オリ主と第六駆逐艦隊   作:神域の

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0-7 オリ主の立場

「やらないかっやらないか やーら、やらーかいかいっ こっの思いはトメラレナイッ」

 

 今、やらないかを全力熱唱している俺は鎮守府に配属されている一般的な艦娘。強いて違うところをあげるとすれば中身が男ってとこかナ・・・・・・艦名は響。色々なわけで鎮守府のいたるところを練り歩くのだ。

 ふと後ろを見ると後方から一人の若い女が歩いていた。うわぁ、紅茶ジャンキー・・・そう思っていると突然その女は俺の方へ全力で走り出してきたのだ・・・・・・

 

「うわああああ!!ばれたああああ!!」

 

「捕まえたネー。貴方が鎮守府にきたnew faceデスカー?」

 

「イエスっ!そうっす!トコロデっ!ワタクシめになにかご入用でしょうかっ!」

 

 アカン!暁達にいらん事吹き込んだのがバレた!・・・このままガッチリと掴まれた頭を万力のようにミシミシと押し潰され、最後はプチっとトマトみたいにはじけ飛ぶんだろうなぁ・・・・・・

 

「What is name?」

 

「スイマセン、調子乗りました、殺すなら・・・ん?わっちゃいねーむ?」

 

「Yes!貴方の名前はナンデスカー?」

 

「・・・あぁ名前ね、名前。響ッス、ヨロシクオナシャス!」

 

 ばれたかと思ったよ・・・手を離してくれて良かった・・・・・・

 

「・・・ビッキー!響だからビッキーって呼ぶネ!ワタシは英国で産まれた帰国子女の金剛デース!えっと・・・ヨロシクオナシャス!」

 

 『戦艦 金剛』艦これでは入った時から提督ラブ勢で人気がものすごいあった。多分だが艦これユーザーで金剛が嫌いな提督はいないだろう・・・俺?ロリコンだけど好きだよ、金剛。

 

 ・・・その金剛はどうやら挨拶が気に入ったらしい。さっきからオナシャスオナシャスと呪文のように唱えている。だが俺は気に入らない事がある、それは俺の呼び方。『ビッキー』じゃ『ブッキー』と被るじゃねーか!!

 

「・・・響だからビッキー?まんまじゃねえか・・・いいか、響はハラショー!ハラショーは響!響とハラショーは切っても切れない関係にある・・・つまり!響を呼ぶときはハラショーと呼ぶのが正しい!!(どばーん!)」

 

「おおぅ・・・それはSorryネ。今度はビッキーじゃなくてハラショーって呼びマース。でもハラショーはどこがハラショーデスカ?」

 

 その言葉は衝撃だった・・・そう、俺は響ちゃんだ。響ちゃんは事あるごとにハラショーと言う。だが俺はどうだ?昨日から今日までハラショーをろくに言った覚えがない・・・これでは響ちゃん失格ではないか!!

 

「ありがとう、いや・・・ハラショー金剛、俺、じゃねえ私は大切なことを忘れていたよ。今度から事あるごとにハラショーって言うよ」

 

「お役に立てて何よりデース!・・・ところでハラショーは一人で何してるノー?」

 

 ハラショー!!実は少し前に暁達に自由行動の許可をもらっていたのだ!理由ももちろんある・・・お堅い暁のこと、あっちに行きたい、こっちに行きたいと言うとあっちは入っちゃダメ、こっちは危ないからダメと言うに決まっているのだ。

 

「ナルホドー、ハラショーは何処に行くつもりデスカー?」

 

「とりあえず工房と提督室、弓道場もあったはずだから行くとして兵装出せるようになったから海にも出たいなぁ」

 

「おお!それは奇遇デスネー!私も提督に会いに行くところデース!それじゃあ一緒に行きまショー!!」

 

 そう言ってガシっと手を掴まれる。おい、これって引きずられるパターンだろ・・・「提督ぅ今行くネー!」あっ早ぇ!ぶえっ顔に髪が!うえっ口の中に入った!!待って!このスピードで曲がったら(ガンッ)ギャアアアア足打ったああああ!!

