あいつの罪とうちの罰   作:ぶーちゃん☆

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今回ついに物語が動きます。
重めのうえ、ちょっと長くなってしまいました。


彼女は問う、その覚悟を。彼女は嘆く、その後悔を。

 

 

由比ヶ浜からの呼び出しを受け、10分もしないうちに依頼人の二人は部室の扉をくぐる。

 

特にこちら側から言った事は無いが、こいつらはいつ呼び出されてもいいように放課後は毎日どこかに待機していたのかも知れない。

 

二人が着席すると、早速雪ノ下が鋭い口調で二人に尋ねた。

 

「貴女たち次第ではあるけれど、こちらの方針は決まったわ。なのでどうしても貴女たちに確認を取っておきたくて」

 

二人は緊張した面持ちで頷く。

 

「まず認識の違いがあるかも知れないから先に言っておくのだけれど、今回の問題、解決は出来ないわ」

 

「……えっ?」

 

「……やっぱり無理なの?」

 

驚愕の表情で雪ノ下を見つめる二人の依頼人。

まったく……。雪ノ下は俺以上に回りくどいな。

 

「ええ。ただしそこの男の案を実行すれば解消は出来る。意味は分かるかしら?解決まではいかなくても、取り敢えずその場しのぎにはなるということよ」

 

「………えっと、……良く分かんないけど、私達は南ちゃんを救って貰えるのなら、解決でも解消でも構わないよ」

 

救って貰える……か。まずそこから認識の相違があるんだよな。なにせ我が奉仕部の活動方針は……

 

「お腹を空かせた人に魚を与えるのでは無く、魚の取り方を教えるのが私達奉仕部。つまり私が貴女たちに聞きたい事は、相模さんが救われる為に貴女たちにどれだけの覚悟があるのかを知りたいの」

 

「私達の……」

 

「覚悟……?」

 

 

× × ×

 

 

一瞬の静寂。依頼人がゴクリと喉を鳴らす音が今にも聞こえてきそうな程の。

 

「単刀直入に言うわ。この件で相模さんがクラスに受け入れられる事は無い。つまり相模さんが学校に復帰出来たからといって、孤立から救える訳ではないわ」

 

……え?と二人供に目を見開く。

なにを言っているのか分からないのだろう。

ならばなにが解消なのか……と。

 

「だから私は貴女たちに問います。復帰した相模さんと一緒に、クラスから、学校から孤立する覚悟はありますか?」

 

 

その雪ノ下の問いに愕然とする結城と折澤。

 

そう。結局相模を孤立から救う事なんて出来やしない。

でもあいつは一人で孤立に立ち向かえるほど強くはない。

 

だったら、相模を想って助けを求めてきたこいつらが、相模と運命を供にする覚悟がなければ問題の解消以前のお話なのだ。

 

「どうだ?お前らにその覚悟はあるか?虐めに発展する程ハブられてる相模と一緒に行動するという事は、お前らも相模と同じ目で見られるってことだ。もうクラスメイトと仲良しこよしの関係に戻れる事はないだろう」

 

「でも貴女たちがその覚悟を示さなければ、その覚悟を伝えなければ、そもそも相模さんは学校に来る事さえ出来ない。学校に来る事が出来ないのならば、問題解消以前の問題なのよ」

 

うなだれる依頼人の二人に対し、俺が言ってやれる事はこれくらいか。

 

「だがな、孤立はしても惨めな気持ちにならない計画は立てる。お前たちに惨めな思いはさせない」

 

確かにキツいわな。相模を含めてこいつらは俺みたいな元からのぼっちでは無いのだ。

カースト上位であるという、くだらないがコイツらにとっちゃ大事なプライド。

 

それを他人の為に捨てられるのか?と問われれば、ハイそうですかと簡単に認められる訳がない。

 

 

しかしこの二人がここで逃げ出せば依頼は振り出しに戻る。

いやそもそも依頼人が逃げ出す訳だから、依頼自体が無効になるのか。

 

だがこの問題を放っておく事は、俺達にはもう出来ないだろう。

なにせ小町や戸塚に応援されちまってるし、平塚先生の辛い顔も見ちまった。

 

だから、もし振り出しに戻ったとしてもまた一からやり直すのだろう。

 

 

× × ×

 

 

沈黙の中、ずっと黙って聞いていた由比ヶ浜が口を開いた。

 

「あたしはね……?あたしは……、ユッキー達に孤立しちゃう覚悟を求める事なんて……出来ないんだよね……」

 

由比ヶ浜からの意外な言葉に、二人は俯いていた顔を上げた。

 

