あいつの罪とうちの罰   作:ぶーちゃん☆

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平塚静は熱き想いをその可愛げのない生徒に託す

 

 

静まり返った室内では、カチコチと時計の音だけが響く。

 

平塚先生は自身の中から沸き上がる怒りとも悲しみとも取れる感情を抑える為、胸から煙草を取り出し火を点けた。

 

 

いやだからここって禁煙ですよね?

 

 

2〜3度ふかすと多少落ち着いたのか、ようやく口を開いた。

 

「……君達にこんな事を期待してしまうのは間違っていると重々承知している…。だが君達なら或いは……、とつい考えてしまうのは本当に情けないな……」

 

自嘲の苦笑いを浮かべ、俺達に訊ねてくる。

 

「それで…、なにか考えはあるのかね?」

 

こんなに苦しそうで自信のないこの人を初めて見る。このひと月の間よっぽど悩んできたんだろう。

この問題だけでは無く、教師の、自分たちの在り方さえも。

 

「昨日依頼受けたばっかなんで、まだなんとも言えないっすね」

 

「ですが難しい問題だと理解しています。私たちだけでどうにか出来る問題なのかどうか……」

 

そうか……と肩を落とす先生だが、こんな先生はらしくないからちょっとでも元気になってもらわないとな。

 

「まだなんとも言えないっすけど、ただこの問題の依頼が俺達の所に来て良かったと思ってますし、結構燃えてますよ」

 

すると先生だけで無く雪ノ下も由比ヶ浜も、それはもうびっくりした顔で俺を見ている。

 

え?俺が燃えちゃうとかそんなにおかしいのん?

あ、もしかして萌えちゃうかと思っちゃった?

 

この状況で急に萌えちゃうとか言いだしたら、そりゃびっくりするよね!

 

「あ、いや、この問題に対してと言うよりは先生に対してですかね……」

 

べっ、別に先生に萌え萌えな訳じゃないんだからねっ!

 

「だってこのまま俺達がなんも知らないで事態が悪化してたとしたら、下手したら先生が大問題起こしてたかも知んないじゃないすか」

 

「……どういう意味だ?」

 

ピクッと眉間に皺を寄せて訝しげに睨めつけてくる。

 

「いやぁ、先生って最悪学校の方針なんざあっさり無視して相模んち強襲して、門前払いしようとする親を押し退けてでも無理矢理乗り込んで、人生舐めるなと相模を説教しちゃいそうなタイプじゃないですか。そしたら流石に訴えられてクビでしょ。だからそうなる前に俺達んとこに依頼が来て良かったってのと、そんな危険性がずっと残ってる以上、何とかしないといけないな…って燃えるって意味ですよ」

 

などと、笑い混じりで冗談半分に言ってみた。

まあつまり半分本気なんだけどね。

すると平塚先生は、

 

「ばばばばば…馬鹿な事を言うんじゃ無い!わ、私はこう見えても分別をわきまえているしっかりとした大人なのだぞっ!?こっ、子供じゃあるまいし、そそそそんな事をする訳ないだろうっ!」

 

 

うっわー……、図星かよ……

 

さすがの雪ノ下や由比ヶ浜もドン引きしてますよ……。まあ引く中にも暖かいナニカが混じってますけどね。

 

「まあそういう訳なんで、やりうる限りの事は出来る範囲で全力でやってみますよ。そんな腐った大人たちばかりの学校で、先生みたいな変なのが居なくなっちゃったら、俺はともかく他の生徒達が困っちゃいますからね」

 

 

そう言うと、ようやくいつもの自信ありげな顔でニカッと笑った。

 

「相変わらず可愛くないヤツめ。フッ、まさか比企谷に慰められる日が来ようとはな……。すまない、よろしく頼む。私はお前達を信じて私の出来うる事をしておくよ。せめて相模の復帰後、学力の遅れはもちろんのこと、不登校での内申書の不利くらいは何とかしてやらないとな」

 

と、両手で拳を握りバキバキと音を鳴らす。

内申書って……。教頭でも担任でも無いのに何するつもりだよ……。

ったく……、お手柔らかにお願いしますよ?先生。

 

 

× × ×

 

 

それから数日は、ああでもないこうでもないと意見を出しあった。

なんの進展も無いがいかんせん時間が無い。ついつい焦ってしまう。

 

「くっそ!なんにも思い浮かばねえ……。そもそも一度落ちたリア充が復活なんて出来んのかよ?……あー、あんま時間ねえってのに」

 

「ヒッキー?確かに学校に出てこれるのは早ければ早いほどいいとは思うけど、時間無いってどゆこと?」

 

「そうですよねー。そんなに無理に急いでも本人が来たくないんだから仕方ないんじゃないですかねー。そんな状態で焦って無理に連れ出そうとしても、逆効果になっちゃいそうですけど」

 

今日もあたりまえのようにいらっしゃいますね、生徒会長。

あれだけこの依頼に反対してた割には、結構真面目に取り組んでくれるよな、こいつ。

その調子で生徒会の仕事も真面目に取り組んでくれるといいんですけどね!

