オリ主と第六駆逐艦隊   作:神域の

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6-8 主人公「…カレー大会ってなんだっけ?」

[吹雪視点]

 

 

 

「さあ!ブッキーEat(イート)EatPlease(イートプリーズ)!」

「あ…あはは」

「…んもう!どうしたのブッキー!早くしないとカレーが冷めちゃうヨ!」

 

 金剛さんが私にカレーの味見をしきりに勧めてくる。

 それは良い。それは良いんだけど……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前の、光の反射で七色に輝き、辺りに酷い臭いと症気を撒き散らす黒い液体…これってカレーなんですか?

 あまりの衝撃に思わず、金剛さんの顔と金剛さんがカレーだと言い張る物に目線が何度も行き来する。

 すると金剛さんは、そんな私に対して――

 

「ブッキー!とっととグビッといくデスネー!!」

 

 親指をグッと立てて、良い笑顔でさらりと死刑決行を告げた。

 

 こういう時、断ることができたらどんなによかっただろうと思ってしまう。なんて言ったって、たった一言断るだけで私はこの劇物を回避する事ができる訳で。

 …だけど、私には勇気がなかった。

 断ることでもし嫌われてしまったら、そうでなくても嫌な気分にさせてしまったら…そう考えると断ることができなくなる。

 どうしよう……一体どうすれば……。

 

「吹雪ちゃん、大丈夫!」

 

 迷っていると、比叡さんがそんな私を見かねてか優しく話しかけてきてくれた。

 …だけど何が大丈夫なんだろう。もしかして味見はしなくてもいいよって事かな。

 

「…えっと、比叡さん…何が大丈夫なんですか?」

「カレーです!」

 

 比叡さん…カレーは見ただけで大丈夫じゃないって判るよ……。

 そんな私の心配はお構いなしに、比叡さんは拳を握ると、

 

「このカレーは美味しいに決まってます!!何て言ったってこのカレー…私と!金剛お姉様との!共同作業で出来た『愛の ケ ッ シ ョ ウ !!』…なんて…なんつって!!でへへへへへ」

 

 訳のわからない事を力説して壊れてしまった。

 金剛さんは金剛さんで「流石MySister(マイシスター)!良いこと言うデスネー!」なんて言ってウンウンうなずいてるし。

 

 本当に、どうしてこうなってしまったのだろう。

 私はただ、響ちゃんの暴挙から逃れたいだけなのに!

 

 戻れば響ちゃんが暴挙振るうからここに来たのに、こっちに来たら暗黒物質だ。

 こういう事を前門の虎、後門の狼と言うのだろう、と身をもって実感した。

 

 ああ、こうなると分かっていれば素直に響ちゃんの所に戻ったのに。

 いや、そもそも出歩くこともなかっただろう。

 悔やんでも悔やみきれない。

 なぜ私は出歩いてしまったのか?

 そんな自身の疑問に少し前の記憶が甦る。

 

 

 

――――

 

『まあいいや、ほら?ブースは俺が残るだろ?目ぇ痛くても鍋くらいは見れるからさ、吹雪は気晴らしに他の所でも見てきたらどうだ?結構面白いと思うぞ』

『さっきは悪かったって、これはそのお詫びって事でさ?吹雪も折角の祭り事なんだから楽しんでこいよ。…あ、でも行くなら肉じゃが出来るまでには戻って来いよ?』

 

――――

 

 

 そうだよ!響ちゃんだよ!

 響ちゃんが行ってきな、何て言わなければ私はこんな目に合わなかった!それに今思うと私が行くとき、響ちゃんは黒い笑みを浮かべていた気がしてきた!

 

 ……おのれ響ちゃん!ゆるせん!

