オリ主と第六駆逐艦隊   作:神域の

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7-1 レッツ!パーリィーナイツ!!

 夏は夜……なんて言うけれど、春や秋、冬に比べると寒くもなく、虫の音色が聞こえてきて風情があって、昔の人は良く言ったもんだと感心する。

 

「よし」

 

 そんな訳で、俺は部隊が新しくなっても日課になっている夜間の戦闘訓練をする為に、ルームメートを起こさないようそーっと部屋を抜け出した。

 消灯時間を過ぎているせいか、廊下は最低限の明かりしか点いておらず薄暗い。静けさも相まって、まるでこの世界には自分だけしか居ないのではと錯覚しそう……って、前にもこんな事思ったなあ。

 とにかく!!俺はこの一人の時間が好きだ。

 普段はどうしても団体行動しなくてはいけない分、余計に。……だというのに最近――――、

 

 

 その時、後ろの方でガチャと音が鳴った。

 噂をすればなんとやら……なんて言うが、最近は毎回の事なので、驚きもしなければ騒いだりもしない。

 

「……あーあ」

 

 ただ、もう面倒くさい。

 

「えへへ。響ちゃんも今から特訓なの?それなら一緒に行こ!!」

「とりあえず帰れ。ゴー、ホーム」

「酷い!いつにも増して酷いっ!」

 

 しっしっと追い払うと、後ろから話しかけてきた吹雪が騒ぐ。

 何時だったか?前に一度、夜に吹雪の特訓に付き合った事があるのだけど、その一件以来ちょくちょく吹雪が俺の日課になっている特訓に参加しだした。

 最初の頃は週一くらいか。

 その時は俺も、まあいいかなんて思ったさ。

 すると次第に頻度が上がる。週一から週二に。

 艦隊が一緒になってからは過程を飛ばして毎回になった。

 ……それでも思うと、その時はまだ良い方だったと思う。

 気づけば吹雪は俺に「今日は特訓するの?」なんて聞いてくるようになった。

 揚げ句の果てには、さっきみたいに俺が部屋を抜け出すと、吹雪がすぐ後を追いかけてくる始末。

 ……吹雪は今何時だと思ってるんだ?深夜だぞ!部屋は別だし。

 

 小走りして近づいて来る吹雪に、俺は冷たい眼差しを贈る。

 

「……えっと、どうしたの響ちゃん……?」

「吹雪ェ……、お前は俺のサインが欲しいのか?」

「へっ?い……いらないけど……?」

「ふーん」

 

 沈黙。

 その間も冷たい視線を贈り続ける俺に、吹雪が自分が何かしたのか?と思ったらしく、挙動が不審になって目が泳ぎ出した。

 

「あのっ……響ちゃん?」

 

 キョドってる吹雪を観てるのは面白い。だけどやり過ぎるのも可哀想なので、この辺を頃合いにして、俺はわざとらしく呆れた様にため息を吐いた。

 

「……あのな、ブッキーは俺が特訓しに行こうと部屋を出ると毎回すぐ追っかけてくるけど、あれか?この時間まで起きてて、俺が扉開けるのを耳澄ましながらずーっと待ってるのか?」

「あっ……あはは……は……」

「……ハァ」

 

 聞いた途端に目を反らして誤魔化す様に笑う吹雪を見て、俺は今度こそ呆れた。

 

「……吹雪、良い子はもう寝る時間です」

「……響ちゃんだって起きてるよ」

「俺は悪い子だから良いの。……だから吹雪、あなたはもう此処に居ては駄目。森へお帰り」

「森には帰らないよぅ……」

「言うことを聞きなさい!!さあ行って!!早くっ!!」

「一緒に特訓しようよぉ」

「……ハァ」

 

 吹雪はこう見えて頑固だ。一度言ったらなかなか退かない。

 それは吹雪が鎮守府に来てから、まだ季節を一つしか跨いでいないにもかかわらず、関わりを持った艦娘なら皆がよく知っていることで、こうなるともう吹雪は折れない。

 で結局、最終的には大人である俺が、しょうがないと折れてあげることになる。

 ……吹雪は俺に少しくらい感謝をしても良いと思う。

 

