【Saturday ,August 15 2096
Person:@;g>.=etr[ "Tatsuya,S" 】
「随分派手にやったな。それにてっきり同時に開始する物だと思っていたが」
朝起きて準備を進めているところ、文弥から齎されたのは第九種魔法開発研究所が襲撃されたと言う情報だった。
彼が虎の子の部隊を預けている時点で裏切られる可能性は幾らか低いが、不信感は拭えない。
無論、元から信頼していた訳では無いが。
『すまんな、しかし此方側は親玉叩きに行ってたんだ。一定の偽装には目を瞑ってくれ。一応、一定の情報は仕入れてある』
その言葉と共に、資料が送られてくる。
『実働可能なパラサイドールは全部で十六体、その全てが恐らくは移動ラボと共に其方に持ち込まれている。念動力を使用し、反応速度は人間を超えるだろう。製造手段や“原料”は確保している以上後の心配は要らない』
「作戦が同時では無かったという事は、増援の見込みは」
『一個分隊がヘリにて帰還、再武装をしている。コールが有れば三十分で向かえるぞ。現地ではリアルタイム映像が放送されないからな。多少は問題無い』
「特筆事項は」
『
奇襲にはならず、しかし一定の数の差は埋めてある。
スタンドプレイではあるが、孤軍では無い。
ならば、簡単な事でしか無い。
「分かった。予定通り九時二十分に作戦を開始する」
『頼んだぞ』
そして、作戦開始時刻になる。
"眼"で見る限り、パラサイドールはコースの後半部分に散らばっている。一方彼の部隊は、コースの中腹で既に待機していた。
恐らくは、移動速度に差が出ると考えたが故だろう。
そして今、直近の目標に向けて動き始めているのが視え、無線でも確認できた。
恐らくは、二月に合間見えた部隊の一部。
非魔法師ではあるが、後始末は充分にやってくれるだろう。
直近のパラサイドールまで近付いていき、木の陰に移る。
同時に、無線。
『フラッシュ投擲。閃光に備えろ』
次いで強烈な閃光がパラサイドールを覆う。
無論、閃光だけではパラサイドールの意表は突けない。しかしその分パラサイドールは閃光手榴弾を投擲した兵士を目標として認識する。
詰まる所、次の一手にはどれだけ反応速度が良くても遅れることになる。
CADを構え、一撃。
相手はこちらの事を認識こそしたが、反応があと少しの所で足りない。
そのまま弾き飛ばされる。が、無力化には程遠い。
そこで過去の情報体を複写し、それを用いて現在のエイドスを書き換える。
そして、予測通りに休眠に入る。
『確認。位置から隠匿は不要と判断、指示を仰ぐ』
これは、使える。
恐らくは魔法師と似た性質を持つ"彼"と長い事共に戦った経験からだろう。
初めてながらも、援護が成立している。
状況を把握し、察知し、そして最適な行動を選択する。
一人でも対処が出来ない訳では無い。
しかし、手間取る可能性は幾らでもある。深雪の事を考えると、余裕がある方が良い。
「引き続き援護しろ。後始末は増援に対処させよう」
『了解』
手早く端末で借哉に増援を要請する。
凡そ三十分。パラサイドールを隠すには時間が足りないが、深雪達が見つける時には無力化していればそれで良い。
行うのは、典型的な機動戦術。
"彼"の部隊が交戦すべきパラサイドールを足止め、陽動する。
後は交戦している"点"へと飛べば良いだけだ。
『アルファより連絡。九島家の私兵と思しき勢力を発見、無力化に成功。現在は彼等の司令所を移動ラボと仮定し、トラッキング中』
其々のパラサイドールを兵士がツーマンセルで監視し、指令をすれば仕掛け始める。
此方が仕留めればすぐに移動し、別の目標に向かう。
見えぬ所では別の部隊が狩るべき本命を探し、道中の火種を潰していく。
正に狩りと言ってよかった。
故に察する事が出来た。
"彼"の切り札とは、つまりは優れた狩人であり猟犬なのだと。
『九校戦選手、初期のターゲットを目視。先頭集団の交戦区域到達まで残り十五分』
亡霊の様に進み、戦い、結果のみを残していく。
此処でこの様な戦いがあった事を知り得る人間は、一体何処まで残り得るのか。