 

「ふっふっふ」

「?…ホントにどうしたノブッキー?」

「なんでもないですよ金剛さん。ただちょっと提案がありまして」

 

 思えば私は響ちゃんに振り回されっぱなしだ。

 だから本の少し、ちょっとだけなら仕返しをしても許されるはずだ。

 

「その提案っていうのが」

 

 響ちゃんは普段から私にあることを教えてくれる。

 私はそれを見に染みて覚えている。

 

 

 

 

「どうせなら私だけじゃなくて、響ちゃんにも味見してもらいませんかっ!?」

「…つまり?」

「つまり、人が多い方が色んな人の意見を聞けるという事です!」

「わお!ブッキーそれはNiceIdea(ナイスアイデア)デース!」

「そうですよね!それじゃあ早速、響ちゃんをつれてきますね!」

「うん!待ってるネー!」

 

 ……この世は悪魔が微笑む時代なんだ。

 そうでしょ?響ちゃん。

 

 

 

 

 心の悪魔に従い、響ちゃんを連れてくる為に小走りするとすぐに自分達のブースが見えた。

 そこには伏せている響ちゃん、戻ってきていた大井さん、それとなぜか私達のお鍋を見ている雷ちゃんがいる。

 

「大井さん、お鍋の様子はこんな感じで大丈夫?」

「ええ、問題ないわ。ありがと雷。…それにしても、なんで他の姉妹はまともなのにこの白髪チビだけは馬鹿なのかしら」

 

 そんな様子にちょっと戸惑いつつ少し観察をしていると、どうやら雷ちゃんが響ちゃんの代わりにお鍋を見ているらしい。そして響ちゃんはサボり…。

 よし。

 響ちゃんに暗黒物質を食べさせるのにイッサイの罪悪感ナシ!

 

「響ちゃーん!ちょっといーい?」

「なんだブッキー、気持ち悪い声出して」

 

 討ち入り気分で早速響ちゃんに話しかけると、響ちゃんは顔を伏せたまますぐに返事を返した。

 てっきり私は、響ちゃんは寝てたと思ってたので少し驚いてしまう。

 けどそれなら話は早いっ!

 

「あのね?実は響ちゃんに来てほしい所があって」

「悪いなブッキー、俺はこう見えて忙しいんだ」

 

 響ちゃんは私のお願いを簡単に断った。

 よりによって内容は忙しいときたもんだ…。

 ……どこが忙しいの!?寝てるじゃん!!響ちゃん何もしてないよ!!

 私はそんな思いを寸でのところで押し留める。言ったところで響ちゃんは私の話を気にせず伏せたままだろう。

 

「…そんな事言わないで、ちょっとだけだから…ね?行こう響ちゃん!」

 

 ならば引っ張って連れていくしかない。

 私は未だに伏せている響ちゃんにすっと手を伸ばすと――響ちゃんの腕を掴む直前で、横から誰かが私の腕を掴んだ。

 

「吹雪、響のことはそっとしといてあげて?」

 

 私の腕を掴んだのは雷ちゃんだった。

 

「響ね、実は私が手伝いに来るまで目を抑えながら痛いのを我慢して、ずっとお鍋を見てたの」

「そっ…そうなんだあ」

「そうなの!響ったらいつもいつも一人で無茶して強がって、大変だったら私の事を頼ってくれてもいいのに!」

 

 本人を前にしても響ちゃんの文句を言い始めた雷ちゃんに、響ちゃんは伏せたまま「雷さんの事はアッシもよく頼りにさせてもらってまっせぇ…はらっしょ、はらっしょ」とよく分からない褒め方?をした。

 そして、その言葉を聞いて「そうでしょ!いい響?大変だったらもっと、もーっと私の事を頼ってくれてもいいのよ!」と機嫌を良くする雷ちゃん。

 そんなやり取りを見て、あっ…やっぱり姉妹なんだと思いいつつ、これからの事を考えた。

 

 というのも、響ちゃんを連れていくのを止められてしまっては一人で戻るしかないのだけど…、私は一人であそこに戻りたくない!

 こうなったら金剛さんには後で、「いやぁ、戻ったら忙しそうで、味見に行けなくなっちゃいました」と言ってしまおう。

 

「おぉーい!ブッキ~!」

 

 そんな事を思っていると、不意に私を呼ぶ声が聞こえてそちらを振り向くとーー金剛さんがニコニコと手を振りながらこちらに駆け寄ってきているではないか!?なんで!?

