オリ主と第六駆逐艦隊   作:神域の

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EX-8 ぷっぷくぷーに挨拶を

 ル級との一騎討ち。そんな命がいくつあっても足りないような事を終えて、これから二泊三日お世話になる(かもしれない)鎮守府に戻ってきた俺に待ち受けていたもの。

 それはーー、

 

「ーーあっ、天龍達が帰ってきたよ……!!」

「えっ、ほんとぉ!?どこどこっ?」

「ほら、あそこ」

「……ほんとだ。卯月も龍田ちゃんも皆いる……よかったぁ……!!」

「……うん……本当に良かった」

 

 ーーそれは尋問の続き……ではなく、赤髪の艦娘を助けに行く途中で出会った……二人の艦娘の安堵した姿だった。

 

「あっ!天龍ちゃん龍田ちゃん!!あそこ!!時雨ちゃんと文月ちゃんだぴょん!!おーい!!」

 

 そんな二人を見た赤髪の艦娘は、誰よりも早く駆け出した。

 赤髪の艦娘は元気だった。それは、先程までル級に痛ぶられ殺されかけていたとは思えない程に。

 

「はは……なんだかなぁ」

 

 俺はそんな姿を見て、赤髪の艦娘がトラウマを抱えていないかを心配していただけにすっかり拍子抜けしてしまった。

 まあ、見た目は幼くとも艦娘ということなのだろう。あれくらいで塞ぎ混んでいたら海になんて出られないか。

 ……後は、こっちの二人だよなぁ。

 

「卯月ちゃん、元気そうで良かったわねえ」

「元気過ぎるのもどうかと思うけどな」

 

 俺はチラリと、和やかに物を言っている二人の軽巡洋艦を見た。

 すると喋っていた二人もまた、俺に合わせるように俺に目を向けた。

 

「…………」

「…………」

「…………ハァ」

 

 さっきから……これだ。

 そう。俺は戻ってくる間……そして今もなお監視されていた。それも二人係りでだ。

 まぁ、監視事態は気に止められているくらいで大したことはないのだが、二人係りだとその程度の監視でも穴が無い。

 おかげで俺は気は休まらないし、これが二泊三日続くと思うと憂鬱でしょうがない。

 俺……此処でやっていける気がしないよ。……すっげえ帰りてえ。

 

「……ん?」

 

 俺がどうしたものかと悩んでいると、二人の駆逐艦のもとへ向かった赤髪の艦娘が此方に走って戻ってくるのが見えた。

 そして俺の目の前で立ち止まると、「来て!」とだけ言って俺の手を引っ張って、再び二人の駆逐艦の方へと走り出した。

 

「待って!オイチャン疲れてるの!少し休ませて!」

「いいからはやくはやく!!」

 

 赤髪の艦娘は、話を聞かずに俺を二人の駆逐艦の近くへ連れていくと、今度は背中を押して俺を二人の目の前へと立たせた。

 そんな俺を見た駆逐艦の一人が、「あっ」と声を漏らすと続けて、「えっと……キミは」とたどたどしく喋り掛けてくる。

 それに対して俺は、休めそうもないな……と苦笑いを浮かべ、片手を軽く上げ挨拶をした。

 

「……よう、さっきぶり」

 

 俺が二人にそう言うと、背中を押していた赤髪の艦娘が勢いよく俺の前に割って入った。

 

「時雨ちゃんと文月ちゃんに紹介するぴょん!!この人はうーちゃんを深海棲艦から助けてくれた人で、名前は……」

 

 赤髪の艦娘は、勢いよく『名前は』の所まで喋ると、そこから電池の切れたおもちゃの様に固まって喋らなくなった。

 

「卯月……?」

「卯月ぃ、どうしたのー?」

 

 そんな赤髪の艦娘を心配する、目の前の駆逐艦の二人。

 これには俺もどうすればいいのか分からず、苦笑いのまま成り行きを見ていると、赤髪の艦娘が今度は油の切れた機械の様にギギギ……と俺の方に振り返る。

 

「名前……わからないぴょんっ……」

「あはははっ!」

 

 俺は赤髪の艦娘の顔を見て、思わず笑った。

 だって、さっきまであんなに元気だったのが急にしおらしい表情に変わったのだから。

 言ってしまえばそれだけの事だったが、海上では殺伐とした空気に身を投げていただけに、それだけの事がとても面白く……そう感じた。

 そうして俺はひとりで笑っていると、俺の笑いにつられてか、前の駆逐艦二人も「ふふっ」と笑いはじめた。

 

「どうして皆笑ってるぴょんっ!!」

 

 その中でただひとり、赤髪の艦娘だけがなんで笑われているか分からないとプリプリと怒る。

 

