魔法科高校と"調整者"   作:ヤーンスポナー

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4ヶ月も消えてて今更感漂いますが・・・こっそりと投下させて頂きます。


第二章十一話~曙色~

【Saturday ,August 15 2096

  Person:operator4】

 

 

 

 

 いくら八月と言えど、午前三時ともなればまだ暗い。

 大急ぎで富士演習場から二個分隊と共に移動した甲斐は有り、九島の警戒線の外側付近までは悟られずに近づけた。

 

 

 問題は、此処からだ。

 

「ブラボー各位。ボートで接近できるのは此処までだ。接舷、隠匿の後小川に沿いつつ作戦位置に入るぞ。今のうちに装備の最終チェックを行え」

 

 そう指示し、自らの装備を見る。

 

 今の時点で敵に悟られる訳には行かないが、消音器をつけた武器はハンドガンのみ。部隊の中でも狙撃手が持つライフルのみだ。

 

 尤も、後の事を考えると消音器など嵩張るだけではあるのだが。

 

 

「準備完了。同時にデルタより連絡、十分後に予定地点に到着するとの事です」

 

 そうブラボーの分隊長が声を掛けてくる。

 本命とも言える此方側のペースが遅れている。監視の目を潜る為とは言え川からではどうしても遅れが出てしまっている。

 

「各員、作戦に遅れが出ている。仕方の無い事とは言えど、予定地点まで四キロ程ある以上急ぐ必要がある。気を引き締めろ」

 

 その言葉に分隊全員が頷く。

 彼等の様子を見る限り今回も上手くいくだろう。

 

 

 

 前回の襲撃を受け、九島の警戒線は確認できた限り第九研を中心として半径五キロの範囲で敷かれている。

 

 内部でも火種を抱えた兆候がある中では良く此処までの範囲をカバー出来たとは思う。恐らくは古式魔法も一役買っているのかも知れない。

 

 だが、関係はない。幾ら道具や設備が優れていても、真価を発揮するには使う人がそれに付いて行けなくてはならない。

 ならば、付いて行けない状況を作り出すのみ。

 

 

 

 暫く川沿いに進んだ後、川を離れ車道の近くに出る。

 警戒線ギリギリの場所。仄かに日の光が見えているが、敵に見つかる事なく予定地点にたどり着いた。

 

「ブラボー、準備良し。デルタは第一射の準備を完了しています」

 

 その言葉に頷く。

 今の所完璧に進んでいる。続きは、”モーニングコール“を送った後だ。

 

 

 使い捨て用の無線機を手に取る。無論、ブラボー、デルタの各隊員にも内容は聞こえる。

 

「総員、作戦開始。デルタ、”モーニングコール“だ」

 

 返答は、十秒程後の僅かな発砲音によって返された。

 

 

 

 手練の魔法師が警戒している以上、例え可視光、赤外線、音を幾ら誤魔化しても気付かれずに接近するのは難しい。

 かと言って正面突破も容易な話ではない。魔法師と正面から戦うには対魔法師用の装備だけでは不安が残る。

 

 ならば選択肢は限られる。火力に寄る混乱を招き、その間に本命が乗り込む。

 今回の場合、デルタが持つ三門の迫撃砲が第一波のそれに当たる。

 

 だからこそ、”彼“にさえデルタ分隊の存在を隠した。例え九島が幾ら本命を予想出来ても、“陽動”を予想される訳には行かなかったからだ。

 

 

 

「弾着、今」

 

 ブラボーの分隊長の言葉と同時に、高所に見えた通信基地の有線通信塔で爆発が起こり、ゆっくりと倒れていく。

 

「有線設備の破壊を確認。デルタはジャミング装置を起動。効果時間は三十分」

 

「上出来だ。ブラボー、前進。今の内に距離を稼ぐ」

 

 その言葉と共に前進する。

 時に舗装された道も使う事が出来る為先程より速いペースで進んでいく。

 

 

 

 デルタの陽動は射点移動を二回行いつつ十分間続く。その後車列にて警戒線の内側に入りデコイとなる。

 

 敵側の混乱は予想で十分。立て直しに五分。各警備隊との通信手段の模索・確立に五分。そこから一部がデルタと交戦するのが五分後。本格衝突が十分後。

 

