オリ主と第六駆逐艦隊   作:神域の

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6-7 主人公とカレー大会

[吹雪視点]

 

 

 

 ……なんで私達はカレー大会に肉じゃがを出す事になったんだろ?

 

 私はふと、唐突にそんな事を思った。

 答えは言われなくても分かっている……全部響ちゃんのせいだ。

 思えば大体というか、いつも騒ぎの中心に響ちゃんが居る。

 仮に響ちゃんが居なくても、何かあったら「全部響ちゃんのせいです」といえば問答無用で鎮守府の皆は信じてくれる。それくらい響ちゃんは騒ぎの元凶だ。

 

「ハァ…」

 

 気付けばため息が出ていた。

 響ちゃんは悪い子じゃない……ハズだし、なんだって私の友達で大切な仲間だ……、だけど時々一緒にいるのが辛くなる時がある。今だってそう。

 

「どったのブッキー?ため息吐くと幸せが逃げるぜ」

「全部響ちゃんのせいだよぉ」

 

 私は今、濡れタオルで目を押さえている響ちゃんの手を引いて、自分達のブースに連れ戻している所だった。

 そして、そんな私達は注目の的だった。

 周りからは、またあの響が…といった目で響ちゃんを見ている。

 そしてそのついでと言わんばかりに私の事も響ちゃんと同じ目で見てくる。

 

 違うんだよ?私は響ちゃんとは違うんだよ。

 なのになんで、あの吹雪も…みたいな目で私を見てくるんだろう……。

 

「…なんで、なんで私が変な目で見られるの…?」

 

 気がつけば、私が思っていた事が言葉として口から出ていた。

 すると響ちゃんが私の言葉に反応してポンポン、と私の肩を叩く。

 

「ブッキーだからさ」

「私のせいじゃないよ…」

「それより、なんで俺の両目はこんなにも痛いの?」

「もう全部、私が変な目で見られるのも響ちゃんの目が痛いのもぜーんぶ響ちゃんのせいだよ」

「それはおかしいよブッキー!俺の目が痛いのは玉ねぎの奴が悪いんだ!だってそうだろ?玉ねぎの汁が目に入らなければ、俺は痛い思いをしなくて済んだ!!」

「というより、どうやったら両目に玉ねぎの汁が入る珍事が起こるの…?」

 

 私がそう言うと、響ちゃんは少し考えるように押し黙って、

 

「……俺のせいだったわ、ハッハッハッ」

 

 結局自分のせいだって認めちゃったよ。

 まあ、違うって言っても信じないけど。

 

「あ、響ちゃん、ブースに着いたよ」

「おお、サンキューブッキー」

 

 そして私は響ちゃんと会話をすることで、響ちゃんを大人しくブースに連れ戻すことに成功した。

 だけどまだ油断はできない。なんていったってあの響ちゃんだ、いつ逃げ出すか分かったもんじゃない。

 なので私は響ちゃんの手をギュウと握り、釘を指す事に決めた。

 

「私が椅子まで連れてってあげるから、響ちゃんは椅子で大人しく座ってて…ね?」

「どうして?」

 

 どうして?じゃない!!

 響ちゃんは目、痛いんだよね?なのに何で大人しくしてるっていう選択が出来ないの?…って、落ち着け私。

 普通に考えて響ちゃんが大人しくしてる訳がないじゃないか。

 よし、こうなったら教えてあげよう。

 普通は怪我をしたりしたら大人しく休むものだって。

 

「どうしてって響ちゃん、タオルで目を冷やしてたら目が見えないでしょ?それだと椅子に座ってるしか出来ないんじゃないかな?だから大人しく座ってよう?…ね?」

「吹雪よ、俺の視界が塞がっているからって何もできないなんて思うのは軽率なんじゃないかな?俺は視界が塞がれても物の大体の位置を把握できるぜ?」

 

 …私の常識は響ちゃんの非常識にあっさり跳ね除けられた。

 というより響ちゃんは普段無駄に鋭く人の考えを言い当てたりするのだからこんな時にこそ私の気持ちを汲み取ってほしい。

 

 私は響ちゃんに、これ以上何か起こされたくないだけなの!!

 なんで響ちゃんは、目隠ししてる状態で何かをやらかそうとしているの!?