 今一度、「あーあ」と大きくため息を吐いて、俺は何も言わず歩き出す。

 すると吹雪もおずおずと歩き出し、次第に足を早めて追い付いて、俺の隣を一緒に歩く。

 

「響ちゃん」

「なに」

「響ちゃんはさ?どうして頑張っている所を見られるのが嫌なの?」

「そりゃダサいからだろ」

「……私はそんな事ないと思うけど」

頑固雪(がんこぶき)はな。俺は違う」

「また変なあだ名……って、何が違うの?」

「……うん、分かりやすく例えるとだな……

 

 

 

 

 俺はベジータな訳よ。初期のな。で、悟雪(ごぶき)は下級戦士」

「???」

 

 吹雪はきょとんとした顔を俺に向けるが、俺は気にせず歩きながら話を続ける。

 

「いいか?ベジータは(スーパー)エリートでな?子供の頃ですでにベジータ王の戦闘力を超えていてな?悟雪は戦闘力が低いから、辺境の星に送り込まれる訳よ」

「えっ?……えっ?」

「で、悟雪は最初、戦闘民族の血が流れているせいで性格が凶暴だったんだけど、ある日、谷底に落っこちて頭を強く打ったらしく」

「待って、ストップ響ちゃん!?」

「そのせいか凶暴性は治まって、おとなしい良い子になったんだよ」

「話を聞いてよ!?結局どういう事なのか全然理解できないよっ!?」

「……悟雪、もう少し勉強しろよ……。ドラゴンボールは義務教育だぞ?」

「違うよっ!?」

 

 深夜なのにところかまわず騒ぐ吹雪に、俺は静かにしようねとなだめると、吹雪は観念した様にガックリと肩を落として静かになった。

 

「……どういう事なのかサッパリだよぅ」

「……ハァ、もうザックリ言うと――――、超エリートな俺は、悟雪みたいな下級戦士がするような努力をしたくないの。見られたくないの。知られたくないの。解る?デュー、ユー、アンダスタン?」

「……響ちゃんが変屈な事だけが分かった」

 

 ……まぁ、吹雪に俺の考えを理解してもらえるなんて欠片程しか思ってないさ。人それぞれだし。

 人によって考え方が違うんだなって思ってくれればいいさ。

 

「……それより、ブッキーは何で俺と特訓したがるの?特訓なんて一人でも出来るだろうに」

「だって、一人より二人のほうが楽しいと思うよ?」

「……ふーん。じゃあ何で出待ちなんてしてるの。最初から演習場に居れば、変に待たなくてもいいのに」

「そっ、それは……」

「それは?」

「……夜中に一人で居ると、なんか怖くって」

「……子供だなぁ」

「だって暗いんだもん!!響ちゃんは何でそんなスタスタ歩けるの!?って待って!!置いてかないでえ!?」

 

 無視。聞こえない。

 俺は走りたくなった。だから走る、それだけ。

 まあ、そこには走ったら面白い事になりそう、と思ったのが理由の一つではあるのだけど。

 そうして俺は、一足先に演習場に着くと後から追いかけて来るであろう吹雪を待つことにした。

 

 そして待ってから数分ほど経つと、薄暗い道の先、ぼんやりと明りに照らされた吹雪がよたよたと走りながら?(遅すぎて何とも言えない)こちらに向かってくるのが見えた。

 

「ブッキーおっそーい」

 

 俺はゼェハァと息を切らしている吹雪に活を入れる。だが吹雪は俺の活に答える事は無く、目の前に来ると崩れ落ち、地面に手を付いた。

 

「……持久力が無い(ぶき)

 

 情けない吹雪に、俺はどんどんと新しい渾名を付ける。

 吹雪はというと、俺の付ける渾名が嫌なのか「うぅぅ」と情けないうめき声を出して抗議をしている様だった。

 

「呻く(ぶき)

「うぅ……ううっ……」

 

 俺は思った事を口に出すが、それでも吹雪はバテているのか顔を少し上げるだけだ。俺の顔を見れるほど首を動かしてはいない。

 まぁ、今の吹雪は四つん這いだし、俺の顔を見るなら顔を物凄く上げないと駄目だよな。

 そんな事を思いつつ、吹雪を見下ろしていると、俺はある事に気がついた。

 

 立っている俺の前で、四つん這いになって顔を少し上にあげる吹雪。

 この位置……、俺のスカートの中、見えてるんじゃね?

