オリ主と第六駆逐艦隊   作:神域の

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7-4 俺の未来はそっちじゃない気がする

「……で、改二に成るのってどれくらいの時間が掛かるんですかね?」

「……私も詳しくは分からないが、大規模改装といっても駆逐艦の改装だからな。そこまで時間は掛からないんじゃないか?」

「なるほど」

 

 話を句切ると、俺と長門はコーヒーの入ったマグカップを手に取り、一口飲んではホゥと息を吐いた。

 

 俺は吹雪の改二化を待つために、工房に借りている一室で長門と一緒に簡易なベットに腰掛けてコーヒーを飲んでいた。

 部屋にコーヒーの良い香りが広がるゆったりとした空間。

 そんな中に居ると、寝てないせいもあってか瞼が重くなってきて、知らず知らずの内に目を閉じてしまう。

 今寝たらしばらく起きられそうにないと、俺は眠気に抗って目を開ける。すると長門もまた、目を閉じてこっくりこっくりと首を動かしていた。

 

 起こしに行った時、長門は凄く寝ぼけていた。

 もしかしたら昨日は忙しくて、長門はそんなに寝てないのかもしれない。

 もしそうだったら、吹雪の来る間だけでもそのままでいいかと一瞬思ったが、長門が寝たら俺も連れて寝そうだったので、申し訳ないが俺は長門に話しかける事にした。

 

「それにしても……こうやってのんびりしてると、知らない内に寝ちゃいそうですね」

「ん……そうだな。コーヒーを飲んだは良いがカフェインが効いている気がしないな」

「うーん……俺はブラックより甘い方が好きなんで甘くしたんですが、ちょっとミルクと砂糖を入れすぎましたかね……?」

「私はこのくらいがちょうど良いと思うぞ」

 

「それに苦いのは苦手なんだ」と付け足して、苦笑いをしながらコーヒーをもう一口飲む長門。

 その様子はやはり眠そうで、俺は長門の仕事はそんなに忙しいのかと少し興味を持った。

 

「長門さん、眠そうですね。昨日は何かあったりしました?」

「……昨日か。ちょっとな?だがこの話は……まあ今日中には全員に話すつもりだったから良いか」

 

 話している途中、長門から眠気が消えていくのが見て取れた。そして次に紡がれた長門の言葉が――――、

 

「実は明日、MO攻略作戦の第一段階として、我々はとある離島に向かう事が決まっている」

「はい?」

 

 話が急すぎて俺には最初、長門が何を言っているのか意味が分からなかった。

 だって離島だ。間違いなく水着回だ。ついでに言うと攻略作戦の第一段階とか謳っているからには、大規模な作戦というのはまず間違いは無い。

 そんな重要な事が決行前日に明かされるってどういう事なの!?

 

「あの……俺、何にも用意してないんですけど」

 

 主に水着とかカメラとか。

 長門はと言えば、俺が作戦の安否を心配していると思っているのか「大丈夫だ。今回の作戦は、海戦は主ではないからな。それに普段の皆なら問題無いと判断して決めた事だ」と笑って言った。

 そう言われると俺も何も言えない。作戦の心配じゃなくて水着の心配をしていたなんて、とてもじゃないけど言えない。

 まぁ、それでも長門が寝そうな理由が分かった訳で、

 

「じゃあ昨日は遅くまで明日の作戦の準備をしていた訳ですか。秘書艦もやっぱりというか、大変なんですねぇ」

「……ああ、それもそうなんだがそれだけじゃなくってだな?何と言うか――」

 

 俺が納得してウンウンと頷いていると、長門はまるで俺にまだ話があると言いたげに俺の方を見ていて……俺はなんだか物凄く嫌な予感がした。

 

「……えっと、あの、長門秘書艦?どうしてそんなに俺の事を見つめてらっしゃるのでしょうか……?」

「……いいか?響。ここからが本題なんだが、実は昨日の夜に他の鎮守府の提督から、今後の鎮守府同士の連繋を深める為に、こちら側から一人、連絡のあった鎮守府に泊まり掛けで見学に来ないかと提案があってだな?」

「……おっけーハラショー。長門さんも大変ですね、だからもう喋んなくて良いです。あーっ、それにしても明日は大事な作戦かー。よーし僕頑張るぞう!」

「……」

「そうだぁ。僕ハ部隊の皆と明日の事について色々話さないといけなーい。あー僕はなんて忙しいんだ」

「……それで、その見学に来て欲しい艦娘に、向こうの提督は響を指名してな……。提督が了承の返事を既に返してしまっているんだ」

 

 会話は終わったはずなのに長門は何故か話を続けていて、その言葉が俺の耳に聞こえてきた途端、俺はあまりのショックに座っていたベットから崩れ落ちた。

 