 

「由比ヶ浜さん、一色さん。それは学校側が転校を望んでいるからよ。平塚先生の話では、まだ転校話は相模さん側には具体的には出してはいないみたいだけれど、もしもその話が出てしまえば相模さんの精神的な最後の砦が無くなってしまうのよ」

 

「最後の……」

 

「のとりで……?」

 

ガハマさん?さすがにそれは冗談ですよね……?

 

「ええ……。今は自分がクラスメイトから望まれていない存在だと考えて不登校になってしまっている相模さんが、もしも学校自体からも存在を望まれていないのだと遠回しにでも聞かされてしまったらどう思うかしら」

 

「……ああ」

 

「さすがに来たくなくなっちゃいますよねー」

 

由比ヶ浜は神妙な顔で納得してるが、いろはすは反応軽いなっ!

 

「まあそういう事だ。完全に居場所が無くなる。だからもう俺達が何をどうしても二度と学校に出てこようとは思わないだろう。学校側もそういう提案を出すタイミングを探ってるだろうし、いつそんな話が出ちまってもおかしくはない。タイムリミットがいつになるかは分からんが、出来るだけ急がなくちゃならんってわけだ」

 

だがこの手詰まり感は半端ない。

そもそもいくら策を練ろうが、相模が来る気にならなくては何も始まらない。

 

「なんかねえかなー……」

 

「そうね…。私ならば孤立させた中心人物を教壇の前に呼び出し完全論破し、その様子をクラスメイトに見せ付ける事でクラス中に恐怖心を植え付け、二度と逆らえないようにするわね」

 

 

怖ええよ……。もう発想がやべえよ……。

一色とか青ざめちまってるじゃねえか……

 

「お前無茶苦茶だな……」

「あら、そうかしら?でも歪んだ人間の人心を掌握するのには恐怖という感情が一番効果的だと思うのだけれど」

 

そりゃ確かにそうだが……。うーん、恐怖ねぇ……

 

「むしろあなたならクラス中の弱みをどんな手を使ってでも事前に調べ上げて、その弱みに付け込んで二度と逆らえないように脅すくらいの意見が出てくると思っていたのだけれど」

 

素敵な笑顔で恐ろしい事言うのはやめましょうね、ゆきのん。

確かにちょっと考えましたけども……。

 

 

由比ヶ浜もなんか考えてるのかうんうん唸ってるけど、君の場合は知恵熱出ちゃうから気を付けてね!

 

 

「あっ!」

 

「どうした一色」

 

「わたし良い事思いついちゃいましたよっ!」

 

ニヤリとする顔を見ると不安しか感じませんね。

 

「ここはアレですよアレ!葉山先輩にお願いしちゃいませんか!?」

 

「………えっと、……なにを?」

 

「葉山先輩にお願いして、相模先輩と恋人になって貰うんですよっ!葉山先輩の彼女なんてステータス手に入れたら学校来るのも楽しいでしょうし、あの葉山先輩の彼女に手なんか出せなくないですかー?名付けてニセコイ大作戦っ!」

 

 

控えめな胸を張って、えへんっ!とドヤ顔で満足気。

なにその作戦名。漫画好きなの?漫画好きの友達でもいんの?

 

「いや、それは逆に妬まれて虐めの対象にならねえか……?上履きに画ビョウとか入れられそうなんだけど」

 

「あー…、そうですよねー。うーん…、いい作戦だと思ったんですけどねー」

 

まあ発想自体は一色にしては思ってたよりはまともだが。

てかこいつ大丈夫か?そもそも重大な事忘れてね?