 

 ……まぁ、見えてなんだという話なんだけど。

 俺はパンツくらいなら見られても平気だ。だが……、

 

「エロ(ぶき)

「…?……あああっ!?違っ!?これはねっ!?」

 

 俺が指摘すると、吹雪は自分の体制がどういう状況なのか理解したらしい。

 そして……たった今、がっつり見たな。この反応は。

 慌てて立ち上がったせいか整い始めていた息が再びあがった吹雪は、顔を真っ赤に息をハアハアしてあわあわと言い訳を始めた。

 

「ちっ違うの!!わざとじゃなくってたまたま――――」

 

 そんな吹雪に、俺はニコリと微笑んで肩をポンポンと軽く叩く。

 

「分かってるよ、吹雪」

 

 俺の顔を見て、安堵の表情を浮かべる吹雪――――、

 

「ひ……響ちゃ「痴漢や覗きは、皆同じ事を言うんだ。さあ、こんな時間だけど憲兵さんとお話ししに行こうか吹雪。大丈夫、憲兵さんは優しいから、この時間でもきっと真剣に吹雪の話を聞いてくれるよ」

 

 だがその表情も一瞬で絶望に染まる。

 上げ落としは基本。ハッキリ分かんだね。

 

「ちーがーうーっ!!」

「ハッハッハッ」

 

 

 

 たのしい。

 

 

 

 

 

 

 

「――――じゃあ、なんやかんやで結構時間が経ったから、今日はさっくり訓練しますか!」

「響ちゃんのせいだよ……」

 

 恨めしそうに睨んでくる吹雪を無視しつつ、今日は何をしようか考える。

 普段やるような事はしたくないし、一対一も何回もやってるしなあ。

 ……悩む。

 やっぱりやるなら楽しい方が良い。競ったり、吹雪をいじったり――――、

 

「よし決めた!!今日は鬼ごっこするぞ」

「鬼ごっこ?」

「そう鬼ごっこ。吹雪が逃げて俺が追いかける。俺は追いかけながら砲撃するから、ブッキーは逃げながら反撃して」

「それ、逃げる方が不利じゃない?」

「吹雪からすれば、一対一の勝利条件に逃げが追加されたんだけどな」

「うぅ、でもぉ……」

「大丈夫だって。加減はするから」

「……絶対、絶対だよ?」

「はいはい」

 

 吹雪も賛成したので、簡単に細かいルールを決める。

 俺は砲撃のみ。吹雪は砲撃も魚雷も可。

 場所は障害物として使える物が有る、射撃場と走行訓練場を使う。

 終わりは俺が吹雪に触れる、開始から30分の経過、そして俺か吹雪、どちらかの大破、轟沈判定。

 

「……ざっとこんな物か。ブッキーは何か質問とか付け加えたいルールとかある?」

「んーと、だいじょうぶ。……でも、なんか響ちゃんが変なルール付けなかったのが意外かも」

「ブッキー……、不慮の事故には気を付けろよ」

「嘘ですごめんなさい!」

 

 失礼な吹雪に釘を刺しつつ、俺は艤装を展開させる。

 吹雪も同じ様に艤装を展開して、一足先に海へと立った。

 

「じゃあ、十数えるから必死に逃げろよ?……必死に逃げろよ?」

「何で!?何で今二回同じ事言ったの!?必死じゃないとどうなるの!?」

「いーち、にーい」

「うわあああ!?絶対!絶対手加減してねぇぇぇ……」

 