 

 そんな私の思いとは裏腹に、響ちゃんはフフフと笑うと、おもむろにさっきまで私が使っていた灰汁掬いをタオルで目を覆ったまま自然に掴み、軽く振り回して見せた。

 ヒュンヒュンと灰汁掬いが空を切る。灰汁掬いに付いていた汁が辺りに飛び散る。

 おかげで響ちゃんの周りは汁まみれ。

 

「どうだブッキー、これが俺の心眼だ。この俺に掛かれば目が見えずとも物の位置を把握するのは容易い」

 

 さらには、響ちゃんがいつも通りの訳の分からない事を言い始める始末…。

 というより灰汁掬いを振り回さないでよ響ちゃん…汁が何時こっちに飛んで来るか分からないからヒヤヒヤするよ……。

 だけど響ちゃんは相変わらず私の事を考えずに次の行動に移る。

 持った灰汁掬いをスッと構えると、そのまま鍋の方へと手を伸ばした。

 そして――――

 

「あっつ」

 

 響ちゃんの手は鍋の縁にぶつかった。

 それは当然熱い。だって鍋は火をかけてるんだから。

 というか、何で響ちゃんはこうも色々とやらかすのだろう?

 

「響ちゃん、もう止めよう?」

「落ち着け吹雪!いける、次はいける。俺の心眼がそう言ってる」

「落ち着くのは響ちゃんの方だと思う…ていうか響ちゃん、さっきから言ってる心眼って何なの?」

「んん?知りたいか?ならば教えてやろう……」

 

 私はさっきから気になっていた心眼について聞いてみると、響ちゃんは不敵に笑みを浮かべ、親指で自分の耳をピンと弾いた。

 

「私の心眼――それは視界を失った代わりに長い年月をかけて異常に発達した聴覚……!!」

「嘘でしょ。だって響ちゃんが視界を失ったのはついさっきだからね?物凄い断末魔が聞こえてきたし」

「ふ…、どうやら吹雪には、私のしている眼帯にある『心眼』の二文字が見えないらしい」

 

 書いてねえよ。

 それに眼帯じゃなくてタオルだし。

 

 あぁ……、駄目だ駄目だ。

 響ちゃんを相手にまともに反応を返すと、あっさりと流れに飲み込まれる。

 響ちゃんをまともに相手をしてはいけない。

 適当に流そう。

 

 そんな気持ちを新たに、私は響ちゃんに向き直ると、響ちゃんは覆っていたタオルを外してクックックッと声を押し殺して笑っていた。

 

「…今度はどうしたの?」

「いや…吹雪は面白いなぁって」

「むぅ…それって褒めてないでしょ…?それより響ちゃん、目が痛いなら休んでないと良くならないよ?分かったらここで休んでて?」

「そうするかな」

 

 ああ……そうだよね…、響ちゃんが大人しく休んでくれる訳が……

 

 

 

 ……あれ?

 

「ところで吹雪――」

「ちょっと待って響ちゃん!?今度は何を企んでるの!?それとも頭を激しくぶつけたの!?」

「…吹雪、おま俺の事をなんだと思ってるの?」

 

 暴君。

 

「まあいいや、ほら?ブースは俺が残るだろ?目ぇ痛くても鍋くらいは見れるからさ、吹雪は気晴らしに他の所でも見てきたらどうだ?結構面白いと思うぞ」

「えと…」

 

 響ちゃんが急に私の意見を聞いてくれたと思ったら、そこからさらに私に気づかいをしてくれた……?

 正直、他の皆が何を作っているのかは気になるし行ってみたい。

 けどこの変貌は怪し過ぎるでしょ!?

 そんな風に響ちゃんに疑いの目を向けていると、響ちゃんはフーと息を吐くとどかっと椅子に座り更に言葉を投げかけてきた。

 

「さっきは悪かったって、これはそのお詫びって事でさ?吹雪も折角の祭り事なんだから楽しんでこいよ。…あ、でも行くなら肉じゃが出来るまでには戻って来いよ?」

 

 響ちゃんの代わり様は怪しい。でも、楽しそうに自分のしたいことをしている響ちゃんを見ていると、響ちゃんを疑ってどうしようか悩んでいる自分が馬鹿らしくなってくる。

 響ちゃんのそういう所は、ちょっとズルいと思う。

 ……よし、決めた!

 

「…そんなに言うのなら、本当に行っちゃうよ…?」

「ああ、でも行くなら気をつけろよ?吹雪はよく転びそうになってるのを見るからな」

「そう言う響ちゃんはほぼ毎日転んでるよね」

「あれはほぼ毎日、後ろからボンバータックルを仕掛けてくる電が悪いんだ!…最近はハブられてるからそんなことはなくなったけどさぁ……とにかくっ!俺は悪くねえ!」

「あはは、それじゃあ行ってくるね!」

「おう、行ってこい行ってこい…ていうか本当に解ってる?ブッキ……あ」

 

 

 

 私は響ちゃんに見送られながら、他の人たちはどんなカレーを作ってるのかな?どこに行こうかな?なんて考えた。

 …うん。

 暁ちゃん……達は忙しいだろうし、瑞鶴さんの所は響ちゃんを拾いに行った時に顔を合わせからまた行くのはなあ……、となるとやっぱり金剛さんの所か睦月ちゃんの所か。

 せっかくあの響ちゃんが楽しんできなって言ってくれたんだもん、楽しまないと損だよね!

