事態が激しく動くのは、次回から。
【Friday,April 15 2095
Person:operator4 】
「1060ms・・・ほら、頑張れ。もう一息だ」
「と、遠い・・・0.1秒がこんなに遠いなんて知らなかったぜ・・・」
「馬鹿ね、時間は『遠い』とは言わないの。それを言うなら『早い』でしょ」
「エリカちゃん・・・1052msよ」
「ああぁ!言わないで!せっかくバカで気分転換してたのに!」
「お前ら楽しそうだけどこれ居残りだからな?」
見ていて確かに楽しくないわけではない。このような光景は見ていて滑稽だ。
しかし、肝心なのはこれが居残りだということ。せめて食堂の美味い飯を食べたくないのか。
とは言うものの、レオもエリカも好きで居残りしているわけではないから酷な話なのだろうが。
昨日の朝の内に事態を聞いてみたところ、嫌なことにほぼ予想通りの情報が出てきた。
二科生を中心とした部活連合団体の設立、及び学校に対する抗議の協力要請。
エガリテの連中はこれを足がかりにする予定だろう。恐らく警告は無視されたのだろう。
しかし、別に工作そのものは問題はないのだ。問題は、その工作の方法が"派手"なのか"静か"なのかに尽きる。
個人的には、取るなら取るでいつの間にか取られていたという状況にしてほしいのだ。その方がこちらへの影響は少ない。ただ、もし学校全体に騒ぎを起こすような派手なものだとしたら、それなりの行動が必要になってくる。
「難儀なもんだなぁ・・・」
「どうした?」
「こっちの話だ」
二人へアドバイスを終えた達也がこちらの様子に気づく。
それに対して返事をすると共に目の前の事象について話す。
「とりあえずもうこれは諦めた方がいいと思うがな。そろそろ腹減ってくるだろ。やれるとしても後一、二回ってところか」
「大丈夫だ、"頼んである"」
「お兄様、お邪魔してもよろしいですか・・・?」
つくづく用意のいいことだ。食堂に食べに行くにも時間がないと把握して妹さん達に頼んでいたのか。
「深雪、・・・と、光井さんに北山さんだっけ?」
そう言いつつ振り替えるのはエリカ。
まぁ確かに意外に感じないでもない。だが、今はまだ気にするべきではない。
「エリカ、気を逸らすな。次で終わりだから、少し待ってくれ」
「いっ?」
「分かりました。申し訳ございませんでした、お兄様」
振り向いて謝罪する達也に対して一礼を返す妹さん。
そして達也のさり気ないプレッシャーにレオの顔が引き攣った。
「二人とも、これで決めるぞ」
「応!」
「うん!これで、決める!」
二人は気合を入れてCADのパネルへ向かった。
「まぁ、サンドイッチの差し入れがあってよかったな?二人とも」
「まったくだ。本当に達也には感謝だぜ」
「教室で食べることが出来て本当によかったわ~」
妹さん達が用意したサンドイッチに被り付く二人。
なお達也は弁当、美月と俺は自分で用意した軽食を食べている。
先ほどまで魔法の実習をやっていただけあり、話題は実習内容に移る。
「そういえば、深雪さんたちのクラスでも実習が始まっているんですよね?どんなことをやっているんですか?」
「多分、美月たちと変わらないと思うわ。ノロマな機械をあてがわれて、テスト以外では役に立たない練習をさせられているところ」
しかし妹さんの返答には達也を除くほぼ全員がギョッっとした。
外見にそぐわない毒舌具合だが、これもまだ彼女自身の立場になったら理解できる。
「ご機嫌斜めだな」
「不機嫌にもなります。あれなら一人で練習している方が為になりますもの」
彼女の場合は他の一科生の二倍以上はあるのではないかと思われるスペックとそれを生かせるように経験を積む環境が既に手元にあったため、むしろ今現在既に魔法師としての腕は確立されていると言ってよい。
とは言うものの、そのような人もまた少数なのは確か。
中には出来るだけ手取り足取りやってくれた方がいいと言う人もいる。
そういう人の前でそのようなセリフは余り好むべきものではない。
しかし、先ほどまで達也に手取り足取りされていたエリカは不機嫌な表情は浮かべなかった。
「いや、でも見込みのありそうな生徒に手を割くのは当然だもの。ウチの道場でも、見込みのなヤツは放っとくから」
「エリカちゃんのお家って、道場をしているの?」
「副業だけど、古流剣術を少しね」
「あっ、それで・・・」
納得顔で頷く美月。
