オリ主と第六駆逐艦隊   作:神域の

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7ー3 ご機嫌な朝

「ながながながもん、もんもんもーん。ひっさつパンチで、ゆりおこすー」

 

 着替え終わって気分高々な俺は、即興で作った歌を口ずさみながら長門の部屋に向かっていた。

 理由?……そんなものは単純だ。

 今まで濃き使われた積年の恨みを、早朝の奇襲で晴らすのだ!!

 そして鎮守府トップの座を奪い取り、行く行くは各地の鎮守府を掌握、俺は天下統一を果たす。

 男に生まれたからには、どんなに無謀でも頂点を目指さねばならねえ。

 それはどこの世界でも共通だ。

 とあるアニメでは、十歳の少年が約二十年もの間、各地を旅をしてチャンピョンを目指している。

 三十過ぎたら職に就けよと流石に思うが、なんとそのアニメの主人公、幾年の時を経た今でも十歳で気ままに夢を目指しているらしい。

 なんて羨ましい。

 俺なんて義務教育に始まり、試験、就活、仕事仕事。

 働きたくなんてなかったが、働いて金を稼がないと国民の義務である税金が払えない。払えないと税金は借金として残るので、どう考えたって働く以外の道が無い。

 そしてどう見たって成人していない幼女になった今も、平和の為にお仕事お仕事……。

 

「うわあああああっ!!」

 

 なんでだ!!

 労働基準局は何をやっているんだ!!

 なんで俺はこんなにも働き詰めなんだっ!?

 どうして俺はモテないんだっ!?

 いや、理由なんて分かってるんだ!!

 俺にしわ寄せがきている分、どこかが良い思いをしているに違いないんだ!!

 そう、それは提督とかなぁっ!!

 ……チクショウ、あの野郎、自分が戦えないからって何でもかんでも艦娘に押し付けやがって……。

 それでいて提督は、安全なお部屋でプチプチを潰しながら、色んな艦娘から報告が来るのをボケーとしながら待っているに決まっているんだ……。

 ……提督、許せねえッ……!!

 

 やはり、こんな制度を作った鎮守府……及び国は間違っている。

 改革が……いや、革命が必要だった。

 今こそ立ち上がって、上の奴らにも俺達が味わっている苦労を少しでも教えてやるんだ。

 そうだ……、猿ぐつわを噛ませて、ふん縛って、小舟に乗せて放流しよう。

 きっと命令する事しか出来ない連中も、深海棲艦のデコイくらいには成れるだろう。

 

「フフ……フフフフ」

 

 その為にはまず、偉大な一歩を踏み出さねば成るまい。

 さよなら、長門。

 俺の創る、新しい時代の石末となってくれ。

 

 俺は拳を握った。

 既に俺は長門の部屋の前に着ていた。後は握った拳を思うがままに振るうだけだ。

 ……さあっ、クタバレェェエエ!!

 

 

 コンコンと、控えめに扉を叩く音が静かな廊下に響く。

 

「あのー、長門秘書艦?朝早くにすみません、早急にお伝えしたい事とお願いしたい事があるのですが――」

 

 俺は申し訳なさそうに、見えない長門に喋りかけた。

 俺には不躾な真似は出来なかった。

 だって恨みとか無いし。

 むしろ散々に気に掛けてもらっているし、正直な所、こんな朝早くに押し掛けてきてしまった事に、今も本当に申し訳ない気持ちで胸がいっぱいなのだ。

 更に言うと、自分がやられて嫌な事は、人にやってはいけない。(ただし、仕返しは可)

 仮に、仮にもし俺が寝ているところを誰かがヘラヘラしながら叩き起こしに来たら……、俺はぶちギレる。

 きっと俺は、その誰かをボコボコにして一生笑えなくして寝たきりにさせる。

 それだけ睡眠を邪魔する罪は重い。

 

 扉を叩いてからしばらくしても、特に何かと言った反応は無かった。

 まだ長門は寝ている様だ。

 まぁ、着替える為に部屋に戻った時の時刻が五時くらいだったので無理もないのかもしれないが。

 

「たのもー。秘書かーん、お頼み申し上げまするー」

 

 テイク2。

 俺は少し緩く喋り、再びコンコンと扉を叩いた。

 そして終わると、静寂が訪れる。

 反応は……無い。

 

「ふむ……」

 

 なんだろう……、やはりテンション上げて起こしにかからないと、人というのは起きないのかもしれない。

 俺は最悪、砲撃ぶっぱも視野にいれて、再三に渡って扉を叩く。

 

 今度は三、三、七拍子。そして、おまけと言わんばかりに――――、

 