 ……だから、

 

「戻ってきてブッキー!暁がっ!暁がぁ!」

「ねえ響…吹雪よりも、なんで響の目がそんな事になってるのかがお姉さんとして気になるの……ねえ、どうして?」

「そっ、それはね暁…山よりも深く谷よりも高く、そこら辺にできる様な水溜りのごとく大きな事情がありましてね?」

「無いのね?」

「イッツユアジョーク!言葉遊びですってば姉さん!?事情なんて沢山あり過ぎちゃって何から話せばいいかって…なぁ吹雪ィ!?……吹雪?待って!?ヘルプ!!助けて!ヘルプミー!!ロシア語で…ヘルプミー!!」

 

 だから後ろから響ちゃんが助けを求めている声が聞こえるのは気のせいだ。

 だって響ちゃんは、遠慮しないで行ってきな、って言ったもん。

 根も葉も乾かない内に戻ってきて、なんて言うはずがないよ。

 

「吹雪ィ!!カムバーック!!無視するなァ!!無視すると後が酷いぞ!?なんか色々な事が起きる――」

「ハァ……、響…私は常々思うの。響にはレディの基礎を1から教え直した方がいいって」

「待って暁!?レディのご教授だけは勘弁して!?後生ですからッ!もう間に合ってますからッ!?」

 

 後ろから聞こえてくる響ちゃんの助けを求める声が命乞いに変わった時、私はこのブースから一番離れているのが睦月ちゃんの所だと思い出して、それなら睦月ちゃんの所に行こうと決めた。

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

「……そ、それで吹雪ちゃんはこっちに来たんだ…?」

「うん」

 

 睦月ちゃんの所に着いた私は、この短い間に起こった事を睦月ちゃんに全て話した。

 響ちゃんが如何に落ち着きが無いかとか、どうしてあそこまで訳の分からない事を平然と言うのかとか。

 とにかく私は睦月ちゃんに愚痴を聞いてもらって、私が如何に苦労しているのかを分かってほしかった。

 だけど私の話を聞いた睦月ちゃんの様子は、私の思っていた反応と違う。

 予想では睦月ちゃんは、そうなんだ…大変だったね…と同情してくれると思ったのに、この反応はどう見ても迷惑そうだ。顔引きつってるし、声どもってるし。

 いったい私が何をしたというのか。

 

「…あのさ睦月ちゃん、もしかして迷惑だった…?もしそうなら私戻るよ…?」

「ううん!そんなことないよ!…ただね」

 

 睦月ちゃんはそう言うと、急に辺りをキョロキョロとして、ほっと息を吐くと、

 

「あのさ吹雪ちゃん…、響ちゃんは何してるの?」

「えと、響ちゃんならお鍋を見てるはずだけど」

「それって…、こっちに来ないよね…?」

「と思うけど…暁ちゃんにお説教もらってたし」

 

 この時、睦月ちゃんが響ちゃんの事をしきりに聞いてきた時、私はすぐに理解した。

 あっ、これ響ちゃんのせいだ、と。

 だけど睦月ちゃん、こんなに警戒するほど響ちゃんの事が嫌いなのかな?

 普段の様子だと、とてもそうは見えなかったけど。

 

「あのさ睦月ちゃん…響ちゃんと何かあったの?」

「えっとね…?あったというか、何というか……」

 

 いつもと違う様子を見せる睦月ちゃんに、響ちゃんに何かされたのかな?と思って聞いてみると、睦月ちゃんは言い辛そうにもじもじしながら、

 

「…響ちゃん、私と会うたびに『にゃしぃ』を強要してくるから……」

「…あー」

「あー、じゃないよ吹雪ちゃん!?私にとっては死活問題なんだよ!?私、こんなに大勢の前でにゃしいって言ったら恥ずかしくて死んじゃうよっ!」

 

