オリ主と第六駆逐艦隊   作:神域の

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6‐5 オリ主とカレー大会 防衛線

「響、あなたは肉じゃがを作っているそうね。流石に気分が高揚します」

「ねえ響さん…?響さんはもう肉じゃがの味見はしましたか?もしよければ私が味見のお手伝いをしましょうか?ほら!作った本人より第三者に食べてもらった方が色んな感想を聞けていいと思いますし!」

 

 一航戦のお二人が突然やってきて、突然そんな事を言ってきました。

 俺は今、やっと材料を切り終え、これから肉じゃがの出汁を取る為に鍋を火にかけたところだった。

 ぶっちゃけ、鍋が煮立つまでやる事が無かった、暇だった。

 だから今から足柄さんの様に、他のチームのカレーでも覗いてみようかなー、なんて思ってブースから一歩歩き出したところだったのだ。

 ……そして俺は、異様で異常なエンカウント率に人生の厳しさを痛感している所だった。

 理解はしている。人生ってのは、理不尽な事だらけだって……でもこれは理不尽すぎるよぉ!

 

「?どうしたんですか響さん、そんなに難しい顔して」

「いやね?赤城さん、今目の前にとんでもない理不尽が迫っていまして…どう対処しようかなーと」

「もしかして肉じゃがに何か異変が!?それはいけませんねっ!…加賀さんっ!ここは私達も響さんのお手伝いをしましょう!!」

「そうね赤城さん、とても良い判断です。肉じゃがに何かあってからでは遅いもの」

「あっ、ちょっ…待っ…」

 

 赤城さん達は、俺が何か言おうとしたのを無視して…いや、肉じゃがが気になってそれどころじゃなかったのか調理場に行ってしまった。

 このままじゃヤバい。俺にはそう確信できた。

 だって…、だって二人の口元からよだれが「こんにちは!」って挨拶してたもの!!

 ていうか赤城さんは一言目から隠そうともしなかったっ…!

 食いに来てるっ!この二人は、俺達の肉じゃがを根こそぎ食らいに来ているッ!!

 

 取りあえずだ、もう振り返りたくはないが赤城さん達の暴挙を止めなければならないな。そう思った俺は、後ろで起こっているであろう二人が肉じゃがを摘まもうとしている姿を想像しつつ、頭を抱えながら振り返ろうとした。

 

「キャ――!!赤城先輩!?どうしてここに!?」

 

 胃も痛くなった。

 吹雪、吹雪の存在を忘れていた。

 吹雪は極度の赤城さん信者。

 そんな吹雪に赤城さんが、

 

「実は響さんが肉じゃがをご馳走してくれるって」 

「……、はいっ!この駆逐艦吹雪!誠心誠意を込めて赤城先輩に美味しい肉じゃがを作りますっ!」

 

 …肉じゃが食いたいって言えばそうなりますわなー。

 知ってた。ガソリンに火を近づけると危ないのと同じくらいには知っていた。

 後ろを振り返って見てみれば、吹雪が赤城さんの手を引いて鍋まで誘導していた。

 赤城さんはニコニコと吹雪に手を引かれながら、素早くもう片方の手を動かして、出汁が取れたら入れようと思っていた生のジャガイモを指の間に挟んで、一度に計4つのジャガイモを鮮やかに口の中に入れた。

 加賀さんは鍋の中が気になっているのか、鍋の前に立って鍋をじぃっと見ていた。

 そして赤城さん達と入れ替わりに、大井がずかずかと足音を立ててこちらに迫ってきた。

 

「ちょっとチビ!!どうなってるのよコレ!?アンタ一航戦の護衛艦でしょ!?アレを止めなさいよ!!」

 

 大井にそう言われ、改めて調理場に目を向けると、

 

「もぐ、もぐもぐもぐっ」

「はい!私、肉じゃがが出来たら赤城先輩に食べてほしくって――」

 

 片手で調理前の材料を黙々と口に運ぶ赤城さんと、自分の世界に入って相手が見えていない吹雪、

 

「……、」カパッ…ガックシ

 

 肉じゃがの完成が待てないのか、鍋のふたを開けては肩を落とす加賀さんの姿が。

 

「…大井さんよ。俺にアレをどうしろと?」

「止めろって言ってるのよ!!あんなに有った材料がもう半分しかないじゃないの!!」

 

 そう言われて材料にも目を向ける。

 するとどうだろうか?

 ボウル一杯に積まれていたジャガイモやニンジンの山が確かに平たくなっていた。そして俺がその事を気づくと同時に、赤城さんは両手を使い始めた。

 それを見てから「あー」と、自分でも良くわからない声を出してから大井と向き合った。

 

「大井さんよ、俺にアレをどうやって止めろと?」

「邪魔だから向こうに行けって言えって言ってるのよっ!!このままだと北上さんに食べてもらう肉じゃがが無くなるじゃないの!!」

「俺が?何で?」

「護衛艦だからって言ってるでしょ!!いいから早く行け!!材料が食う母に食われるでしょうが!!」

「誰が上手い事言えと…」

「早くッ!!」

 

 へーへー、行ってきますよ。まったくもって、めんどくさい。

 とはいえ、早く止めないと失格になるのも事実。

 なので俺は、赤城さんの所に向かうまでのわずかな距離を歩いている間に、どう言って赤城さん達を観客席に戻そうか考えた。

 まず大井の言った様にストレートに言うのは却下だ。流石の俺もそんな事言えない。

 だからといって遠回しに言ったとしても…相手の取り方次第でストレートに言うのと変わらない。下手をすれば嫌味な野郎だと取られてストレートに言うのよりも印象が悪いかもしれない、これも却下。