_______________________________________

 

 (ダダダダダダダダダ!)

 

「てぇ いぃ とぉ くぅぅう!!」(バンッ(ドアを開ける音))「何だ(ダキィ!(頭に抱きつく音))(バコーン!(投げ出され壁にぶつかる音))「痛い!あっちこっち痛い!」

 

「提督ぅ、会いたかったネー・・・提督も?わぁ!嬉しいデース!私達、相思相愛デスネー」

 

 あちこち痛む体を抑えて見た光景は混沌だった・・・・・・未だに宙を舞う紙、長門の顔をホールドして提督に愛を囁く金剛、金剛が顔にくっついているのに座ったままの姿勢を保つ長門・・・ちなみに提督は居ない。

 

「・・・金剛、ソレ提督ちゃう、ながもんや・・・・・・」

 

「んー?ホントネー、長門さんそこで何やってるノー?」

 

「書類整理に決まっているだろう!!それに毎回静かにドアを開けろと行っているだろう!!」

 

 お二人がコントをやっているあいだに下に散らばった紙を集める事にする。なになに?遠征任務・・・ダメだ。字ばっかで読む気にならん。もう普通に集めよう。

 

「ところで提督は何処デスカー長門さん。ワタシ提督成分補給しないと死んじゃうネー」

 

「・・・はぁ。提督は用事があるらしくつい先ほど出て行かれた。いつ戻ってくるかは分からないらしい」

 

 屈んでいると長門のパンツが見えた。・・・黒か、まあ見た目的に年頃だもんな、白じゃ恥ずかしいよね。あっ、向こうにもある・・・えと、損害報告書?よくわからんが下に『解体ノ検討アリ』って書いてあるな・・・解体ね・・・誰だか知らんがかわいそうに・・・ゲームじゃないんだから、ちょっとの損害くらいで解体しちゃアカンよ。

 

「・・・で、提督に会いに来たのはわかったが、なぜ駆逐艦 響と一緒に来たんだ?」

 

「それはモチロン、ハラショーも提督に会いたいからネー!ハラショーとは恋のライバルだけど時には協力し合うのがライバルなのデース!」

 

「・・・いや、全然違うから。ライバルじゃないから」

 

「そうか・・・二人に解体の話を聞いたか・・・」

 

「えっ?解体?誰が?」

 

「お前だ。ここに来た理由は、解体しないで欲しいと頼みに来たのだろう?」

 

「いや、物色しに来ただけだけど・・・えっ!?解体されるの俺なの!?」

 

「ハラショーは解体されちゃうんデスカー!?」

 

 マジで!?解体の検討されてるのって俺なの!?あれか、本当の響じゃないのがバレたとか?

 

「物色・・・はぁ・・・まさか知らないとは。まだ解体については決定事項ではないが、現時点で鎮守府にいる一部の艦娘からかなりの苦情がきている。その他にも軍規違反、備蓄品の私的使用、艦隊戦力の損害などだ・・・このままじゃ解体されないにしろ此処にはいれないだろうな」

 

 心当たりがありすぎる・・・備蓄品はおそらく昨日の目薬だろう、あれは多分バケツ(高速修復剤)ではないかと思ってはいた。アニメじゃバケツが枯渇してたもんね・・・・・・洒落にならねぇ

 

「そんな!解体は酷いデス!なんとかならないんデスカ!?」

 

「遠征任務にしろ出撃任務にしろ戦果をあげれば多少の事は多めに見られるだろう、だが今のところ遠征も出撃も要請されていないからな、どうしようもない」

 

「長門さんがそんな人だったとは見損なったヨ!何もできないでサヨナラなんて響が可哀想デス!!」

 

「私だって何とかしたいさ!!だが深海棲艦の活動が活発でない今、任務がないんだ!!悪戯に出撃すれば今度は提督の手腕が問われるんだぞ!!!」

 