 

「こっ、金剛さんこっちまで来てーー」

「もう!ブッキー遅いヨ!あまりにも遅いから私自ら乗り込みに来たネー!」

 

 どうしたんですか?そう続けようとすると、それよりも早く金剛さんはこっちに来た理由を話し出した。そして響ちゃんを見るや、

 

「おぉ、はらしょーも居ますネー。ブッキーが来るの遅いから私てっきり、はらしょーが居ないのかと心配したデスネー」

 

 そう言って安心したというように更に笑みを浮かべ、「居るなら早く連れてきてくだサーイ」と私に言った。

 どうしよう。いや本当にどうするんだ私。

 もはや忙しくて…なんて言い訳は使えない。だって大井さんと雷ちゃんが肉じゃがを作っていて、私のやる事は無い状態だから。

 

「――おい」

 

 私が逃げ場を無くしたことにうろたえていると、ふと横から声がした。

 

「おい…吹雪。そういえばお前…、俺に来てほしい所があるとか言ってたな」

 

 声のする方を向くと、さっきまで伏せていた響ちゃんが、顔を上げて私の事をじっと見ている。

 

「おい吹雪…、一つ聞かせてくれ……。お前は俺を何処に……何の為に連れていくつもりだったんだ……?」

 

 問いには感情が込められていない、淡々した口調で紡がれた。

 その様子は不機嫌なんてものじゃない。今にも食らい付かんとする虎そのもの。

 …私は理解した。言葉の選択をミスすれば、それは虎の尾を踏むことと同じだと。

 

「待って響ちゃん!これには色々深い…深ーい事情がっ!」

「もうっ!早くしないと私のCurry(カレー)が冷めちゃうヨ!」

 

 私がどうにか響ちゃんに弁解しようと言い訳を考えると、不意に金剛さんが横から私の手を掴んだ。

 そしてよく見ると、響ちゃんも金剛さんに手を掴まれている。

 

「…金剛?俺はいいよ…目痛いし……って聞いてる?離して?……離して金剛!お願いだから!!」

「さあ!出発シンコーデース!!」

 

 金剛さんは、喚く響ちゃんを無視して楽しそうにそう言うと、そのまま私と響ちゃんを引きずって歩き出してしまう。

 この時私は、私達を引きずって苦も無く歩けるなんて流石戦艦だなー、と場違いな事を思った。

 道半ばには響ちゃんは逃げられないと悟ったのか、金剛さんに大人しくズルズルと引きずられる様になった。

 

 

 

「…なぁブッキー」

 

 そして後少しで金剛さんのブースに着くという所で、ふと響ちゃんが私に話しかける。

 

「…なあに響ちゃん」

「…お前、俺を売りやがったな……?この先にある物がヤバイと理解して……、俺を金剛の所へ連れていこうとしたな……?」

 

 図星だった。

 

「…そんな事…ナイヨ?」

「こっち見て言えよ。目が泳いでるぞ。そこまで泳ぐ奴を俺は初めて見たよ」

「…本当ダヨ?」

「そこまで分かりやすいとこっちの反応が困るわ」

 

 そんな風に響ちゃんと話していると、金剛さんが突然立ち止まって「到着デース!!」と言って、私達の手をパッと放した。

 

「フギャ!」

 

 突然の事にバランスを崩した私は、受け身も取る事も出来ずに転んでしまった。

 隣では引っ張られていた方の手をほぐしていた響ちゃんが、私の事を可哀想な物を見るような目で見下ろしている。

 

「ブッキー…フギャって、フギャって何よ……」

「うぅ…」

 

 恥ずかしくて何も言えなかった。

 すると響ちゃんは、それを気にした様子もなく私から金剛さんの方に視線を移し、

 

「それよりもだ…吹雪、あれは洒落にならないぞ」

 

 呆れたように言った。

 響ちゃんの目線の先では、金剛さんと比叡さんが楽しそうに話をしている。が、そんなことは問題じゃない。

 問題は鍋からは最初のときよりも酷い瘴気が吹き上がっている事だ。

 …そう、もうすぐ私はアレを食べないといけない。

 成り行きで響ちゃんを巻き込んだけど、私もアレを食べる事には変わりはないんだ。

 私はこれから自分の身に起こる非情な未来に泣きたくなった。

 