 じゃあ吹雪みたく手を取って観客席まで連れてくか?……普通に戻ってきそうだ。

 

 そんな事を考えている内に、俺はもう赤城さんの前までやって来てしまった。

 あぁ、赤城さんの口の中からシャクシャク音が聞こえるぅ……。

 …いや、そんな事よりも何か、何か上手い事言って赤城さん達にどっかに行ってもらわなくては。

 俺は考えた。

 考えた。

 考えた。

 そしてひとつの答えを導き出した。

 

「は…はははは……」

「もぐ?もぐもぐもぐ…ごくんっ。どうしたんですか?響さん、急に笑い出したりして」

「いや…いやね?赤城さん、いくら何でもジャガイモを生で食べるのは如何な物かと……俺、焼きましょうか……?」

「えっ!?本当で」

「チィビイイイイッ!!」

 

 俺の提案に赤城さんが返事をしきるよりも早く駆けてきた大井は、俺の後ろえり首を掴むと即座にその場から数メートル離れて俺を怒鳴りつけてきた。

 

「アンタ何考えてるのよっ!?私は止めろって言ったのに、何で食べるの勧めてるのよっ!?」

「はっはっは、無理っすよ大井っちィ…俺には赤城さん達にどっか行けなんて、とてもじゃないけど言えないっすよォ」

 

 俺の言葉に大井は目を鋭くさせて睨みつけてきた。

 当然だった。

 この一週間は俺一人でなく3人で優勝を目指して、まぁ頑張って来たのだ。

 その頑張りを俺の独断で放棄しようと言っているのだ。俺は殴られても文句は言えないだろう。

 それでも、それでも俺は言えない。とてもじゃないけれど言えない。

 鎮守府に邪魔だと言われた俺を庇ってくれた赤城さん達に、遊びとはいえ「邪魔だからどっかに行け」何てことは口が裂けても、死んだって言えない。言っちゃいけない。

 

「はっはっは、もうあきらめようぜ。無理だよ、普通に考えて肉じゃがで優勝なんて。そもそも俺のやった事なんて反則みたいなもんだし」

 

 だが大井には俺のことなど関係ない。その事も理解してる。

 だからわざとでも、喧嘩を売るような真似をしてでも大井をあおって、俺を殴るなりなんなりして少しでも気分が晴れてくれればそれでいい。そう思った。

 けど大井はチッと舌打ちをすると俺を軽く突き飛ばして、俺ではなく那珂ちゃんをキッ!と睨みつけた。

 

「ちょっと那珂!!大会は他チームからの妨害は有りなのッ!?」

『ひぃっ!…ふ、普通は無しだと……』

「じゃあアレはなんなのよッ!!」

『えっと、あれはですね……アハハハ』

 

 大井からの怒号に那珂ちゃんは困った様に笑った後、血相を変えて審査員席の方を向いた。

 

『な、長門審査員っ!!』

『…話は聞いていた。一航戦、赤城!加賀!』

 

 那珂ちゃんが長門の名前を呼ぶと、長門は静かに立ち上がって赤城さん達の名前を呼んだ。

 流石に秘書艦である長門の声を無視することは出来なかったのか、再起動して口にジャガイモを詰め込み頬がリスの様になっている赤城さんも、もはや肉じゃがが待てな過ぎて鍋のふたをパカパカし続ける加賀さんも長門の方へ顔を向けた。

 長門は二人が顔を上げたのを確認して更に話を続けた。

 

『二人は支給された材料が不足して失格になったはずなのに、どうして他チームのブースにいるんだ?いや、他チームの所にいるのはまだいい……、赤城、加賀、何でお前たちは他チームの材料を食べ、出来てもいない鍋の中身を確認する為にふたの開け閉めを繰り返している?』

「えっほ…ほへはへふへ…」

 

 長門の質問に赤城さんは答えられなかった。

 それは言い訳が思いつかなかったのか、はたまた口の中に詰め込んだジャガイモが口の中に残っていたからなのか……。

 

『…今日みたいな日にこんな事はあまり言いたくないのだが…、一航戦、赤城!加賀!これ以上他チームの妨害をするのなら即刻退場処分とし、今後のカレー大会の出入りの禁止を言いつけるぞ!!』

「「ッ!!?」」

 

 長門の言った言葉がショッキングだったのか、二人はガビーン!と言ったような表情をし、お互いに顔を見合わせた後ガックシと肩を落としてトボトボと観客席へと帰っていった。

 途中、加賀さんがぼそりと「…肉じゃが」と言って後ろを何回か振り返っていたのが哀愁を漂わせる。

 そして俺もまた、もう塞ぎ込みたい気分だった。

 だって俺が悩んでいた事が、長門によってあっさりと解決してしまったのだ。

 なんかもう俺の思っている事なんてその程度なんだって思えてしまう。

 ……うん、もういいや…忘れよ。

 

 

 

「――それで、私は赤城先輩の為に……ってアレ?赤城先輩?」

「もう観客席に戻ったわ」

「…そうなんだ。ところで大井さん、何で響ちゃんはあんな所で落ち込んでるんですか?」

「さあ?まっ、チビは馬鹿のくせにあれこれ悩むからああなってるんでしょ。放って置けばいいわ」

「え…でも……ハイ、そうですね」

 

 

 

 ああ、それにしても今日は良い天気だなあ。アハハハ。


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