「だってあたしも同じだもん。あたしもクラスの空気が怖くて、ヒッキーを見捨てちゃったから……」

 

は?急になに言いだすんだこいつは……。

見捨てたって何の事だよ。俺はお前の優しさに助けられた事はあるにせよ、見捨てられた覚えなんかねえぞ……。

 

「ヒッキーが文化祭後にああなっちゃった時にさ……、あたしは……なんにもしてあげられなかっ……た。………みんながヒッキーを悪く言ってるのを聞いてたのに、庇うどころか……一緒になって苦笑い浮かべて……ヘラヘラしてたの……っ」

 

そう言う由比ヶ浜は、俯き声を震わせる。

 

「………一人で居場所が無くって辛そうにしていたヒッキーの所に行って……、あたしだけでも一緒に居てあげられる事だって出来たはずのに……、クラスの空気が怖くて……、近付けないでいた……のっ……ひっくっ」

 

嗚咽をもらしながら自身の気持ちを吐露する由比ヶ浜。

 

だがそれは違うだろ……。あの時お前が俺に近付いて来たら……

 

「由比ヶ浜……。お前があの時そんな行動とってたら、俺もさらに悪目立ちしちまって余計に居場所が無くなってた……。お前が空気を読んでくれたおかげで…」

 

「違うよっ!……それは違う……。あたしはヒッキーのその言葉に寄っかかって自分を誤魔化してたんだよっ!……あの時もヒッキーがそう言ってくれたから……、だからこれは仕方がない事なんだって、これはヒッキーの為なんだって……嘘ついてたのっ……自分に………うぅっ……」

 

突然の由比ヶ浜の告白……。なんでこんな事になんだよ。

 

「……前にいろはちゃん言ってたよね……。ユッキー達の事許せないって……。でもね、ホントはあたしも一緒なの……。悪口言ってた人達と一緒なの……。」

 

「…………結衣先輩」

 

「いろはちゃんはユッキー達が許せないって本気で怒った……。あたしもあの文化祭の後クラスの皆が嫌いになってた……。でもさ、あたしはいろはちゃんみたいにヒッキーの為に怒ってあげられなかったの!……なんで!?ヒッキーの事悪く言わないで!……って、言ってあげられ…なかったの……ひぐっ…」

 

 

 

また暫らくの静寂。響くのは由比ヶ浜の嗚咽だけ。

もういいだろ……由比ヶ浜はもうぐちゃぐちゃだ。問題の主旨からもズレまくりだ……。

俺もぐちゃぐちゃだ。

視界も滲んじまってるし、今日はもう……

 

「由比ヶ浜……。もういい。とりあえず今日はもう…」

 

「待ってっ!……あたしの本題はこれからだからっ……。……………だからさ、ユッキー、さおりん……。あたしには孤立の覚悟が出来るの?なんて偉そうなことは言えない。……だって怖いもんね。空気って。………でもね、さがみんを本気で助けたいってここに来た二人には、あたしみたいにこんな後悔はしてほしくないの」

 

…………そうか。主旨がズレてるんじゃなくて……

 

「今でもね、たまに夢を見るんだ。あの時の教室の夢……。一人で辛そうにポツンと座ってるヒッキー。……とっても寂しそうな後ろ姿を見てたらあたしも辛くなっちゃって、声を掛けようと近くに行くんだけど、声が出せないの……。何度も何度も名前を呼ぼうとしても、どんなに叫ぼうとしても声が出ないの………。…………………今でもすっごい後悔してるんだと思う。たぶん今のあたしがあの時のあたしを見たらひっぱたいちゃうんじゃないかな。…………だからさ、二人にはこんな風に後悔して欲しくないの……っ。………後悔しない選択をして欲しいの……」

 

これが言いたかったのだ。由比ヶ浜は……。

 

自分のトラウマをこんなに泣きじゃくって口にしてまで、二人の友達に後悔させたくなかったのだ。

 

 

なんて不器用なやつなんだろうか。

なんて優しいやつなんだろうか。

 

 

俺はあの時の事をそこまで心の傷だなんて思っちゃいない。この依頼がなければそのまま忘れていたとまで言える。

それはいつか平塚先生が言っていた傷付く事に慣れてしまったからなのかもしれない。

 

だが由比ヶ浜があの時の事をここまで深く傷付き忘れずにいるっていうのなら、俺もまた、あの時の事を忘れずにいようと思う。

せめて、こいつがこんなトラウマから解放されるまでは…な。

 

 

× × ×

 

 

由比ヶ浜の突然の心情の吐露の後、黙って聞いていた結城と折澤が自分たちの想いを口にした。

 

