魔法科高校と"調整者"   作:ヤーンスポナー

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ってことで二十話です。話数的にはもう過ぎてるんだけどね。


第二十話~噂話~

【Wednesday,April 13 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 あのうるさい騒ぎも終わり、何時も通りの日常が帰ってきた。

 今思う。本当によかった。特に四日目に用件を終わらすことが出来て本当によかった。

 その後「どうせお前は働かないから」と溜まりに溜まりまくった書類の整理を一人でやらされたが、人ごみの中より書類の中の方がよほど落ち着いた。

 

 尤も、やっと"半分が"終わった所だから今日も行かなければならないのだが。

 

 

「達也と借哉は今日も委員会か?」

 

「今日は非番。ようやくゆっくりできそうだ」

 

「俺はまだ仕事が残ってるからな。残念ながら委員会だな」

 

「出来れば早めに終わらせてくれ。仕事が増えなくて済む」

 

「後で呼ぶぞこの」

 

 達也は本当に他人事でいいことである。実際彼がいればあの書類の山の残りも二日かそこらで終わりそうな気がする。彼の情報処理スキルに関しては素でさえ"我ら"を上回っているのに、経験もそれなりに積んでいる為かなりのものだ。

 

 尤も、一人が気楽な為ヘルプなど呼ばないのだが。

 

 

「まぁでも、達也は大活躍だったな」

 

「少しも嬉しくないな」

 

 あの馬鹿騒ぎでの達也の活躍を褒めるレオに対して、憮然たる面持ちで達也はため息をつく。

 レオはその姿をみてどう見ても噴き出すのを我慢していた。

 

「今や有名人だぜ、達也。魔法を使わず、並み居る魔法競技者(レギュラー)を連覇した謎の一年生、ってな」

 

「『謎の』ってなんだよ・・・」

 

「得体の知れない一年生ってことだろ」

 

「そんな事を聞いてる訳じゃない・・・」

 

 そんな風に茶々を入れていると、エリカがのぞき込むように顔を見せてきた。

 

「一説によると、達也くんは魔法否定派に送り込まれた刺客らしいよ」

 

「誰だよ、そんな無責任な噂を流しているヤツは・・・」

 

「あたし~」

 

「オイ!」

 

「もちろん、冗談だけど」

 

 一瞬本当にエリカが流してるのかと俺も思った。何せある種の騒ぎを好む傾向があるエリカはそのようなことをやりそうな気がしなくもない。

 

「勘弁しろよ・・・性質が悪すぎだ」

 

「でも、噂の中身は本当だよ?」

 

 再び、達也はため息をつく。

 

「お前も大変だねぇ」

 

「本当に他人事でいいなお前は・・・」

 

「事実他人事だからな」

 

「でも、今日からデバイスの携帯制限が復活する事ですし、もう心配ないんじゃありませんか?」

 

「そう願いたいよ・・・」

 

 美月のかける慰めの言葉に、達也はここぞとばかりに頷く。

 トラブルが続かないとは、まだ決まっていないが。

 

 

 

 

 風紀委員会本部。

 つい数日前に綺麗に掃除したはずのこの部屋の机は、半分ほどが書類で埋められていた。

 ある程度のものについては提出も済ませてあるのだが、一部は風紀委員長が目を通さなくてはいけない書類もある。

 問題は、その書類を全く渡辺委員長が見に来ないことなのだ。

 おかげで整理し終わった資料の一部が提出などをすることもできずに机の端にそこそこの数を置く羽目になっている。

 

「まぁ気楽だしいいんだけどさぁ」

 

 少なくとも巡回をしなければいけない他の風紀委員に比べたらまだ気楽な方だろう。

 むしろ逆に俺と達也が風紀委員を抜けた場合ここはどうなるのだろう。まず書類に首が回らなくなるのではなかろうか。

 ちょっとした組織構造の変換を迫られている気がしなくもないが、そこはもうちょっと聡明な"彼"がやってくれるだろう。やる前に抜けてしまったら元も子もない気がするが。

 

 

「おっ、前よりは案外片付いたな」

 

 そこに生徒会室から降りてきたのであろう渡辺委員長が入ってくる。

 別に不自然な事ではない。まずここは風紀委員本部なのだし、何より

 

「やっと来たんですか。とりあえず左端においてある書類は全部終わりましたが、委員長による確認及び証明が必要です。面倒くさかったら判子だけでも押してください」

 

 俺自身が呼んだのだから。さすがに片付いた書類の山が残ったままの状態を見ていて楽しい気分にはならない。

 

「分かった。確か判子はどこだったかな・・・」

 

「・・・机の中に入っているのでは?そうでないならば棚の中段右にある小道具のところに有ると思いますよ」

 

「本当に置いてある場所が分かる人がいるというのは便利でいいな」

 