 俺が数を数え始めると、吹雪は蜘蛛の子を散らす様に逃げていった。

 海は暗い。

 さっきまで見えていた吹雪もあっという間に闇に溶け、辺りにはタービンの回る音と波を切り分ける音しか聞こえなくなった。

 

「――――きゅーう、じゅう。……よし、行くか」

 

 数を数え終わった俺は、海へ軽く跳んで海上へと降り立つ。

 そして耳を済まし、吹雪がいる方向を把握する。

 

 ……どうやら吹雪は射撃場に向かったらしい。と、此処で俺は、砲身を吹雪が居るであろう方向に向ける。

 

 演習場は広くない。

 それに今回のように場所を限定していれば、駆逐艦であっても大体の範囲は射程に入る。

 といっても見えなければ当てようが無いが。

 ただ、逆に言えば吹雪のいる方向さえ分かればそこに向かって撃つだけで、砲撃は吹雪の近くに落ちる。

 フフフ……、何も見えない所から砲撃が飛んで来たら、吹雪はさぞ慌てふためくだろうなぁ。

 

 俺は昼間の射撃場を鮮明に思い出して、その中を逃げる想像の吹雪に狙いを付ける。そして爆音と炎が砲身から噴き出し、鉄の塊が先の闇に吸い込まれていった。

 

「ああ、どうなるか楽し「ぎゃんっ!!?」……ええ!?」

 

 そして直後に着弾音と爆炎、それと情けない悲鳴が俺の視覚や聴覚に飛び込んできた。

 

「……当たるとか、どんな確立だよ……」

 

 もしかしたら吹雪が一芝居打ったのかもしれない。

 そうだと良いなと思いながら、俺は慎重に炎が見えた場所へ近づく。

 

「ううう……」

「……ハァ」

 

 もう、何も言うまい。

 俺は探照灯を点けた。すると目の前に、頭を押さえてしゃがみ込んでいる吹雪が居た。

 吹雪の艤装からは、煙が噴き出てウンともスンとも言わない。

 演習においては、明らかな轟沈判定。

 

「……怖いなって思いながら走ってたら、急に音がして、振り返ったら頭にドカーンってぇ……!」

「ふぶきぃ、頼むよぉ」

 

 とりあえず、演習で轟沈判定を食らうと、艤装が動かなくなって水に浮くことしかできなくなる。こうなると、一度艤装を戻して、再び展開という手順を踏まないと艤装は動かない。

 なので俺は、涙目の吹雪の手を取って誘導し、陸地を目指す。

 

「どうするブッキー、もう止めるか?」

「……もう一回やるぅ」

「……はいはい」

 

 ルールに、砲撃はやたらに撃たないが追加されたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、二回目の鬼ごっこ。

 最初の様に数を数え終わった俺は、再び音を頼りに吹雪のいる方へと面白味もなく向かっていた。

 これは鬼ごっこではあるが、遊びじゃなく特訓なんだと、自分に言い聞かせながら。

 正直、吹雪に勝つ方法なんていくらでもある。

 ただ、特訓として見ると、そのどれもが意味をなさなかった。

 それじゃあ駄目だ。吹雪にはこの暗闇の中を、必死なって逃げてもらうために俺は鬼ごっこをやろうと言ったんだ。

 

 

 

 

 

「……見つけた」

 

 音を辿っていくと、船着き場からそんな離れていない位置に吹雪は居た。どうやら吹雪はこちらに気付いていないらしく、さっきからずっと不安そうに辺りを見回している。

 俺はそんな吹雪の足下に砲撃を撃つ為に、軽く構えて狙いをつける。

 もちろん当てる為じゃない。鬼ごっこをする為に、俺が此処に居ると気づかせる為。

 ドカンと音を鳴らすと、砲弾は狙い通りに吹雪の足下着弾し、大きな水しぶきを上げた。

 そしてずぶ濡れになってきょとんとしている吹雪と目が合った。

 

「……」

「……えっと」

 