「……長門秘書かーん。……朝早くにすみませーん。……実はお願いがあって、……あれぇ?声が遅れて聞こえてくるよぉ?」

 

 やっている途中、俺はこれって見えてないと何やってるか分かんないんじゃね?と気が付いたが、それでも勢いにのって腹話術をやりきった。

 だが、扉の向こうからの反応は全く無い。

 ならばもう一度と、俺は三、三、七拍子――――あっ。

 

「……ん。……響か、どうした……?」

 

 ノックしている途中に扉が不意に開き、中から如何にも寝起きといった長門が現れた。

 髪はボサボサ。目をショボショボさせて、服装は何時もの露出狂の様な格好ではなく、デフォルメされた猫の顔がいっぱい付いているピンクのパジャマ。

 俺はそんな長門に、頭に角が無いと誰か分からんなと思いながら、背筋をピンと伸ばしビシィッと敬礼をした。

 

「おはようございます、長門秘書艦。こんな明け方早くに訪ねてしまい申し訳ありません。実は早急にお伝えしたい事とお願いしたい事があってやって参りました」

「……うん」

「……えーっと」

 

 ……長門には何時ものような覇気は無かった。

 早すぎたんだ、来るのがよォ。

 だって、うんって……目も瞑りかけているし。

 俺はこんな長門に喋り初めて良いのかと少し悩んだ後、言わなければ起こした意味が無いと、眠そうな長門を見ながら話を始めた。

 

「……あの、実はですね?ブッキー……もとい吹雪の体が、今朝がた光り初めまして、それで自分は改二の予兆だと思って長門秘書艦に報告と確認のお願いに来たのですが……」

「……」

「………」

「……」

「ながもん?」

「うん……ちょっと待って、……着替えてくる」

 

 話を聞いていたらしい長門は、俺に一言伝えると扉を閉めた。

 その後に扉の奥から聞こえた、ゴスッという音と「っつう……!?」という声。

 俺はそれを聞いて、なんだか地味に痛そうだなと思いながら長門が出てくるのを待っていた。

 

「うわあああっ!?」

 

 すると今度は、扉の奥から長門の絶叫が聞こえてきた。

 その後にはドッタンバッタンと大騒ぎする音が。

 そこから察するに、ただ事じゃない出来事が扉の奥で起こっているのは間違いなかった。

 何せ長門は、鎮守府でトップを張っている艦娘なのだ。

 そんな長門が取り乱す事態など、考えられる限りではあまりにも少ない。

 

 そう……、例えば……素足でゴキブリを踏み潰してしまうレベルではないと……。

 

 俺は想像しただけで体が震え上がった。

 全身から嫌な汗がにじみ出る。

 とてもじゃないが、さっき長門が着替えると言ってたから、「大丈夫か!?」何て言いつつどさくさに紛れて着替えを覗こうなんて思えなかった。

 

 ああでも待て。

 主人公にラッキースケベは付き物だろ。

 きっと今入れば、中には着替えている途中の下着姿の長門が居るんじゃあないか?

 そんな美味しい状況を逃すのは俺としてはどうなんだ?

 

 いいや!決してやましい気持ちでは無いんだ!!……まぁ見たいかどうかと言われれば、とってもとっても見たいのだけどっ!?

 ……話を戻すと、長門に限らず艦娘の下着、もとい裸なんて、俺が見ようと思えばいくらでも見れるのだ。例えば偶然を装って一緒に風呂に入るとか。

 ただ、そうじゃないんだ。

 偶発的なヒロインの着替えを覗く行為ってのは、物語の主人公ならほとんどが通る王道であり、俺もなんだかんだで一端のオリ主……。

 

 行くっきゃねえだろ!?俺はオリ主なんだからよぉ!!

 

「長門っ!?大丈ッ――――!?」

 

 俺は絶好のチャンスを逃さんと、目の前のドアノブに急いで手を伸ばした。

 そのタイミングで、なんと同じようにゆっくり開きだす扉。

 

「イダアッ!?」

 

 俺はドアノブを掴み損ねて盛大に突き指した。

 あまりの痛みに手を押さえてしゃがみ込むと、開いた扉の隙間から長門がひょっこりと顔を出した。

 

「その……響、さっきの事なんだが……ってどうした?」

 

 心配そうに俺の様子を聞く長門に、俺は無事な手を使って、問題無いとジェスチャーした。

 本当は所は問題ではあるのだけど、馬鹿正直に「着替えを覗こうと思って、ドアを開けようとしたら突き指しましたあ」なんて言える訳が無かった。

 それから指の痛みが抜けるまでほんの少しの間、お互いが無言で動かないという状況が続いた。

 ……片や床に跪いて、方や扉の隙間から顔を出したまま。

 

