では最も盗聴、盗撮の心配が無い場所とは?
まぁ常識的に考えて自宅がそれですよね。
【Tuesday,December 26 2096
Person:operator4】
"彼"自身は、元々人間関係については一定以上は無関心な節がある。
恋心を向けられてもそれについて考えたりはせず、恐れられても自分から離れたりはしない。
例え相手や、もしくは自分自身がどのような感情を抱いていたとしてもある種最適な距離を取っていると言える。
とは言え、流石に家に招かれるのは意外だったが。
「よくもまぁ信用できない人間を家に入れよう等と思ったな」
「盗聴される心配が無いからな。お前にとっても俺にとっても、その方が良い」
玄関で軽いやり取りを行いつつリビングへと入っていく。
既に周知されていたらしく、妹さんには特に動揺した様子は見受けられない。
軽く手を上げる事で挨拶代わりとする。
無論、初めて見る顔も居ない訳ではないが。
「何時の間に三人家族になった?そこそこ腕は立つ様だが・・・まぁ、深く聞くのも野暮だな」
一応は"彼"にとっては此方は四葉の諸事情を知らない事になっているのだろう。一方で"彼"や妹さんが四葉の縁者なのは知っている為、こういう反応を返しても不自然ではないはずだ。
「別に茶は出さなくて良い、五分ほどで済む内容だ。もし同行するのであれば、全員聞いておけ」
多少面倒とは言え、これも仕事だ。
"彼"に借りが有り、かつ後の事を考えると出来る限り手を貸して味方と思わせるのが良い。
バックから作戦要綱を三部だし、立ったまま机に置く。
「詳しくはそれを見ろ。其方が乗車するであろう車両の護衛に此方の部隊が着く。護衛車両は二台、どちらも民間車両に偽装しているが中身は軍用の物だ。固定武装は無し、乗車する兵士の武装は軽機関銃に擲弾銃、各種手榴弾になる」
"彼"から頼まれた内容は、道中に想定されるであろう妨害勢力からの攻撃に対する護衛、及び排除。
本来ならば最初から最後まで此方で用意した方が本来はやりやすいし、最終的には空を使えば良い以上楽ではある。しかし、対外的には四葉本家の位置を他者に教えるのは不味いのだろう。
それぞれ資料を手にとって眺める中、"彼"が確認すべき要素を聞いてくる。
「対魔法師装備は」
「車両には無し。そちらの最終的な行き先は知らんが、指定された護衛予定のルートの始点、中間、終点に対物ライフルを装備したスナイパーをそれぞれ二組配置している。距離は約五百メートル。一定規模なら即応が可能だ」
「口径は」
「二十ミリ。呼ばれてから数時間の間に装備した手腕を褒めて欲しいな。今頃は演習場で零点補正をしてる為、狙撃の精度は安心してくれていい」
「戦闘終了後の隠蔽工作は」
「全て手配済み、と言うよりはお前達が通るルート上の想子センサー、及び監視カメラその他は完全に掌握される予定にある。通報が合った場合も想定済み。お前達が出発するまでには間に合うだろう」
逆に言えば、ここまでが限界。時間が有れば多少はマシだっただろうが、即興で仕上げるのはこれが限界だ。何せこの後真夜中に部隊配置を完了させ、車両を付近で待機させる必要がある。この時点で隠密状態で使える航空輸送能力を限界まで使った形となる。
それにはっきりと言えば護衛車両は本物の、固定武装を持つ軍用車両にした方が良いのだ。しかしそれをやると幾らなんでもあからさまな上に目立つ。"彼"がそれを望まなかった以上、仕方がない。
「まぁ此方で対応出来ない攻撃はお前さんが防いでくれるんだろう?お前の手の回らないところをカバーしてるんだ、それで良しとしてくれ。仮にお前の車両が潰れたとしたら護衛車両を一台持っていって構わない。乗員は此方で回収する」
"四葉"である以上本来の車両には対EMP防護処置くらいはされている。しかし、今は四葉の分家が敵に回っている。恐らくは処置が施されていない車両を回されるか、もしくはそう工作される可能性がある。
「他の御二方も問題ないな?」
そう、妹さんともう一人に目を向けて尋ねる。
全く、"彼"もよくやる物だ。
目の前に居る、もう一人の少女。名前はまだ知らないが、調べるつもりも無い。だが、一つだけはっきりと分かる事がある。
彼女は恐らく、誰かからの命で"彼"を監視している。言わば内部スパイだろう。そしてそれは、恐らく"彼"自身も感づいている。
まぁどうせ四葉真夜からだろうが、それでも俺と直に接触を持っている所を見せるなど。
詰まる所。
"彼"は、四葉とも独立魔装大隊とも違う別の伝手を持っていると言うブラフを四葉真夜に対して見せたいのだろう。
"彼"自身も、四葉の側から何かをされる事をなんとなくではあるものの察知してはいるのだろう。
しかし、別にその茶番に付き合った所で此方にとっては問題がない。
今は乗っておいた方が良いだろう。
「その資料は持ってって良いが作戦終了まで外部には漏らすな。念の為スナイパーの配置などは要所になる為記載してないが、それでも漏れないに越した事はない」
返事を確認して、"彼"にそう述べる。
それに対して、"彼"は確かに頷いた。
「あぁ、分かった」
「それじゃあな。何かあったらお前から俺の方に連絡してくれ」
そう言ってリビングから出て行く。
"彼"自身も足掻いているようだが、これから起こる重大な事は阻止できないだろう。
様子を見た限りでは、それだけは間違いない。
今だ、"彼"の目は。
"四葉"しか見てはいないのだから。
と言う事で唐突なオリ主勢力とお兄様の共闘パート2。
四葉継承編が思ったより早く進むであろう理由の一つがこれです。オリ主勢力の力を借りたお兄様を邪魔だて出来る者は基本的に居ない。
尤も、チラリと仄めかしましたがもちろん最後まで護衛する訳では有りません。故に新発田の御三方は若しかしたら妨害に間に合うでしょう。単独ですがまぁ、どうせ戦ってたのはお兄様だけだし。無論そっちはノータッチ。
さて、次回。オリ主回。優雅ではないけど空の旅。