 吹雪が状況を飲み込めていない中、俺の意思でウィーンと砲身が動き、そしてガキンと鉄を鳴らして砲身が吹雪の顔に向いたのを知らせた。

 

「デストローイ」

「わあああああ!?」

 

 ここでやっと吹雪は状況を飲み込めたらしい。

 吹雪はまるでお化けにでも会ったような叫びを上げると、慌てて後ろを向いて逃げ出した。

 

 ここから、特訓と言う名の狩が始まる。

 といっても俺のやる事は、吹雪を追いかけて時々足下に砲撃を撃って煽るだけなんだが。

 

「あははは、まってー吹雪ちゃーん」

「助けてぇ!!」

 

 視界が数メートルと利かない暗闇の中、ドカンドカンと砲撃が、吹雪の前や後ろに落っこちる。

 そんな状況下で案の定というか、パニックになった吹雪は必死になって逃げようとするが、

 

「うわあ!?」

 

 ――――先に進もうとすると、暗闇から突如として目の前に現れる的やブイなどの障害物に驚いて、吹雪はまともに進む事が出来ない。

 その様子を見て俺は、これならタッチでも大丈夫そうだと思いながら、追い詰めるようにジリジリと距離を詰める。

 

 そんな俺に対して、吹雪は距離を取りたいのだろう。

 追いかけていると時々吹雪が振り返って、俺を引き離す為に砲撃を撃つ。

 ただ、そのどれもが常に前を気にしつつという状況下で撃っているせいか、一つも俺に当たらないどころか全てが見当違いの場所に飛んでいる。

 そんなんじゃ牽制どころか逃げる速度が落ちるだけ。

 吹雪もその事を理解しているらしく、見るからに焦りが出始めている。

 

 それを見た俺はとても良い感じだ、と付かず離れずで吹雪を追い回した。

 吹雪は、当たるかもしれない砲撃に怯えながら、目の前に突如現れる障害物に驚いて右に左にと揺れながら、それでも必死に俺から逃げる。

 

 それからしばらくして俺は、面白いけどそろそろ潮時かな?なんて思いながら、無慈悲に距離を更に詰めた。

 日付はとっくに替わっている。きっと今日も出撃命令があるだろう。それに備えるために、睡眠はニ時間でも一時間でも取った方が良い。

 大丈夫、時間なんて沢山ある。毎日とは言わないけれど、ニ~三日に一回でもやれば、近いうちに吹雪は逃げるのが上手くなるだろう。

 

 

 吹雪が障害物を大きく避ける中、俺は最小限の動きで障害物を躱しつつ吹雪にどんどんと近づいていく。

 さっきまでおぼろげに見えていた吹雪の姿は、今はもうハッキリと見える。

 後、吹雪が障害物を二~三回も避ければ、俺は手を伸ばせば吹雪に触れられる距離まで近づく事が出来るだろう。

 今回の特訓も俺の圧勝で終わりだなと思っていると、吹雪が一瞬だけ振り向いた。

 

「……ふーん」

 

 吹雪は砲撃を撃ってこなかった。

 無駄だと理解したのだろう。俺に当たらない砲撃は脅しにもならないと。

 

 ……だけど目が気になった。

 さっきまでの吹雪の目は、正直負け犬根性丸出しの、勝つ事などとは無縁の目をしていた。

 それがどうだ?

 あの一瞬、俺は確かに見た。

 

 吹雪のあの目は、何かを決めた眼だった。

 暗闇の中で、些細な事さえも見逃さない様にと決意した眼だ。

 些細な一瞬でも、その確かなチャンスを必ず結果に繋げると思わなければできない強い眼。

 こういう眼をしている奴は、必ず何かを仕出かす。それが良い事でも悪い事でも、だ。

 