「……はぁ、今度はどうしたんだよ」

 

 そうやって三人で笑っていると、一歩離れていた所で様子を見ていた天龍がため息を吐きながら近づいた。

 

「天龍ちゃん!!……みんな、皆うーちゃんのこと笑うんだぴょんっ!うーちゃん、何もしてないのに!!」

「だから俺に『ちゃん』は要らねえって。ったく……で?なんでお前は笑ってるんだ?」

「ははは。別に大したことじゃないんだけどーー」

 

 俺は天龍にそう言い置いて、少し屈んで赤髪の艦娘と同じ目線になって、赤髪の艦娘に謝った。

 

「ごめんね?でも悪気があった訳じゃないんだ。なんだろうな……ちょっと気が緩んだというか……」

「……ぶぅ」

 

 赤髪の艦娘は、頬を膨らませていた。明らかな怒ってますよアピールだった。

 俺はそんな赤髪の艦娘に対して、「ははは……」と困ったように笑う事しかできなかった。

 せめて、せめて此処に飴ちゃんがあればっ……!そうすれば小娘の機嫌の一つや二つ……簡単に取る事が出来ると言うのにっ……!?

 

 ……なんて、そんな事を思っていると、赤髪の艦娘が不機嫌そうに俺を見て言った。

 

「……ねえ、あなたはうーちゃんの名前、知ってる……?」

「えーと……」

 

 もちろん知ってる。

 俺はゲームをしてたし、それでなくても周りがこの子の名前を呼びまくっているのを聞きまくっている。そんな状況で、この子の名前を知らないなんてあるはずも無く。

 ……ただ、それを素直に「知ってるよ」と言っても良いものなのかと考えると、ちょっと……ね。

 だって、思い浮かべてほしい。

 いきなり目の前に現れた見ず知らずの人物が、自分の名前を知ってたら怖いだろ?

 だからこそ俺は、自己紹介を終えるまで、出来る限り相手の名前を呼ばないようにして変に警戒されない様に気をつけていたのだが……。

 だけど、ここまで名前を呼ばれてるのを聞いて、知らないっていうのも、見方によっては相手に興味が無いとも思われかねないし……うーん。

 

 俺は少し考えて、

 

「……たしか、『卯月』ちゃん……だよね?」

 

 と、自信なさげに言った。

 これなら妥協点だと思う。変に知ってると警戒されず、相手に興味が無いとも思われない。

 自分でも思うが、これは完璧な答え方が出来たのでは?と卯月の反応をうかがっていると、

 

「ずるいぴょん!!」

 

 卯月はさらに怒った。

 

「なんでぇ……?」

 

 予想外の反応に、俺も思わずたじろぐ。

 そんな最中で、卯月の怒りは更に増しているようで……、

 

「ずるいずるいずるいっ!!うーちゃんはあなたの名前知らないのに、あなたはうーちゃんの名前知ってるのはずるいぃーっ!!」

「……あぁ、そういうことね……」

 

 話しを聞いて、理解した。

 どうやら卯月は、自分は俺の名前を知らないのに、俺は卯月の名前を知ってるのが良くないらしい。

 最初はずるいって何よ?とは思ったが、それなら話は早いと俺は「ねえ卯月?」と卯月に呼び掛けて、

 

「ひびきだよ」

 

 続けて、そう自分の名前を言った。

 俺は喋ってから、改二になったからヴェールヌイの方が良かったか?なんて思ったが、ヴェールヌイは言いづらいし、響の方が呼ばれ慣れてるからと正すのを止めた。

 卯月は変わらずに頬を膨らませていて何も言ってはくれなかったが、俺はそんな卯月にもう一度、今度はしっかりと自己紹介をしようと口を開く。

 

「今言ったのが俺の名前。もういちど言うよ、俺の名前は響。後は……そうだな。暁型二番艦の響といえば、不死鳥の通り名があるけど、俺は最近一部の艦娘から何故か『白虎』って呼ばれてるよ。……まぁ、そのせいで多摩に会う度に「私のアイデンティティを奪おうとしてるニャ!?」なんて在らぬ誤解を受けているんだけど……」

 

 話の終わり際に、チラリと卯月を見た。

 

「……」

 

 卯月は俺の話を聞いても頬を膨らませたままだった。へーもふーんも無い。

 これには俺も焦った。だってね、自己紹介して反応が無いのはお互いが気まずくなるだろ?

