あいつの罪とうちの罰   作:ぶーちゃん☆

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相模南は孤独からの一歩を踏み出す

 

 

 

なにこれ?どういうこと……?

なんでこのメンバーがうちの所にくるの?

 

大体南ってなによ……?

うち三浦に……三浦さんに南なんて呼ばれた事ないんですけど……。

 

 

思わず泳いだ目を隣に向けると、由紀ちゃん達の目も絶賛海水浴中だった……。

 

 

ワケが分からないうちらの心の内など気にもせず、上履きをカツカツならし……、

 

てか上履きカツカツってなによ?おかしくない!?

 

 

あ〜っ……ダメだぁ!落ち着け!落ち着け南!

 

 

とにかくカツカツやってきた三浦さんは、モーゼの十戒の如くクラスの連中を威圧で引き裂きながらうちの元へとやってきた。

 

 

「南ひさしぶりじゃーん。どんだけ学校サボってんだし!」

 

ワケが分からず思わずゆいちゃんに助けを求める視線を送ると苦笑いでウインクしてきた。

 

 

ひ、比企谷?これをなんとかしろっての……?

 

『なにがあっても普通でいろ』『楽しいフリをしろ』

 

くっ…!分かったよ!やりゃあいいんでしょ!?やりゃあ!

 

「う、うん、久しぶり〜。あはは……、ちょっと色々あってさぁ……」

 

 

駄目だ……。声が震える……、顔が引きつる……。

 

 

「ったく。だからあーしがなんとかしてやるっつったのに。あんたメンタル弱っちいヘタレなんだから無理すんなし」

 

「ちょっと優美子ぉ…、それ言い過ぎだし…」

 

 

三浦さんは普段から威圧的で結構大きな声で喋るが今日は特に大きい……。

わざとクラス中に聞こえるように話してるって事なんだろうか……?

 

 

言いながらそこらの机と椅子を勝手に並べ替えてうちらとお昼を食べる準備をしだした。

さすが女王様は他人の席なんて関係ないのね……。

 

「ちょ、ちょっと優美子!机とか借りるなら一応断わろうよー」

 

「えー、別にいいっしょ。誰もなにも言ってこないし」

 

そう言いながら周りを軽く一瞥するとみんな目を逸らす。

どんだけなのよ……

 

 

「でもなんかー、この教室ってやけにジメジメしてなぁい?南だけじゃなくて、どんよりした連中ばっかなんじゃないのぉ?なんかネッチネチした不快な空気感じるんですけどぉ」

 

 

その台詞にクラス中が顔面蒼白になる。

三浦さんの意図を理解したのだろう。

でもこの突然の事態でも、クラスの連中は教室から逃げ出そうとはしない。

なにが起っているのか理解出来ないと同時に気になるのだろう。

 

 

なんで女王三浦が相模なんかと?………って。

 

 

それとこの空気の中逃げ出すと思い切り目立って、三浦さんに目を付けられるって感じてビビってるんだろう。

 

 

準備を済ますと縮こまっているうちらに楽しげに話し掛けてきた。

 

「そうそう!これ見るし!南が不登校でイジイジしてるあいだにあーしら遊びに行った時の写メ。隼人超カッコ良くない?」

 

そう差し出してきたスマホに写し出されていたのは写メなんかではなく、Fromヒキオと入ったメール画面だった。

 

 

[どうだ焦ったか?このサプライズ。この状況、お前らでなんとかしてみろ。え?なんでこうなる事の説明をしなかったのかって?クックック、そうだな。これは………]

 

 

ゴクリと自分の喉が鳴る音が鮮明に聞こえた。

 

 

[罰だ。お前が散々受けたがっていたな。とんでもねえ罰だろ?ビビって涙目で泡噴きそうなお前が目に浮かぶわ(笑)]

 

……ひ、比企谷ぁ……っ!

 

[だからこれで完全にチャラだ。もうお前は罪だの罰だのと考える必要はない]

 

 

……あ、そういうことなの?あいつはこれが言いたかったのだろうか?

もうあの事は引きずんな、って……。

 

[あとはせいぜいこの状況を上手い事やりすごしてみろ。言っとくが思ってるほど楽な事じゃないぞ。苦手なやつ嫌いなやつと仲良しなフリして一緒に過ごさなきゃならんってのは、想像してるよりずっと地獄だ。それも一日や二日じゃない。お前がもう大丈夫だと思うまでずっとだ。あんまり仲良しのフリが終わるのが早すぎるとクラスの連中から怪しまれるからな。安心しろ。三浦はお前らがイメージしてるような奴じゃない。本当に良い奴だ。だからまぁ、頑張れ]

 

 

比企谷……。苦手な奴とか嫌いな奴とか書くなよ……。

こ、このメールって三浦さんも見てるんでしょ…?