「響ちゃん私アレ食べたくないよう」

「おまっ!?どの口が言うか!俺がアレ食う事になった原因は誰にあると思ってんだ!?…って、そうじゃなくてその先」

「先?」

 

 

 私はなんの事だかさっぱりだった。

 なのでまた響ちゃんの出任せなんだろうなと、半信半疑で鍋の向こうに目を向けた。

 

 

 

 

「榛名は大丈夫、榛名は大丈夫、榛名は大丈夫」

 

 

 

 

 うわあ。

 鍋の横には榛名さんがいた。

 死んだような表情で鍋を見つめ、壊れたCDのようにブツブツと同じ事を繰り返し言い続ける榛名さんが。

 

「ブッキーどうするのアレ」

 

 響ちゃんが、まるで私のせいだと言いたげに問いかける。

 けど私は榛名さんを呼んだ覚えはない。

 巻き込んで良しなのは響ちゃんだけなのだ。

 

「おーい二人ともー!そんな事で立ってないで早くこっちへおいでヨー!」

 

 そんな事を思っていると金剛さんが私達を呼んだ。

 側には小皿によそわれたナニカが。

 もう、それを見た瞬間に私は理解してしまった。あぁ、私死ぬんだな…と。

 

「金剛が呼んでる。行こうぜブッキー」

 

 だというのに響ちゃんは普通だ。普通に金剛さんの所に行こうとしている…、行ったらアレを食べなければいけないと分かっていながら。

 ていうか行った、歩き出した。

 もう私の頭の中は、食べたくないのと響ちゃんの潔さでグチャグチャだった。

 なんで響ちゃんは素直に金剛さんの方に行くの?

 途中まで逃げようとジタバタしていたのに何で?

 私と話している間に逃げる隙なんていくらでもあったのに!

 

「……あ」

 

 そんな事を考えて、考えて考えて…一つある事を思った。

 響ちゃんがアレを食べる訳が無い。

 

「ブッキー!!早く早くゥ!!」

 

 おそらく響ちゃんは食べるのを誤魔化すだろう。

 どうやって誤魔化すかは分からないけれど、私もそれに便乗すれば食べなくても良いのでは!?

 

「はい!今行きまーす!」

 

 希望が、光が差した気がした。

 金剛さんの所に向かう時の足取りが軽くなる。

 もう私に怖いものなんてあんまりない!

 

 

 

「…ウン!やっと皆揃ったネー!それでは早速実食デース!!」

「いよっ!待ってました!!金剛お姉さま、ニッポンイチ!!」

「榛名は大丈夫…榛名は大丈夫…榛名…は…ぐすっ…う…うぇーん」

「…あっ、そういえば俺、遺書書いてねえどうしよう」

 

 なんて思っていた時もありました。

 いざ味見となって、思い思いに話している4人を見ていると、どうしようもなく不安になってくる。

 ていうか遺書って何?本当に生命の危機なの?

 

「それじゃあ、まずは誰から行くデスネー?」

「ピューピュピピー」

 

 私の不安に誰が答えるわけでもないまま、とうとう金剛さんがアレを持ちながら最初の犠牲者を選び始めてしまった。

 そして響ちゃんは、瞬間的に後ろを向いて手を組み、自分は関係無いと言わんばかりに口笛を吹き始める。

 物凄い手慣れた感があった。流石は響ちゃんだ。

 というか響ちゃんはアレで誤魔化す気だったのか!?

 確かに、あそこまで露骨に食べたくない態度をとられると、響ちゃんを最初には選び辛いとは思う――

 

「じゃあ、はらしょーから行きまショー!」

ピュピィ(なにぃ)ーッ!?」

 

 ――と思ったけどそんな事もなかった。

 

「ち、ちょっと待て!俺今どうみても、自分関係ェねえっすよオーラを出したじゃない!?なんでピンポイントで俺!?」

 

 あっ、言っちゃうんだ。

 

「マタマタ~。そう言いつつもはらしょーは、口笛で食べたいappeal(アピール)してたデスネー!」

 

 あっ、そう捉えちゃうんだ。

 

「ち、チクショウ!裏目ったッ!!」

 

 目論見を外した響ちゃんは、膝を折ると悔しそうに地面を殴りつけた。

 金剛さんはそんな響ちゃんに優しく微笑むと――

 

「ハイ、はらしょーめしあがれ」

「 」

 

 …いや、何か言ってよ響ちゃん。

 なんで無言で私を見るの?

