あいつの罪とうちの罰   作:ぶーちゃん☆

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初めましての方は初めまして!

今回は俺ガイルきっての不人気キャラ、相模南に焦点をあてたSSです。

内容が暗い上にヒロインが不人気キャラと、本当に誰得な作品ですので、前作のように多くの方に愛して頂ける作品とは思っておりません。
作者自身が前作ヒロインと違って相模好きではありませんし……。
そこを踏まえて頂いた上で、極少数の気に入って頂けた方に読んで頂けたら幸いです。


相模南は孤独に立ち止まる

 

 

 

「ごちそうさまでした……」

 

 

 

誰に対して言ったのかも分からないような小さな小さな声でそう呟いた。

もっと大きな声を出したのだとしても、その声は誰にも届かないのだけど。

 

うちは、お昼休みになど誰一人として寄り付かないであろう特別棟の女子トイレの個室で、今日も1人昼食を終えた。

 

 

× × ×

 

 

四月

 

 

新しい出会いと出発の桜咲く春。

 

今日から最上級生へと進級したうちは、クラス分けが貼り出されている掲示板の前で、友達とはしゃいでいた。

 

「やったぁ!うちら同じクラスじゃんっ!」

 

「うん!やったね南ちゃん!」

 

「すっごいね!超奇跡じゃねっ?」

 

「うっわ……。あたしだけのけ者だ……」

 

 

元2年F組のうちのグループは残念ながら1人だけ分かれてしまったが、うちを含む3人ものメンバーが同じ3年C組という奇跡を引き当て、大騒ぎで喜び合っていた!

 

「まぁまぁ!寂しくなったらうちらのクラスに遊びにおいでよ〜」

 

「そーそー!また遊んでやらんことも無いぞぉ?」

 

なんて軽口を叩き合いながら、うち達はそれぞれのクラスに向かう。

あー、今日は朝から良い気分だなぁ。新学期早々、仲の良いメンバーで高校生活最後の一年を締め括れる事が決定するだなんて。

 

幸いな事に三浦や結衣も居ない。

葉山くんとも同じクラスになれなかったのは残念だけど、三浦と結衣あの二人が居なければまたトップカーストの中心にだってなれるはずだ。

 

 

「うち、三浦さんやゆいちゃんが居なくて、ちょっと残念なようなほっとしたような。あの人達が居るとクラスは盛り上がるけど、ちょっと騒がし過ぎるってゆーかぁ?」

 

「わかる〜!まぁ南ちゃんが居ればあの人達にもひけは取らないよ〜」

 

「そうだよ〜!ホント南ちゃんとまた同じクラスになれて良かったぁ!」

 

「え〜!うちがぁ?ないない!でもあの人達に負けないような盛り上がるクラスにしようねぇ!」

 

 

うち達はこれからの新しい出発に期待を膨らませながら、これから一年間お世話になる新しい教室の扉を開けた。

 

辺りを見渡し、黒板に書かれていた自分達にあてがわれる席を見つけ談笑していると、楽しそうに笑い合いながら続々と新しいクラスメイト達も教室に入ってくる。

うちがそんなメンバーを値踏みしていると、聞き覚えのある声ではしゃぐ女子生徒二人組が扉を開けて教室に入ってくる。

 

「やったぁ!今年は遥と同じクラスになれて良かったよぉ!」

 

「ね〜!よろしくね〜、ゆっこ!」

 

 

 

 

 

今にして思えば、たぶんその瞬間にうちの高校生活は終焉を向かえたのだろう……。

 

4月。それは新しい出会いと出発の桜咲く春では無く、別れと立ち止まりの桜散る春だった。

 

 

× × ×

 

 

C組はどんな運命の歯車なのか、去年の文実、そして体育祭実行委員のメンバーが多く集まっていた。

 

始業式・HRが終わる頃には、うちはクラスの半数近い生徒から嘲笑の眼差しで見られている事に気付いていた。

 

別に話し掛けられる訳でも何かを言われる訳でも無く、ただうちにチラチラ視線を送り、クスクス笑ったり耳元で囁き合っている姿が視界に入ってくるのがとても不快だった。

そしてその中心にはいつでも遥とゆっこの、うちを見下したような歪んだ笑顔があった。

 

新学期から3日も経てば、元文実とかとは無縁のクラスメイト達からも白い目で見られるようになるのは当然の結果だった。

 

うちはその時ようやく知った。

うちは二年生の内から、学年ではすでに浮いた存在であったという事を。

 

 

F組内では元々仲の良かった友達が居た事や、何よりも仲間内の争いごとを嫌う葉山くん、クラス内の悪い空気に過敏に反応する三浦やみんな仲良しの空気を作る結衣など、絶対的カリスマの存在があったからこそ、あのクラスにはギリギリうちの居場所があったのだと思い知らされた。

 

そのカリスマ達の影響が及ばないクラス外では、うちは責任を放棄し不様に逃げ出し、責められるべき悪業を人に押し付け、そのうえ悪怯れもなく体育祭の実行委員長にまで立候補して泣き喚いた、只のヘタレ勘違い女とのレッテルが学年中で貼り付けられていたようだ。

 

 