「結衣ちゃんさ、あんまり勘違いしないで欲しいんだけど」

 

「えっ……?」

 

「私達は、そんな覚悟とっくに出来てるよ?もし南ちゃんが戻ってこれて、それでも何の解決も出来なくて味方が私達だけだとしたら……ってちゃんと考えてた。………ただ……覚悟はしてたつもりだったんだけど、いざ言われたらやっぱりちょっとビビっちゃった。……ふふっ、雪ノ下さんの言い方もちょっと怖かったしさ」

「そうだよ。雪ノ下さん怖いんだもん!………それにさ、私達だってとっくに後悔してるんだよ。………GW明け、朝来たら南ちゃんの机に落書きされててさ、登校してきてそれを見た南ちゃんは、なんも言わずにただ呆然と立ちすくんでた……。ほんの数秒数十秒だったのかも知れないけど、ただ立ちすくんでそれをじっと見てたの……。そんな南ちゃんを、私も沙織もただ見てる事しか出来なかった。あんなに楽しかったのに……。あんなにいつも笑いあってたのに……」

 

「だから、私達は南ちゃんが戻ってきてくれるなら孤立したっていいよ。さっきの結衣ちゃんじゃないけど、もうあんな思いはしたくないもん……。もう後悔したくないもん……」

 

二年の頃、正直相模のグループなんて上辺だけのくだらない青春謳歌してますグループだと思っていた。

馬鹿みたいに群れて馬鹿みたいに騒いで馬鹿みたいに馴れ合う、そんな薄っぺらいグループだと思っていた。

 

そんな事もねえんだな。こいつらにとっては、あんなグループでも大切だったのかも知れない。

一度は違えた連中だが、これを乗り越えられたら今度こそは本物になれるんだろうか?

 

 

「それでは最後にもう一度問います。結城さん折澤さん。貴女たちは相模さんと一緒に孤立する覚悟はありますね?」

 

 

「はいっ!」「はいっ!」

 

 

了解だ。じゃあここからは俺の仕事だ。

こんなにクセェ青春友情ストーリーを見せられちまったら、あとはなんとかするしかねえだろ。

 

 

「それじゃあ結城。………今から俺に相模の住所を教えてくれ」

 

 

× × ×

 

 

部室に居る女子一同、皆目を丸くして俺を見ている。

実に気まずい。

 

「……先輩。急になに言ってんですか……」

 

は?この状況で相模の家を知りたい理由なんて一つしかないだろ。

 

「決まってんだろ。俺が相模と話をつけてくるからだ」

 

すると結城だか折澤だかが呆れたように口を開く。

てかまだどっちがどっちか分かってないのかよ。

 

「比企谷……、あんた前に私達が話した事聞いてた!?私達でさえ門前払い食らったんだよ!?あんたに会ってくれる訳ないじゃん!」

 

「そーですよ先輩!相模先輩って先輩の事大嫌いなんですよね?会ってくれる訳無いじゃないですか!……………こういう時こそ、やっぱり葉山先輩にお願いした方が……」

 

「いや、むしろそれこそ悪手だ。……一色。お前なら自分が最高に情けなくて最高に惨めな姿を、憧れのヤツに見られたいか?」

 

 

 

「!………そりゃ確かにそうですけど……。でも………、本当に辛い時は大好きな人に寄り添っていてもらいたい……かも……」

 

と真っ赤な顔で俯き、こちらをチラリと見る。

いや、そんなに恥ずかしい台詞なら無理に言うなよ……

 

「……だがそれはあくまで信頼関係が構築出来ている相手の話じゃねえのか?相模にとっての葉山は単なる憧れの的であって、信頼関係なんざこれっぽっちも無いんだぞ?ただの一方通行の憧れの相手に、自分の惨めな姿なんか見せられる訳ねえだろ」

 

「……信頼。……うん、確かに…そうかもです……」

 

だから恥ずかしそうにこっちをチラチラ見てくるのはやめてもらえませんかね。

俺じゃなかったら勘違いして告白しちゃってるとこだからね?

