【log:Saturday ,August 15 2096
point:34N135E 】
「・・・思ったより、静かですな」
「風間君・・・それに、佐伯閣下」
「お久しぶりですわね、九島閣下。本来なら、此処で酒井大佐のメッセージでも流そうと思ったのですけれど・・・」
「要らぬ徒労であったな。既にパラサイドールは無く、製造手段も残されていない」
「・・・その割には随分と清々しい御様子で」
「それはそうとも、この目でしかと見たのだからな」
「未練はないと?」
「無いと言えば嘘になる。真言は重傷を負い、第九種魔法開発研究所の復旧は最早不可能だろう」
「では何故?」
「"彼"が止めてくれた。諭す者が居た。私が立たずとも、いずれ道は開ける。
苦難の時代だろう。光宣も"彼"も、苦しむだろう。挫折するだろう。不条理を目にするだろう。
それでもきっと、彼等は幸せに辿り着ける。もはや"老人"の出る幕では無い」
「我々でさえ、必要では無いと言う事ですか」
「所詮私も君達も、汚い欲に塗れた者でしか無い。その様な輩に時代は変えられず、彼らの意思は挫けはしない」
「・・・だからこそ四葉殿はこの音声データを公開しない様言ったのかもしれませんね」
「なんだ、酒井大佐らは四葉の手に落ちていたのか」
「えぇ。焦りましたか?」
「気にする事では無いな。最早夢も醒め、現実となりつつある。どの道九島家は没落するが、それさえいずれ来る結末だった」
「そうですか。・・・月並みですが、私達がいる限りは軍の魔法師の権利は保証しましょう。少なくとも、彼らがそれを勝ち取る事が出来るようになるまでは」
「そうか。ならば、そうしてくれ。その方が彼らにとっても良いだろう」
「それでは、失礼致します」
「あぁ、待ちたまえ。一つだけ聞いておきたい事がある」
「何でしょう」
「・・・"彼"を、どうするつもりかね?」
「それは、先程も述べましたが」
「そうでは無い。これは、欲に塗れた老人からの忠告だ。
"彼"が無条件に味方になってくれると思うな。少しでも都合の良い駒として扱ってみたまえ。直ぐに手元から離れていくぞ」
「重々承知しております。・・・既に手遅れかもしれませんが」
「そうだろうね。でなければ、"烏"と組むなどと言う事が出来るものか」
「選択を間違えたと?」
「かも知れぬ。もしそうなら、君達の運命も私達と同じだ。残るは七草と四葉、若くは"烏"が屍肉を喰らうかだ。心して置くと良い」
「肝に銘じておきます。それでは」
「あぁ」
「かくして死すべき者は死んでいき、残った愛し子を"烏"が愛でるか。幸い光宣にはまだ機会がある。内輪に入れればそれで済む」
「・・・老師、か。確かに私は翁だな」
と、言う事で佐伯閣下の家庭訪問でした。
個人的には一年目の老師はかなり好みです。腹黒さもありつつ本質的にはお爺ちゃんの様な優しさのある所、良いなぁと思ったりしてます。
つまり本ログで分かるように彼は再び"老師"へと戻りました。最初に脱落した九島家ですが、一番良い負け方をしたのでは無いでしょうか。
残るは四葉と七草の攻防のみ。是非お楽しみに。