことなの、これ!」

 

 案の定というべきか当然というべきか、やはり紗耶香に詰め寄られた。

 放送室を占拠していたのは、彼女を含めて五人。予想通り、CADを所持していたが、それ以外の武器は持っていなかった。

 紗耶香以外の四人は借哉や他の風紀委員によって拘束されているが、紗耶香はCADを没収されただけだった。

 

 摩利が配慮した結果である。別に、口約束を守る必要などないと考えていたのだが。

 

「あたし達を騙したのね!」

 

「司波はお前を騙してなどいない」

 

 言い詰ろうと詰め寄る紗耶香に対して、克人が声をかける。

 

「十文字会頭・・・」

 

「お前達の言い分は聞こう。交渉にも応じる。だが、お前達の要求を聞き入れる事と、お前達の執った手段を認める事は、別の問題だ」

 

「とりあえずは決まりましたね。"四人に関しては"連行しますよ。さっさと手続き終わらせちゃいましょう」

 

 そう言って拘束されている四人を移動させようと借哉が動こうとした時、声が掛かった。

 

「まぁ、一応彼らを放してあげてもらえないかしら?」

 

 そういって、達也と紗耶香の間に真由美が入り込んだ。

 

「七草?」

 

「だが、真由美」

 

 克人と摩利が何かを言おうとしたが、それを未発段階で遮った。

 

「言いたいことは理解しているつもりよ、摩利。でも、壬生さん一人では交渉の段取りも打ち合わせもできないでしょう。当校の生徒である以上、逃げられるということもないのだし」

 

「あたしたちは逃げたりしません!」

 

 真由美の言葉に、紗耶香は反射的に噛み付く。

 だが、それに反応する間もなく横から声が掛かる。

 先ほどまで四人のうちの一人を拘束していた借哉だ。

 

「しかし会長。"当校の生徒である"というのなら余計に、"当校のルールで罰する"必要があります。今回は計画的犯行であった以上情状酌量の余地なんてありませんよ?」

 

 現在の状況から、直ぐに罰するべきと借哉が主張する。恐らくは摩利も同じ気持ちだろう。

 だが、真由美はそれに首を縦に振らなかった。

 

「生活主任の先生と話し合ってきました。鍵の盗用、放送施設の無断使用に対する措置は、生徒会に委ねるそうです」

 

「・・・委員長、どうします?」

 

「そうとなれば仕方はないだろう。風紀委員会に出る幕はない」

 

 摩利の返事に、了承の意を返す借哉。

 恐らくは彼の胸の中はこの先の仕事を生徒会に押し付けることが出来る口実を得られて満足しているのだろう。さほど抵抗することもなく従った。

 

「壬生さん。これからあなた達と生徒会の、交渉に関する打ち合わせをしたいのだけど、ついて来てもらえるかしら」

 

「・・・ええ、構いません」

 

「十文字くん、お先に失礼するわね?」

 

「承知した」

 

「ごめんなさい、摩利。なんだが、手柄を横取りするみたいで気が引けるのだけど」

 

「気にするな。実質面では手柄のメリットなど無いからな」

 

「そうだったわね。じゃあ、とりあえずは達也くんたちは、今日はもう帰ってもいいわ」

 

「・・・それでは会長、失礼いたします」

 

 その言葉に丁寧に一礼を返し、その場を後にする。

 

 

 ある程度離れたところで、彼が愚痴を吐いた。

 

「本当にくだらん。ああいう輩は無駄な仕事ばかり増やす」

 

「ちなみに、誰のことを言っているんだ?」

 

 そう聞いてみると、ある種予想通りの答えが返ってきた。

 

「放送室乗っ取った連中だよ。自分達が何を望んでいるかすら分からんのに、思い込みだけで行動するタイプだ」

 

「学内での差別撤廃。案外はっきりしてるとは思うが?」

 

 自分でもまったく筋は通ってはいないとは思うが、何を望んでいるかに関してはこれであっている。

 だが、彼は首を横に振る。

 

「いや、違うな。あいつらは"虐げられてきた"と感じていて、"報われるべきだ"と思ってるんだよ。それは"差別撤廃"やら、"平等"やらはないぞ?あいつらが本当に欲しているのは今まで耐えてきた分、又はそれ以上に"二科を優遇すること"さ」

 

「"最も差別意識を持っているのは、差別されている側である"という言葉もある。結局は根本的な解決よりは、手前の事態の解決しか俺達には出来ない」

 

「まぁ、違いないな」

 

 そう言って彼は笑う。

 

 

 だが、次に出たセリフは、何処となく真剣な様子を帯びていた。

 

「だが、ああいう輩に限って派手なことを好む。場合にも寄るが、恐らくは準備を済ませているだろう」

 

「・・・どういうことだ?」

 

「さぁな。ただ、恐らくは三日以内には何かしらあって然るべきだ。ただ、問題はその時に俺は用事で休む予定でな。水曜の時点で一応金から火までに休みを申告している。だから、その時に俺は"学校に干渉できない"」

 

「・・・"何か起こった時に、事態を収拾しろ"といいたいのか?」

 

 そう返すと彼は頷く。

 

「話が早いな。流石に明日に何かあるとは思えんが、何か起こるとしたら"視点が一箇所に集まった時"だ。その時、出来るだけ俺に後の面倒が来ないように決めてくれよ」

 

「それは、風紀委員の"河原借哉"としてか?それとも、もう一つの"河原借哉"としてか?」

 

 それに答える借哉の顔は、平時の、何かしらのジョークを発する時の顔に戻っていた。

 ただし、内容の真剣度にさほどの変化はなかったが。

 

 

「"どっちも"だよ。精々頑張ってくれよ?"風紀委員のエース"さんよ」

 

 

 そう言って去っていく借哉に対しては、ため息しか出なかった。

 

 




てなことでさり気なく学校の面倒ごとを押し付けつつサボり宣言するオリ主。
彼自身適当に工作が起こるであろう時期を自分なりに予測して、その時いつでも動けるように休みをとってます。
特に学校の面倒ごとに首突っ込んだら、潰しに行く時に達也くんと一緒に行くことになっちゃうじゃないですか。そんなの目的としては半ば失敗のようなもんです。

次回、オリ主視点。学校の騒動とかあんま書かないかも

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