 

「でもだからって、さがみんがヒッキーに会ってくれるとは思えないし、会えたとしてもヒッキーの話なんて聞いてくれるの?」

 

泣き腫らした顔のままではあるが、ようやく落ち着きを取り戻した由比ヶ浜が訊ねてきた。

 

「まあ会うのはなんとかする。で、話ってのはむしろ俺だからいい、てか俺しかないまである」

 

意味が分からないと顔を見合せる一同の中で、一人だけ顎に手を当てて考えを巡らせている奴が居た。

 

「………成る程。比企谷君だからこそ…ね。確かにそうかも知れないわね……」

 

さすがは雪ノ下だな。理解が早くて助かる。

他の連中が答えを求めて俺と雪ノ下を交互に見る。

 

「由比ヶ浜さん。あなたは体育祭実行委員の時の事を憶えているかしら。あの時、今にも逃げ出しそうな相模さんを踏み留まらせたのはなんだったかしら」

 

腕を組みう〜んと考え込む。そしてひとつの結論を見いだす。

 

「………あっ!ヒッキー……」

 

「ええ。つまりそういう事よ。相模さんはあなたや城廻先輩の優しい言葉ではなく、大嫌いな比企谷君の言葉に反発心をおぼえて踏み留まった。だから比企谷君の言う通り、これは比企谷君にしか出来ない事なのかもしれないわ」

 

そう。あいつはプライドが高い。自分よりも下と認識している人間に同情されたり馬鹿にされる事をなにより嫌う。

その上大嫌いな俺にお前情けないななんて罵倒でもされてみろ。あいつが反発しないわけがない。

 

つまりあいつと話をするのに俺以上の適任者は居ない。

 

 

その後も由比ヶ浜と一色が「だからって一人で行かなくても」となぜか妙に食い下がって来たのだが、結城達が門前払いされた事実やさっきの葉山と同じ理由で、仲のいい奴や優しくしてくれる奴が居ても会ってくれないだろうからと断った。

その際一色に「この天然スケコマシが……」とかなんとかボソリと言われたのだが、なんなんすかね……

 

とにかく……、相模に会う、相模と話をつけるには、俺一人の方が都合がいいんだよ。

色んな意味でな……

 

 

× × ×

 

 

「ヒッキー!」

 

部活を終え駐輪場に向かっていると、さっき別れたはずの由比ヶ浜に呼び止められた。

 

「……おう、どうした」

 

正直今はちょっとこいつと二人で顔合わすとか結構キツいんだよな。

さすがに照れ臭い……。あんなことがあった後じゃあな。

 

「……えっと、さっきは取り乱しちゃってごめん。……それと、今までずっと言いたくて言えなかったんだけど………、本当にあの時はご…」

 

「待て。別に謝る必要はない。むしろ謝られたくは無い」

 

すると、なんで……?謝らせてくれないの……?と悲しそうに俯いた。

 

「ああ……、勘違いすんな。俺はな、これでもお前には本当に感謝してんだよ。あの時の問題だけじゃなくて、他にも色々とな。あの時だって、お前はああ言ったが、俺に気を遣って声を掛けたり怒ったりしてお前の立場がヤバくなったとしたら、それこそ俺自身が自分のしたやり方を後悔して自分が許せなくなってたと思う」

 

これは本当に本心だ。

由比ヶ浜に気を遣わせてまで、こいつの立場を奪っちまってまで、俺はなにやってんだと、後悔して立ち直れなくなってたかもしれない。

 

「だからこの件でさらにお前に謝られちまったら、俺は俺を嫌いになっちまいそうだ」

 

だからお前にそんな顔してもらいたくねえんだよ。

 

「あー……だから、なんだ。お前が俺の事を思ってくれるんなら、あの時の事はなるべく早く忘れてくれると助かる。………だが、まぁ……アレだ……。お前が後悔してるって聞いて、ちょっと………ホントにちょっとだけなんだが…………、う、嬉しかったぞ……」

 

 

 

うわーっ!恥ずかしーっ!俺なに言っちゃってんの!?なに言っちゃってんの!?

また今夜は悶えコース確定じゃないですかぁ…!

てか今すぐ枕とお布団をちょうだいっ…!

 

「………………ヒッキー!」

 

由比ヶ浜さんもそんな顔すんのやめてっ!なんかブンブン振ってる尻尾が具現化しちゃいそう!

なにその具現化系!そんなに役に立たなそうな念能力初めてっ!

 

「じゃ、じゃあな!」

 

たまらずそそくさと逃げ出す俺に、もう一度だけ声が掛かる。

 

「ヒッキー!…………また任せっきりになっちゃうけど……、さがみんの事よろしくねっ!」

 

俺はもう照れくさくて振り返りもせず、右手だけあげてそれに応えた。

 

「おう」

 

 

× × ×

 

 

翌日の放課後、俺は相模の家の前に立っていた。

この為に部室にも寄らずに直帰してここに来た。

 

今年の梅雨は近年稀に見る空っ梅雨だったのが、空が思い出したかのように朝から雨粒を落としていた。

 

「ったくよ……。天気で心理描写とか、どこの文学作品だよ……」

 