怖くて三浦さん見れなくなっちゃうじゃない!

 

上手くやれとか言いながら完全に嫌がらせじゃん……!

 

 

 

分かったわよ……。あんたから受けた罰は頑張って自分で清算するわよ!

頑張んないと、あんたにも、うちを嫌いな癖にこんなに協力してくれてる三浦さん達にも申し訳ないもんね。

 

 

[だからまぁ、頑張れ]の一文をもう一度しっかり目に焼き付けてからうちは顔をあげる。

 

「いいなぁ!イジイジしてないでうちも行けば良かった。ありがとう、優美子ちゃん!」

 

 

しっかり顔をあげて、三浦さんに精一杯の笑顔を向けると、『調子にのんなし』と言わんばかりの眼光を叩きつけられた……。

 

 

やっぱり怖いよぉ……

 

 

× × ×

 

 

その後もクラスの連中からの窺うような視線を受けつつなんとかお昼を済ませた。

 

もう精神が保たないから(クラスの視線ではなく女王の死線に)、今日はこのまま無事に終わって〜!と祈りつつ食べ終わったお弁当を片付けていた時、事件は起こった。

 

 

 

「……これ、なんだし」

 

 

 

まずい……、忘れてた……。

さっき書かれたばかりの落書き……。

 

 

場が、クラス中が凍り付く……。

三浦さんがなにを見てしまったのか連中もすぐに理解したのだろう。

空気が重くのしかかってくるのを感じる……。

 

 

 

「…………あ〜、……まっじムカつく……」

 

 

その余りにも低く威圧的な一言にクラス中が視線を逸らし息を呑む。

 

 

「……あーしさぁ、こういう陰険なの、……ほんっとだいっ嫌いなんだよねぇ……、えーと……なになに?『良く出てこられたね?カッコわるい?逃げ出しちゃいなよ?』……」

 

書かれた文字を威圧的な大声で、一文字一文字ゆっくりと読み上げる……。

 

 

「……ハッ!たかだか10文字にも満たないような言葉も直接声にも出して言えないわけぇ〜?……ダッサっ!ねぇねぇ、これどっちがカッコわるいのぉ〜!?」

 

 

これはもう独り言などではなかった。

クラスの全員に投げ掛けている。

 

恐怖に顔をあげる事も逃げ出す事も出来ず、ただただ俯きその真っ青になった顔を隠す事しか出来ないクラスメイト達。

 

すると女王のキバはうちに向いた。

 

 

「あんたもあんただし、南。こんな陰険で程度の低いダッサい連中にいいようにやられっぱなしでさぁ!こんなくだらない連中ごときから逃げてんじゃねーし!まずあんたがヘタレ根性どーにかしなよ」

 

「ちょっ!優美子っ!」

 

 

キレた三浦さんをゆいちゃんが止めてくれたのだが、うちには何にも言い返せる言葉がなかった。

 

 

「とにかくあーしは、こういう事やる人間ってマジで許せねーし。一回そういう事やってる時の自分の顔を鏡で見てみろしっ」

 

 

そしてクラス中絶句している中、三浦さんはうちらにしか聞こえないような小さく、しかし今までで一番ってくらいの低く威圧的な声で語り掛けてきた。

 

 

「……だからあんたらも自分らがなにしたか忘れんな……。あんたらがこうやって陰険なマネして陥れたヒキオがあんたらの為に頭下げてきたからこそ、あーしもこうやって協力してるんだって事忘れんなし……」

 

 

……三浦さんは怖い。確かに超怖い。でも本当にいい人なんだな。

ちゃんと目を向けもせず、ずっと悪く思ってた自分が情けない……。

 

 

「……はい……っ」

 

 

うちらは心の底から反省し感謝し、そう一言返事をした。

 

 

× × ×

 

 

「あー、戸部ー?今すぐC組くるし。……あ?速攻で」

 

一旦落ち着くと三浦さんは急にスマホを取り出し、なぜか戸部くんを呼び出した。

 

え?まだ何かやるの……?