 うん。

 俺達は朝っぱらから何をやっているんだろう。

 突き指の痛みの抜けた俺は、手を握り開きをして指の感覚を戻しながら、顔を上げて長門の方を見た。

 

「長門さん、さっき言いかけた事って何なんです?」

「ああ、うん……その……」

 

 俺が話の続きを促すと、長門ははぐらかす様に俺から目線を逸らした。

 それからまたほんの少し、場が沈黙に支配された後、長門が再び……扉に隠れながらだが俺の方に向き直った。

 

「――――見たか……?」

 

 たった一言。

 普通ならそれだけじゃ何が何だか分からない。だが俺には、長門が何が言いたいか良く分かった。

 

「まあ……見えますよね」

「……そうか」

 

 問いに対しての俺の答えを聞いた長門は、見るからに落ち込んで扉の奥へと消えていった。

 返答をミスったか……?

 だからと言って俺が嘘を言ったとしても、長門は俺が気をつかった事に直ぐ気付くだろう。

 

「……なんか、色々と面倒だよなぁ……鎮守府ってのは。規律とか成果とか体裁とか」

 

 そこまで考えて俺は、「そういうのは何処も変わらないな」と現実の厳しさに嫌気が差した。

 ……ただ楽しく暮らして、笑って、泣いて……、それだけで暮していくのはやはり無理なのだろうか……?

 

 

 それからしばらくすると、いつもの格好をした長門が部屋から出てきて、俺は長門と一緒に、吹雪と待ち合わせした場所に向かい始めた。

 

「――で、吹雪とは何処で待ち合わせをしているんだ?」

「工房っす。ブッキ……吹雪が改二になるのなら、そこの方が都合が良いかなーと」

「そうか」

 

 部屋から出てきた長門は、普段通りの長門だった。……表面上は。

 内心は、分かる訳がない。俺はエスパーではないのだ。

 ただ……それでも、長門はさっきの事を気にしているなーくらいは分かる。

 分かった所で俺にどうにか出来る話でもないのだが。

 

 そんなこんなで歩き始めて数分も経たない内に、お互いが何を喋れば良いのか分からなくなって、静かな道を二人で黙って歩く事になった。

 ……空気が非常に重い。

 誰か助けてくれっ!!

 

「その、響……」

 

 無言の重圧に耐えかねて俺が心中叫んでいると、長門がぽつりと俺に話かけてきた。

 

「どうしたんです?」

「いや、何でもない。……何でもないんだが……その」

「……」

 

 普段の堂々とした姿とは違う、歯切れの悪い長門。

 そんな姿を見て、俺は言いづらいが言いたいことがあるのだろうと次の言葉を黙って待った。

 

「……出来ればなんだが、さっきの事は黙っててくれないか……?」

 

 その後に長門が深呼吸をして、意を決した表情を見せて言った事は他愛ない事だった。

 どうやら長門は、さっきの出来事を俺が誰かに話すのでは?と心配していたようで――――、

 

「言わねえよ」

 

 俺は元より、誰かに話す気など無かった。

 そう思っているせいで、思わず返しがぶっきらぼうになってしまったが、長門はそれに気にすることなく「ありがとう」と言った。

 

 なんだかなぁ。

 もし俺が長門なら、眠そうな所を隠す事も、自分の趣味を隠す事も無いだろう。

 だってソレは誰にだって有る事で、誰に知られても変だなんて思われない事なのだから。

 でも、長門は違う様だった。

 長門は秘書艦として、鎮守府トップの艦娘として、常に皆の抱いている理想であろうとしている。

 ……考えただけで息が詰まりそうだ。

 もし俺が同じ立場なら、二日と言わず初日に逃げ出しているな。

 そう考えると長門は凄い。何せ朝早くの呼び出しにも、文句一つ言わないのだから。

 

 

 

 

 そうして歩き続けて道を一つ曲がると、待ち合わせ場所である工房がやっとというか見えてきた。

 ……普段の道のりより長く感じたのは、きっとさっきまでの微妙な空気のせいなんだろうなと思いつつ、俺は黙って歩いていると、

 

「――あっ!響ちゃーん!!」

 

 工房の方から吹雪の声が聞こえてきた。

 吹雪はもう着いたのかと工房の方をよく見ると、工房の入り口手前で光っている吹雪は元気よく手を振っていて――かと思えば、吹雪は急にビタッと固まって直立不動になった後、ぎこちない動きで俺の方に敬礼をしてみせた。

 

 なにやってんだ……吹雪の奴は。

 十中八九、あの敬礼は俺じゃなく、俺の後ろを付いてきている長門に向けてなのだろうが、如何せん吹雪の敬礼が変なせいで、後ろからは長門が笑いを堪えている声が聞こえる。

 俺はそんな吹雪の所まで近づき、吹雪に話しかけた。

 

