魔法科高校と"調整者"   作:ヤーンスポナー

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オリ主は基本的に飯時を大事にします。ゴローちゃんみたいに。

この一言で全てを察するべきでしょう。要するにバトル回。


第十二話~奇貨~

【Sunday,April 5 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

「正気ですか渡辺先輩!"二科生(ウィード)を二人も風紀委員にいれる"など!」

 

「よくも風紀委員の前でその言葉を使えるな服部刑小丞範蔵副会長」

 

「フルネームで呼ばないでください!」

 

「あの、もう副会長の精神衛生が大変なことになっているので、"俺の風紀委員入り"は止めた方がいいのではないのかと・・・」

 

 

 夕方の、生徒会室。

 恐らく外にも聞こえるであろう、白熱した抗議が副会長により行われている。

 その中で、ただ直立不動で待っているのは、昼に呼ばれていた"彼"ではなく、呼ばれていないはずの俺。

 何故、とは言わない。理由は分かりきってるから。

 ただ、どうして"昼"にあんなことをしたのだろうかと、今更ながら後悔していた。

 

 

 

 

 

 すべては、昼食時に始まった。

 前回と同じように定食を買い、ついでに何時も飲んでいるコーヒーを用意したところだった。

 

「借哉、わざわざ缶コーヒーを選ぶよな。好きなのか?」

 

「案外昔から飲んでてな。これじゃないと落ち着かない」

 

「案外コーヒーが好きなんだね。通なの?」

 

「いんや。コーヒーマニアではないさ。ただ、これの方が飲みなれてるってだけで」

 

 ちょっとした小話をしながら席を探していると、不意に一科生がこちらの方に向かってきた。

 いや、"こちらの方"というには語弊があるか。正確には、"俺の方"に。

 明らかに、ぶつかる意図で寄ってきている。

 だが、甘い。生憎このようなことは何回も経験している。

 完全に当たると思わせた距離で避ける。もちろん、トレーを落としたりなどはしない。

 完全に予想外というような表情をしているが、まだまだ甘い。

 

 たとえ、二段構えの作戦を構えていても。

 

 すぐ近くの、椅子に座っていた別の一科生が転ばせる意図で足を出してきたが、ちょっとしたジャンプで直ぐ回避。

 もし本当に俺のことを転ばすつもりなら、少なくともこそこそとやるようでは無理だろう。

 

 

「甘いんだよ。もうちょっと腕を磨いて出直してこい"新米(ルーキー)"」

 

 

 この言葉が、不味かった。主に、最後の単語が。

 

 

「・・・っ!ウィードごときが生意気な!」

 

 先ほど足を引っ掛けようとしていた一科生が立ち上がり、殴りかかってくる。

 が、挙動が丸分かりな状態で素直に殴られる馬鹿はいない。素直に回避。

 

「やめろっての。今から飯食うんだから、喧嘩するにしてもその後な」

 

「おい、借哉大丈夫か!」

 

「先行っててくれ。"じゃれあってるだけ"だしな」

 

「・・・てめぇ!」

 

 今度は蹴りを繰り出してきたが、格闘技を習い始めたばかりの素人より酷い。後ろに下がって素直に回避。

 しかし、油断していたのだろう。不意に捕まれた。

 

「もうちょっと一科生(ブルーム)に対する礼儀を学ぶべきだったな」

 

 先ほどぶつかろうとしていた彼か。もう決まった気でいるらしい。

 足の先を思い切り踏みつける。トレーを持ってさえいなかったらいろいろ出来たのだが、そうでない限りは昔のドラマにあった手法が一番いいだろう。

 体を拘束していたたいせいが崩れる。すかさず体を捻って拘束から逃れる。

 そこに最初に手を出してきた生徒のパンチが"振りほどかれた彼"に炸裂する。

 かなり力を入れていたらしく、直ぐ隣の女子生徒が使っていた机に叩きつけられた。

 

「だからいっただろ。"甘い"って。昨日の森崎のことでだろうが、取りあえずは飯を食わせろ。これ以上騒ぎを・・・」

 

 言いかけたところで、トレーが"吹き飛んだ"。

 攻撃が飛んできた方を向く。

 更に別の一科生の男子が、"CAD"を手にしていた。

 

「見たかよ。これが一科生(ブルーム)の実力だ。こんなことも出来ない出来損ないごときが、森崎を不意打ちで倒したぐらいで調子に乗るなよ」

 

 一気に周りが一時的なパニックになる。レオ達はこっちに来ようとしているが、人の波に逆らえずに押し戻されている。

 

 周りには、CAD持ちが二名と、先ほどの彼らを含めた素手の輩が3名。

 

 一対五。一般的には限りなく不利だろう。

 だが、

 

「舐めるなよ。"そんなおもちゃが万能な訳はない"んだ。それにな・・・」

 

 