 自分のせいなのに関係の無い二人が言い争ってるのを見ているのはつらい。何とかしたいのに何もできない自分が情けなくてしょうがない。結局ファンタジーだ主人公だと騒いで起きながらやる事は前と変わらないのか。

 

「っ!・・・大丈夫デース。提督はそんな事する人じゃ無いデスカラ、問題nothingデス!」

 

「あぁ、そうだ。だから泣くな、響は任務が来た時に備えいつでも出撃できるようにすればいい」

 

 なんてことだ、終いには俺は泣いてたらしい。これ以上情けないところを見せないでくれ。そう思っても涙はポロポロと溢れ出てくる。心と体は別物ですってか?やめてくれ、そんなテンプレはいらない。

 

「・・・・・・提督もいないですしワタシはそろそろ戻るネー。ハラショーは工房に行くノ?もしよければワタシが案内してあげるデース!」

 

「響、私が言っておいてあれだが気にするな。提督が戻ってきたらもう一度掛け合ってみるよ」

 

 金剛に背中を押されて部屋を出る。さっきほどじゃないが涙は止まらない。全部自分で撒いた種なんだ、こうなったのも仕方ないだろ。わかっているのに出てくるのは、『皆と一緒に居たい』『こんなはずじゃなかった』『やらなければよかった』『分かってくれると思ってた』・・・自分勝手にも程がある、これ以上皆に心配かけさせるな。

 

「・・・こん、ごうさん。もう・・・だいじょうぶ、です。ありがと・・ございます」

 

「・・・Yes!それなら良かったデース。後ワタシの事は呼び捨てでいいヨ!ワタシもハラショーって呼びマース。今度はお互いのsister呼んでtea partyしようネ!またネー!ハラショー!!」

 

 あぁ、何がティーパーティーなのだろう・・・今はもう何処にも行く気分では無い。だからといって人が通る廊下に何時までも居るわけにいかない。これ以上誰かに今の顔を見られたくないんだ・・・・・・

 重い足を無理やり動かして歩き始める。そしてほんの少し歩いただけで、どういう訳かあれだけ止まらなかった涙が引っ込んでしまった。もう誰にも会いたくないな、そう思っても自分が思いつく場所は一つしかなかった――――

 

 

 

――――昨日と全く変わらない高台。という事は昨日もこの時間に此処に来たのだろう、高台を登って海の見える位置に腰を下ろす。眼下に果てしなく広がる青い、蒼いうみ・・・このまま海に出て行ってしまおうか、そんな事を考えても提督に迷惑がかかるんだったなと取りやめる。今、この海の向こうには自分と同じ気持ちで海を眺めている人はいるのだろうか?そんな疑問も、いるわけないよなぁで終わってしまう・・・・・・

 

 しばらくぼーっと海を見ていると、空に何かが飛んでいるのに気がついた。何かは同じ所を行ったり来たりしている。何かは群れで同じ場所から飛び立ち、毎回同じ場所で同じ軌道を描き元の場所に帰っていく。あまりにも同じ事を繰り返すのでタイミングよく「・・・行け。・・・・・・そこで回って戻ってこい・・・・・・」と言うと自分が指示を出したようで少し楽しかった。まぁ、そんな事はすぐに飽きが来るもので再び、ぼーっと眺めることになったのだが。

 

 そしてずっと見ていたからか、何かにちょっとした違和感を感じ始めた、なんというか光ってる気がする・・・戻るとき、まるでこちらを見ているかのような感覚を感じる。おそらくだが、あの何かの正体がわかった俺はこれ以上此処に居たくなかったので場所を移動する事に決めた。最後に後ろ髪を引かれるように振り返ると同じ場所で同じ軌道を描かずこちらに飛んでくる何か。何かはやはり艦載機だったようで、艦載機は高台の前で綺麗な軌道を描き元の場所に戻っていく・・・・・・それっきり艦載機は飛ばなくなったので再び高台に腰を下ろす。ここを移動しても行くところがないしな・・・・・・

 