「・・・逆に今までどうしてたんですか?その調子で」

 

「基本次の世代に丸投げだった気がする」

 

 なんという悪しき風習。早めの改善を要求したいが、生憎この一年さえ乗り切ればもはや俺は自由になれる可能性が高い。余計な口出しはしないでおく。

 

「それにしても達也君は本当に先週は大忙しだったな。誰かさんと違って」

 

「まぁここの書類整理もハードといえばハードですがね」

 

「君は本当に申し訳程度にしか働かないから頭が痛いよ・・・」

 

「目の前で起こったことは素通りしにくいですからそれは対処しますがね」

 

「それしかやらないから言ってるんだ・・・」

 

 何が不満だというのか。逆に書類の山を一人で整理しているのだから感謝されてしかるべきだ。

 そんな俺の不満を余所に、渡辺委員長は耳寄りの情報をもたらした。

 

「そういえば、その達也君なんだがね」

 

「どうかしたんですか?話をするのは構いませんが判子とサインはしていってください」

 

「あぁ、分かってるさ。で、その達也君なんだが、今日二年の壬生を言葉責めにしていたらしいぞ?」

 

「はぁ?」

 

 本当に訳が分からなくて思わず素が出る。

 "彼"はそもそも女性を口説くような人間ではない。というより、妹に対してソレを抱いているのではないかと思える為、他の人間には尚更そのようなことをするようには思えない。本当に冗談の類にしか聞こえないから困る。

 

「・・・で、本当のところはどうなんです?」

 

「さぁ?私も人から聞いた限りで詳しい事は分からん。ただ、どうも最初は壬生が誘ったようだがな」

 

「壬生先輩から?」

 

 嫌な話を聞いた気がする。渡辺委員長は壬生先輩から誘ったと言ったか?

 

「確か壬生先輩といったら、剣道部の部員でしたよね?」

 

「そうだな。あの騒ぎの中心人物なんだからむしろ覚えてそうなものだと思うぞ?」

 

「自分にとっては他人事でしたし」

 

 そう言いつつ、思案する。

 司甲が主将である剣道部の、部員である壬生紗耶香が司波達也に接触する。

 もしかして、司甲は俺の"警告"を無視したのか?そうとなると、もうちょっと上に接触する必要があるか?それとも、俗にある"始まったと思ったときには既に終わっている"という奴なのか。

 

「・・・後で達也に聞いてみますかねぇ」

 

「まぁ私も明日あたり聞いてみる予定だ。もしも聞けなかったら今度は私に聞いてくれ」

 

「その報酬は?」

 

「次の世代への引継ぎ書類の作成」

 

「全力でお断りします。この一件に関して委員長には聞かないようにします」

 

 ただでさえかなりの書類があったのにまだ増えるのか。それで肉体労働をしなくても良いなら考え物だが、残念ながら巡回と混ぜつつ、だろう。それなら断固お断りだ。

 

 

 しかし、この一件は冗談抜きで考えておくべきだろう。もしこちらの圧力をブランシュが無視したとすれば、それなりの制裁を加えなければならない。

 出来れば、"我ら"が直接出てきたとは知らされないように、"今回の工作と、その実行犯を潰す"準備をしておきたい。

 この場合、何があれば可能だろうか。考えておくことにしよう。

 

 

 魔法師社会に、"邪魔をしてはいけないものが誰か"を印象付ける為にも。

 

 




ってことで借哉くん書類整理の巻。
これじゃ達也君にヘルプが入る前に終わって、カウンセリングイベントが消えうせちゃうって?大丈夫、きっとメールが来る。彼にもオリ主にも平穏は許されていない。

現状"管理者"も"調整者"も魔法師の混じった相手に対して手持ちの駒では力不足というのは理解しています。ですから、オリ主自身が出向く事で駒を失うことなく潰そうという腹なのです。基本的に不死身に近いですし。
正確には魔法師に対抗しうる駒もないわけではないです。問題は、今回使うには少々不釣合いな点ですね。まぁその駒が登場するとしたらかなり先でしょう。

後、彼ら"管理者"達は魔法師社会にはほぼ何の影響力もない状態とはいいましたが、政府や警備関連など、魔法師以外の要素も絡むところではかなりの影響力を持ちます。もちろん純粋な非魔法師のそれと比べるとどうしても下がりますが、まず頭ごなしに無視はできないと考えてもいいかと。もちろんほぼ特定の十師族の私兵となっているところとかは無理ですが。
ブランシュとエガリテについて情報を得ることができたのはソレが要因ですね。大亜連合に関しては魔法師の立場は言うほど高くありませんから。その点日本ってすげぇよな、完全にコントロール不能な化け物の集まりだもん。

次回、魔法実習。オリ主の魔法技能が遂に明らかに・・・っ!たぶんならない。

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