 

「いやお前、そもそもそんな作戦頼んで葉山が受けてくれちゃったらお前が困んだろ」

 

「は?なんでですか?」

 

だから馬鹿を見るような目はやめなさい。

 

「なんでって、好きな奴に恋人役とかやられたら普通嫌なもんなんじゃねえの?」

 

なんでそんな心底不思議そうな顔すんですかね、この子。

 

「好きなやつ?だれが?だれを?」

 

「いやお前が。葉山を」

 

そういった瞬間に一色はハッ!となり慌てだした。

 

「忘れてたぁっ!」

 

いや何を忘れんの?好きなこと忘れてたのん?

 

「いやいやおかしくね?なに?自分が好きな奴の事忘れてたの?」

 

「ちちち違うんですよっ!?そ、そういうんじゃ無くてっ……!ほ、ホラそうそう!べっ、別に恋人のフリするだけでホントに付き合うワケじゃないじゃないですかー!だっ、だからそういう心配をしてなかったってだけでっ!す、好きって設定忘れてたとかじゃなくってっ!………ってアレぇっ!?」

 

真っ赤な顔と真っ青な顔が交互に目まぐるしく変化し過ぎて、今に紫色になっちゃうんじゃないの?この子。

 

「なんだよ設定って……」

 

「は?は?なに言っちゃってるんですか!?設定なんて言ってないですよ先輩気持ち悪いです!目だけじゃなく耳も腐ってましたっけ!?……………あっ!わたしこれから生徒会の仕事があったんだったっ!ちょ、ちょっと急ぎますんでそれでは失礼しまーすっ!」

 

ピューっと行ってしまった……。忙しいやつだな。

なんだったんだあいつ……。

 

俺と同じく呆れてるのか、雪ノ下も由比ヶ浜もすっげー訝しげな目で一色が出てったあとの開けっ放しの扉をずっと見てるしな。

でもその視線はちょっと訝しげ過ぎてなんか穏やかじゃないですね。

 

 

× × ×

 

 

結局この日もなんの進展も無しに終わりを告げた。

 

チャリ通の俺は昇降口で雪ノ下達と別れ、一人駐輪場に向かった。

 

 

さて帰ろうかと正門を出た所で、いつもとは違う光景に出くわした。

 

正門脇の壁に、セーラー服を着た中学生らしき女の子が寄り掛かっていたのだ。

 

あんまり見てると声掛け事案とかで通報されちゃうから八幡気を付けてっ☆

よくは見れないが横目でチラッと見た限りでは相当可愛い女の子っぽいな。

 

兄だか姉だか知り合いだかを待っているのだろうか。

校門から出ていく生徒を見てはキョロキョロしている。

 

 

それにしても女子中学生ってだけで、なんか背徳感感じませんかね?

知り合いの…なんて付けた日にゃ、なんか犯罪臭しかしませんよ。

 

ラノベ作家の中には、妹と女子中学生しかヒロインにしない作者さんなんかも居ますが、マジで凄いと思います。勇者ですよ、はい。

 

あいにく俺に妹は小町だけだし、女子中学生の知り合いなんて勿論居るわけがないので、見てみぬフリをしてそのまま通り過ぎようとしたのだが、俺が前を差し掛かったあたりでその女子中学生がこちらをガン見しているのに気付いた……。

 

 

え?なんすか?俺なんもやってないすよ?

ちょっとチラッと横目で見たくらいで、ホントになんもやってないですよ!?

 

 

はっ!しまった!そういえば俺は視線だけで迷惑防止条令に引っ掛かる男だった!

見ちゃったから痴漢と一緒なの?通報されちゃうの?

 

自分の通ってる学校の正門前で女子中学生に通報されちゃうとか、もう俺の人生終わったわ!

 

 

その中学生は俺の顔を確認すると、なんと小走りで嬉しげに俺に声を掛けてきた。

 

 

「八幡!」

 

 

あれ?こいつ……

 

 

「お前、ルミルミか……?」

 

 

半年ぶりに会ったその女の子は、俺の記憶よりもずっと大人びていた。

中学に進級したからだろうか?制服を着ているからだろうか?

 

だが大人びて見えたのはほんの一瞬で、俺がそう声を掛けると、この成長したかに見えた少女は半年前とまるっきり同じ表情《かお》で思いっきり不機嫌そうにこう言うのだった。

 

 

「だからルミルミっていうの、キモい」

 

 

 




この度も最後まで読んで頂きありがとうございました!


やっぱりいろはす書いてるときが一番生き生きしてしまいますね……私。


ですが何度もいいますが、ヒロインはさがみんです(白目)

書き始めた時は、まさかここまで出番が無いとは思いませんでした><

数少ないさがみんファンの皆様ごめんなさい!

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