魔法科高校と"調整者"   作:ヤーンスポナー

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誰も居ぬ間にこそっと投下。

・・・投稿間隔は今後更に空く可能性があります。


第二章十八話~空中~

【Saturday,December 29 2096

 Person:operator4】

 

 

 

 

 

『予定時刻まで後十分。ルート上に異常なし』

 

「よろしい。敵は魔法師の可能性があり、かつ此方は攻められる立場だ。不得意分野である事に留意しろ」

 

 輸送機を改造した対地対空両用の早期警戒管制機の内部で状況を見守る。

 

 

 現状では現場には不穏な要素は確認できない。尤も護衛対象さえ移動していない以上当たり前ではあるが。

 

 一方、此方が把握してる限りでは松本基地の人造サイキック三十名が脱走。魔法の効果範囲が近接戦闘に限定されるとは言え、近づかれると脅威ではある。

 

 また、大亜連合宥和派でも動きがある。動員している速度からして間に合わないとは思われるが、増援の可能性も考慮しなくてはならない。

 

 

 そして、何より我が子飼いの特戦群予備分遣隊は元々フォックスハントが専門だ。護衛と言う分野については不得意と言って良い。他の非魔法師部隊より幾分かマシとは言え、相手の土俵で戦う事になる。

 

 

 今回の作戦は何もかにもが足りないと言っても良いだろう。だが、完遂させた方が"四葉本家"に対しての意思表示となり得る。

 

 

 

「流石に、泥舟に乗る趣味はないからな・・・」

 

 缶コーヒーを一先ず空けた所で、予定された時間になった。

 

「護衛対象の乗車を確認。二百メートル先で護衛車両と合流します」

 

「護衛車両に通達。先制するな。初撃はスナイパーに譲れ」

 

 護衛車両にそう指示を飛ばした後、モニターを見守る。

 

 二車線の道路にて護衛車両二台が"彼"の乗る車両を挟む。

 さぞ運転手は狼狽しているだろうが、そのケアは此方の仕事ではない。"彼"が何とかしてくれるだろう。

 

 

 そして、住宅街を抜けるまで二キロと言ったところで動きを見つける。

 

「進路上に敵一個小隊の展開を確認。待ち伏せです」

 

「車両による襲撃ではなかったか。始点のスナイパーに通達。数を減らせ。対象は任せる」

 

 その指令から数拍後、モニター上の敵のアイコンが二つ減る。

 

 口径二十ミリの対物ライフルによる一撃はたとえ対象が伏せていたとしても絶大な威力を誇る。不意打ちである以上は、防御の暇もなく挽肉が出来上がっただろう。

 

「敵、散開します。車列との接触まで後五百メートル」

 

「護衛車両はスモークを投擲。離脱時に擲弾銃をお見舞いしてやれ」

 

 敵が散開した以上、敵は一点に火力を集中させる事は難しくなった。対戦車装備をしているなら話は別だろうが、そうではない以上車列を止める事は不可能だ。

 

 敵の待ち伏せ地点をそのまま通り過ぎ、距離を離していく。

 

 敵戦力の損害も軽微だが、此方を追えない以上脅威にはなり得ない。

 車両の損害は軽微。軍用車両並の防御力を誇るだけあり、こちらの護衛車両は無事だ。

 流石に"彼"の乗る車両の様子まではモニターしていないが、護衛車両についていけていると言う事は問題ないだろう。

 

 

「警察、及び他の国防軍の動きは」

 

「現在は確認できず。市民の通報があったとしても間に合いません」

 

「よし、護衛車両及び途上のスナイパー各員は索敵を怠るな。本機は規定のルートを飛行しろ」

 

 

 そう指令を飛ばした後、携帯端末を手に取る。

 

 無理矢理本機の通信設備で電波を飛ばしているだけあり、彼の端末へ無事に通信を送れた。

 

 

「待ち伏せを抑えた。索敵はさせているが、今日の内に向かえばルート上で襲撃を受ける可能性はほぼないだろう」

 

『助かる。運転手の精神衛生に合わせた護衛をしてくれればなお楽だったがな』

 

「無茶言うな。本来は最初から全部こっちでやった方が楽だったんだからな」

 

『冗談だ。俺一人ではここまで押し通す事は出来なかっただろう。礼を言う』

 

 その言葉に、思わず笑みが零れる。

 お互い、そんな事を言う間柄でも無いと言うのに。

 

「気にするな。護衛終了地点まで残りは約九十キロ程だ。それ以降は要望どおり、此方からは手を出さない。恐らくは何かしらの妨害があるだろうから、気をつけろよ」

 

 そう言い残し、通信を切る。

 

 

 

 これで、"彼"への義理は果たした。

 

 

 

 残るは、此方のやるべき事をやるのみ。

 

 

 

 投下パックの中身を一式確認した後、自身の空挺装備のチェックをする。

 

 無論、このまま高高度からパラシュート無しでも死にはしない。そもそも人間ではないのだから。但し、流石に四葉真夜から呼ばれている中で戦地帰りのような格好で行く訳にもいかない。余りにも不恰好だ。

 

 投下パックの中身は単純。何時ものスーツと、各種装備一式。脱出時は荒事になる可能性もある為、擲弾銃や軽機関銃も弾薬は僅かながら中に入っている。

 

 

「大晦日には大変な事になるだろうが、我々にとっては好都合だ」

 

 

 今年最後の山場は、特等席で見せてもらおう。

 例え何が起ころうと、物語の最後は決まっている。ならば、それは何よりも愉快な形であるのが望ましい。

 

 

 

「今は苦しめ、司波達也。全てのカードは、俺もお前も揃っているのだからな」

 

 

 






 最近新刊を追うペースが遅れております。だが残念な事に物語の終結地点は孤立編序盤あたりまでになるのかなと思います。どの地点になるかは不明ですが、最終的にはお兄様が優位に立つのが望ましいかなと。

 今回、大亜連合宥和派の襲撃については間に合っていない事になります。仮に間に合った場合はここで襲撃を仕掛けたらサイキックの残党との不意遭遇戦となります。同時に東京から山梨までは一定距離あるので新発田さん家は間に合うかと。結局原作どおりの展開ではありますが。


 次回、達也回。黒羽貢さんの独白あたりかな。
 

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