「うむ。やっとブッキーも俺の偉さに気づいた様だな。結構結構。今後もその残照な態度を心掛けろよ」

「あっ、あのっ……!長門秘書艦、おはようございますっ!!」

「ああ、おはよう吹雪。こんな朝早くにご苦労様」

「いえっ!とんでもございません!」

 

「……」

 

 吹雪は俺を無視して長門に挨拶をした。

 ……まあ、それはいいんだ。

 うん。今はな。

 ただ、俺を無視した光る吹雪の格好には、いくつか気になるところがあって……。

 なんというか、俺を無視した光る吹雪の髪は、いつもの様に後ろの髪を束ねていなかった。更にはその髪事態もなんだが濡れている状態。

 俺は確かに先に待っているとは言ったが、だからといって髪が乾いていないまま来るなんて俺を無視した光る濡れ髪の吹雪はどんだけ急いで来たんだと思わずにはいられなかった。

 そしてもう一つ。

 

「ブッキー、敬礼、逆になってるぞ」

「あっ!?」

 

 俺が間違いを指摘すると、俺を無視した敬礼も出来ない光る濡れ髪の吹雪は顔を赤くして慌てて敬礼を正すが……もう遅い。

 さっきまでの間違った敬礼は、長門にバッチリ見られているし、さらに長門は慌てて敬礼を正す俺を無視した敬礼も出来ない光る濡れ髪で顔を赤くした吹雪を見て、近づく間に治まった笑いが再発した。

 

「ふっ……ふふっ……」

「……あぅぅ」

 

 笑う長門を見て、更に顔を赤くする俺を無視した敬……もういいや、吹雪。

 とりあえず俺は、

 

「長いッ」

「痛い!長いって何!?なんで響ちゃん頭を叩いたの!?」

「さてね。自分の行いに聞いてみな」

「……長門秘書艦、響ちゃんいっつもこうなんです。どうにかしてください……」

「ふふっ……ちょっとすまない。その……ふふふっ」

 

 今の気持ちを吹雪にぶつけた後、笑っている長門としょぼくれる吹雪を措いて、一度工房に入って一室からタオルを持って素早く戻ってきた。

 そしてそのタオルを俺は、緩やかに吹雪の顔に投げつける。

 

「ふぎゃっ!?」

「……フン。俺への無礼は、さっきのとそれで取りあえず許してやる。分かったらそのタオルで髪でも拭くんだなブッキー。風邪をひいても俺は知らんぞ」

「……響ちゃんって、よく分からないよね」

 

 文句を言いつつも、素直にタオルを使う吹雪。

 

「よく言われる。俺もそう思う」

「……自分の事なのに」

 

 そんな俺達のやりとりを見て、長門は「吹雪はまだ鎮守府に来てから日が浅いから、ここでの生活はまだ大変だろうと心配していたが、仲の良い友達がたくさんできている様で安心したよ」とまた笑った。

 吹雪はというと、長門の言葉を聞いた後、苦笑いをしながら俺の方を何か言いたそうに見てきたが、俺は吹雪の視線をスルーしてそろそろ本題に入ろうと長門に話を切り出した。

 

「――で、秘書艦。吹雪の状態ってのはどんな感じなんですかね?」

「……ああ、そういえばその為に来たんだったな」

 

 ここに来た理由を思い出した長門は、なおも笑顔のまま言葉を続けた。

 

「とりあえずこれだけは言わせてくれ。……おめでとう吹雪。その輝きは大規模改装が可能になった証。言い換えれば、多大な努力が形になったものだ。本当に……そこまで良く頑張ったな」

 

 長門が吹雪に言ったことは、これ以上にない称賛だった。

 その言葉を聞いた吹雪は、髪を拭いていた手を止め、頭にタオルを乗せたままポカンと呆けた顔をした。そしてゆっくりと、ダラリと吹雪の手が下がる。

 

「……あの、長門秘書艦?……私は、その――」

「……」

 

 長門は何も言わず微笑みながら、吹雪の頭を撫でる。

 そんな吹雪の目には、いつの間にか涙が溜まっていて……ある時にポロリとこぼれ落ちた。

 

「――あれ?私、なんで泣いてるんだろ?」

「ああ。吹雪は良く頑張った。それは皆も知っている。……吹雪は我が鎮守府の誇りだ」

「っ……!?」

 

 そして長門の最後の一言で、吹雪の顔はぐしゃぐしゃになって……わんわんと泣き出した。

 

 

 

 

 そんな二人を、俺は一歩引いた所で何も言わず見守った。


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