魔法科高校と"調整者"   作:ヤーンスポナー

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作ってて思ったのです。暗躍5割戦闘2割、そこまでやったら残り3割はゆるい日常を送ったりするネタ回の方がいいのでは無いかと。


第二章七話~茶番~

【Saturday ,August 4 2095

  Person:operator4  】

 

 

 

 

 

 前回の車両襲撃によりイレギュラーを排除し終え、大抵の行動が終わった後は殆ど準備のみとなっていた。

 

 去年のハロウィンの一件で制裁を加える事にしていた強硬派を締める様四葉に要請しつつ、此方は独自で部隊を潜り込ませる為に裏工作を行なっていた。

 

 

 去年の九校戦での出来事もあり、今年の警備体制はいつにも増して強化されている。突破する事は容易いが、足跡は確実に残る。

 

 強行手段としては先の時の様に夜間降下作戦から1日を越す事もできるが、"彼"と合流する予定なのだ。殆ど論外と言っても良い。

 

 しかし、都合の良い事に今回は魔法協会が国防軍に対してかなり態度を軟化させている。ここに乗らない手はない。

 

 つまるところ、警備部隊として特戦群予備分遣隊と共に九校戦に現地入りする事にしたのだ。

 "表の役割"は、非常時の為の応援要員。これにより、競技中でも問題ありとして静かに"彼"と一緒に内部へ潜り込める。

 

 

 

 そう、そこまでは良かった。

 非の打ち所がない。誰も疑問にさえ思わず、波風さえ立たずに今回の件に介入出来る筈だった。我ながら完璧な段取りだった。

 

 

 基地入り口に詰めているデモ隊に対する規制と、基地に入るバスの警護の為の出動などと言う場を弁えないハプニングさえなければ。

 

 

 視線が痛い。限りなく痛い。

 恐らくは一高のバスからだろう。視線の数は三つだろうか。

 

 それはそうだ。幾ら何でも常日頃の様に部隊全員でフルフェイスマスクを着ける訳には行かなかったし、その指揮官だけ素顔を晒さないなどと言う不自然を曝すつもりも無かった。

 

 だが、これはどう考えても気まずい。例えるなら、「喧嘩別れした相手が半年後に立ち寄ったファミレスで従業員として働いているのを見てしまった」状態だ。しかも内一名は兄の足を狙撃銃で撃ち抜かれている。

 

 控え目に言ってアウトだ。出来れば知らず存ぜずを突き通したい。人違いですなどと言ってしらばっくれる事が出来るのならそうしたかった。

 

 

 無論、音沙汰なしなどと言う筈もなく。

 

「"総隊長"、第一高生の一部が責任者に会わせろと喚いていますが・・・」

 

 外部に聞かれる可能性を考慮し、呼び方を変えている隊員がご丁寧にも知らせてくれる。

 

「・・・分かった。今行くから適当な部屋に詰めて置いてくれ」

 

 せめて外にこの醜態を曝す事の無いようそう指示した。

 

 

 

 

「・・・失礼します。今回の警備を担当します、責任者の河原借哉です」

 

 顔を引攣らせ、殆ど棒読みの状態で部屋の中に入る。

 なお、隊員は全員席を外している。外して貰わなければ困る。

 

 そして、そこらの警備のおっさんと大差ない格好をする俺に対して、計三人は怒りを通り越して居た堪れないといった表情を浮かべている。

 

「・・・借哉よ、お前は一体何をしているんだ?」

 

「・・・警備だ」

 

「黒幕みたいな事した後に左遷でもされたの?」

 

「・・・そう言う訳では無い。一応、理由があってここの警備部隊に成りすましてる」

 

 最初の質問は、レオから。次は、エリカから。

 この茶番劇の所為で、生温い空気がこの部屋を包んでいる。

 やられた相手の現状に何と言ったらわからない様子のレオ。

 自らをあしらう程の腕を持つ相手の今の姿に憐れみさえ見せるエリカ。

 状況について行けてない様子の美月。

 

 二月の一件なぞ完全に吹き飛んだ様子であるのが唯一の救いだ。そうでなければ、君達は何も見てないし聞いていないと彼らに言い聞かせていた事だろう。今でもそうしたいが。

 

「・・・取り敢えず、借哉がいるって事は今年の九校戦も何か起こるのか?」

 

 まず真っ先に疑問をぶつけて来たのはレオだった。それも、かなり確信を突いている。

 しかし、正直に答える気もない。と言うか、また横槍を入れられても困る。

 