「……なんかさ、俺ばっかり何時もハブられている気がするぅ……」

「……私も今回の作戦は、離島に居るある艦娘との顔合わせの意味もあったから、主戦力である響は居た方が良いと提督に進言したのだが、提督は返事は返してしまったの一点張りでな……。私ではどうすることも出来なかった……」

「……あの、寝てない一番の理由って」

「……考えていた作戦から突然響が抜けたからな。離島に向かう際の各編成を改めて考えていた」

 

 もう、言葉が出なかった。俺が離島に行けないのは確定だ。

 何時だって人生なんて思い通りに行かない事ばかり。そんな事は俺だって知っているんだ。

 ただそれでも――――、

 

「ぐうぅぅっ……チクチョウッ……」

「なあ響?見学に行きたくないのは何となく理解出来るんだが、何でそこまで悔しがるんだ?」

「……何で?何でとおっしゃいましたか長門さん。……そんなの、そんなの決まってるじゃないですか!?俺は知ってるんですよ!!向こうに行ったら皆で楽しく海水浴するんでしょう!?水着を着て!!水着を着てぇっ!!」

 

 心からの叫びだった!

 俺は皆の水着姿が見たかった!

 だってあの布の面積は下着同然……、いや、もしかすると下着よりも少ないかもしれない。

 そんな姿の美女美少女が恥ずかしがる訳もなく、元気いっぱいにはしゃぐんだろう?

 見たいよ!ポロリだって期待してたのにぃっ!

 

 もう俺は泣きそうだった。

 どうせなら見学なんて無視して、俺も離島に向かってやろうとまで思った。

 ……ただ、俺の叫びを聞いた長門は更に真面目な口調になって、

 

「何を勘違いしているのかは知らんが、海水浴なんて無いぞ」

「えっ?無いの?」

 

 俺は思わず顔を上げると、長門は少し怒っているようだった。

 

「……いいか響。どうも分かっていないようだから言うが、今回離島に行くのは遊びにではない。今後のMO攻略の為の中継基地の視察だ。……あまりこういう事は言いたくないが、響は時折、鎮守府に来たばかりの時みたいに物事が見えていない時があるな。少し気をつけた方がいい」

「……はい。以後気をつけます……」

 

 長門に痛い所を突かれて、俺は今度こそ何も言えなくなった。

 ……それにしても、離島で海水浴をしないと聞いたのは意外だった。

 長門の様子からは嘘をついていないのは見て取れるし、もしかすると水着回というのはアニメのサービスシーンであり、現実ではそんな事は起こらないのかもしれない。

 まぁ海水浴があったところで、言われたのが昨日の今日では水着も用意できないだろうけど。

 

 話難くなったかわりに、俺はコップに残ったコーヒーを飲み干した。すると、その直後に勢いよく開かれた扉。

 扉の先には、ニマニマした吹雪が居た。

 

「……なんだブッキーか。駄目だろノックくらいしないと」

「見て響ちゃん!」

 

 俺が吹雪に注意をすると、吹雪は趣旨を得ない返事を返し、両手を広げてクルクルと回り出した。

 そんな吹雪の突然の珍動に、俺は怒られたのも忘れ、長門に小声で「何あれ……?」と聞いた。

 

「わからん……吹雪は何をやっているんだ?」

 

 長門もまた、小声で俺に聞き返した。

 どうやら長門も吹雪の珍動に困惑しているらしく――、ここで俺はふと、そういえば吹雪の改二を待っていた事を思い出した。

 正直俺は、水着が見れない事や見学の話や長門に怒られた事で吹雪の事をすっかり忘れていた。

 吹雪が来たって事は改二化が終わったって事なのだろう。

 良く見れば吹雪の服装は変わっているし、そんな吹雪の表情は何時にも増してニマニマしている。

 察するに、吹雪は改二の服装を褒めて欲しいと言ったところか。

 

 俺は頬杖をついて、鼻でフッと笑う。

 

「今日は怒ったりしょげたり、笑ったり泣いたり回ったりで、ブッキーは忙しい奴だな」

「響ちゃんのせいだよっ!!」

 

 俺が指摘すると、吹雪は回るのを止めて俺に向けて何度言われて来たか分からないお決まりのセリフを吐いた。

 人のせいにするのはどうなのかと、俺は長門に目を向けると、長門もまた「ふふっ、確かに響のせいかもな」と笑って言った。

 それが俺には誠に解せぬ。

 ……だが二対一だ。方や艦娘のトップだ。勝てる訳が無かった。というより、さっき俺は怒られたばかりなので下手な事も言いづらかった。

 もはや俺に出来る事は降伏だけ。

 勝てない戦いでは勝敗うんぬんよりも、如何に傷を負わないかが重要になってくるのだ。

 それに俺は大人で吹雪は子供。

 大人は子供のわがままを受け入れてあげるものだ。

 

