【Tuesday,December 26 2096
Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】
"ESCAPES"。正式名称を「恒星炉による太平洋沿海地域の海中資源抽出及び海中有害物質除去」と呼ぶ。
略称にはその他にも"脱出手段"という意味を持つこの企画は、"魔法師"を兵器という宿命から脱出させる為の手段の一つであり、生涯を掛けてでも取り組むべき物だ。
その仕事に取り組んで一時間足らずの所で黒羽貢が面会に訪れた。
元々黒羽が携わる仕事は諜報工作ではない。それでも彼が此方に訪れたのは、言わば酷く"個人的"な事についてだった。
「慶春会は、欠席したまえ」
「最初から出席する予定は有りません。ご当主様に出席を命じられたのは深雪だけですから」
「屁理屈を・・・。では君から妹さんに、慶春会出席を思い留まるよう説得してもらいたい」
何となくだが貢が慶春会に出席して欲しくないと言う理由は分かる。つまりは俺が”四葉"で一定の地位を手に入れるのを阻止したいのだろう。それ自体は今までも散々見てきたことだ。
「俺が深雪に慶春会を欠席する様に言っても意味はないでしょう。事態を伝えても、ご当主様がそれを受け入れる筈がない」
当たり前の、しかしそれ故に抗いがたい事実を挙げていく。
それでも貢は退かなかった。
「・・・ご当主様は次の慶春会で深雪を次期当主に指名するつもりだ。しかし、君がガーディアンのまま彼女が次期当主に指名される訳には行かない。君は、"四葉"の力を手に入れてはいけない」
ここまではっきりと言われるのは初めてだが、此方もそれに屈するつもりは無い。
「元々俺は四葉の力に興味などありませんし、黒羽さん。深雪の慶春会出席を決めたのはご当主様・・・叔母上だ。俺や深雪の一存で欠席できる様なものでもない。その程度の事は理解されてるでしょう」
そう、端的に述べる。
それに対して貢は、暫し俯いた後に顔を挙げた。
「・・・それでもだ。文弥や亜夜子を悲しませたくない」
「本気ですか」
四葉家当主への叛逆を、本気でしようというのか。
その問いについて、貢はしっかりと頷いた。
「無論、タダでとは言わない。黒羽の力が及ぶ限り保護しよう。妹さんと必要以上に遠ざけると言うつもりも無い。好きな時に逢いに行っても良い。魔法大学も卒業して良いし、望むなら特務士官の地位からも解放してやる」
「それは黒羽さんの一存で決められる事でも無いでしょう」
「我が総力を掛けて、単独でもやってみせる。その為ならば四葉さえ捨てる覚悟だ」
その言葉からは、並々ならぬ決意を感じさせた。
恐らくは、FLTまで来たのは四葉本家にこの話が及ばない様にする為か。
本来ならば、四葉真夜に告げねばならぬ程の事だ。
しかし貢と同じく、文弥や亜夜子を悲しませたくなかった。
「・・・今までの話は聞かなかった事にします。全ては、深雪自身が決めるべき事だ」
そう告げる。
それに対して貢は、まるで縋るかの様に此方を見た。
「どうしてもか」
「どうしてもです」
「・・・分かった、無理強いはしない。本当ならば、余りやりたくはなかったのだが」
諦めた様子を見せる貢に、疑問を投げかける。
「どうして本家に叛逆してまでこの様な事をしようと?あなた方にがそこまでして得る利益は無い筈だ」
そう問いかけると、彼はこちらの目を見据えた。
「・・・君が、四葉の罪の結晶だからだ。例え文弥や亜夜子を悲しませる事になっても、決して君の事を子供達に引き継がせてはならない」
その言葉で、今まで貢を始めとする多くの四葉関係者の俺への扱いの根本的な理由が分かった。
「必ず、私達の手で終わらせなければならない。その為なら、命さえも惜しくはない」
詰まる所、彼らにとっては俺は自らの業を映し出す鏡であると同時に、彼らにとっての自身の所業そのものなのだろう。
「詳しくは、この場で聞いても答えて頂けないでしょうね」
その言葉を受けて、貢が立ち上がる。
「期限内に本家へ辿り着けたら教えてやろう。君にも、その権利くらいはあるだろう」
別れの挨拶代わりに告げて退室していく。
元の部屋へ戻る途中の廊下で思案する。
四葉の罪の結晶。
それが彼らの妄想なのか、此方が知らない何かが有るのかは分からない。
しかし、貢の言葉から何をしようとしているかは分かる。
恐らくは、四葉本家へ向かう所を妨害し慶春会に間に合わない様にするのだろう。
それに、黒羽貢は今回本気で事に当たる様子を見せていた。
恐らくは妨害の規模もそれ程楽観視出来ない。備えが居るだろう。
だが一方で四葉分家の力は期待できない。貢は彼の意思についてどの分家が賛同しているかを述べなかった。誰が敵か分からない以上、下手に何処かに頼る訳にも行かない。
かと言えども、四葉真夜に助けを求める事も出来ない。実質的な八方塞がり。
余裕は、あるに越した事はない。
幸い、今回は強烈な国家権力を持つ者に対し貸しがある。腐らせる前に返してもらう事にしよう。
そう考え、"彼"に連絡する為に端末を手に取った。
と言う事で黒羽貢さんが取る行動が少し変わりました。
なんか書いてて第二章の主人公が貢さんになっちゃうとか思ったりしましたけど全然そんな事ありません。彼の出番は結構少ない。
そして今回はオリ主も絡みます。ちょっと個人的願望が混じるかもしれませんがご容赦を。
次回、オリ主回。家庭訪問。