『残敵四、プライム・フォーと推定。指示を仰ぐ』
「分隊メンバーを集結させろ。万全を期すぞ」
最後の目標を遠巻きに確認した部隊からの無線に対してそう返す。
注意すべきと言われている以上、一筋縄では行かない可能性が高い。
五分後、目視で目を凝らし漸く見える程の隠密性で援護に付いている分隊の集結を確認する。
『これ以上接近すると気付かれます。彼我の距離は凡そ二百メートル』
「発煙弾を撃ち込む事は可能か?」
『可能です。しかし選手にも悟られます』
「構わない。発射後は既に無力化した目標の回収に向かえ」
『了解。発煙弾、用意』
数秒後、擲弾が弧を描いて飛んで行く。
同時に、突撃。
そして、発煙弾が着弾した直後に交戦する。
素早く一体に拳打を加え、情報体を複写。そして書き換える。
残りの三体も反応するが、素早く引いてCADによる一撃。
一体が最初と同じ様に弾き飛ばされる。
しかし、それ以上の追撃が出来ない。
もう一体を援護する様に二体が付き、斥力の防壁を作りつつ土塊の砲弾を飛ばしてくる。
やはり連携が上手い。
このままでは、打ち損じる。
一瞬、援護射撃を要請するか悩む。
しかし、物理的に損害を与えるのは悪手だ。パラサイトが自爆するさえ出てきてしまう。
このままでは膠着する、と焦り始めた時。
唐突に頭の中にテレパシーが届く。
『マスター、右です!』
素早く左へ体を傾けると、土塊が掠めていく。
『再装填まで五十秒、後方三百メートルまで後退中。態勢を立て直すつもりです』
「ピクシー、敵の攻撃が分かるのか?」
そう無線で問いかける。
『体勢を崩した個体が復帰します、十五秒後に魔法攻撃。・・・はい。私には彼女たちの会話が聞こえます』
有り得ない話では無い。
大本が一緒であり、"彼"も思考を共有していると言っていた。
ならば、ピクシーに聞こえていても不思議では無い。
「ピクシー、敵の会話を中継してくれ」
『かしこまりました』
後は狩りの時間だ。
大きく移動し、彼らの退路を塞ぐ。
同時に"眼"では、圧斬りに似た魔法の展開が視える。
素早く分解。次いで突撃。
障壁さえ無効化し、それを展開していた個体に打撃。情報体の複製に完了。
距離を取りつつ、エイドスを書き換える。
これで防御役が無力化。
残るは圧斬りを扱う個体と、土塊の砲弾を飛ばしてくる個体。
近接戦闘能力も無ければ、防御も出来ない。
最早、敵では無かった。
一撃離脱戦法で、圧斬りの個体を無力化。
そして、残る一個体にも逃げ場は無い。
もし、一人だけならばここまで楽には行かなかったやも知れない。
しかし、今回は此方側は運に恵まれていた。
結果、最後の一個体の無力化にも成功した。
『ヘリの到着まで十五分。同時にアルファより連絡、移動ラボを発見。中に十師族を確認した為、制圧を断念。遠距離攻撃による破壊を行うとの事』
部隊はまだ動いているが、それは此方の都合では無い。
「後は任せ、当方は貴官らの指揮権を返還し、帰還する。後はそちらの規定に従い行動せよ」
そう言い残し、無線を切った。
これで、深雪が危険に晒される事なく終わった。
後は暗躍が好きな連中が色々やるのだろう。
だが、危害さえ加えられなければ問題はない。
やるべき事は有るとはいえ、暫くは他人事の立場に立てそうだ。
そう整理を付け、水波とピクシーが待っている車両へと足を向けた。
色々後回しにしてたとは言え何とかスティープル編が終わった・・・。
後は繋ぎ回、そして物の怪もとい周先生のみ。
これさえ終われば愉悦出来そうな事態が・・・!案外分からない。
取り敢えず今回の一件で九島は大幅に弱体化。師族会議でフルボッコにされなくても十師族落ちは免れないでしょう。
一方これから四葉がニコニコした顔で七草の弱みを取りに行くわけです。状況は四葉優位。
そして、案外今回の一件はオリ主にも考えるべき要素を残したと思われます。まぁお分かりの通りという事で。案外共同路線も見えつつある。其れまでにオリ主に切られるのは何処なのか。
全部切られそうな気もするけどそれはそれ。
次回、オリ主回。真夜様との打ち合わせ。