新学期初日にあの子達とはしゃいでいた頃がすでに懐かしい。

1週間も経った頃には仲良しだった子達も、まわりの目を気にしてうちには近づかなくなっていた。

クラスが替わって会う機会が減った子も、すでに自分の居場所を見つけたのかうちから距離を取りたかったのか顔を見せる事もなく、気付けばうちはクラス中から……、世界中からハブられて一人ぼっちになっていた。

 

 

誰ともしゃべる事も無く誰に認識される事も無く、無味無臭の一人ぼっちの新学期がひと月ほど過ぎ、GW明けに登校する頃には、うちの机には数多くの落書きやゴミが入れられているようになっていた。

 

花が供えられていないだけまだマシか。

てかうちってまだこのクラス内で認識されてたんだ……

 

思わず笑ってしまった。

 

 

× × ×

 

 

ここ最近は吐き気ばかりで食欲も無く、半分以上残っているお弁当箱の蓋を閉める。

ああ…、今日も帰りに駅とかで捨てて帰らなきゃな……。

 

 

どうしてこんな風になってしまったんだろう。

こんなはずじゃ無かったのに……

 

 

『最低辺の世界の住人だ』

 

いつかのあいつの言葉が心を過る。

 

 

こんなはずじゃ無かった?

 

 

いや、それは違うか…。成るべくして為ったのだろう。

 

 

本当は気付いてた。体育祭実行委員でまたあいつと仕事をする事になり、あいつのやり方や有能ぶり、あの雪ノ下さんや結衣との関係性、城廻先輩からの信頼を目の当たりにしてしまったあの時に。

 

 

いくらうちでもおかしいとは思ってた。

勝手にイジけて逃げ出して、あれほどまでに迷惑を掛けてしまった絶対的加害者のうちが、なんで責められてないの?なんで悲劇のヒロインになってるの?

 

なんでうちを捜し当てて、結果的に文化祭を救ったコイツが、学校中の悪意を一身に受けてるの?

 

ああ…、うちはコイツに生かされていたんじゃないんだろうか?って……。

 

 

でも悔しかった。認めたくなかった。認められなかった…。

うちがその考えを自分で認めてしまったら、あいつの言っていた最低辺の世界の住人とは、あいつの事では無く自分自身の事なんだと認めてしまう事になるから。

 

 

だからうちは目を背けた。あいつから。現実から。

 

そう。うちはこの最低辺で最悪の嫌われ者に悪意ある言葉でなじられ傷つけられた可哀想なヒロイン。

その与えてもらった役どころに気付かないフリしてそのままヒロインを演じていれば、みんな優しくしてくれる。みんなチヤホヤしてくれる。

 

だからあいつはうちの中で永遠に最悪で嫌われ者でなければならなかった。

 

 

でもそんなのは、うちの狭い狭い世界の中でしか無かった。

その狭い世界から一歩でも足を踏み出してしまったら、うちは単なる憐れなピエロだったわけだ……

 

 

「……なにそれウケる……」

 

 

これは罰なんだ。自分の狭い世界を必死で守る為に他人を貶めたうちの罰。

 

 

じゃああいつはどうなんだろう?

 

 

あいつがした事は間違いなく罪だ。

うちの為に……、んーん、それは違うか。それは無いな。

雪ノ下さんの為?奉仕部の為?城廻先輩の為?文化祭の為?

あいつが何の為にあそこまでの事をしたのかは分からない。

 

でも何の為にせよ、あいつは自分自身を犠牲にしてうちを、全てを守ったのだ。

己を傷つける自傷行為で。

だからあれは間違いなく罪。

 

 

そのあいつの罪を今うちが罰として背負っているのだとしたら……、今のこの状況が罰なのだとしたら、なんと割に合わないのだろうか……。

 

 

だって……、あいつは自分の事など考えもせずにうちを生かし、今のうちと同等……、いやそれ以上の罰をすでに受けているんだから……。校内一の嫌われ者としての罰を。

 

それに対してうちはどうなの?

責められるべきの罪を全てあいつに背負わせて自分だけが助かったのに、今受けている罰なんてあいつが受けたものと比べたら大した事でもなんでもない。

たかがクラスでハブられて軽い虐めにあっているだけ。

 

 

なんて割に合わないのだろう……

 

 

「あはは……ああ、そういう事か……」

 

 

誰も居ない静かなトイレに、うちの自嘲気味の乾いた笑いが虚しく響く……

 

 

なんの事は無い。今うちが受けている罰など、まだ罰と呼べる程のものでもないのだろう。

ただ自分の犯した罪に対してのちょっとした皺寄せなだけだ。

 

あいつに…、比企谷に背負わせてしまった罪に対する本当のうちへの罰は、これから受けるのではないのだろうか。

 

 

「あはははは……っ、………………うっ…ううっ…」

 

 

乾いた笑いに生温い湿り気が交じると、その湿り気はとめどなく溢れ、うちはもう声を殺すことも忘れてむせび泣いた。

 

 

× × ×

 

 

「酷っどい顔……」

 

気が済むまで泣いて個室から出た頃には、もう午後の授業は始まっている時間だった。

 

うちは洗面台の前に立ち、鏡の中に映ったやつれた自分の醜い顔を見つめつい笑ってしまう。

これじゃ今から教室に帰って授業を受けるなんて無理だな……。今日はこのまま帰っちゃおうかな。

 

 

 

 

 

その日うちは午後の授業をサボり誰にも見つからないように家に帰った。

 

 

そして翌日、うちはもう学校には行けなくなった………

 

 

 


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