「今回の九校戦は些か不穏だから予めこうやって警備部隊として入ったんだ。入る必要があったんだ・・・」

 

 そう、あったのだ。何も後悔は無い筈だ。これは致し方の無い事なのだ。あるかどうかも分からない胃袋の一つや二つ、犠牲にしても良いでは無いか。

 

「まぁ、確かに今年の競技は幾らか面白そうだったけどな。これは気を付けて置いた方が良いかね?」

 

「辞めてくれ、頼むから。収拾が付かなくなる。今回は達也にもお前らにも敵対するつもりは無いんだ。頼むから静かにしていてくれ・・・」

 

 最早土下座でもしそうな勢いで頼み込む。そうでもしないとこの面子は止まらない。

 

 こう言う暗闘騒ぎではどちらかと言うと無力だが、それでも鉄火場でかき回そうとする能力だけは一流と言っても良い。"彼"でさえ手綱を取れるか怪しい点、生粋の暴れ馬と言えるだろう。

 

 

 果たして、納得してくれるだろうか。

 

 

 そう祈っていると、エリカが口を開いた。

 

「・・・分かった。取り合えず、二月の事はまた"後で"ね。達也くんにも顔を合わせなきゃいけないし、どうせ何も言えないんでしょ?」

 

「まぁな」

 

「じゃあ聞いても無駄って事。二人とも、先行ってて。私はちょっと、話したい事があるから」

 

 その言葉に対して、レオと美月が戸惑う。

 

「でも、エリカちゃん・・・」

 

「大丈夫なのか?」

 

 しかし、エリカはどうもこれに関しても曲げる気は無いようだ。

 

「大丈夫よ、敵じゃないって言ってるんだし。それよりも、ミキと達也くんにも知らせた方が良いでしょ?」

 

「・・・そうだな、そうすっか」

 

「エリカちゃん、気をつけてね?」

 

 そう言って取り敢えず二人は納得したらしく、渋々と言った様子で部屋から出て行く。

 

 

 

 残ったのは、エリカと俺のみ。

 やはり、兄の事だろうか。恨み辛みを言われても仕方がないだろう。

 

 

 しかし、エリカの口から出て来たのは、全く別の事だった。

 

「・・・達也くんは、もう知っているんでしょ?」

 

 これは、全く予想外。まるで彼が暗躍するのは当然と言った様子だ。

 

「・・・確かに、知っている。流石に俺が警備として潜り込んでいる事までは知らない筈だが、現地入りする事は知ってる筈だ」

 

 まさか今回彼は千葉家の力を借りるのか。

 あり得ないと思いつつも正直に答えると、エリカは確信を持って二つ目の質問をした。

 

 

「達也くんの、"家"の事も知ってるんだよね?」

 

 

 "家"。つまり、四葉の事か。

 まさか本当に千葉家の力を借りようとしていたのかと考えた時、一つの可能性にたどり着く。

 確か、千葉修次が"アンジー・シリウス"とあの件で一回交戦していたと報告になかったか。そして、スターズを引かせる為には四葉も確か一枚噛ませていた。

 恐らくは、その件で漏れたのか。

 そう納得しつつ、答えを返す。

 

「そうだ。今回は、達也と合同で動く可能性があるし、あいつにもそう伝えてある」

 

 ある程度正直に答えたのは、エリカが"彼"の一端を掴んでいるが故。

 四葉が関わっている時点でつまりは"関わるな"と同義である。

 

 そして、その意図を誤解する事なくエリカは受け取った。

 

「そっか。なら私たちの出る幕は無いか」

 

「そう言う事だ。二人の舵取りは任せた」

 

 そう言い含めて置いて、席を立って部屋から出る。

 残念な事にまだデモ隊は入り口前に陣取っている。目立たない為にも、真面目に仕事をこなしておいた方が後々楽だ。

 

 喜劇の登場人物となってしまった現状にため息を吐きながら、先ほどの場所へと戻っていった。

 

 




と言う事で初期二科生メンバーとの再会終了。
本来はこのシーンは無視する予定で、七話に関しては八雲と司波兄妹inリニアで行こうかと思ったのです。

しかし、対して長くないシーンの上に堅苦しいのが続く。自分でも今までの流れを見るに最初から重いと。

じゃあ入れるしかないじゃない。やはり物事はメリハリある方が面白いと思うのです。


次回、多分達也回。最早居た堪れない。

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