 俺は吹雪にニコリと微笑んでみせた。あの言葉には照れ隠しが入っていると俺には理解できたから。

 吹雪はそんな俺の顔を見ると、一目散に長門の後ろに隠れた。

 

「長門秘書艦っ!?響ちゃんが良からぬ事を考えてますっ!!」

 

 俺は立ち上がって拳を握った。

 吹雪はどうやら俺にたいして偏見を持っているらしい。

 子供のわがままを聞くのは大人の役目ではあるのだが、子供を叱るのもまた大人の役目なのだ。

 俺は大人として、吹雪の偏見を正さなくてはならない!

 

「……長門さん。ちょっと後ろのブッキーを借ります」

「まあ待て、落ち着け響。その、なんだ……笑顔が怖いぞ?」

「ハハハ……まさかそんなそんな。なあブッキー?」

 

 長門に言われ、俺はもう一人の意見を聞こうと吹雪の方に目を向けた。もちろん、威圧を与えない様に最上の笑顔を浮かべて。

 吹雪はガンガンに首を横に振った。顔が引きつっていた。

 それは長門の言っている事の否定って事で良いんだよな?

 

「ほら長門さん、吹雪を見て下さい。ブッキーは言ってます。怖くないって」

「……響、よく見ろ。これはどう見ても怯えているだろう。それに響が笑みをより一層深めた途端、吹雪が私の服にしがみ付いてきて離さなくなったんだが」

「んー。って言っても怖くないでしょう、俺の笑顔なんて。エンジェルですよエンジェル。麗しの響ちゃんスマイルですよ?こんな超絶美少女の笑顔なんて、ご褒美でしか有り得なくないですか?」

「自分でそこまで言うのか……。まぁでも、確かに笑顔が怖い訳では無いな」

「でしょう?」

「ただな……笑顔の裏に何か有りそうだと感じる。その裏で考えている事を、非常に恐ろしく思う」

 

 長門の言葉に、吹雪は今度、首を縦にガンガン振った。

 おそらく長門の言葉に同意だと示したいのだろうけど、俺にはヘドバンにしか見えない。

 ……いや待てよ。……そうだよ。

 吹雪は離島で貝の歌を歌うんだよ!!それにこの動きと新しい服装……。

 

 コイツもしかして、本格的にシンガーソングライターとして世界進出を目指しているのかっ!?

 

 まあ、気持ちは分からなくもない。

 授業で習った深海棲艦と艦娘の戦い歴史。それは果ての無い荒野をさまよう様なものだ。

 聞いていた時、俺はこんな方法で本当に平和が来るのかと疑問を持ったりもした。そして吹雪も同じ事を思っていたのだ。

 だから吹雪は、平和を得る為に違う方法を模索したのだろう。力の解決ではない、もっと別の方法を。

 たどり着いた先は、歌だった。

 体ではなく心で。

 吹雪は言語も飛び越えた先に平和を見たのだ。

 

 ……流石は改二。着眼点が違う。

 俺は完全敗北した。

 誰かの敷いたレールの上を歩く俺と違って、吹雪は自分で道を切り開いたのだから。

 俺は身近な人の成長、そして新たな目標に向かう吹雪に、何か手助けを出来ればと思った。

 そうだな、俺に出来る事と言ったら――――、

 

「……吹雪、俺はギターとバンドが出来るぜ」

「なんの話!?」

「とぼけるなよブッキー。俺はお前の心の中にある熱い(モノ)を知ってるんだぜ?」

「私は響ちゃんの事が全然分からないよ!!」

「でも俺は分かってる。平和を歌うんだろ?ブッキー」

「なんでそうなるの!?」

「そういえばブッキー、改二おめでとう。その服似合ってるぞ」

「響ちゃんとの会話が成り立たないよう!!」

「ハッハッハッ」

 

 吹雪は改二になっても相変わらず良い反応を返してくれた。これだから吹雪を弄るのは止められねえ。

 まぁ、とりあえずは満足したので、俺は吹雪を弄るのを止めて、二人に「飯でも行きませんか?」と誘った。

 

「「…………」」

 

 二人は俺の言葉に反応する訳でもなく、お互いの顔を見合って動かなくなった。

 そして間が空いた後、恐る恐るというように長門が口を開いた。

 

「……なあ吹雪。響は何時もあんな感じなのか?」

「……はい。何時もあんな感じです」

「そうか。……吹雪も大変だな」

「はい。毎日大変なんです」

「そうか」

 