 無理だよ!どんなに『嘘だろ…?』って表情で見ても助けられないよ!

 後で謝るから!今は巻き込んで申し訳ないって思ってるから!

 

 目があって数秒、響ちゃんは私が助ける気が無いと理解したのか、よたよたと立ち上がると、金剛さんが持っているアレを力無く受け取った。

 

「は…ハラショォォオオ!!」

 

 そして覚悟を決めたように叫んだ響ちゃんは、受け取った小皿を勢いよく煽ると、とたんに「う…ううう…」と苦しそうに唸り始める。

 ごめんね響ちゃん……骨は拾うからね。さよなら。さよなら響ちゃん。

 

 そんな事を思っていると、苦しそうにしていた響ちゃんの様子が変わった。

 さっきまで苦しそうにうずくまっていた響ちゃんが、「うぅぅ……う?」と唸るのを止めると、目を見開きすくっと立ち上がったのだ。

 

「ひ…響ちゃん……?大丈夫なの?」

 

 響ちゃんは私の問いかけに答えずに、金剛さんから受け取った小皿を凝視していると、小皿に残っていたアレを指ですくい上げ、そのまま口へパクリとした。

 

「……かっ…カレーだ……」

 

 マジで!?

 響ちゃんの口から予想外の言葉が飛び出て、私は声も出せずに響ちゃんに目を向けた。

 すると響ちゃんも、私に目を向けて何も言わずにコクリと頷いてみせた。

 …マジでか!?

 言葉では無かったけど、一動作だけで響ちゃんは、私にも食べてみろと言っているのが分かった。

 間違いなく響ちゃんは食べた。そして何ともないらしい。

 …それでも、私の疑念は消えない。どうしてもアレが食べられるとは思えないのだ。

 すると響ちゃんは、私の気持ち知った様に、そして私の疑念を払拭するかの様にカレーの感想を語りだす。

 

「これは…なんだか懐かしい…一人暮らしの時によくお世話になっていた、そこら辺によくあるごく普通の味!飛び切り旨い訳じゃなく、食べたら「あぁカレーだわな」って思う様な、100円ちょっとで買える特に感想も無い普通の味だよコレは!!」

「褒めてねェ!!」

「馬鹿野郎ブッキー!!アレの見た目を考えろ!食えるんだぞ!?凄い事だよコレは!!」

 

 確かに…これが食べられるなら、私達の肉じゃがよりもインパクトはデカい。

 金剛さんも頻りに私達に味見を進めただけあって、食べられると自信があった様で、いつもの様に腕を組んで自信満々に「あっぶな…見た目がDangerous(デンジャラス)だったからブッキーとはらしょーに味見をお願いしたデスケド、どうやら杞憂だったようデース」と、……へ?

 

「こっ…ここっこっこっ金剛さ――」

「ん~?…クックドゥードゥルドゥー?」

「ニワトリじゃないです!!それよりも…金剛さんっ!!今なんて!?」

「クックドゥードゥルドゥーって。Japanese(ジャパニーズ)だと、こけこっこーデスネー」

「だからニワトリの鳴き真似じゃないんですって!!その前!その前に金剛さんはなんて言いました!?」

「ん~と……」

「私さっき、とんでもない事を聞いたような気がするんですけど!!」

「……てへぺろ」

「てへぺろ…じゃないですよ!!確信犯じゃないですか!!」

 

 私が金剛さんに抗議をしていると、横から響ちゃんがアレの入った小皿を持って近づいてきた。

 

「まーまー、落ちけつブッキー。食べられたんだから良かったじゃない」

「えっ!?…響ちゃん、怒らないの?金剛さんは私達に毒味をさせようとしてたんだよ?」

「…………それよりも、俺はカレーを食べたけど…お前らは食べないの?コレ」

 