 もう、堪忍袋の尾は切れている。

 人として、最も私利私欲が消えやすい、数少ない真の幸福の時間を、彼らは奪った。

 

 

「俺の飯や、人様の飯を邪魔した罪は軽いと思うなよ!」

 

 

 手近にあった金属製のスプーンをCAD持ちの一名の顔面向けて投げつける。

 既に展開を完了させていたようだが、突然の飛翔物を前に対象をスプーンに変えた。

 スプーンが正反対の方向に飛んでいく。

 しかし、スプーンに気を取られた時点で彼の負けだ。

 投げると同時に地を蹴り、素早く一撃。

 速度の乗ったパンチを腹に食らえば、大した訓練もしていない魔法師の意識ぐらいは刈り取れる。

 

「このっ!」

 

 もう一人のCAD持ちが、魔法を起動させた。

 "エア・ブリット"と呼ばれるらしい、空気の弾丸。

 だが、優れた魔法師なら今の動きからソレを選択したりはしない。

 なぜなら、例え空気でも、弾丸ならば"楽に避けられるのだから"。

 

「だから言ったんだよ。新米(ルーキー)ってな!」

 

 弾丸を避け、突進。

 弾丸は避けられると見て、あわてて別の起動式を展開しようとするが、それこそ判断ミス。

 この状況ならむしろ、既に展開済みのエア・ブリットを使った牽制射が有効だ。

 それなのにまともな判断が出来ず、パニックに陥る魔法師を新米といわずになんと言う。

 

「恨むなら軽率な行動をした自分を恨め!」

 

 突進の後、頭をつかみ地面に叩きつける。

 恐らくしばらくは顔が残念なことになるだろうが、自業自得だろう。

 

「・・・さて、残り"三人"か」

 

 唖然としていた素手の三人の、肩が反応する。

 今回は、俺が"狩る"側。

 

「今のうちに反省は済ませておけ。気が付いた時に保健室にいるといいな」

 

 

 

 

 

「確かに、こいつは少々過激かもしれん。だが、"魔法を使わずに、正面から複数の魔法師を相手にして全員を鎮圧する戦闘力"があれば風紀委員として十分な能力がある。」

 

「だからといって"教員に掛け合ってわざわざ森崎駿の教職員枠を潰し、代わりに問題の大本である河原借哉を入れる"必要はないでしょう!」

 

「元々入学二日目で問題を起こす輩だ。それよりは"多少性格に問題があっても他者を重んじることが出来る、有能な奴"を登用した方がいいに決まっている」

 

「ですが"食堂で大乱闘を起こし、相手を全員保健室送りにする"人物が風紀委員に向くと思っているのですか!」

 

 結果はこの有様である。

 風紀委員が駆けつけたときには俺の周りはまさに西部劇のように荒れ果て、周りにはノックダウンさせられた五人の一科生が倒れていた。

 その後流石にお咎め無しとは行かず、午後の授業を全て欠席にしてひたすら事情聴取。

 ありのままを話した後、いきなり風紀委員長がひらめいたアイディアが"俺も風紀委員に入れる"であった。

 も、というところがミソである。どうやら達也は一足先に風紀委員入りが確定していたようだ。

 別に"彼"が風紀委員になろうがどっちでもいいのだが、流石に自分のこととなると遠慮したくなる。

 このことは、予想しておくべきだったのかもしれない。

 

 

「・・・失礼します」

 

 ほぼ戸惑い気味で、妹さんと達也が中に入ってくる。

 

「おっ、来たな」

 

「いらっしゃい、深雪さん。達也くんもご苦労様」

 

「話を聞いてるんですか渡辺先輩・・・!」

 

 ほぼ何時もどおりのような声をかける二人。服部先輩にはもうちょっと説得を頑張ってもらいたいが、この調子だと先に参ってしまうだろう。

 

「借哉、"随分派手にやったらしいな"?」

 

「まだいいんだよ・・・・。一応は高校内の出来事なんだから。ただ、欲を言えばもう帰りたい」

 

「奇遇だな、俺もだ」

 

 恐らく"彼"にとっても風紀委員入りは不本意なのだろう。苦笑交じりの笑みを返された。

 

「・・・傍観者でいられると思ったんだが」

 

「諦めるんだな。渡辺先輩はああいう人らしい」

 

 

 余り積極的に関わるつもりはなかったのだが、この調子だと高校生活は忙しくなりそうだ。

 

 

 




最初のまともなバトルは食堂での乱闘でした。
オリ主の飯を吹き飛ばして周りの食事を台無しにしたんだからね、仕方ないね。
なお、今回の戦いは別に借哉だけが出来るわけではないです。達也とか当たり前のように出来ますし、そこそこ経験を積んだ兵士でも似たようなことは出来ます。
要するに、本当に相手がルーキーだったってだけっていう。


次回、服部副会長の頭皮がピンチに!


・・・ならないけどこの人案外苦労人になりそう。

【追記】誤字気づいた範囲で修正しました。

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