 確かに響ちゃんは、睦月ちゃんを『にゃしい』と呼んでいるし、話している時も何かしらと「睦月、にゃしいは?」と言っては睦月ちゃんに『にゃしい』と言わせている。

 ちなみに、何で睦月ちゃんににゃしいと言わすのか響ちゃんに聞いた事があるのだけど、響ちゃんは「にゃしいと言ったら睦月でしょ?」と当たり前のように言い、挙句の果てには何でそんな事聞くの?馬鹿なの?と言うような眼で私を見た後に首を横に振って溜息を吐かれた事がある。

 あれにはイラッとしたな。

 

 ……それにしても、そうか。

 睦月ちゃんもまた被害者だったんだ。

 

「睦月ちゃん」

「吹雪…ちゃん」

 

 言葉は出なかった。でも、お互いの苦労はどんな言葉よりも伝わった。

 

 私だけじゃないんだ。

 

 そんな事実が、私に勇気をくれる。

 そして私に小さな目標ができる。

 

 いつの日か響ちゃんの暴挙下から絶対に抜け出してやるんだ!!

 

 

「え~、睦月ちゃんがにゃしいって言うの可愛いのに…」

 

 …ただ、隣で静かに話を聞いていた如月ちゃんは響ちゃんの暴挙の賛成派のようだった。

 そうだよね、如月ちゃんは響ちゃんと結構仲が良いもんね。

 最近は響ちゃんと一緒に、睦月ちゃんに『にゃしい』って言わせてるもんね。

 

「やめてよっ如月ちゃん!!ほんとに…本当に恥ずかしいんだよ?」

「でも私は可愛いと思うけど。ねえ?睦月ちゃん」

「如月ちゃんが何を言おうとしてるか分かるからねっ!!言わないよ!絶対に!恥ずかしいもん!」

「…にゃしいって言う睦月ちゃん、とっても可愛いと思うんだけど言わないの?」

「絶対にヤダよっ!」

「…そんなっ!もう…あの可愛い睦月ちゃんが見れないなんてっ……!」

 

 睦月ちゃんの拒絶に、わざとらしく驚愕した後シクシクと言って目元を押さえる如月ちゃん……。

 その光景は、何というか…凄い。

 何が凄いかというと、日に日に上達しているのだ……。睦月ちゃんをからかう如月ちゃんのスキルが。

 今だってそう。

 睦月ちゃんが「その手には乗らないよ!というかわざとらしすぎるよ!?露骨にこっち見てるし!!」というと如月ちゃんは「ちっ…ばれたか…」と言った後、「そんな事ないのに…。睦月ちゃんは如月の事が嫌いになったのね…?」と、何事も無かったかのように泣き真似を再開する。

 その如月ちゃんの行動には後ろめたさが一切見られず、むしろ清々しさすら覚える程だ。というよりそのやり方は響ちゃんの手口と一緒だった。

 

 駄目だよ如月ちゃん……。

 その道は修羅の道だよ?進んだら戻れなくなるよ?

 ……そう言いたくても言葉は出なかった。

 だって目の前には、あんなに楽しそうに睦月ちゃんをからかっている如月ちゃんが。

 

「グスッグスッ……睦月ちゃんに嫌われたら私…私っ…!」

「じゃあまずその嘘泣きを止めようよ如月ちゃん!」

「だって!……睦月ちゃんがにゃしいって言ってくれないから」

「言わないよ!というか皆がこっちを見てるから」

 

 睦月ちゃんが周りを気にしだし、釣られて周りを見回すと観客が私達を見ているのに気がついた。

 ……分からないんだ。

 遠目だと如月ちゃんのバレバレな嘘泣きが分からないんだ。

 もしかすると周りからは今、睦月ちゃんと如月ちゃんは喧嘩をしている様に見えて、睦月ちゃんが如月ちゃんの事を泣かしたように見えているのかもしれない。

 

「…あのさ?如月ちゃん……?」

 

 私はこの気付いた事を如月ちゃんに教えようと思った。

 もしかしたら私達、喧嘩をしている様に見られているんじゃないかなー、と。

 そんな私の考えを察してくれたのか、如月ちゃんは私がそれを言う前に、ぼそりと私達に聞こえるくらいの声で、

 

「ぐす…ぐす…響さんが前に『目的の為なら、物でも人でも何でも利用しろ』って」

「ああああっ!!あの馬鹿響ちゃんっ!!」

 

 爆弾発言をかました。そしてその直後に、睦月ちゃんの口から今まで聞いた事も無い絶叫と『馬鹿』の一言が飛び出る。

 もう、横でそれを聞いている私は、「ははは」と乾いた笑いしかできない。

 

 そっかー、響ちゃんかー。

 だよねー。

 ですよねー。

 