 長門は吹雪の話を聞いて考え込むように頷くと、しばらくして頭を抱え始めた。

 

「そうかぁ」

 

 長門のその重々しい一言には、色々詰まっているように聞こえた。

 まあ話の流れから、長門が何を思っているのかは想像がつくのだが、それが釈然としない俺は長門に話しかけた。

 

「長門さん、言っときますけど吹雪より俺の方が大変なんですよ?」

「……そうか」

「そうですよ!今日だって寝てないですしおすし」

「うーん……、それより響、見学の件は大丈夫だよな?向こうに行って何か、変な事を仕出かしたりしないよな!?」

「……あっはっはっ。なんだそんな事かー。大丈夫ですよ長門さん……多分」

「なあ響、その間はなんだ?なんで目を反らしたんだ……?多分ってどういう意味だ?」

 

 言える訳が無かった。

 最初だけ顔を出して、後はバックレてゲーセンや漫喫で帰る日まで時間を潰せばいいやなんて思ってたなんて。

 長門は、そんな俺の不真面目な考えを何となく察したのだろう。

 長門の表情がマジか!?と言いたげに変わると、直ぐ後に再び頭を抱え出して深刻そうにため息を吐いた。

 

「……不安だ。この後に響を送り出して良いのか果てしなく不安だ」

「大丈夫っすよ!!それに終わり良ければ全て良しって言うじゃないですか!!俺は必ず元気に帰ってきますよっ!!」

「……それでは肝心な所が分からないんだが」

 

 俺は何とか長門の疑念を晴らそうと、必死に詭弁を語ったが、長門は聞く耳持たずで頭を抱えたままだった。

 そして次第に俺も言う事が無くなった頃、これまで置いてきぼりだった吹雪がおずおずと口をはさんできた。

 

「……あの、響ちゃんって……これから何処かに行くんですか?」

 

 

「まあな。ブッキーがいない間に他の鎮守府に見学に行く事を聞いてな」

「そうだ。響には本日の午後には他の鎮守府に向かってもらう事になっている」

 

 長門と俺の返事がハモる。

 そのせいかな?

 今、長門の口からとんでもない一言が聞こえてきたような気がした。

 まあ、気のせいだろうから俺はまったく気にしないし、聞き返したりしないんだけどね!!

 

「ええっ!?今日の午後からって、響ちゃんを見学に行かせて大丈夫なんですか長門秘書艦!?」

 

 ……だというのに、わざわざ大げさに、俺に失礼に聞き返す吹雪。

 そのせいで長門も、「ああ、今日だ」なんて念を推す始末。

 今度は俺が頭を抱える事になったのは言うまでもない。

 

「……あの、長門さん。見学が今日の話って今聞いたんですけど、マジですか……?」

 

 嘘であってくれと願う。

 どっちにしろ行くのなら、今日だろうが明日だろうが良いじゃないかと思うかもしれないが、そうじゃない。

 心構えが違うのだ。

 心構えが出来ていれば、行きたくないけど行こうという気持ちになれるが、心構えが出来ていないと、行きたくない気持ちから先に進めないのだ。

 

 わかった。

 離島は諦めて見学するから。

 だからせめて一日、俺に心構えを作る時間をおくれ。

 それはもう、最低限の願いだ。というより普通なら、物事には期間を設けるものだろう?

 

 藁にもすがる思いだったかもしれない。けれど長門は――――、

 

「ん?響に日時の事を話してなかったか。すまない。どうやら寝ぼけていて言うのを忘れていたようだ。向かってもらうのは今日の午後からで、二泊三日。よろしく頼むぞ」

 

 あまりにもあっけらかんと、違ってくれと思っていた事を言ってみせた。

 もう、どうしようもない。

 俺の運命は決まっていたのだ。

 寝不足のまま見知らぬ鎮守府に一人で行き、猫かぶって良い子を演じる苦痛の運命。しかも一泊じゃなく二泊。

 

「……はい」

 

 俺はそんな運命を諦めて受け入れた。

 何て言うか、こういう事が身に結構な頻度で起こるので慣れてしまったというか。

 まあ、本音はごねたい所だが、それが原因でまた長門に怒られるのは嫌だ。今回は吹雪も見てるし。

 

 ハァと、俺は今日で何度目かも分からないため息を吐いた。

 とりあえず見学うんぬんはさて置いて、先ほど俺に失言をかました吹雪には、絶対に仕返しすることに決めた。といっても今は長門の後ろに居るし、この後に俺は見学に向かう事になっているから……、

 

 

 この場では見逃してやるが、俺が戻ったら覚悟しろよ吹雪ィ!!


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