 それにしても昨日は輝かしい未来に胸焦がれた物だと思う、今はそんな物、全くないが。理由はわかってる、現実は優しくないって改めてわかったからだ。きっと何もできずにこの鎮守府を去るのだろう・・・・・・そんな考えが頭の中をぐるぐる回る。ふと誰かの気配を感じて後ろを振り返ると、こちらに袴を着た女性が来ていた。

 

「こんにちは。今さっき艦載機の訓練をしていたら、ここに見たことない子が居るのが気になりまして、来てしまいました」

 

 『正規空母 赤城』彼女はアニメ主人公の憧れの存在だ・・・たしか、彼女に助けてもらう事で主人公に目標できそれに向かって頑張るとかだったな。

 

「・・・こんにちは、実は艦載機が飛んでいるのをずっと見ていたんですよ。素晴らしい腕前ですね」

 

 そんな事は毛程も思って居ない、俺はもう誰とも会いたくないんだ、ほっといてくれ・・・・・・けれど彼女はお構いなしに近づいて来て話を続ける。

 

「ありがとうございます。でも慢心しては駄目、基本は大事ですから。・・・そういえば自己紹介がまだでしたね。私は航空母艦、赤城です。あなたはなんて名前なんですか?」

 

「・・・・・・響」

 

 別に名前を教えてもらわなくてもよかった、どうせすぐに居なくなるのだから・・・・・・

 

「そうだ響さん、これからお茶をするのですけど、もしよければご一緒しませんか?」

 

「お誘いは嬉しいですが、ご迷惑でしょうし遠慮しますよ」

 

「迷惑だなんてとんでもない、それにまだ外は冷えますからね。響さんはずっと外に居たんでしょう?美味しい茶菓子もありますから、ね?」

 

 そう言って手を握る赤城に驚いて手を振り払ってしまう・・・目の前で手を抑える赤城を見て、また迷惑をかけてしまったと後悔した・・・

 

「手、すみません。そろそろ失礼しますね・・・」

 

「駄目ですっ!!・・・・・・こちらこそごめんなさい。急に手を握ったらビックリしますよね。・・・実はですね、今日の茶菓子は間宮さんが作ってくれた特製きんつばなんです、すっごく美味しいですよ!」

 

 早く早くと今度は先ほどより手を強く握られる・・・さっきの事が有り手を振りほどく気にもなれず、言われるがままに着いていくことになった。

 

 赤城は歩いている途中、色々話していた気がする。俺はこれからの事を考えていて内容は覚えていない・・・

 

「――――響さん、何か辛いことでもありましたか?」

 

 ・・・・・・ない。あるわけがない!!こうなったのも自分の行いでなったものであり、辛いなんて有るはずがない!!人に散々迷惑をかけておいて自分が辛い思いをしてる、なんて言う奴は間抜けで、馬鹿で、どうしようもない屑だ。

 

「無いよ、何も無い。だから気にしなくていいですよ」

 

「そうですか・・・あっ!あそこがそうです!お話をしてたら喉が渇いてしまいました。戻ったらすぐお茶の用意をするので、少し待っててくださいね?」

 

 そう言われて居間の方に招待される。居間に行くと赤城と色違いの袴を着たサイドポニーの女性が静かに座っていた、彼女は正規空母 加賀。

 

「その子が赤城さんが言ってた、高台にずっと一人でいた子なの?」

 

「あはは、気になって連れて来てしまいました。それでは響さん、ちょっと準備をしてきますね」

 

 そう言って赤城は奥へ行ってしまった・・・そうすると必然的に加賀と二人っきりなってしまった。加賀は何をいうわけでもなく、ただこちらをじっと見ている。こちらも目をそらす気にはならず同じようにじーっと見つめ返す。

 ・・・・・・・・・・・・何やってんだろ俺。バカバカしくなって見るのをやめてその場に座る。

 

「・・・・・・ふっ」

 

 今、鼻で笑われた様な気がする・・・再び目を向けると先ほどと変わらない表情をした加賀の姿が、加賀は未だにこちらを見ている。そしてまたお互いに見つめ合うことに、本当に何をやっているんだろう・・・・・・