 だから俺は、場を繋ごうと慌てて言葉を紡ぐ。

 

「えと……でね?……あれだ。できたら俺は、キミの名前を、キミからちゃんと教えて欲しいなーって思ってるんだけど……良いかな?」

「……」

「もちろんっ!嫌なら教えてくれなくてもいいんだよ?でも俺は、できたらキミと仲良くなりたいから、名前を教えてくれるとすっごく嬉しいんだけど……どうだろう?」

「……むー」

「駄目かな?」

「……ぶっぶくぶー」

【挿絵表示】

 

 

 俺が頑張って取り繕っても、卯月は膨れっぱなしだった。

 この幼女……手強いぞっ!?

 

 ……なんて、くだらない事を考えつつも、俺は卯月の様子を見て、何か反応を返してくれるまで待ってみてもいいかな?と考えを改めた。

 というのも、卯月はそれほど怒っていないと思うのだ。口は聞いてくれないが、目は合わせてくれているし、距離を取ったりとかの拒絶もないからだ。

 となったらだ……、これはもうあれだろ?

 好きな子に意地悪しちゃうとか、弄ると「やめてよー」とか言うのにいざ本当に止めると『……え?本当に止めちゃうの……?』とションボリしたりする(ブッキーがそう)子供特有のツンデレなんじゃなかろうか!?

 どうせ卯月も、俺と仲良くしたいのに一度怒ってしまった建前、直ぐに怒るのを止めたら変に思われると思って、怒るのを止められないんだろ!?

 ご察し。

 そんな卯月に俺が出来る事といえば、卯月が納得するまで笑顔でとことん付き合う事だ。

 まあ……何時で卯月が俺を許してくれるか分からないけど、俺には数時間に及ぶ暁のレディなるお説教を、正座で何度も耐え忍んだ実績がある!

 それに比べたらこんな小娘の癇癪に付き合う事くらい、大したこと無かろうなのだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 ……なんて、そんな事を思ってた時期もありました。

 簡単に言うと、それから直ぐの事。俺に後悔が襲った。

 卯月に目線を合わせたのがいけなかった。

 いくら改二になって疲労が幾らか無くなろうとも、昨晩からの不眠、激労続きの俺の身体には、今の空気椅子じみた体勢は拷問に等しいものだった。

 それでも、笑顔を絶やさずに卯月の目線で待つ俺は、自分でも流石だと思うが……それも限界が近い。

 もう、足がプルプル震えてるのが見なくてもよく分かる。このままでは遠くない内に俺の足は限界を迎えて、俺は崩れ落ちて格好悪い事になるだろう。

 

 だからね、卯月ちゃん?

 そろそろ意地を張るのは止めて、お兄ちゃんと仲良くしよう?お願いだからぁ!

 

(……ニコッ)

 

 俺は意を決した。笑顔に「もう良いでしょ?」と期待を込めて、改めて卯月に微笑みかけた。

 卯月はそんな俺を見ると、「むぅ」と気まずそうにそっぽを向いてしまう。

 

 俺はここにきて目を背けられると思いもしなかった。俺は思わず泣きたくなった。

 可愛い女の子に目を背けられるのは心にクるものがあった。

 

 ほんのついさっきまでは笑顔で俺の手を引いてくれたのに……、なんで……どうしてこうなってしまったんだ……!!

 

 俺は今にも崩れ落ちそうな(きっと疲れだけじゃない)膝を必死に持たせ、目を背けられた原因を考える。

 やはりあれか。いい年した大の男が、幼女に笑顔を向けるのが良くなかったのか。

 ……まぁ、普通に考えたら事案だもんな。俺でもそんな現場に居合わせたら「おまわりさーんっ!?」って思うもん。

 ……でもなぁ、今の俺は響ちゃんなんだけどなあ。

 鏡の前で笑顔を作った時は、我ながら可愛すぎて身悶えたんだけど、そんな素敵な笑顔のどこが悪かったんだ……?

 

「……ん?」

 

 ――とそんな風に考えて、ふと気づく。

 チラチラと。

 俺から目を背けたはずの卯月が、此方を挙動不審に見ている事に。

 

「……どうしたの?」

 

 そんな様子に、俺は卯月に声をかける。

 すると卯月は「ぴょんっ!?」と声を裏返して背を向けた。そして少し沈黙が続くと、今度は卯月は「あー」とか「うー」と、何やら身悶えはじめるではないか。

 そんな尋常ならざる様子の卯月に、俺は一体どうしたんだと一瞬悩み、「ああそうか」と理解する。

 

「お手洗いに行ってきても大丈夫だよ?」

「ちがうぴょんっ!!」

 

 ――違った!