 詰まる所、猶予時間は三十五分。その間に第九研まで五百メートルの位置に居なくてはならない。

 全力疾走と言う訳ではないが、どちらもかなり無理した作戦だ。しかし、それさえ超えた後は大した問題は無い。

 

 

 

 道中で接敵した警備部隊を排除しつつ進む。大半がデルタに向かっている分数は少なく、目立つ事なく排除する事が出来た。

 

 第九研まで約五百メートル。これ以上は次の一手に巻き込まれる可能性がある。

 

「デルタの交戦から十三分が経過。劣勢に傾きつつ有りとの事」

 

「分かった。そろそろ時間だ、目標の指定は済んでるか」

 

「両分隊共に指定完了しています。準備はいつでも」

 

 その言葉に頷き、パスを開く。

 

 〔operator4:首尾はどうだ〕

 〔moderator8:現在目標上空まで1km。此方はフレシェットタイプの投下爆弾を搭載しています〕

 〔moderator2:此方も状況は同じです。指示通りナパームを搭載しています〕

 〔operator4:No2は南方側の目標へ向かってくれ。ターゲットは赤い発煙弾で示してある。No8は予定通り第九研へ攻撃を実行しろ〕

 〔moderator2:了解。攻撃態勢に入ります〕

 〔moderator8:投下まで30秒〕

 

 状況を確認し、パスを閉じる。

 

「投下まで約25秒、衝撃に備えろ」

 

 そう告げると同時に、轟音が鳴り響く。

 

 

 態々“調整者”を動かす事で隠匿性、確実性を高めた決めの一手。

 

 太陽を背に飛来した二機の多目的戦闘機が、目標に向けて水平爆撃を行う。

 

 此方側から見えるのは、空中で炸裂した後に無数の矢が太陽の光を反射しながら第九種魔法開発研究所へと降り注ぐ光景のみだ。

 

 

「・・・デルタから連絡。人的損害無し。車両は一台が大破、後はどれも軽微。交戦した敵部隊は増援共に全滅。残存部隊も現在壊走中との事」

 

 この報告に思わず笑みを浮かべる。

 全てが予定通り。後の後始末の事さえ、今まで飲まされた煮え湯を思えば瑣末な事だ。

 

「敵勢力の損耗率を推定で六割と推定。作戦を次の段階に進める。デルタは速やかに作戦区域を離脱しろ」

 

 “彼”と同じく、此方にも“眼”がある。

 故に、想子濃度が高い一角もまた、直ぐに分かる事だ。

 

 ならば、後は仕上げのみだ。

 

 

「ブラボー各位、御礼を返す時だ。行くぞ」

 

 

 





という事で遅ればせながら第九研襲撃戦です。
これ書くのに四苦八苦しました。と言うのも地理的に可能かを睨めっこしつつ原案に沿って行きましたので・・・。

以下予想される突っ込み所への弁明。長文注意。

1.距離的問題
ほぼ弁明の余地が御座いません。小川を登って・・・の下の時点でアレです。奈良の近くに流れる川は木津川ぐらいしかボートで行けそうなのは無く、更に悪路を1時間で地図の上での目測ですが4km後半、それも装備有りは正直現実味有りません。が、そこは多少甘めに見て頂ければ。
一方残り4.5kmは舗装された道も使用でき悪路は一部、そして駆け足で向かうとなれば概算で装備込み時速8kmと考えると不可能では無いかなと。隊員は体力お化けだと考えるしか無い。

2.迫撃砲の射程
こちらは自衛隊が現在所有している迫撃砲の射程がおよそ5km半と言う事で理論上可能という事で捉えました。土地的問題も相対的に高所を取るか、無人偵察機等を活用すれば問題は無いでしょう。

3.デルタの全滅の可能性
敵が警戒態勢と言う事で浅く広い分布している場合、この作戦後だと九島側の戦力は初動は勿論一定の通信手段の確立までは結果的に戦力の逐次投入という事態を招きます。無論その間は魔法師対非魔法師ですので足止めは食らうものの、車載火器も有る以上増援までは抑えられるでしょう。

4.ジャミング装置
無論設置型です。しかも範囲をカバーする為稼働時間が30分とかなり短め。勿論最初の射点移動にて置いていきました。囮にもなるしね。

次回は第九研敷地内。また多分遅れます。

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