確かにエリカには剣の使い方に一定の心得がある。そう見た場合むしろ道場に通っているか、実家が道場かのどちらかが真っ先に頭に浮かぶだろう。
そして、エリカは道場の中の話を例に挙げ、説明していく。
曰く、道場では半年は技を教えないらしく、最初に基本を教える。それもたった一回のみ。後はひたすら繰り返しを見ているだけで、まともに刀を振れるようになった人から技を教えていく。
もちろん、上達しない奴が出てくる。しかし、そういう奴に限って自分の努力不足を棚に上げる。まず基本を身につけない限りは何を教えても意味がないというのに。
師範などでも暇ではない。彼らにも自分自身の修業があるのだから、最初から教えてもらおうという考えそのものが甘い。常に、周りから吸収するつもりでなければいけないのだ、と。
「なるほどな。確かに一理ある」
「だからね、元々見込みのない私達は自分達で努力する必要があるのよ。だから、別に講師が付かないことぐらいでは文句はないわね」
「・・・ご高説はもっともだと思うけどよ、俺もオマエもついさっきまで達也に教わってたんだぜ・・・?」
「あ痛っ!ソレを言われると辛いなぁ」
レオの指摘に顔を顰めつつも、特に調子が変わるわけでもない。
「まぁ、別にいいじゃないか。偶にはそういうことも必要な時があるって事さ。自分で上に上がろうとしない者に文句を言う権利はないって言いたいんだろ?」
「ま、そういうことよね」
そう頷きつつエリカは最後のサンドイッチの一口を口に入れた。
「だが、反対意見がないってのは聞いてて詰らん気もするな。誰かいたりしないのか?」
「なら借哉は反対なのか?」
少々話を深いところまで聞いてみたいと思って問いかけてみたが、逆にレオから問いかけられることになった。
確かに自分では何も喋らないというのはフェアではないか。
そう思って、考えを口にした。
「まぁ、別に当たり前だとは思っていないが割り切るべきだよなぁとは思ってるかね」
「ほぅ、そりゃ何でだ?」
興味深そうに聞くレオ。ただ、生憎回答は限りなく簡潔だ。
「単純さ。"俺でもそうする"から」
「・・・っていうと、どういうこと?」
「簡単さ。自分を校長の立場にして考えてみるとな、魔法科高校にはどうしてもノルマっていうもんが存在して、生徒全員を一人前に仕立て上げる能力は現状ない。そうなると、ノルマだけでも達成できるようにって片側だけを優遇せざるを得ない。」
「でもそれだと、もう片側からは文句が出るのは当たり前になるぞ?」
そう聞くレオに対して、しっかりと頷く。
「もちろん。片側は切り捨てているわけだし、本来の教育原理から考えるとお世辞にも褒められた方法ではない。ただ、この魔法科高校ではその方法を取らざるを得ず、俺たちはそれを"承知の上で"その魔法科高校に入学したんだ。一科だとか二科だとかいって差別するのは生産的とも言えんしそこに文句が出てくるのは当然なんだがな、教育方法に関しては割り切って然るべき、ってことさ」
「話を聞いた限りはかなり後ろ向きな考え方だな」
そう言う達也に対して、笑いながら答えた。
「まぁ、そこらへんは自覚してるさ。ただ、俺たちはもう高校生だ。ある程度のラインは割り切っていくべきなんだよ。達也だって確か今日に"答え"を聞くんだろ?それが正しいかどうか、きちんと判断するんだな」
「はぁ・・・委員長からもよろしくとは言われたが、お前まで一体どうした?」
そう訝しげに聞く達也に対して、彼にだけ分かる意味合いで答えた。
「それによって入ってくる情報は貴重だからな。有効活用していくつもりだ」
「・・・そうか。まぁ、結果だけは伝えておくさ」
そう答える達也の顔は、やはりどこか疲れていそうな気がした。
だが、こちらとしてもどのような行動をしていくのか調べなければいけない。ある意味あてにしているのだ。
"調整者"達の一部にも調査をさせているため近いうちに答えは得られるだろうが、ソレより早く対策するために情報が欲しい。
その為にも、もう少し働いて欲しいものだ。
てな感じでオリ主の必要性をほぼ感じない回だった気がしなくもないけど、ツナギ的意味ではやっぱり必要でしょう?こういうのも。
オリ主の考えを纏めると「予め教えられない可能性もあることを分かった上で入学したんだから割り切れよ」って奴です。基本彼は共同体を尊重する考えの持ち主。だって彼自身"管理者"様第一的な思考持ってますから。
次回、オリ主視点なのは変わらず。ただし、それなりに面白くなるかも・・・多分。