 俺は、吹雪が何かをしようとしていると知った上で、警戒をしつつも相変わらず距離を詰めた。

 退く気は無かった。

 今までに散々、俺は強いと言ってきた身だ。常日頃から、俺は偉いと見栄を張ってきた身だ。

 吹雪が何かをしようとしている?だからどうした。

 俺は他人の行動に合わせて、自分の意志を変えるつもりは無いし、なけなしのプライドが一度でも退くことを許さなかった。

 それに吹雪がやられっぱなしのまま終わるとも思っていなかった。なんて言ったって主人公だ。

 むしろ今までの特訓で、ずっと俺にやられっぱなしだったのが不思議なくらいだ。

 

 

 差が縮まる。

 もう吹雪との距離は一~二メートル程しか無くなった。

 俺は、仕掛けてくるならここだろうと、確かに言える自信があった。

 

「ブッキー、来るなら来い。じゃないと今回も、俺の勝ちで終わるぞ?」

 

 安い挑発だと、自分でも思う。だが吹雪には効果があったようで、俺が喋り終わると吹雪は体を完全に振り返らせて、連装砲を俺に向けた。

 吹雪の砲身は、確実に俺を捕らえていた。今撃たれれば間違いなく当たる。といってもこの距離じゃあ、先を向けて当てるなと言う方が難しいと思うけど。

 

「フフフ」

 

 俺は吹雪がこの状況を待っていたのかと理解して、その上で吹雪に向かって手を伸ばした。

 俺の手から吹雪までの距離は一メートル有るか無いか。さらに今、吹雪が後ろを向いて走行しているせいで、その距離もみるみる内に狭くなる。

 

「撃たないのか?チャンスだと思うけど」

 

 俺の言葉に、吹雪は唾を飲み込んで、

 

「狙いヨシ!砲雷撃、撃てえ!!」

 

 宣言と同時に砲撃を放つ。

 俺の目の前が閃光に溢れ、爆音が轟いた。

 

 

 

 

「……やったかな」

「ブッキー前、前」

「へっ?響ちゃん、なんグェッ!?」

「あー……」

 

 吹雪は後ろを向いて走行していたせいで、先にあった射撃場の的に気付かずに思いっきり突っ込んだ。

 俺は、よそ見して走行すればそうなるよね、と思いながら、鬼ごっこの決着を着けるために吹雪の頭にポンと手を置いた。

 

「ウィナー、響ィ!!ブッキーはもっと精進しろよ」

「なんで、なんでぇ……!?」

 

 今回も俺の圧倒的勝利で終わった。

 だが吹雪は察しが物凄く悪いらしく、さっきから「なんで、どうして響ちゃんが」とうわ言の様に呟いている。

 

「……ハァ、あのなブッキー。あんなド真っ直ぐの今から砲撃撃ちます宣言した攻撃に、俺が当たると思ってたのか?」

「え……でも」

「いいかブッキー?砲撃なんてものはな、撃つタイミングと砲弾が何処を通るか分かっていれば避けるのは容易いんだよ。それをお前、撃つタイミングまで丁寧に教えられたんだ、避けて下さいって言ってる様な物だぞ。しゃがんで避けたわ、あんな攻撃」

 

 俺は、お前は負けたんだと言わんばかりに、吹雪の頭をベシベシベシベシと叩いた。

 吹雪は負けた理由を聞いては、「あうぅ」と声を漏らすだけだ。

 

「ブッキー、後アレだよ。砲撃の宣言をするくらいなら、あっUFO!って言った方がまだいいよ。他にも狙って撃つとかじゃなくて、振り向き様に撃つとか構えてるのばれない様にするとか、もっと工夫しろよ?」

「……」

「……ブッキー?聞いてる?」

「響ちゃん」

 

 俺が吹雪に今後の的確なアドバイスをしていると、不意に吹雪が顔を上げて俺に目を向けた。

 

「もう一回……もう一回やろう」

 

 その声は頼んでいるにも関わらず退く気が無いと思わせる声色で、

 

「……ハァ、後一回な」

 

 吹雪の声を聞いた俺は、一回じゃ終わらないだろうな、と確信した上で吹雪のお願いをきいてあげる事にした。

 今日の夜はどうやら終わらないみたいだ。




おまけ
【挿絵表示】

久しぶりに描きました
蛇足みたいな感じです良かったら見てね

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