 響ちゃんはそう言うと、私達が答えるよりも早く、持っている小皿を皆に渡し始めた。

 そして私の手にも、瘴気が立ち込めるアレが渡される。

 …響ちゃんは、よくコレを食べようと思ったな。匂いがすでにヤバイ。

 周りを見ると、金剛さんは食べられると分かってニコニコ。比叡さんは元からニコニコ。榛名さんは安堵からか泣き止んでいた。

 

「ほら早くしなよ。俺だけ仲間外れっていうのもどうかと思うよ?」

 

 そして響ちゃんもすでに食べていてニコニコだった。

 不安は残るけど、確かに響ちゃんだけ食べて私達が食べないっていうのも変だ。

 

「じゃあ、はらしょー以外のMember(メンバー)で一斉に食べまショー!!」

 

 金剛さんもそう思ったのか、音頭をとって皆で食べようとしている。

 

「はい!…金剛お姉さまと一緒に食べるカレーなんて…たはー!」

「……榛名…何時でも行けます!!」

 

 そして皆と息を合わせようと目配せをして、

 

「「「「せーの!!」」」」

「フフフ」

 

 私達がアレを口に入れるのと、響ちゃんが不気味に微笑むのは同時だった。

 

 響ちゃんどうして笑ってるの?

 そう聞こうとした瞬間、私はとてつもない不快感でそれどころじゃなくなった。

 頭痛腹痛、舌に刺さる様な痛みに感じた事の無い吐き気。

 劇的な体調の変化に苦しんでいると、意識の外でバタバタと何かが倒れる音と――

 

 

「フフフ…ハハハハハハッ!!アハハハハハッ!!」

 

 狂った様に笑う響ちゃんの声が聞こえて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吹雪、お前は俺に怒っていないのかって聞いたな。

 怒ってるさ。怒っているとも。

 だって俺は無理やり身代わりをさせられそうになったんだぜ?

 それでも最初は、それどころじゃなくて逃げようとしたさ。

 そう……最初だけだ。俺は逃げる必要が無かった。

 色々あってね?俺は運が良かった。

 意図した訳じゃないんだ。偶々そこにあったんだ。

 それを見つけた時、俺は思ったよ。

 つくづく俺は悪運が強いと……そして、これで文字通り…お前ら全員に「ひと泡吹かせる」事が出来るって。

 

「ハハハハッ!!ヒヒヒ…アハハハハハッ!!」

 

 俺は生き残った。……目の痛みと引き換えに。

 やった事は大した事じゃない。

 皿の中身を、誰にもばれない様に素早く入れ替えただけだ。

 

 俺が今手に持っている……

 

 

 

 

 連れてこられる途中にあった、島風が用意していたレトルトカレーと。

 

「ハハッ!!…フフフアハハハハハッ!!」

 

 上手く行き過ぎて笑いが止まらない。

 この事を知ったら、今俺の足元で泡を吹いて転がっている吹雪と金剛はどう思うだろう。

 多分だけど、きっと俺の事を悪く言わないに違いない。

 だって俺がやった事と、お前らがやろうとしていた事はまったくもって同じなのだから!

 

 

 

 ……俺は後で知ることになるのだけど、この一連を見ていた他の鎮守府から来た艦娘達は、今回のカレー大会を『カレー大会を隠れ蓑にしたブラックサバト』と呼び、俺の事を艦娘の皮を被った『悪魔(デーモン)』と呼んで、ここの鎮守府は悪魔が棲むという話題でしばらく注目される事になる。




 金剛チームのカレーの味見の結果

 響 無傷 完全勝利!!
 吹雪 劇物摂取により意識不明 カレーに異常な恐怖を覚える
 金剛 劇物摂取により意識不明 今後、比叡には料理をさせない事を誓う
 比叡 劇物の過剰摂取により意識不明及び当日前後の記憶喪失 あっれー?おかしいな、何がいけなかったんだろう?
 榛名 劇物摂取により意識不明 榛名は大丈夫じゃなかったみたいです……

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