 

「そうじゃなくってぇ!」

「そうじゃなくって?」

「……うぅ」

 

 言いよどむ卯月。

 その様子からして、言いたいことがあるのは明白だったが、それが言いづらいのか卯月はもじもじと、また先ほどと同じ様に俺の顔をチラチラと見てはうつむいてを繰り返す。

 そして意を決した様にスウッと息を吸うが、それでも卯月は最後まで踏ん切りが付かなかったらしく、最後に小さな声で、

 

「……うーちゃんの名前……おしえてほしい……?」

 

 と恥ずかしそうに、顔を赤らめて俺に言った。

 それを見て、卯月は本当に表情がよく変わると、俺はまた笑いそうになるが、ここで笑ったら二の舞になってしまうと笑うのを我慢して優しく返事を返す。

 

「うん。お願いできる?」

「……あのね?うーちゃんは……卯月って名前ぴょん」

「そっか。名前を教えてくれてありがと。……ねえ卯月、さっきはごめんね?……それと、」

「ぴょん?」

 

 俺は卯月の前に手を差し出す。その手を卯月は、よく分からないというように不思議そうに見つめる。

 だがそれも――、

 

「これからちょっとの間だけだけど、よろしくね?」

「……ぴょんっ!!」

 

 ――俺の言葉で、卯月は俺の手の意味を分かってくれて、笑顔で俺の手を握り返してくれた。

 

 これでようやく一件落着かな。

 ……まぁ、物の流れで此処の鎮守府にしばらく居るみたいな事を言ってしまったが、幼女の笑顔と比べればそんな物、些細な事だ。

 

「時雨ちゃん文月ちゃん!!この人は響ちゃんだぴょん!!」

 

 そして俺は、卯月が先ほどの紹介を再開しているのを見つつ、いい加減に辛い中腰体勢を止めようと、体に力を入れた……つもりだった。

 

「あれ……?」

 

 気持ちと裏腹に、カクリと膝が崩れた。

 緊張が切れて、既にギリギリだった身体に限界が訪れた。

 身体の自由が効かず、目の前に熱せられたアスファルトが迫る。

 そんな光景を見て、俺はこの後の結末が現実的に予想できた。

 

 それは何故か?

 やっぱり経験が物を言わせているのだろうか?

 ……だとしたら、俺は嬉しくねえ。

 

 俺は何とかして想像した結末から逃れようと躍起になるが、手も足も云う事を効いてくれないし、アスファルトは依然迫り来るばかりだ。

 

 あぁ、俺ってこんな事ばっかり。

 

 そんな事を思い、覚悟を決めて、目を瞑った時だった。

 

「なんだ、もうバテたのか?」

「ぐぇ」

 

 不意に後ろから声がして、俺は襟首を強く引っ張られて首が締まった。

 まあ、そのお陰でアスファルトにはぶつからずに済んだのだけど、これはちょっと……もっと他にやりようがあったんじゃないの?と、俺の襟首を掴んだ人物に声をあげる。

 

「で……でんりゅうざん……?」

「なんだよ」

「もっど、やざじくじで……」

「え?地面とキスがしたかったって?」

「ぞんなごといっでない……」

「ハイハイ、そんな事より早く立て」

 

 天龍は、俺の話を無視して襟首を更に引っ張って、倒れ掛かっている俺を無理やり立たせようとする。

 そんな俺の様子を、文月、時雨、卯月がじっと見て、

 

「なんか……猫みたい?」

「……虎というか猫だよね?」

「……猫だぴょん」

 

 好き勝手言った。

 俺はさっきから余裕のある素敵な大人を演じていたのに、早くもぶち壊れた瞬間だった。

 本当だったら、もうしばらくはチビッ子達が俺の事を「凄い!素敵!格好いい!」と持て囃してくれるはずだったのにっ!!

 

「……オワタ」

「なにがだよ。……ほら行くぞ」

 

 天龍は俺を立たせると、それ以上俺の事を気にせず「ほら、お前らも」と駆逐艦三人に鎮守府に戻るように言って先へ進んで行く。

 対応が冷たかった。

 信用されていないから、といえばそれまでなんだけど。

 

「……ハァ」

「響ちゃん、どうしたぴょん?」

 

 ため息を吐くと、皆と戻る途中だった卯月が近づいた。

 

「……ん、ああ。なんか喉が渇いたなーって」

「それなら鎮守府にコーラがあるぴょん!……ねえ龍田ちゃん?戻ったらコーラ飲んでいい?」

「えぇ、良いわよ」

「やった!そしたらこうしていられないぴょん!響ちゃん、早く戻ろ!」

「えぇ……うん?」

「あ、後ね卯月、戻ったら私の分も用意してくれる?」

「了解……ぴょん!!」

 

 ……まあ、いいや。

 とりあえずは休もう。休んでからどうしようか考えよう。

 じゃないと、本当に倒れかねないから。

 

 俺は再び卯月に手を引かれて、あのボロい鎮守府に連れていかれるのだった。


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