 

 

速攻で……と仰せ遣った戸部くんは、ものの一分もしないうちにダッシュでやってきた。

 

 

「ゆ、優美子どしたー?……おっ!相模さん達じゃね?お久しぶり〜っ!うぇ〜い」

 

「……あ、戸部くん久しぶり〜…」

 

……うちはちょっとだけこのノリが苦手なんだよね……。悪い人じゃないんだけど。

でも隣を見ると、早織ちゃんがちょっと頬を赤らめて嬉しそう。

 

あ……、そういえば早織ちゃんて戸部くんお気に入りだったっけ……。

 

 

「戸部。これ消せし」

 

到着早々に机をコンコンと爪で叩き、たった一言で命令を下す女王様。

 

あの!三浦さん?それはさすがにうちが申し訳ないんだけど……!

 

「え?なに消すん?……うっわー、ま…、マジで!?……いやいやいや、これはマジないっしょー……。だってこれって……アレだべ……?」

 

と気まずそうにうちの顔を見る。

いや、アレだべ?って言われても、なんて答えりゃいいのよ……。

 

気まずく苦笑いしか返せないうちに、戸部くんは襟足を弄りながら声を掛けてくれた。

 

「っか〜……今どきこんなんする奴ってまーだ居んのな?なんつーの?淫乱っつーの?」

 

……い、淫乱?

 

「い、淫乱……?」

 

ボソリと誰かが呟いた。

 

「なんで淫乱だし……、それゆーなら陰険とか陰湿っしょ」

 

「それなー。………いやー、C組ってサッカー部居なくて良かったわー!こんなんするクソが居たらマジでサッカー部の恥っしょ……」

 

うわ……、こんな風に苛立って低音で話す戸部くんって初めて見た……。

 

トップグループの一人でもあり、底抜けに明るくて人気者の戸部くんのこの余りにも意外な様子に、より一層教室の空気が重くなった。

 

「は?あんただって二年とき、さんざんヒキオをネタにして遊んでたっしょ」

 

せっかくシリアスにした空気を三浦さんにあっさりブチ壊されちゃったよ……戸部くん……。

 

「っか〜!優美子それは言わない約束っしょ〜!俺ガチで反省してっし!反省しまくりまくりっしょ〜、ヒキタニ君マジで良い奴だし〜」

 

ちょっと可哀想な戸部くんが必死に言い訳してると、なんか変な声がした……。

 

「………ぐ腐っ……い、淫…乱?」

 

…………え?なに?

 

「……い、淫乱なとべっちがヤサグレたヒキタニくんを弄んでタネを?………な、なんて卑猥なっ……!ぐ腐っ、ぐ腐腐っ………トベハチの新たな可能性キマシタワーーーっ!ブハァッ」

 

姫菜ちゃん……、今まで大人しくしてたのはこれのために蓄めてたの……!?

 

 

「ちょっ!海老名、違うクラスでまで暴走すんなっ!擬態しろしっ!」

 

 

すかさずポケットティッシュを用意する三浦さん……。

鮮血に染まりつつ怪しげに笑う姫菜ちゃん……。

またかと苦笑いするゆいちゃん……。

なぜか姫菜ちゃんをいとおしそうに見つめる戸部くん……。

 

 

もうさっきまでのクラス中の重い空気なんかどっか行っちゃったよ!

 

もうメッチャクチャ……。うちこんなテンションについていけないよ〜……。

 

 

 

でもずっと引きつったままだった笑顔が、気づいたら緩んでた。

やっぱスゴいなぁ、この人達は!

 

 

× × ×

 

 

「あ〜……、疲れたぁ……」

 

 

うちは疲れ切った心と身体を癒すように湯船に浸かり、ん〜っ!と伸びをする。

 

まったく……。お昼は毎日毎日女王様のご機嫌取りを不自然にならないよう満面な笑顔で過ごし、放課後は放課後で補習と平塚先生によるお小言……。

 

 

「マジで神経すり減らしまくりだってーの……」

 

 

げんなりとしてため息を吐くが、それでもそんな生活も悪くないと思ってしまってる自分が居た。

あれ?うち今結構楽しくない?