 

「――――お待たせしました。あら、加賀さんはもう響さんと仲良くなったんですか?少し羨ましいですね」

 

「・・・・・・やりました」

 

 やってねえよ。なんで誇らしげなんだよ、さっきのは目をそらしたら負けとかじゃないぞ・・・そんな事を考えていたら赤城がお茶を渡してくれたので一口すする。・・・ほぅ。体は思ってたより冷えていたようでお茶を飲むと体の底から熱が灯っていくのがわかる。・・・視線を感じて顔を上げると、ニコニコとこちらを見ている赤城と、不満そうな顔でこちらを見ている加賀がいた。

 

「俺になにか?」

 

「・・・あなた、赤城さんがせっかくお茶を入れてくれたのに、お礼の一つもできないの?」

 

「あぁ、すみません。赤城さんご馳走様です」

 

「もうっ、加賀さんったら・・・でも良かったです。無理やり誘ったから、迷惑ならどうしようかと思ってましたから」

 

 

 

 

 お茶を飲み終わり、何とも言えない沈黙が続く・・・・・・もう戻るか、これ以上ここに居ても仕方ない。

 

「赤城さん、お茶美味しかったです、ごちそうさまでした。・・・加賀さんも、おじゃましました。そろそろ戻る事にしますね」

 

「響さん、また来てくださいね?この次も美味しいお茶菓子を用意しておきますから」

 

 ・・・アイツ(金剛)といいコイツ(赤城)といい『今度』?『また』? ナニイッテンダ?俺はもうすぐ鎮守府から居なくなるんだぞ?・・・そうか、コイツ知らないのか、めんどくせえな

 

「ははは、もう来ませんよ?何言ってるんですか、それでは失礼しますね」

 

「・・・待ちなさい。さっきから黙っていれば何ですか、その態度は・・・・・・何があったか知らないですが貴方を心配してくれた赤城さんに失礼と言うものです」

 

「・・・そうですね、だから言ったじゃないですか『失礼しますね』と。耳が悪いのなら入渠ドックをオススメしますよ加賀さん?」

 

 顔を真っ赤にした加賀が殴り掛かってくるが、寸でのところで赤城が抑えにはいる・・・・・・別に殴られても何とも思わないのに、これだけの態度を取られてよく俺を庇う気になれるな。

 

「加賀さんやめてくださいっ!!響さんは何か事情があったんです!!私は気にしてませんから!!」

 

「はぁ?事情?あるわけねえじゃん、しいて言うなら居場所がなかっただけだよ」

 

「赤城さん離して!アナタに居場所なんてあるわけがないっ!アナタなんかに!!」

 

「知ってる知ってる、居場所がないことくらい。あんたら正規空母と違ってね」

 

「ふざけるのもいい加減にしてっ!私達が此処にいるのは正規空母だからじゃない、努力をしたからよ!アナタなんかと一緒にしないで!何もしないで、ふてくされているアナタなんかと!!」

 

「っ・・・・・・そうだね、確かに何もしてないね」

 

 ・・・そう、何もしてない。誰かの為に何かした訳でもなければ、此処にいる為に努力をした訳でもない。自分は特別な存在だと当たり前に思って自分の好きなように振舞っていた、周りの迷惑も考えずに。そんな事をしてれば当然、周りの目は冷たくなる。まだこの鎮守府に庇ってくれる人がいるのが不思議なくらいだ。

 

 ・・・ホントはわかってた、金剛がどれだけ気を使ってくれたか・・・赤城がどれだけ心配してくれてたか・・・・・・暁達がどれだけ鎮守府に来たばかりで不安であろう自分と一緒にいてくれたか・・・それを俺は当たり前だと思っていたらこの様だ・・・此処に居れない、この言葉を聞いて自分は特別じゃなかったと実感したと同時にここにも居場所はなかったと思った。

 