俺は流石に緊張している。女子の家に訪ねてくるってだけでも相当なのに、これから二人で話し合いとか、どんだけハードル高いんだよ……。それ以前に、まず『会う』というハードルが高すぎる。

 

俺は段々と落ちていく気持ちを、さがみんさがみんグルコサミーン♪と心の中でノリノリで歌い、なんとか落ちる気持ちをメルヘンチェンジさせようと己を鼓舞しながらインターホンへと手を伸ばした。

 

 

ピンポーンと間の抜けた呼び出し音の後、インターホンから「はーい」と、相模の母親らしき人からの応答があった。

 

「お忙しい所誠に申し訳ございません。総武高校の者なのですが」

 

すると緊張した声で、今行きますとの応答のあとインターホンが切れる。

 

同級生とか言うと、その時点で娘が会いたくないと言っているので…と門前払いを食らう危険性が高いので、高校の者と言った所がポイントな。

学校関係者なら、親が会わない訳にはいかないからな。

 

しばらくすると玄関が開き、母親らしき女性が顔を出した。

流石は相模の母親らしく、とても綺麗な妙齢の女性だった。

 

学校関係者だと思って出てきた母親は俺の顔を見ると大層驚いたが、外門までは出てきてくれた。

 

「さが……南さんとちょっとお話させて頂きたいんですけど……」

 

「えっと…、お友達のかた?……分かってるとは思うけど、申し訳ないんだけど南は今は誰にも会いたくないみたいなの……」

 

当然の受け答えだろう。仕方がない。

 

「そうですか……。それでは失礼します」

 

俺は歩を進めた。踵を返して元きた道を引き返す訳では無い。

母親を押し退けて玄関へと進み扉に手を掛けた。

 

「ちょっ!ちょっとあなた!」

 

引き止めようとする母親を無視し扉を開け玄関へと足を踏み入れた。

 

ったく……平塚先生を馬鹿にしてたのに、俺がそれをやっちまうとはな。

だから一人で来たかったのだ。あいつらにこんな事付き合わせる訳にはいかないからな。

 

「おい!相模!居るんだろ!ちょっと話がある!降りてきてくれよ!」

 

玄関内から大声で呼び掛ける俺を母親が必死に追い出そうとする。

 

「ちょっと!あなた何考えてるの!?警察に通報するわよ!?」

 

「……どうぞ。通報するならしてください。警察が到着するまでは多少時間かかると思うので」

 

戸惑う母親を無視してさらに呼び掛ける。

 

「おーい!相模!聞こえたか?出来れば早く降りてきてくんねえかな?早くしないと本当に通報されちまうよ!…………いいのか!?学校一の嫌われ者の俺が不登校になってる奴の家に突撃して補導されたなんて噂が広まったら、さらにとんでもない笑い者になるぞ!」

 

 

これは賭けだ。かなり分の悪いな。

だが、もうあいつの俺を嫌う気持ちの強さに賭けるしかない。

 

頼むよ相模……。一応さっきの台詞で母親を牽制するにはしたが、これでお前とも話せず、通報されて補導でもされたら、あいつらに顔向けできねえよ。

 

 

最悪の手段。それはこのまま無理矢理上がり込んで相模の部屋を探す……そうするしかないのか?との考えが頭を過ったその時、二階からバンッと不機嫌そうに音を荒げて扉を開く音がした。

 

 

 

ついに相模との対決だ……。俺は玄関から、相模が降りてくるであろう階段をじっと見つめていた……

 






えーっと……今回のストーリーはこの相模SSを書こうと思いたった時に、三番目に書きたかったストーリーでした。

私だけかも知れませんが、実は文化祭の後の結衣の対応を見て、ちょっと結衣を嫌いになりかけた事がありました。
てっきり悪口を言うクラスメイト達にキレたり距離を取ったりするのかと思ってたら、八幡を馬鹿にしている戸部達にヘラヘラ苦笑いを浮かべたり、それなのに奉仕部内では戸部に「なんかやな感じ」と不満を述べてみたり……


なので、本当はこう思ってたんじゃないかな?こんな風に後悔してたらいいな…と、相模の後悔と共に結衣の後悔の告白も入れたいと思っておりました。

それにしてもちょっと長かったでしたかね?
読みやすく二話に分けた方が良かったでしょうか?

そして次回はこのSSで二番目に書きたかった八幡と相模の対決です!

この怒涛の重めの書きたかった内容の前に一度心を落ち着けるために、あざとくない件の方で軽いしょーもない話を書いてワンクッションを入れたまであります(笑)


さて!お待たせ?しました!ついに次回は相模の登場です!


ここからはずっとうちのターンっ>ヽ(゚Д゜)

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