 ……うん、私は理解した。

 如月ちゃんもまた、響ちゃんに人生を狂わされた被害者の一人なんだと。

 この場に居なくても、騒動の原因は響ちゃんなんだと。

 ……もう、戻ろ。疲れたよ…私は。

 

「あの……睦月ちゃん如月ちゃん、私そろそろ戻るね…?」

「ぐすぐす…睦月ちゃんが…にゃしいって!にゃしいって言ってくれない……!!」

「もう諦めてよ如月ちゃん!!皆見てるんだって!!私が如月ちゃんを泣かせたって勘違いされちゃうよ!!ああもう、響ちゃんマジ許さない!!」

 

 私は二人に戻ることを伝えたけど、どうやら二人はそれどころじゃない様子。

 無理に会話に入って、戻るねって言うのも何なので私はそのまま戻ることにした。

 

 ……あぁ、戻ったら私も響ちゃんに振り回されるんだろうなあ。

 と、そんなことを思っていると、視界の端に金剛さんがこちらに向かって手招きをしているのに気がついた。

 

「お~いブッキー!ブッキー!」

 

 金剛さんは私が金剛さんに気がついたのが分かったのか、手招きだけでなく声も出してしきりに私を呼んだ。

 駆け足で近寄る私。

 この時私は、『金剛さんの所に行ったら捕まって遅れてしまった』なんていう言い訳が頭に浮かんだ。

 

 

 

 

「こんにちは金剛さん。所で私に何かご用ですか?」

「Yes!…実はですネー」

 

 金剛さんはもったいぶってから「じゃーん!」と言って、火をかけている鍋を紹介した。

 

「実は、具材の溶け込んだ私特性の黄金のCurrySoup(カレースープ)が完成したネー!」

「わぁ凄い!おめでとうございます金剛さん!」

「…それでー、このCurrySoupで提督のHeart(ハート)をメロメロに……」

「あれ?金剛さん…?」

「だめだよ提督ぅ、私は食後のDessert(デザート)デース!」

「……、」

 

 突如、体をくねらせイヤンイヤンとする金剛さん。

 …流石に同じ艦隊になってから大分経つのでもう慣れた。

 よくあるのだ、金剛さんにはこういう事が。ちなみに響ちゃんは、この金剛さんを見ると「トリップしやがったぜ…」とつぶやく。もう少し言い方があると思う。

 

 とにかく、この状態の金剛さんは私にはどうしようも出来ないので(響ちゃんは軽くだが金剛さんの頭を叩いたりビンタしたりして正気に戻す)一緒に出場している比叡さんに助けを求める事にした……んだけど、

 

「…あれ?このカレー、具が何も入ってない!」

 

 比叡さんは何かを言ったかと思うと、どこからか名状し難いナニカを取り出してボトボトと鍋に入れだした。

 鍋の中身が七色に光りだす。

 そして発光が終わると鍋の中から…瘴気の様なものが溢れ出す。

 

「こっ…金剛…さん?」

「…はっ!オーSorry(ごめん)ブッキー。それで用がですネー…」

 

 私の呼びかけにハッとなって我に返る金剛さん。

 そしてそのままさっきの話に戻ろうとするのだけど、そうじゃないんです……、そうじゃないんですよ金剛さん……。

 その鍋…比叡さんが何かやらかしました。

 あまりの出来事にとっさに声が出ない私は、必死に目くばせで金剛さんに異変を伝えようとした。…が、金剛さんは気づかない。

 そして気付かないまま、鍋の中にあったであろうどす黒い液体を小皿によそったかと思うと、ソレをすっと私の方に差し出した。

 

「実はこの黄金のCurrySoup!ブッキーに是非!!味見してほしいのデース!」

 

 どの辺が黄金なんだろう……。

 にこやかに差し出されたソレには、有無を言わさない迫力があった。『食べたら死ぬぞ』と。

 思わず金剛さんの顔を見る。

 見なければよかった。断れそうに無かった。断ったら金剛さんの笑顔は消えるだろうと思ってしまった。

 

 

 

 

 試練だった。

 避けられない運命(さだめ)

 

 だけど私は挫けない。

 私と同じ境遇に立った仲間に誓った。

 言葉を交わした訳ではないけど、心で確かに通じ合った。

 

 睦月ちゃん、私は負けないよ。

 今も何処かで困難と闘っているであろう仲間に再度誓う。

 

 私は…、私達は絶対にこの境遇から抜け出してみせる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思いが通じたのか、近くで泣きそうな声でやけくそ気味に「にゃしいっ!!」と叫ぶ声が聞こえた。


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