 

 

思わずニヤつきそうになってしまっただらしのない顔を誤魔化すように、両手ですくい上げたお湯をぱしゃりと顔に掛けた。

 

 

 

 

あれから一週間、うちの生活は文字通り激変していた。

 

結局あの後も三浦さんや姫菜ちゃんが暴走するのをゆいちゃんとうちでなんとか押さえたり、「ないわー……、油性じゃ全然落ちないわー……」と、うちらの机の落書きを一生懸命消してくれようとしている戸部くんを応援したりと、とんでもなく騒々しいお昼休みを過ごし、放課後は生徒指導室に呼び出され平塚先生から熱い謝罪を受けた直後に熱いお灸を据えられたりした。

 

 

どうやら勝手に替えられたうちの机は、証拠隠滅どころか証拠保護として平塚先生が押さえてくれていたとの事。

 

うちが通学してきた事と、虐めにあっていたその証拠品をネタに校長や教頭を脅し、うちが不登校だった事は不問とさせたらしい。

もちろん毎日その分の補習と生徒指導付きではあるが……。

 

平塚先生は各教科の先生に話を付けてうちの学力が低下した分を補うように補習計画を練ってくれた。

 

うーん。教師に対する信頼なんか無くなってたうちも、やっぱり平塚先生だけは別みたいだなぁ。

 

 

 

そしてやはり優美子ちゃんの威光は凄まじかった。

あれ以来虐めどころか蔑みと嘲笑の眼差しもピタリと止まった。

 

というよりは、クラス全体でうちらの事を一切視界に入れなくなった……、という方が正しいのだろう。

 

 

とにかく目が合う事を恐れるのだ。あの人達。

 

お昼休みは優美子ちゃん達が来てくれたりうちが行ったりするのだが、優美子ちゃん達が来てくれた時なんかは教室が無人になるからねっ!

ホントどんだけなんだよっ!

 

 

でも比企谷が言ってくれていた通り、もう惨めさなんか全然感じなくなった。

 

前と変わらずクラス内では孤立しているのに、本当に自分の気持ち次第なんだな〜って、今ではすごく思う。

由紀ちゃんと早織ちゃんも居てくれるしねっ!

 

 

 

うちは今、お風呂から上がりベッドに横になりながら、由紀ちゃんから聞き出したあるアドレスにメールを打ち込んでいた。

 

 

「………はぁ〜……、送っちゃっても大丈夫かなぁ……」

 

 

うわ〜……超緊張すんじゃん……!

でも軽く震える指先を画面にタップする。

 

「………えいっ!」

 

 

送ってしまった……。

明日の放課後、あいつを呼び出す為のメールを……。

 

 

うちは、あいつにどうしても明日伝えたい事がある。

そう、どうしても。

 

 

「うーん……、なんて返信くるかな〜…」

 

 

送ってしまった後悔と不安。そしてちょっぴりの高揚感を誤魔化すように、どんな返信がくるのか想像してみた。

 

 

[嫌だ]

[早く帰りたいから無理]

[だが断る]

 

 

っておい!想像からして拒否しかないじゃん!

 

 

 

結局ここ最近の疲れもあって、スマホを胸に抱きながらその日はそのまま寝落ちしてしまったのだった。

 

 

× × ×

 

 

翌朝

 

 

「返信きてないじゃんっ!」

 

 

比企谷ぁ〜!あいつどこまでうちをコケにすれば気が済むってのよ!

 

一応送った宛先とメール内容を確認してみる。

 

「………合ってんじゃん」

 

……ま、いっか。ホントにちょっぴりだけイライラするけど……。ホントにちょびっとだけね!

 

メールは間違いなく送ったんだ。

断ってこない以上、あいつは絶対来てくれるだろう。

 

 

 

「行ってきまーす」

 

 

期待と不安が入り交じった気持ちで学校へ向かう。

 

昨日までの梅雨空が嘘のように、本日は朝から一週間ぶりの快晴!

 

「ったくぅ。だから気分を天気で表現とか、どこの少女漫画だっての!」

 

同じような事を考えながら登校していた一週間前とは、まったく真逆の気持ちの自分に思わず苦笑いしてしまう。

 

 

 

 

 

 

出会いと出発の桜咲く春。

 

うちはその春には失敗しちゃったけど、今日はそんなの問題にならないくらい、うちにとっては大切な大切な新たな一歩を踏み出す日。

 

だから今日はあいつに、比企谷にどうしても伝えたい事がある。伝えなきゃ、この日をNEW相模南の出発の日には出来ないから。

 

 

そして伝えるには今日じゃなくちゃいけない。

新たな出発の日はどうしても今日にしたい。

 

 

 

だって今日は6月26日。

そう。私相模南の18回目の誕生日なんだから!

 





ありがとうございました!

ついにここまで来ました!キマシタワー!


突然ですが次回で最終回となります!


初投稿から一度も読み返してないので、ラストを書く前に一度最初から読み直して、気分を盛り上げたいと思っております!
盛り下がっちゃわないといーんですけどね(笑)


それでは!

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