 ここに来る――――憑依する前の名前を思い出せない頃の俺・・・学校は良かった様な気がする、友達とバカやって笑ってた・・・社会に出てからは思ったより上手くいかなくてやる気がなくなった、嫌な事があれば仕事を辞めて自分のしたい事をしてた・・・毎日が同じことの繰り返しで、非日常に来れたときは此処なら俺は主人公のように格好良く、知的で、誰からも好かれる自分になれるって思ってた。

 

 でも、もしかしたらあの時、辞めずに、逃げずに頑張って続けていたら少しは違ったのかもしれない、少しは主人公みたいに格好良く、知的で、誰からも好かれる自分に近づけたかもしれない・・・

 

 結果が気に入らなくて駄々を捏ねた自分、結果がダメで諦めてふてくされた自分、どちらが子供のようだっただろう・・・・・・決まってる、どっちもクソガキだ。頑張らなければ認めてもらえない、こんな事すら真正面から言われて初めて気がついた。もっと早くに気づけば結果は変わっただろうがもう遅いだろう。今、俺にできることは迷惑を掛けた人達に謝ることだけだ・・・・・・

 

「・・・あの、加賀さん。・・・目が覚めました、ごめんなさい!俺、自分の思いどうりに行かなくて八つ当たりしてました。赤城さんも心配かけてくれたのに失礼な態度をとってごめんなさい!」

 

 謝ったのは自己満足だ・・・二人には許されないような事をしたのだから。さっきまでの気持ちが嘘のようで、殴られるかもと思うと怖くて目を開ける事ができない。だけど、いくら待っても拳はどころか怒号も飛んでこない、なのでうっすら目を開けると目を見開いてこちらを見ている二人がいた。

 

「えと、俺を殴らないんですか?あれだけ失礼な態度をとったのに・・・」

 

「・・・赤城さん、落ち着いたから離してくれる?」

 

「あっ、はい。・・・あの響さん?私達は殴ったりなんかしないですよ。ねっ、加賀さん」

 

「・・・・・・ええ、そうね。私達は貴方を殴ったりしないわ」

 

「そうですか・・・、さっきは本当にすみませんでした。他の迷惑をかけてしまった人達にもあやまりに行くので今度こそ失礼しますね」

 

「貴方は謝罪をしたらどうするつもりなの?」

 

「・・・解体か移動らしいです。迷惑を掛けるだけ掛けて居なくなるなんて、みっともないですよね・・・・・・」

 

「努力はしないの?居なくなるまでにまだ時間があるでしょう?その間に皆に認めてもらえばいいじゃない」

 

 努力か・・・まだ間に合うかな?今から頑張れば此処にいれるかな?今までの人生でここまで嫌だと思ったことは初めてでどうすればいいか分からない、でも努力すれば此処に居れるのなら少し頑張れるかもしれない。

 

「・・・赤城さん加賀さん、まだ間に合いますか?努力すれば皆に認めてもらえますか?俺は此処に居場所ができますか?」

 

「そんな事を聞かれても困るわ。決めるのは私じゃなくて周りだもの。でも努力をするのなら応援はしてあげる」

 

「もう、加賀さんったらそんな事ばっか言って・・・響さんなら大丈夫ですよ、きっと皆に認めてもらえますから。だから――――

 

 

 

 

 ――――一緒に頑張りましょう?そんな言葉を聞いて涙がでた・・・俺は今まで誰にも応援なんてされたことも無ければ一緒に頑張るなんて言われたこともない。諦めと妥協ばかりだった人生に、初めて応援してくれる人が、一緒に頑張ってくれる人ができて嬉しかった。

 

 ・・・この時、俺に明確な目標が出来た。『頑張って皆と此処に居る』あまりに主人公に憧れる人が持つような目標ではないけれど、本当に頑張ろうと決めた事。もしかしたら頑張っても駄目かもしれない、でもそんな事は知ったことじゃない!俺は皆と一緒に居たくて頑張りたいだけなのだから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・だから、もし居れなくなったとしても、その時まで皆は仲間で居てくれますか?


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